限局性慢性間質性肺炎(限局性 UIP)127 例の予後 - 日本呼吸器学会

日呼吸会誌
●原
37(3)
,1999.
177
著
限局性慢性間質性肺炎(限局性 UIP)127 例の予後:
びまん性間質性肺炎への進展の可能性
福島 一雄1)
河端 美則2)
内山 隆司3)
中島 由槻4)
要旨:軽微で限局性の usual interstitial pneumonia(Lo-UIP)病変を有する肺癌切除例を対象として,その
予後とびまん性病変への進展様式を検討した.19 年間の肺癌手術例 776 例中 127 例(16.4%)において LoUIP 病変がみられた.予後は 74 例が死亡(死亡まで平均 20.0 M)し,40 例は生存(平均 53.4 M)
,13 例
は不明であった.死亡原因として,肺癌再発 40 例,呼吸器感染症 12 例,間質性肺炎の悪化 6 例,その他
・不明 16 例であった.上記以外に急性 慢性間質性肺炎悪化がみられたのは,肺癌死の 1 例,その他原因
死亡 2 例,および生存例の 1 例であった.全体として観察期間平均約 4 年間で Lo-UIP 病変を有する 127 例
中,10 例(7.9%)は間質性肺炎悪化を認め,4 例はその後死亡していた.Lo-UIP 病変はびまん性 UIP す
なわち特発性肺線維症に進展しうると考えられた.
キーワード:限局性 UIP,予後,間質性肺炎急性進行,間質性肺炎慢性進行
Localized UIP,Prognosis,Acute progression of interstitial pneumonia,Chronic progression
of interstitial pneumonia
でいわれてきた,病理学的には限局性の UIP 病変と言
はじめに
える間質性病変(localized
特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis : IPF)
UIP,以下 Lo-UIP)とびま
ん性疾患である IPF の関連について必ずしも明らかで
の病理像は UIP(usual interstitial pneumonia)のそれ
はない.今回このような Lo-UIP のびまん性病変への進
に等しく,原因不明の病態でかつ病理学的に UIP 病変
展の可能性を明らかにする目的で,肺癌切除肺で病理学
を呈したものは,臨床的・画像的所見を加味した上で臨
的に確認した Lo-UIP 病変を有する 127 例について術後
床的に IPF と診断される1).このような IPF 症例の UIP
の臨床・XP(CT)所見経過を追跡し,その予後を検討
病変は通常両側びまん性の広がりを示す.ところが切除
した.その結果,一部の Lo-UIP 病変症例は術直後か,
肺や剖検肺の病理学的検索で,びまん性とは言い難い広
術後しばらくしてから急性にびまん性病変に進行し,あ
がりの,組織学的には UIP 像を呈し,肉眼的に観察可
るいは慢性に進行していくことが示された.
能な場合には蜂窩肺様にみえる病変が従来から認められ
てきた.剖検例におけるほぼ同質な病変は,肺底部に限
対
象
局した蜂窩肺として2),また蜂窩肺と区別出来ない胸膜
1975 年から 1993 年の 19 年間に結核予防会複十字病
下領域 1 cm に達しない線維化(傍胸膜線維化)として
院において原発性肺癌(カルチノイド,気管支腺腫瘍は
報告されてきた3).著者らも急性間質性肺炎剖検例で限
除く)で肺切除を受けた 776 症例(男 561,女 215,平
4)
局性慢性間質性肺炎の存在を 1986 年に報告し ,さらに
均年齢 61.3±10.5 歳,重複癌 2 症例)を対象とした.こ
肺癌切除肺でみられる慢性間質性肺炎(UIP)をびまん
のうち,肺線維症の経過中肺癌を発見され,ステロイド
性と限局性に分け,肺癌部位との関係および限局性 UIP
治療で胸部陰影の著明改善をみたあと手術された 1 例は
5)
の画像について報告してきた .このような様々な名称
Lo-UIP 対象から除外した.残りの対象 775 例の術前の
胸部 X 線写真では,明確に IPF と診断し得る両側びま
〒861―1196 熊本県菊池郡西合志町須屋 2659
結核予防会結核研究所病理学研究科
1)
現 国立療養所再春荘病院呼吸器科・臨床研究部
2)
現 埼玉県立循環器・呼吸器病センター検査部
3)
現 結核予防会複十字病院内科
4)
結核予防会複十字病院呼吸器外科
(受付日平成 9 年 10 月 16 日)
ん性間質陰影は認められなかった.
