BBPは切除不能進行再発大腸癌患者に 必ず提示すべき情報

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エリアレビュー・大腸癌
BBPは切除不能進行再発大腸癌患者に
必ず提示すべき情報
ベバシズマブは長期間継続投与
できることが大きな利点
聖マリアンナ医科大学 臨床腫瘍学講座教授
朴 成和氏
最近、大腸癌分野で最も大きな話題となったのは、米国臨床腫瘍学会(ASCO2012)で発表され
たベバシズマブ Beyond PD(BBP、ベバシズマブ投与後の増悪例におけるベバシズマブ継続投与の
効果)の有効性が証明されたことでしょう。無作為化第 III 相臨床試験、TML(ML18147)の結果
です。
BBPでOS、PFSともに有意に延長
切除不能進行再発大腸癌に対するファーストライン治療でベバシズマブを含むレジメンを用いた
後に病勢進行した場合、セカンドライン治療で別の抗癌剤とベバシズマブを含むレジメンを使用す
ると、ベバシズマブを継続しない場合と比べて、全生存期間(OS)、無増悪生存期間(PFS)を有意に
延長できることが明らかとなりました。
ML18147 試験は、大腸癌(腺癌)であると病理組織学的に確認された切除不能進行再発大腸癌
患者で、ファーストラインとして、ベバシズマブと標準的な化学療法(オキサリプラチンベースかイ
リノテカンベース)を受けた後に病勢進行した患者を、セカンドラインとしてファーストラインと異
なる化学療法とベバシズマブを併用する群(ベバシズマブ群)と、化学療法のみを投与する群(化学
療法群)に無作為に割りつけました(図 1)
。主要評価項目は OS、副次評価項目は PFS、奏効率、安全
性などでした。
2006 年 2 月から 2010 年 6 月までに 820 人(ベバシズマブ群 409 人、化学療法のみ群 411 人)が
登録されました。
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図1■ML18147:試験デザイン
化学療法群
標準的なセカンドライン
(オキサリプラチンベース
ベバシズマブ +
標準的なファーストラインの
化学療法
またはイリノテカンベース)を
PD まで施行
1 対 1 で無作為化
PD
(オキサリプラチンベース
またはイリノテカンベース)
ベバシズマブ群
化学療法をクロスオーバー
(n=820)
ベバシズマブ(2.5mg/kg/ 週)+
オキサリプラチン →
イリノテカン
イリノテカン
オキサリプラチン
→
標準的なセカンドライン
(オキサリプラチンベース
またはイリノテカンベース)を
・最良総合効果:ランダム化からの全生存期間(OS)
・副次評価項目:無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、安全性
・層別化因子:ファーストラインの化学療法(オキサリプラチンベース、イリノテカンベース)
ファーストライン治療のPFS(9カ月以下、9カ月超)
最後のベバシズマブ投与からの期間(42日以内、42日超)
ベースラインのECOG PS(0/1、2)
欧州とサウジアラビアの220施設で実施
PD まで施行
(D. Arnold, et.al., ASCO2012 Abstract CRA3503)
試験の結果、ベバシズマブ併用群の OS 中央値は 11.2 カ月、化学療法のみ群の OS 中央値は 9.8 カ
月、ハザード比は 0.81(95 %信頼区間:0.69-0.94)、p = 0.0062 で、有意にベバシズマブ群で延長
が認められ、主要エンドポイントは達成されました(図 2)。
図2■ML18147:OS(ITT解析対象集団)
化学療法群(n=410)
1.0
ベバシズマブ群(n=409)
0.8
非層別 a ハザード比:0.81(95%信頼区間:0.69-0.94)
全生存率
p=0.0062(log-rank test)
0.6
層別 b ハザード比:0.83(95%信頼区間:0.71-0.97)
p=0.0211(log-rank test)
0.4
0.2
0
9.8カ月
0
6
11.2カ月
12
18
24
30
36
42
48
期間(月)
No. at risk
化学療法群
410
293
162
51
24
7
