若08.H23・重点研究成果集2012_岡 雄一郎(医.pdf - 福井大学

平成 23 年度福井大学研究育成経費
研究育成経費
平成23年度福井大学研究育成経費「若手研究者による今後の進展が期待できる研究」
マウス大脳皮質長連合線維の選択的標識と特異的プロモータの同定
研究代表者: 岡 雄一郎(医学系研究科附属子どもの発達研究センター・特命講師)
共同研究者: 佐藤 真(医学部・教授)
猪口 徳一(生命科学複合研究教育センター・特命助教)
概
要
大脳皮質の長連合線維は、異なる頭葉間を結ぶ神経連絡で、高次の情報処理に関わるとされており、
近年では、その異常と自閉症との関連も報告されてきている。しかし、長連合線維の詳細な回路構造や
形成機構は未解明である。本研究は、マウスをモデルとして長連合線維の回路構造と形成機構を細胞レ
ベルで解析することを目的とする。本年度は解析のツールとなる長連合線維を選択的に標識できるプロ
モータの同定すべく、長連合ニューロン特異的遺伝子の同定を行った。大脳皮質一次運動野に逆行性ト
レーサーを注入し、一次体性感覚野で標識された長連合ニューロンをレーザーマイクロダイセクション
で回収し、遺伝子発現プロファイルの DNA マイクロアレイ解析を行った。得られた候補遺伝子につい
て in situ ハイブリダイゼーション による発現パターンの解析を行った。
関連キーワード
大脳皮質長連合線維、軸索投射、神経回路形成、マイクロアレイ、自閉症
研究の背景および目的
大脳皮質はいくつもの領野に分かれており、そ
れぞれ特定の情報を処理しているが、異なる領野
間を接続する連合線維は各領野で処理した情報の
統合に関わっていると考えられている。そのうち
長連合線維は、異なる頭葉に存在する離れた領野
を結ぶ神経線維であり、異なる感覚情報の統合や
意思による運動の制御などの高次脳機能の基盤と
考えられる。例えばヒトにおいては、他人の顔の
表情に現れる感情の認識への関与(Philippi et al.,
2009)や、自閉症スペクトラムや統合失調症など
の疾患との関連も指摘されている(Shukla et al.,
2011, Peters et al., 2010)。しかし、長連合線維を
構成する長連合ニューロンの細胞レベルでの軸索
投射の様式に関する現在の知見は非常に限られて
いる。連合ニューロンはヒトを含む霊長類におい
て大脳皮質 6 層構造の 2/3 層に分布しているが、
げっ歯類では 2/3 層に加えて 5 層及び 6b 層にも存
在する(Mitshell & Macklis, 2005)。これらの層
には長連合ニューロン以外の神経細胞も存在する
ため、大脳皮質の特定の層への遺伝子導入によく
利用される子宮内穿孔法では長連合ニューロンの
みに選択的に外来性遺伝子を導入することはでき
ない。したがって、長連合ニューロン特異的プロ
モータはその回路構造や機能の解析に必須である
が、現在のところまだ同定されていない。
長連合線維による情報処理機構を理解するため
には、長連合ニューロンの詳細な接続様式を明ら
かにし、これらの細胞の神経活動を操作してその
影響を解析することが重要である。そこで本研究
では、将来的な神経活動の操作を視野に入れ、遺
ヒト(成人)大脳における主な長連合線維の走行
Nieruwenhuys et al, The Human Central Nervous System
(1998) より改変
伝学的手法が利用できるマウスをモデルとして長
連合線維を選択的に標識する手法を確立し、その
回路構造を明らかにする。
(1)逆行性トレーサー
分子により長連合ニューロンを標識し、
(2)標識
された長連合ニューロンを回収後、特異的に発現
する遺伝子を探索・同定する。
(3)この長連合ニ
ューロン特異的遺伝子のプロモータを用いて細胞
膜結合型 GFP を発現させ、軸索伸長過程および最
終的な軸索投射パターンを詳細に記述する。
本研究による長連合ニューロン特異的プロモー
タの単離後は、長連合細胞の神経活動を選択的に
操作したマウスを用いた行動解析を通じ、連合記
憶や随意運動制御などの高次脳機能において長連
合線維回路が果たす役割を解析することにより、
自閉症や統合失調症などの病態解明・治療法開発
に道を拓く可能性がある。
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若手研究者による今後の進展が期待できる研究
