KURENAI : Kyoto University Research Information Repository Title Author(s) Citation Issue Date URL ホヤ胚の脳において領域特異的に発現する遺伝子の解析( Abstract_要旨 ) 下園, 直樹 Kyoto University (京都大学) 2011-03-23 http://hdl.handle.net/2433/142412 Right Type Textversion Thesis or Dissertation none Kyoto University 学 ( ふ り が な ) 氏 名 位 審 (しもぞの 下園 査 士 学 理 博 番 号 書 直樹 博 記 告 なおき) 学位(専攻分野) 位 報 ( 理 学 ) 第 年 月 号 学位授与の日付 平成 日 学位授与の要件 学 位 規 則 第 4 条 第 1 項 該 当 研 究 科 ・ 専 攻 理学研究科 生物科学専攻 (学位論文題目) ホヤ胚の脳において領域特異的に発現する遺伝子の解析 論 文 調 査 委 員 (主査) 理 久保田 学 洋 准教授 佐藤ゆたか 准教授 曽田 教授 研 貞滋 究 科 ( 続紙 1 ) 京都大学 論文題目 博士(理学) 氏 名 下園 直樹 ホヤ胚の脳において領域特異的に発現する遺伝子の解析 (論文内容の要旨) ホ ヤ 幼 生 の 中 枢 神 経 系 は 330 個 ほ ど の 細 胞 か ら 構 成 さ れ 、 前 後 軸 に 沿 っ た Otx、 Pax、 Hox な ど の 遺 伝 子 の 発 現 領 域 の 特 異 性 の み な ら ず 、 光 受 容 、 重 力 の 感 知 な ど の 機 能 に 応 じ た 領 域 特 異 性 を 持 つ と さ れ て い る 。申 請 論 文 で は 、カ タ ユ ウ レ イ ボ ヤ ( Ciona intestinalis) を 用 い て 中 枢 神 経 系 、 特 に 脳 に お け る 領 域 特 異性の分子メカニズムをさらに理解するための研究を行った。 最近の研究からカタユウレイボヤ幼生の中枢神経系で発現する遺伝子として 上 述 の 3 つ を 含 め て 100 以 上 の 遺 伝 子 が 同 定 さ れ て い る が 、 領 域 特 異 性 を 研 究 するためにはそこで発現するできるだけ多くの遺伝子情報を得ることが大切で あ る 。そ こ で ま ず 申 請 者 は 、幼 生 の 神 経 系 で 蛍 光 タ ン パ ク 質 カ エ デ を 特 異 的 に 発 現 す る ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク 系 統 と マ イ ク ロ ア レ イ を 駆 使 し 、脳 で 特 異 的 ま た は 優 勢 に 発 現 す る 565 個 の 遺 伝 子 を 特 定 し た 。 こ れ ら の 遺 伝 子 の 中 に は 既 に 脳 で 発 現 す る こ と が 知 ら れ て い た C i - o p s i n 1 や C i - T Y R P 1 な ど が 含 ま れ て い た 。そ れ に 加 え て 脳 で 発 現 す る こ と が 新 た に 分 か っ た 神 経 ペ プ チ ド 、ホ ル モ ン な ど の 遺 伝 子 を特定した。 次 に 、 whole-mount in situ hybridization に よ り 、 尾 芽 胚 か ら 幼 生 形 成 に い た る 胚 お よ び 幼 生 の 脳 に お い て 、 上 で 同 定 し た 遺 伝 子 約 100 個 の 空 間 的 発 現 を よ り 詳 細 に 調 べ た 。そ の 結 果 、脳 全 体 で の 発 現 、脳 背 側 領 域 で の 発 現 、脳 腹 側 領 域 で の 発 現 、脳 前 方 領 域 で の 発 現 、 脳 後 方 領 域 で の 発 現 、脳 腹 側 前 方 領 域 で の 発 現、脳中央領域での特異的発現の、少なくとも 7 つの発現パターンを見出した。 こ の 結 果 は 、ホ ヤ の 中 枢 神 経 系 に は 前 後 軸 に 沿 っ た 領 域 に 加 え 、背 腹 軸 に そ っ た より細かい領域が存在することを示すものである。 さらに申請者は、7 つの発現パターンの内の 4 つ、すなわち脳全体での発現、 背 側 領 域 で の 発 現 、腹 側 領 域 で の 発 現 、前 方 領 域 で の 発 現 を 代 表 す る 合 計 6 つ の 遺 伝 子 に つ い て 、 そ れ ぞ れ そ の 領 域 特 異 的 発 現 を 制 御 す る 5’上 流 の 解 析 を 進 め た 。 す な わ ち 、 6 つ の 遺 伝 子 の 約 2〜 3 kb の 上 流 配 列 を LacZ の 上 流 に つ な い だ レ ポ ー タ ー コ ン ス ト ラ ク ト を 作 製 し 、こ れ ら を 導 入 し た 胚 で の L a c Z の 発 現 を 調 べ た 。そ の 結 果 、6 つ の 遺 伝 子 全 て に お い て 内 在 性 の 遺 伝 子 と 同 じ 領 域 で の L a c Z の 発 現 が 認 め ら れ た 。