3
2
0
ベバシズマブ群
409
328
188
64
29
13
4
1
0
追跡期間中央値:化学療法群 9.6カ月(範囲0-45.5);ベバシズマブ群 11.1カ月(範囲0.3-44.0)
a 主要な解析方法、b ファーストラインの化学療法(オキサリプラチンベース、イリノテカンベース)、
ファーストライン治療のPFS(9カ月以内、9カ月超)、最後のベバシズマブ投与からの期間(42日以内、42日超)、
ベースラインのECOG PS(0、1以上)で層別化
(D. Arnold, et.al., ASCO2012 Abstract CRA3503)
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PFS 中央値は、ベバシズマブ群が 5.7 カ月、化学療法のみ群が 4.1 カ月、ハザード比が 0.68(95%
信頼区間:0.59-0.78)、p < 0.0001で、有意にベバシズマブ併用群で延長が認められました(図 3)。
図3■ML18147:PFS(ITT解析対象集団)
化学療法群(n=410)
1.0
ベバシズマブ群(n=409)
0.8
無増悪生存率
非層別 a ハザード比:0.68(95%信頼区間:0.59-0.78)
p<0.0001(log-rank test)
0.6
層別 b ハザード比:0.67(95%信頼区間:0.58-0.78)
p<0.0001(log-rank test)
0.4
0.2
0
4.1カ月 5.7カ月
0
6
12
18
24
30
36
42
期間(月)
No. at risk
化学療法群
410
119
20
6
4
0
0
0
ベバシズマブ群
409
189
45
12
5
2
2
0
a 主要な解析方法、b ファーストラインの化学療法(オキサリプラチンベース、イリノテカンベース)、
ファーストライン治療のPFS(9カ月以内、9カ月超)、最後のベバシズマブ投与からの期間(42日以内、42日超)、
ベースラインのECOG PS(0、1以上)で層別化
(D. Arnold, et. al., ASCO2012 Abstrct CRA3503)
セカンドラインでOSに差が付いたのは3 試験目
切除不能進行再発大腸癌に対する化学療法のセカンドラインで OS に有意差をつけた試験として、
過去にベバシズマブベースの E3200 試験と aflibercept ベースの VELOUR 試験があり、今回で 3 試
験目になりますが、延命効果が得られたことはとても大きな意義があると思います。
ベバシズマブ群で中央値 11.2 カ月という数字が出ましたが、妥当な数字だと思います。BRiTE 試
験はあまりにもずば抜けていましたが、これはあくまで観察研究に過ぎません。E3200 試験の結果
から考えるとこのぐらいの数字が出るのが妥当な感じがします。
今回の結果を受けて、BBP は切除不能進行再発大腸癌の二次化学療法を受ける患者に必ず提供し
なければいけない情報の一つになったと思っています。
「100%やりなさい」と言うかは、それぞれ
の先生方の考え方があるかもしれませんが、話をすれば、恐らくほとんどの患者が受けると言うだろ
うと思います。
その理由は繰り返すようですが、やはり OS でしっかり差がついたためです。BBP はガイドライン
にも書き加わることが予想されますし、標準的な位置付けになってくるのではないかと思います。
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ただし TML 試験には厳格な登録条件があり、フロントラインでベバシズマブをしっかり使い、か
つ重篤な有害事象がない患者が対象であったことを考慮しなければいけません。この条件を満たす
患者であれば BBP が良いと言えます。フロントラインでベバシズマブによる重篤な副作用があった
患者や、ベバシズマブを使っていても急激に悪くなっているような患者には BBP はお薦めできませ
ん。3 カ月以内に PD になるなど、急激に悪くなっている患者のセカンドラインでは細胞傷害性抗癌
剤だけでは十分でないと思いますので、個人的には KRAS 野生型であれば抗 EGFR 抗体薬の併用を
考えます。
一方、すごく保守的に言えば、今後の抗 EGFR 抗体薬の使い方は、サードライン以降、もう一度イ