方
法
切除肺は肉眼所見の観察後,腫瘍病変,腫瘍以外の病
変部,正常肺を組織学的検索のため切り出した.ブロッ
クをパラフィン包埋後,薄切切片を作製し,ヘマトキシ
178
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a
b
c
Fig. 1 Macroscopic and microscopic findings of localized UIP. a)Grade 1. Macroscopically no abnormality
was found. Histologically there was pleura-based fibrosis associated with muscle tissue proliferation, structural remodeling, and microscopic honeycombing. Depth less than 2 mm.(HE, ×100.)b)Grade 2. Macroscopically, pleura-based gray-whitish discoloration was observed. Histologically this was peripheral acinarpredominant, patchy, heterogeneous chronic interstitial pneumonia.
(HE, ×40.
)c)Grade 3. Zonal, discolored consolidation over 1 cm wide(→)along the pleura in the resected lung. Histologically this was diagnosed as typical UIP.
リン・エオシン染色(HE 染色)およびエラスチカ・マ
進行例群と非進行例群の比較の検定には χ2 および t 検
ッソン染色後,Lo-UIP 病変の有無について病理学的に
定を用い,危険率 p<0.05 をもって統計学的に有意とし
検討した.Lo-UIP 病変は小葉辺縁性であり,時間的・
た.
空間的に heterogeneous な,肺胞構造改変を伴う,胞
隔の慢性炎症という UIP の病理学的な基準を満たすも
結
果
のとし6),病変の程度は肺内部への広がりの程度によっ
19 年間の肺癌切除 776 症例中,Lo-UIP 病変の認めら
て,1:胸膜から 2 mm 未満で顕微鏡的所見から診断さ
れたものは 127 症例(1 例はびまん性 UIP 例として除外)
れる病変,2 : 2 mm 以上 10 mm 未満で肉眼でもその存
で,切除症例全体の 16.4% を占めていた.127 症例中男
在を知りうる病変,3 : 10 mm 以上の病変の 3 段階に分
性は 119 例,女性は 8 例,平均年齢 66.9 歳であった.
けた(Fig. 1 a,b,c).上記基準を基に今回改めて全例
喫煙は 124 例(97.6%)に認め,平均 喫 煙 指 数 は 1052
の標本の鏡検を行った7).Lo-UIP 病変を認めた例はカル
であった.Lo-UIP 病変の拡がりについては極めて微小
テをもとに調査時点(1995 年 5 月)までの術後経過と
な病変 1 が 127 例中 43 例(33.9%)
,軽度な病変 2 が 63
XP(CT)所見を検討した.なお,急性進行とは明らか
例(49.6%)
,より広がりのある病変 3 が 21 例(16.5%)
な感染所見や心不全所見を認めず,急激な呼吸困難およ
であった.また,127 例の術前残された XP(CT)所見
びそれに伴う検査所見の悪化(主に動脈血ガス)と XP
は 55 例(43.3%)に間質性病変を認めたが,XP 所見と
8)
(CT)上びまん性間質影出現例とした (Fig. 2 a,b).
しては下肺野の狭い範囲の網状影,CT 所見としては下
慢性進行とは明確な感染所見・心不全所見・肺癌進展所
肺背側胸膜直下の帯状濃度上昇や微小輪状影であった.
見がなく,XP(CT)上の間質影悪化を認める例で,臨
いずれも範囲や程度が軽微であり,臨床診断として肺線
床症状の悪化がないかあっても急激ではない例とした
維症と診断がつくものはなかった.
