瀬戸内海における津波の伝播特性に関する水理模型実験 - 土木学会

土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
Ⅱ-072
瀬戸内海における津波の伝播特性に関する水理模型実験
産業技術総合研究所
正会員
山崎宗広
産業技術総合研究所
正会員
三好順也
広島工業大学大学院環境学研究科
正会員
上嶋英機
1. まえがき
潮汐水理模型として世界最大級を誇った瀬戸内海大型水理模型
(写真-1)は,築後 36 年が経ち研究道具としての使命を終えた.こ
の水理模型は,瀬戸内海全域の流動形態,陸水による拡散分布,海
水交換,流況制御技術と数多くの成果を挙げてきた.ここでは最後
に取り組んだ津波の実験について報告する.
津波の到達時間や最大高さなどの伝播特性を推定する方法として
は,数値実験および水理模型実験がある.瀬戸内海全域を対象とし
たものに限れば,これまでに数値計算による評価はみられるものの
水理模型実験についての評価はみられない.本研究では,瀬戸内海
写真-1 瀬戸内海大型水理模型
大型水理模型内(模型の長さ 230m,幅 50~100m)に南海地震津波
動かす
を想定して与え,津波の伝播特性を実験的に評価した.
津波
2. 研究内容
瀬戸内海大型水理模型は,水平縮尺 1/2000,鉛直縮尺 1/159 の歪
い条件で仕上げた三次元海底地形となっている.模型内には 727 個
の島が再現され,埋立地や防波堤も適時見直し最新の地形である.
油圧シリンダー
み模型であり,海底地形は詳細な海図を基に施工精度 3mm の厳し
模型
ゲート
動かす量(振れ角度)
紀伊水道: 13.7deg.
豊後水道: 4.6deg.
実験は,静止水面の状態で津波を発生させたケースと,潮汐が起こ
起潮装置
っている状態で津波を発生させたケースを扱い,主要港湾 55 地点に
おいて津波高の測定を行った.なお,津波高の測定にはサーボ式水
図-1 起潮装置による津波発生方法
位計(電子工業製 VC-201 型)を使用した.
電動バルブ
水理模型内に津波を
発生させる方法として,水理模型に設備されている起潮装置を活用
チャンバー
した.図-1 は,起潮装置による津波の発生方法を示したものである.
真空ポンプ
水 位 表示 筒
2.1 静止水面場における津波実験の内容
ケーブル長さ30m
紀伊水道,豊後水道からの津波は,図に示したゲートを 1 回動かし
て発生させた.津波の規模はゲートの振れ角度の大きさによって決
まるため,想定されている南海地震の震源地を考慮して実験条件を
チャンバー
真空ポンプ 電動バルブ
水位
スイッチ Box スイッチ Box
決めた.
水理模型
2.2 潮汐場における津波実験の内容
数値実験では静止水面の
状態から,断層モデルにより津波を発生させている1).ここでは,
100cm
200cm
図-2 津波発生装置の概観図
M2潮汐が再現された中で,考案した津波発生装置により津波を与え,その影響を評価した.図-2 は,考案
した津波発生装置の概観図を示したものである.津波の発生方法は,底部を開けた円筒形チャンバー内の水
位を真空ポンプで周囲より高くし,次に電動バルブで瞬時にチャンバー内の水位を変化させて行った.
キーワード:水理模型実験,瀬戸内海,南海地震津波
連絡先:〒739-0046
広島県東広島市鏡山 3-11-32
Tel.082-420-8263
-143-
Fax.082-420-8266
土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)
水位(cm)
後,播磨灘海域で 1.3~2.3 時間後,備讃瀬戸海域で 2.1~
200
0
3
6
9
3.2 潮汐場における実験結果
図-5 は,紀伊水道の満潮時に津波を発生させたときの結
果である.御坊では,約 1 潮汐周期間に渡って大きな津波
が続いている.また津波高は,満潮時に津波が襲来したこ
とによって 370cm 強にもなり,津波は潮汐の上に重なって
大きくなっている.大阪での津波は,発生から約 0.13pd.
(約 100 分)後に到達し,約 60cm の津波高となっている.
48
15
18
21
24
27
30
33
36
39
42
45
48
100
50
)
橘
御
制
本
山
歌
阪
石
砂
島
ヶ
島
洲
大
明
高
手
家
松
野
坂
宇
鞆
島
高
海
水
浜
忠
居
島
洗
手
島
戸
広
島
島
毛
宿
姫
下
下豊宇宇姫徳宿柏佐宇津八佐大三長青松睦土広呉御今新三忠立鞆粟水与高男宇牛坂引家江高阿明神大岸洲淡友福和小橘御田
関後島部島山毛崎伯和久幡賀分机浜島山月居島 手治居島海花 島島島松木野窓手田島井砂那石戸阪和本輪 良歌松 坊辺
瀬
洗 浜
島
賀
田
島浦山島
高
島見浜関
戸
浦
田
宇
0
関
諸島群の影響があるのではないかと考える.