リノテカンと併用しながら投与していくことになろうかと思います。つまり、BOND 試験で証明さ
れたところが抗 EGFR 抗体薬の標準になると思います。CRYSTAL 試験などの報告もありますが、抗
EGFR 抗体によるハザード比が一番小さかった(効果が大きい)のは BOND 試験、CO.17 試験、つま
りサードライン以降のところだからです。大腸癌全体からいくとそこまでたどり着く人が多くはな
いかもしれないですが、抗 EGFR 抗体薬が最も有効性を発揮できるのはこの位置だと思っています。
一部の患者では抗 EGFR 抗体を初期に投与も
ただし、Kh ό ne 氏の分類に従って切除不能進行再発大腸癌を 3 グループに分けファーストライン
での使用薬剤を選択することについて、最近考えることがあります。グループ 1 は切除できるように
なる可能性が高い患者、グループ 2 は腫瘍量がとても多い患者で、これらの患者には、抗 EGFR 抗体
薬をまず使っても良いのかなと思います。抗 EGFR 抗体薬の持つ腫瘍縮小効果に期待するというこ
とです。
例えばセツキシマブ /FOLFOX などを 8 週、もしくは 12 週ぐらい行い、グループ 1 で治癒切除でき
るようになれば切除してもらいますし、グループ 2 で増悪した場合には、緩和的な治療に進むことに
なるでしょう。抗 EGFR 抗体薬は長期に使うと爪周囲炎などのため辛い薬ですので、長く使わず 2 〜
3 カ月ぐらいで再評価すれば、グループ1 であったが切除できなかった患者や、グループ 2 で腫瘍縮小
が得られた患者を含めて、全部グループ 3 になると思います。その後、ゆっくり腰を据えて、長期投
与可能なベバシズマブで押していくイメージです。ただし、このような治療戦略については、臨床試
験の結果がありませんので、お薦めしているわけではありません。あくまでも個人的な印象です。
ベバシズマブは今回の TML 試験では奏効率は上げていませんでしたが、結局は、最終的に OS に差
がありました。抗がん剤の中には、短期間での切れ味を求める薬と長期間の継続投与に適した薬剤
がありますが、初期効果で勝つか、長く使って勝つかの違いがあります。生存曲線が前半で開くか、
後半で開くかはそれぞれの薬の特徴の 1 つだと思います。腫瘍縮小効果は小さいですが、重篤な有
害事象の出る頻度の少ないベバシズマブは、長期間の継続投与によって効果を期待する薬剤である
と思います。
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VELOUR 試験のベバシズマブ前治療群と曲線が類似
それから、私が面白いと思ったのがVELOUR 試験で、前治療にベバシズマブがあるか無いかで、生
存曲線の形がかなり異なることです。前治療にベバシズマブ投与歴が無いサブセットでは、コントロ
ール群と比べるときれいな裾広がりの生存曲線になっています。ところが、前治療にベバシズマブ
歴があると aflibercept 併用群の生存曲線は最初に上回って、あとはコントロール群と平行線になっ
ています。 TML 試験の生存曲線は、どちらかというと VELOUR 試験のベバシズマブ前治療あり群
のカーブに似ています。一方、セカンドラインでベバシズマブの延命効果を示した E3200 試験の曲
線は VELOUR 試験のベバシズマブ前治療無しの患者の曲線と似ています。
BBPが証明されましたので、現時点では、aflibercept の位置づけは相当難しいと思います。また、
KRAS 野生型では本当にセカンドラインを BBP にしたほうがいいのか、抗 EGFR 抗体薬に変えた方が
いいのかは、現在試験が行われていますから、その結果で結論が出ることになると思います。
TML 試験におけるKRAS 変異の有無別のサブグループ解析が発表
6 月後半に開催された第 14 回世界消化器癌学会(WCGC2012)で、TML 試験での KRAS 遺伝子
変異のタイプ別に関するサブグループ解析の結果が発表されました。
図4■TML試験のKRASの状態によるOS
KRAS野生型
1.0
化学療法のみ
ベバシズマブ+化学療法
0.8
0.6
0.4
ハザード比 0.92
95%信頼区間:0.71-1.18
p=0.4969(log-rank 検定)