(Fig. 3 a,b).臨床病理学的成績についての間質性肺炎
127 例のうち,調査時点での生存例は 40 例(平均生
限局性 UIP の予後
179
a
a
b
b
Fig. 2 A case of acute progression. a)Preoperative
chest X-ray film showing a tumor shadow in the right
lung without diffuse reticulonodular shadows. b)Six
days after operation, diffuse ground-glass shadows appeared in the left, unresected lung.
Fig. 3 A case of chronic progression. a)Postoperative
chest XP showing the right lung after upper lobectomy and a normal-looking left lung. b)Five years after operation, reticulonodular shadows had developed
in the whole left lung, and a remarkable decrease in
lung volume was seen.
存期間 53.4 M)
で, 死亡例 74 例(平均生存期間 20.0 M)
,
経過不明 13 例であった.Table 1 で示したように,死
びまん性間質性陰影が出現したのが 4 例であり,そのう
亡例のうち,死亡原因としては肺癌再発が最も多く,つ
ち 2 例はステロイドパルス療法によって救命されてい
いで呼吸器感染症,びまん性間質性肺炎への進行悪化,
る.ステロイドパルス療法未実施の残りの 2 例は 1∼2
他の呼吸器疾患の順であった.間質性肺炎の急性 慢性
ヶ月の経過で死亡している.ステロイドパルス療法に
進行による死亡は 6 例であり,死亡例中の頻度は 8.1%
よって救命された 2 例中 1 例はその後も慢性的な進行が
であった.間質性肺炎以外の原因で死亡した症例の中に,
観察されたが最終的には他疾患のために 1 年 7 カ月で死
術直後の急性間質性病変が治療により寛解した後,肺癌
亡した.また術直後の急性びまん性病変を示さず術後経
死した 1 例,および間質病変の慢性的進行を示しながら
過順調にて退院し,外来経過観察中に急性びまん性間質
肺外疾患死した 2 例を認めた.また生存例のうち 1 例は
性陰影が出現したのは 3 例であった.3 例全例にステロ
画像・生検組織上の間質性病変の慢性的な増悪を認め
イドパルス療法が実施され救命し得たがその後,経過と
た.死亡例および生存例を問わず,間質性肺炎の急性ま
ともに徐々に病状進行して各々 4 年 9 カ月,8 カ月,6
たは慢性進行を認めた症例を Table 2 にまとめた.127
カ月の経過で死亡した.また急性の間質性病変は認めな
例中 10 例(術後観察期間 1∼62 カ月,平均 22 カ月)に
かったが,慢性的な進行を認めたのが 3 例であった.1
進行を認めた.進行の様式を分析すると,術直後急性に
例は生存し,死亡した 2 例のうち 1 例は間質病変進行に
180
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Table 1 Postoperative follow-up of 127 patients with localized usual interstitial pneumonia
(Lo-UIP) lesions
No. of
patients
Postoperative Course
Postoperative duration
(Months)
(%)
Death caused by
Recurrence of lung cancer
Respiratory infections
Progression to diffuse interstitial pneumonia
Other respiratory diseases
Extrapulmonary diseases
Unknown
74
40
(1*)
12
6
8
4
(2*)
4
(58.3)
(31.5)
( 9.4)
( 4.7)
( 6.3)
( 3.2)
( 3.2)
20.2 ± 25.2
15.9
27.1
22.7
20.3
41.8
16.8
Alive
40
(1*)
( 3.2)
53.4 ± 45.7
Unknown
13
(10.2)
*
:Progression to diffuse interstitial pneumonia unrelated to cause of death.
Table 2 Progression of Lo-UIP in 10 patients
Patients
No.