12
ヶ
吉田・村上ら2)が指摘しているように瀬戸内海に点在する
45
150
図-4 津波高の最大値の分布
表-1 津波高の最大値表(単位:m)
(数値実験の結果は中央防災会議資料より読み取った)
の境界条件(津
小さくなっている.水理模型では多数の島を再現しており,
42
250
り,測定期間中における最大値の分布を図-4 に示す.津波
表-1 に示すように津波高の両者の比は,内海側に入るほど
39
大阪
津波高は第 1 波目よりも第 2 波目の方が大きい地点もあ
定性的にみると瀬戸内海全域で傾向は良く似ている.ただ
36
350
で 1.3~3.4 時間後,豊予海峡で 1.1 時間後となっている.
波の規模など)が違うために定量的な評価はできないが,
33
450
300
の伝播特性は,水理模型実験と数値実験
30
図-3 代表点における津波高の変化
紀淡海峡,鳴門海峡で 1 時間後,大阪湾海域で約 1~2 時間
1)
27
cm
400
~3.8 時間後,伊予灘海域で 1.1~2.2 時間後,周防灘海域
24
時間(hour)
道海域で 90~150cm となっている.またその時の時刻は,
2.8 時間後,燧灘海域で 2.9~3.8 時間後,広島湾海域で 2.9
21
時間(hour)
160
140
120
100
80
60
40
20
0
-20 -3
-40
-60
-80
-100
-120
-140
-160
域で 15cm,燧灘海域で 5~20cm,広島湾海域で 20~40cm,
伊予灘海域で 20~30cm,周防灘海域で 20~50cm,豊後水
18
水位(cm)
机
湾海域で 50~95cm,播磨灘海域で 20~60cm,備讃瀬戸海
15
瀬
第 1 波目の津波高は,紀伊水道海域で 150~400cm,大阪
12
関
の津波高となっている.
9
青
坊では 400cm 近くの大きな津波となり,大阪でも約 90cm
6
三
は 110cm 強の津波が発生し,その津波が内海側に伝播し御
3
伯
である.ゲート操作により津波を与えた紀伊水道中央部で
0
見
図-3 は,代表点における津波高の時間変化を示したもの
御坊
賀
3.1 静止水面場における実験結果
400
360
320
280
240
200
160
120
80
40
0
-40
-80 -3
-120
-160
-200
-240
-280
-320
-360
-400
久
3. 瀬戸内海における津波の伝播特性
佐
Ⅱ-072
①水理模型実験結果
②数値実験結果
① 水理実験 /② 数値実験
(御坊で規準化)
御坊
福良浦
洲本
大阪
高松
水島
3.96
2.68
0.57
0.90
0.29
0.28
5.9
3.5
1.0
1.8
0.8
0.8
0.67
0.76
0.57
0.50
0.36
0.35
(1.00) (1.14) (0.85) (0.74) (0.54) (0.53)
水位(cm)
400
360
320
280
240
200
160
120
80
40
0
-40
-80 -2
-120
-160
-200
-240
-280
-320
-360
-400
御坊
-1
0
1
3
4
5
6
時間(pd.)
水位(cm)
160
140
120
100
80
60
40
20
0
-20 -2
-40
-60
-80
-100
-120
-140
-160
2
大阪
-1
紀伊水道から大阪湾に入ってくる潮汐の進入速度と津波の
0
1
2
3
4
5
6
時間(pd.)
図-5 代表点における津波高の変化
進入速度は異なるが,大阪湾の地点においてもほぼ満潮時と重なるために,津波高は潮汐がない場合に比べ
て大きくなっている.
4. あとがき
本研究では,瀬戸内海大型水理模型を使って津波の伝播特性に関する実験を実施した.水理模型実験によ
り,瀬戸内海の主要な港湾において津波の到達時間や最大高さなどの伝播特性が明らかとなった.
参考文献
1) 内閣府中央防災会議 HP,2006:http://www.bousai.go.jp/jishin/chubou/nankai/7/index.html
2) 吉田・村上他(2003):瀬戸内海における津波の流速・津波高に及ぼす海峡・島の影響に関する一考察,海岸工学論文集第 50 巻,pp321~325
-144-