0.6
0.4
0.2
0.2
0
化学療法のみ
ベバシズマブ+化学療法
0.8
OS推定値
OS推定値
ハザード比0.69
95%信頼区間:0.53-0.90
p=0.0052(log-rank 検定)
KRAS変異型
1.0
11.1
0
6
15.4
12 18 24 30 36 42 48
期間(月)
N at risk
化学療法
165 122
のみ
ベバシズマブ
151 126
+化学療法
0
10.0
0
6
10.4
12 18 24 30 36 42 48
期間(月)
N at risk
77
27
11
3
1
0
0
88
31
18
8
3
0
0
化学療法
136 107
のみ
ベバシズマブ
164 131
+化学療法
53
12
5
2
1
1
0
67
18
6
2
0
0
0
(E Van Cutsem et al., WCGC2012 Abstract O-0021)
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サブグループ解析は、KRAS 遺伝子変 異 の 情 報 が 得 られた 820 人 中 616 人(75 %)を 対 象 に 行
われました。解析に使われた患者背景に特に差はありませんでした。全体として 300 人(49 %)が
KRAS 変異型、316 人(51 %)がKRAS 野生型でした。
KRAS 野 生 型 のベバシズマブ 群 の OS 中 央 値 は 15.4 カ 月、化 学 療 法 群 の OS 中 央 値 は 11.1 カ 月
で、ハザード比 0.69(95 %信頼区間:0.59-0.90)、p = 0.0052 で有意に延長していました。一方、
KRAS 変異型のベバシズマブ群の OS 中央値は 10.4 カ月、化学療法群の OS 中央値は 10.0 カ月で、ハ
ザード比 0.92(95%信頼区間:0.71-1.18)、p = 0.4969 で有意な差はありませんでした(図 4)。
次に KRAS 野生型のベバシズマブ群の PFS 中央値は 6.4 カ月、化学療法群の PFS 中央値は 4.5 カ月
で、ハザード比 0.61(95 %信頼区間:0.49-0.77)、p < 0.0001 で有意に延長していました。一方、
KRAS 変異型のベバシズマブ群の PFS 中央値は 5.5 カ月、化学療法群の PFS 中央値は 4.1 カ月で、ハ
ザード比 0.70(95%信頼区間:0.56-0.89)、p = 0.0027 で有意な差がありました(図 5)。
図5■TML試験のKRASの状態によるPFS
KRAS 野生型
1.0
化学療法のみ
ベバシズマブ+化学療法
ハザード比 0.61
95%信頼区間:0.49-0.77
p<0.0001(log rank 検定)
0.6
PFS推定値
PFS推定値
0.8
0.2
0.2
0
6.4
6
12
N at risk
化学療法
165
のみ
ベバシズマブ
151
+化学療法
18
24
30
36
42
期間(月)
ハザード比 0.70
95%信頼区間:0.56-0.89
p=0.0027(log-rank 検定)
0.6
0.4
4.5
化学療法のみ
ベバシズマブ+化学療法
0.8
0.4
0
KRAS 変異型
1.0
0
4.1
0
5.5
6
12
N at risk
50
7
2
1
0
0
0
80
20
6
3
2
2
0
化学療法
138
のみ
ベバシズマブ
164
+化学療法
18
24
30
36
42
期間(月)
40
6
1
1
0
0
0
73
14
2
1
0
0
0
(E Van Cutsem et al., WCGC2012 Abstract O-0021)
これらの結果を見ると、BBP の効果と KRAS 遺伝子変異の有無には関連があるような印象を受け
ます。ただし、発表者によると、OS、PFS の交互作用の検定では、どちらも有意ではなく、BBP の効
果は KRAS 遺伝子変異のある無しが効果に影響しないとされています。これらの検討は、あくまでサ
ブセット解析ですから、現時点では KRAS 変異の有無は BBP の効果と関係ないと考えるほうが無難
であると思います。
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