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Age Histology and
Extent of
and location of lung
Lo-UIP **
sex
cancer *
67/M
Ep/UL
71/M
Ep/LL
62/M
Ad/LL
72/M
Ep/UL
61/M Ad/UL & ML
63/M
Ep/UL
65/F
Ep/UL
66/M
Ep/UL
74/M
Ep/UL
61/F
Ad/UL
2
3
3
3
2
2
3
1
2
3
Acute progression †
Chronic
Prognosis
Following
During
progression
‡
operation postoperative
†
observation
+
+
+P
+P
−
−
−
−
−
−
−
−
−
−
+P
+P
+P
−
−
−
−
−
−
+
+
+
+
+P
+
+
D
D
D
D
D
D
D
A
D
D
Cause of
death
Observation
period
(Months)
IP deterioration
IP deterioration
Lung cancer
Colon cancer
IP deterioration
IP deterioration
IP deterioration
−
Mycocardial infarction
IP deterioration
2
1
8
19
57
8
6
24
35
62
*
Ep : epidermoid carcinoma, Ad : adenocarcinoma, UL : upper lobe, ML : middle lobe, LL : lower lobe.
extent of Lo-UIP 1, 2, 3 : referred to in the text.
† P : treated with life-saving steroid pulse therapy.
‡ D : dead, A :alive.
**
ともなう呼吸不全により 5 年 2 カ月の経過で,他の 1 例
%)
,非進行群では 43 例 100 例(43%)であったが,
は他疾患のため 2 年 11 カ月で死亡した.慢性的な進行
統計学的には有意な差とはならなかった.
は計 7 例に認められた.剖検は 3 例であり,慢性進行例
では胸膜直下を中心とした全葉にわたる蜂窩肺を交えた
線維化病変を認め,急性進行例では下葉胸膜直下の線維
化病変と全葉にわたる急性間質性肺炎像であった.
考
案
IPF の概念は 1970 年代,Crystal 等によって確立され
た1).我が国においても同じ頃より厚生省の研究班が組
間質性肺炎進行例の背景を明らかにするために経過不
織され,米国とはやや異なる観点から特発性間質性肺炎
明 13 例を除いた非進行群 104 例と進行群 10 例を比較検
(idiopathic interstitial pneumonia : IIP)の全体像をとら
討した(Table 3)
.その結果,年齢,男女比,放射線治
える努力がなされてきた.現在では米国における IPF
療や化学療法の有無には大差なく,異なったのは間質性
は日本における IIP 慢性型とほぼ等しい概念として一般
病変の広がりであった.すなわち非進行群では広がり 1
的に理解されている9).それは UIP が両者に共通する病
が 32.7%,2 が 51.9%,3 が 15.4% であるのに対し,進
理学的背景になっているためである.したがって,現在
行群では広がり 1 が 10.0%,2 が 40.0%,3 が 50.0% と
までの臨床的概念としての IPF(IIP 慢性型)は,病理
広がりの範囲が広いものの割合が有意に高かった(p<
学的に UIP が確認され,画像上両側びまん性の間質病
0.05)
.またそれを反映して術前画像上みられたわずか
変があり,肺機能上で拘束性の障害をもつもので,臨床
な範囲の間質性陰影の頻度は進行群で 8 例 10 例(80
症状とあわせてその診断は比較的容易である.
限局性 UIP の予後
181
Table 3 Comparison of clinicopathologic features for progressive and non-progressive cases of Lo-UIP
progressive Lo-UIP
(N = 10)
non-progressive Lo-UIP
(N = 104)
Statistical
Significance *
(+ / −)
66.2
8/2
3/4
3/7
3/7
1,105
1/9
66.8
99/5
7/71
29/75
28/76
1,091
9/92
NS
NS
NS
NS
NS
NS
NS
1
2
3
1(10.0%)
4(40.0%)
5(50.0%)
34(32.7%)
54(51.9%)
16(15.4%)
NS
NS
p < 0.05
(+ / −)
8/2
43/57
NS
9/1
65/39
NS
Clinical features
Average age
Sex
Velcro rales
Radiation therapy
Chemotherapy
Average smoking index
Occupational exposure
(years)
(M/F)
(+ / −)
(+ / −)
(+ / −)
Extent of Lo-UIP lesion on
histology
Regional interstitial shadow
on radiography
Clinical outcome
*
(dead/alive)
NS : not significant.