本研究では、長連合ニューロンに特異的なプロ
モータを同定するためのスクリーニングを行って
いる。まず、複数種類の細胞種が混在する大脳皮
質から長連合ニューロンを選択的に集めるため、
長連合ニューロンを含む大脳皮質一次体性感覚野
(S1)の 2/3 層の神経細胞にエレクトロポレーシ
ョン法により蛍光タンパク質 tdTomato を導入し、
長連合線維の投射先を可視化した。長連合線維の
投射が完了する生後 21 日目にその投射先領域であ
る一次運動野(M1)に逆行性蛍光トレーサー分子を
注入し、長連合ニューロンを標識した。長連合ニ
ューロンは 2/3 層に加えて 5 層および 6b 層に分布
していた(Mitschell & Macklis 2005 の報告と合
致)。次に、脳を摘出して新鮮凍結切片を作製し、
蛍光トレーサーで標識された細胞をレーザーマイ
クロダイセクション法によって 1 細胞ずつ切り抜
いて、各々約 1000 細胞ずつ集めた。同様に左右大
脳半球を結ぶ交連ニューロン(2/3 層と 5 層)も約
1000 個ずつ集めた。これら 5 つのサンプルから
total RNA を調製し、NuGEN 社の Ovation Pico
WTA System により cDNA を増幅した。大脳皮質
2/3 層、5 層、6b 層のマーカーとして cux1、ctip2
および ctgf の各遺伝子に対する RT-PCR を行い、
各サンプルが適切に調製できていることを確認し
た。その後、これらの細胞集団における遺伝子発
現プロファイルを DNA マイクロアレイ法によっ
て比較した。アレイ上の 35556 種類の予測転写産
物からコントロールなどを除いた 7829 遺伝子の
うち、長連合ニューロンにより多く発現している
遺伝子を各層から 100 種類ずつ選んだ。これら 100
遺伝子から、後にプロモータを利用することを念
頭に、発現強度の高い遺伝子を 2/3 層から 9 種類、
レーザーマイクロダイセクション法。凍結切片上で蛍
光標識された細胞をレーザーによって切り抜いた。
5 層から 8 種類、および 6b 層から 17 種類をそれ
ぞれ候補遺伝子とした。現在までに、これらの候
補遺伝子のうち数種類について長連合ニューロン
での発現を、in situ ハイブリダイゼーションによ
って確認した。現在は、さらに in situ ハイブリダ
イゼーションによるスクリーニングを進めている。
引き続き、蛍光トレーサー標識と in situ ハイブリ
ダイゼーションを組み合わせた 2 重標識実験によ
り長連合ニューロンに発現する遺伝子の絞り込み
を行っていく。その後、得られた特異的遺伝子の
プロモータを単離し、これを用いて長連合ニュー
ロンとその軸索を選択的に標識する実験を開始す
る予定である。
本助成による主な発表論文等、特記事項および
競争的資金・研究助成への申請・獲得状況
「主な発表論文等」
Oka, Y. and Korsching, S. I. Shared and
unique G alpha proteins in the zebrafish
versus mammalian senses of taste and
smell. Chem. Senses 36(4): 357-365.
(2011)
Oka, Y., et al. Crypt neurons express a
single V1R-related ora gene. Chem.
Senses 37(3): 219-227. (2012)
「特記事項」
本研究課題は、以下の学会で発表を行った。
日本解剖学会第 71 回中部支部学術集会・平成 23
年 10 月 15 日-16 日・名古屋大学医学部・「ゼブ
ラフィッシュ Crypt 細胞に発現する嗅覚受容体
遺伝子の同定」・口頭発表
日本解剖学会第 117 回全国学術集会で平成 24 年 3
月 26-28 日・山梨大学・「マイクロアレイ解析に
よる大脳皮質長連合細胞特異的遺伝子の同定」
・
ポスター発表
「競争的資金・研究助成への申請・獲得状況」
科学研究費補助金・研究活動スタート支援・平成
23-24 年度・大脳皮質長連合線維の回路構造と形
成機構の解析・代表・採択・2500 千円
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研究育成経費
研究の内容および成果