力学Ⅰ 仕事 物体に作用する合力 F (t ) が分かっても,運動方程式 ma (t ) F (t ) を解いて 位置 r (t ) や速度 v(t ) を求めることが,数学的に難しい場合も多い。 運動方程式 ma (t ) F (t ) を出発点にして,新しい関係式を導く。 「エネルギー」に関する関係式である。 他の科目や日常生活でもよく耳にするように, 「エネルギー」という考え方は, 「力学」という分野を超えて,あらゆる自然現象を理解するための鍵となる。 仕事(work) まず,物体に作用する力 F から, 「仕事」という量を導入する。 仕事は,物体がもつ「エネルギー」を変化させる働きをもつ量である。 物体に一定の力 F [N]を加えて,力の方向に L [m]移動させるとき, 力 F がする仕事 W は F F W F L L (「仕事」=「力」×「移動距離」) で表される。 仕事の単位は[N]×[m]=[N・m]である。 この仕事の単位は重要で,よく使う単位なので,名前がついている。 [ J ] ( ジュール ) (絶対覚えること!) 練習1 ① 大きさが F 3.0[N]である一定の力 F を加えて,力の向きに 20[m]移動させた。力 F がした仕事 W を数値で求めよ。 L W F L 3.0[N]×20[m]=60[J] ② m 2.0[kg]の物体が,鉛直下向きに L 5.0[m]落下した。 重力がした仕事 W を数値で求めよ。 F L F mg 2.0[kg]×9.8[m/s2]=19.6[N] W F L 19.6[N]×5.0[m]=98[J] === 39 F 力学Ⅰ 次に,力の向きと物体の移動方向が異なる場合の仕事を考える。 まず,力の向きと移動方向が垂直( 90 )の場合の F W 0 仕事はゼロ。 F 垂直の向きの力は物体のエネルギーを s 変化させないからゼロに決める。 では一般的に,力の向きと移動方向が角度 をなしている場合は? F 力 F を分解して,仕事をするのは移動方向 だけなので, の成分 F|| F cos W ( F cos ) s である。 F F|| Fs cos s 力の向きと移動方向は直接関係ない。複数の力が作用している とき,個々の力について「○○力がする仕事」を計算できる。 練習2 ① 粗い(摩擦がある)水平面で,質量 m 5.0 [kg]の物体が,直線上を s 10[m]滑った。動摩擦係数を 0.20 として,重力 f 重 ,垂直抗力 f N , 動摩擦力 f ま がする仕事 W重 , W N , Wま を求めよ。 fN 重力: 90 → W重 ( f 重 cos 90) s 0 垂直抗力: 90 fま f重 s → WN ( f N cos 90) s 0 動摩擦力: 180 → Wま ( fま cos180) s fま (1) s f ま s mg s 0.20 5.0 [kg] 9.8 [m/s 2 ] 10 [m] 98 [J] ② 滑らかな(摩擦がない)斜面を,質量 m 5.0[kg]の物体が,s 2.0[m] 滑り降りた。斜面の水平からの傾き角を 30 とする。垂直抗力 f N ,重 fN 力 f 重 がする仕事 W N , W重 を求めよ。 垂直抗力: 90 → WN 0 重力: 60 1 s f重 2 1 5.0 [kg] 9.8 [m/s 2 ] 2.0 [m] 49 [J] 2 → W重 ( f 重 cos 60) s mg 40 f 重 sin s 力学Ⅰ 仕事の表し方 内積 B (Bx , B y ) A B AB cos ( Ax B x A y B y ) B sin というベクトルの掛け算がある。 (内積は平行な成分の掛け算) 内積を用いると仕事が簡潔に表せる。 W F s 練習3 Fs cos A ( Ax , A y ) B cos A y ( Fx x F y y ) ( Fx , F y ) F 一定の力 F ( 3.0 , 2.0 )[N]を物体に 作用させながら,点 P1( 1.0 , 5.0 )[m]か F s ( x, y ) O x ら点 P2( 7.0 , 2.0 )[m]まで移動させた。 力 F が物体にした仕事 W を数値で求めよ。 移動量(変位)ベクトル s は, s r2 r1 ( 7.0 ,2.0 ) [m]-( 1.0 ,5.0 ) [m]=( 6.0 , 3.0 ) [m] 仕事 W は, W F s Fx x F y y = 3.0 [N] 6.0 [m] 2.0 [N] (3.0 [m]) = 12 [J] === 一般的に,物体が移動する軌道が直線でもなく,力 の大きさ F や,力の向きと移動方向のなす角 が 移動の途中で変化する場合,仕事はどうやって計算するのか? まず,軌道曲線を,直線と見なせるくらい細かい区間 ds ( ds )に分割する。 微小仕事 dW ( F cos ) ds F ds を計算する。各区間で求めた dW をすべて足しあげる(積分記号 仕事は次のように表される。(具体例は後に計算する。 ) 2 2 2 W dW ( F cos ) ds F ds 1 1 の意味) 。 F 1 r1 41 ds F cos r2 力学Ⅰ 応用 曲面上を運動する物体に作用する垂直抗力がする仕事を求めよ。 曲面上を運動する物体に作用する垂直抗力の向きは,曲面の 接線(接平面)に垂直な向き(法線方向)である。 FN 接線, ds // 接線 したがって垂直抗力がする微小仕事は 曲面 FN ds dW ( FN cos 90) ds 0 接線 (接平面) である。曲面上を運動する場合も垂直抗力は仕事をしない。 仕事率(power) 同じ量の仕事でも,ゆっくりするのか,すばやくするのかで,能率は全く違う。 これを比べるために,単位時間(1[s]間)あたりにする仕事を考える。 t [s]間で, W の仕事をしたとき,(平均の)仕事率は, W :仕事率の単位[ W ] (ワット)=[J/s] P [W] t 注意 仕事率の単位[W]と仕事を表す文字 W を混同しないこと! dW (t ) であるが, 瞬間の仕事率は P (t ) dt dW (t ) ds ( F cos ) v F (t ) v(t ) P (t ) ( F cos ) dt dt で移動速度 v(t ) を用いて表せる。(速く移動させれば仕事率は大きい) 練習4 一定の大きさ F 10[N]の力を鉛直上向きに加えて,物体を真上に s 5.0 [m]持ち上げた。持ち上げるのに要した時間が t 0.40[s]だったとき, 力 F がした仕事の平均の仕事率 P を数値で求めよ。 W P F s 10 [N] 5.0 [m] 50 [J], W 50 [J] 125 [W] t 0.40 [s] 発展1 質量 m の物体を静かに落下させた。重力の仕事率 P (t ) を求めよ。 落下を始めてから t [s]後の落下速度 v(t ) は v (t ) g t したがって, t [s]後の仕事率 P (t ) は, P (t ) dW (t ) ( F cos ) v(t ) ( mg cos 0) gt mg 2 t dt 力は一定だが,落下とともに速さが増大するので,仕事率も増大する。 42
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