ところが剖検肺や手術肺の病理学的検討にて,びまん
で,UIP の成り立ちとその初期病変からびまん性の病変
性とはいえない広がりの蜂窩肺様の線維化病変(UIP 病
へ進展していく過程について経時的に症例を追跡した成
変)に遭遇することは少なくないことが以前より知られ
績は我々の知る限り見あたらない.これは IPF(IIP 慢
ていた2)∼4).今回の検討でもこのような Lo-UIP 病変が
性型)の初期像がどのようなものか現在まで明らかでな
切除肺中に少なからず存在することが確認され,また
いためといえる.今回の研究で,軽度な間質病変が経年
我々が別に報告したその病変の年次別推移の検討から
的に進行悪化し,びまん性間質病変となることを一部の
は,同病変を切除肺標本に認める頻度が年々増加してい
例ではあるが推察できた.それらの例は限られた観察期
7)
く傾向が認められている .今回の結果で最も注目され
間ではあったが,何れも我々が通常 IPF あるいは IIP
ることは,病理学的に Lo-UIP 病変しか示さなかった症
と呼ぶような臨床・画像所見を呈していたことから,Lo-
例の中に,その後進行するケースが存在することである.
UIP 病変が,IPF(IIP 慢性型)の初期病変である可能
その進行の様式はほぼ三型に分けられた.すなわち 1)
性を示している.ただ Lo-UIP 病変自体の病因が単一で
術直後に急速にびまん性間質性肺病変が出現し,致死的
ない可能性があり,それがびまん性 UIP への進展が一
になりうるもの(IIP の急性増悪に相当)
,2)術直後ま
部の症例のみに止まった理由の一つと考えられる.
たは経過中に急速にびまん性間質性肺病変が出現した
一方このような Lo-UIP 病変中からの,進行悪化の要
が,治療により一時寛解し,その後の慢性的な進行を認
因の一部として肺癌および手術という背景を考える必要
めるもの,3)術直後または経過中の急性症状の合併は
がある.肺癌合併 IIP の術後急性増悪例の報告もみら
ないが,慢性的に進行していくものであった.このうち
れ5)10),このような担癌体,また生体への手術侵襲とい
1)のタイプの中には,もし治療により改善し急性期後
う負荷が軽微な間質病変の進展に促進的に働いた可能性
の数年の経過を追跡できれば 2)と同一の進展を示すも
もある.また放射線治療や化学療法が間質性病変悪化へ
のも含まれている可能性がある.
与える影響も考えられるが,今回の検討ではその影響に
さらにこのような Lo-UIP 進行群について進行に関与
ついて有意な成績は得られなかった.
する因子を検討してみると,統計学的に有意と考えられ
病理学的検索の面からは切除標本に,このような病理
たのは切除肺に認めた Lo-UIP 病変の広がりであった.
組織上 UIP に合致する病変が認められた場合は,術直
すなわち病変の広がりが 3(胸膜から 10 mm 以上)を
後も含め慎重にその経過を追跡する必要性がある.今回
示したものの割合が進行群にて高いことがわかった.切
の検討は肺癌切除肺という制約があったが,IPF(IIP
除肺の間質病変が,残存肺とくに対側の間質病変を代表
慢性型)の初期病変としての Lo-UIP 病変の存在,およ
すると仮定すると,間質病変の広がりが広いものほどそ
びその後の進展過程の一端を明らかにした点が,従来の
の後の進行する可能性が高いといえる.
研究と異なる興味深い点である.今後このような観点か
これまでに発表された IPF(IIP 慢性型)の研究の中
ら,複数施設の多数例についての検討が必要と考えられ
182
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る.
成性急性間質性肺炎剖検例の検討.第 34 回間質性
謝辞 本稿をまとめるに当たり,適切な批評と貴重な助言
を頂いた本研究所顧問岩井和郎先生に深謝致します.また写
肺疾患研究会討議録,1986 ; 2―14.
5)草島健二,村田嘉彦,大石不二雄,他:肺癌手術に
みられる慢性間質性肺炎の特徴―その臨床病理学的
真撮影に協力頂いた写真室大武岸次技師に感謝致します.
なお,本論文の要旨は第 35 回日本胸部疾患学会総会(1995
検討―.日胸疾会誌 1992 ; 30 : 1673―1681.
6)Carrington CB, Gaensler EA, Coutu RE, et al : Natu-
年 4 月,名古屋)において発表した.
ral history and treated course of usual and desqua-
文
献
mative interstitial pneumonia. New Engl J Med
1978 ; 298 : 801―809.
1)Crystal RG, Fulmer JD, Roberts WC, et al : Idi-
7)福島一雄,河端美則,内山隆司,他:肺癌切除肺に
opathic pulmonary fibrosis : Clinical, histologic, ra-
みられた限局性慢性間質性肺炎(限局性 UIP)の検
diographic, physiologic, scintigraphic, cytologic, and
討.肺癌 1996 ; 36 : 237―244.
biochemical aspects. Ann Intern Med 1976 ; 85 :
8)河端美則,高木健三:慢性型特発性間質性肺炎の急
769―788.
性増悪とはいかなる病態か.Modern
2)山中 晃:肺線維症の病理.呼と循 1978 ; 26 : 17―
Physician
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28.
9)本間行彦,大塚義紀,棟方 充:特発性間質性肺炎.
3)山口和克,末松直美,岡 輝明:傍胸膜線維化につ
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10)小倉 剛,近藤有好,佐藤篤彦,他:特発性間質性
患調査研究班,平成元年度研究報書,1990 ; 34―36.
肺炎における肺癌の合併とその臨床的特徴.日胸疾
4)河端美則,岩井和郎:薬剤が疑われた急性間質性肺
会誌 1997 ; 35 : 294―299.
炎(硝子膜形成性)の一剖検例と当院での硝子膜形
Abstract
Prognosis of Possible Development into Diffuse Interstitial Pneumonia for 127
Patients with Localized Usual Interstitial Pneumonia
Kazuo Fukushima1), Yoshinori Kawabata2), Takashi Uchiyama3)and Yutzuki Nakajima3)
Division of Pathology, The Research Institute of Tuberculosis, JATA
1)
National Saishunsou Hospital
2)
Department of Laboratory Medicine, Saitama Prefectural Cardiovascular and Respiratory Center
3)
Fukujuji Hospital, JATA
To clarify the clinical course of localized usual interstitial pneumonia(Lo-UIP)
, we reviewed the postoperative course for 776 primary lung cancer patients who had Lo-UIP lesions in resected lung tissues. Lo-UIP lesions were found in 127(16.4%)lung cancer patients(male : 561, female : 215)who had undergone lung resection
procedures during a 19-year period(1975―1993)
. Of those 127, 74 died of various causes(mean survival period :
20.0 months)
, 40 were still alive(mean survival : 53.4 months)
, and the status of 13 was unknown. Death was attributable to the recurrence of lung cancer in 40 patients, respiratory infection in 12, progression of Lo-UIP in 6,
and other causes in 16. In addition to the 6 interstitial pneumonia deaths, acute or chronic progression of Lo-UIP
was observed in 1 patient who died of cancer, in 2 who died of other causes, and in 1 who was still alive. A total of
10 out of 127(7.9%)Lo-UIP patients progressed to diffuse interstitial pneumonia ; in 3 patients the progression
was acute, and in 7 it was acute and or chronic. We concluded that some Lo-UIP lesions may develop into diffuse
interstitial pneumonia or idiopathic pulmonary fibrosis.