そ し て 、こ れ ら の 遺 伝 子 の 上 流 配 列 の デ リ ー シ ョ ン コ ン ス ト ラ ク ト を 作 製 し て 、領 域 特 異 的 発 現 調 節 領 域 の さ ら な る 絞 り 込 み を 行 っ た 。そ の 結 果 、 脳 全 体 で 発 現 す る 遺 伝 子 に 関 し て は Otx が そ の 発 現 制 御 に 関 与 し て い ることを示唆する結果が得られた。 こ れ ら の 結 果 は 、ホ ヤ 幼 生 の 脳 は こ れ ま で 考 え ら れ て い た 以 上 に 領 域 化 が 進 み 複 雑 化 し て お り 、ま た 多 く の 遺 伝 子 は 領 域 特 異 的 に 発 現 す る よ う に 制 御 さ れ て い ることを示すものである。 (続紙 2 ) (論文審査の結果の要旨) 尾索動物のホヤは脊椎動物に最も近縁な無脊椎動物である。ホヤの幼生の中 枢 神 経 系 で は O t x 、P a x 、H o x な ど の 遺 伝 子 が 脊 椎 動 物 の 中 枢 神 経 系 と 同 様 に 前 後軸に沿った発現を示すなど、その発生と機能には共通の分子的メカニズムが 存 在 す る と 予 測 さ れ て い る 。 ま た 一 方 で 、 ホ ヤ 幼 生 の 中 枢 神 経 系 は 約 100 個 の 神 経 細 胞 を 含 む わ ず か 330 個 ほ ど の 細 胞 で 構 成 さ れ て お り 、 こ の シ ン プ ル さ を 生かした脳形成メカニズムの研究が進みだしている。これまでにその発生と機 能に関連して多くの遺伝子の発現と機能が調べられているが、申請者は「脳の 領域化」という点に的を絞って本研究を進めている。 カ タ ユ ウ レ イ ボ ヤ ( Ciona intestinalis) で は ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク 系 統 の 作 製 法が確立されている。そこで申請者はまず、共同研究者とともに、幼生の脳で 蛍光タンパク質カエデを特異的に発現するトランスジェニック系統を利用し て、蛍光を発する細胞での遺伝子発現と発しない細胞での遺伝子発現との比較 を 、 マ イ ク ロ ア レ イ を 駆 使 し て 行 い 、 脳 で 特 異 的 ま た は 優 勢 に 発 現 す る 565 個 の遺伝子の特定に成功した。これらの中には脳で特異的に発現する既知の遺伝 子が多数含まれており、研究手法の妥当性を支持するものであった。加えて申 請者は新たに脳で発現する遺伝子、特に神経ペプチド、ホルモンなどの遺伝子 を特定しており、これは申請者の研究技術の高さを示すものとなっている。 申 請 者 は 次 に 、 上 で 同 定 し た 遺 伝 子 の う ち の 約 100 の 遺 伝 子 に つ い て 、 whole-mount in situ hybridization に よ り 、 尾 芽 胚 お よ び 幼 生 の 脳 に お け る 空 間的発現をより詳細に調べた。その結果、脳全体での発現、脳背側領域での発 現、脳腹側領域での発現、脳前方領域での発現、脳後方領域での発現、脳腹側 前方領域での発現、脳中央領域での発現の、少なくとも 7 つの空間的発現パタ ーンを見出した。この結果は、これまでに分かっていたホヤの中枢神経系の前 後軸に沿った領域化に加え、より細かい領域が存在することを示すものとして 価値ある研究成果である。 申請者はさらに、こうした領域特異的発現がどのように制御されているかを 確かめるために、7 つの発現パターンの内の 4 つ、すなわち脳全体での発現す る遺伝子 1 個、背側領域で発現する遺伝子 1 個、腹側領域で発現する遺伝子 3 個、前方領域で発現する遺伝子 1 個を選び、それぞれその領域特異的発現を制 御 す る 5’上 流 の 解 析 を 進 め た 。 6 つ の 遺 伝 子 の 上 流 約 2〜 3 kb の 配 列 に レ ポ ー タ ー 遺 伝 子 L a c Z を つ な い だ コ ン ス ト ラ ク ト を 作 製 し 、こ れ ら を 導 入 し た 胚 で の LacZ の 発 現 を 調 べ た 結 果 、 6 つ の 遺 伝 子 全 て に お い て 内 在 性 の 遺 伝 子 と 同 じ 脳 領 域 で の L a c Z の 発 現 が 認 め ら れ た 。こ の こ と は こ れ ら の 遺 伝 子 の 領 域 特 異 的 発 現 が こ れ ら の 5’上 流 域 に よ っ て 制 御 さ れ て い る こ と を 示 す 重 要 な 結 果 で あ る 。 申請者はさらに上流配列のデリーションコンストラクトを作製して、領域特異 的発現調節領域のさらなる絞り込みを行い、脳全体で発現する遺伝子に関して は Otx が そ の 発 現 制 御 に 関 与 し て い る こ と を 示 唆 す る 結 果 を 得 て い る 。 こ れ ら の結果は、ホヤ幼生の脳はこれまで考えられていた以上に領域化が進み複雑化 しており、また多くの遺伝子は領域特異的に発現するように制御されているこ とを示すものとして重要な成果である。 よって、本論文は博士(理学)の学位論文として価値あるものと認める。ま た 、 平 成 23 年 1 月 13 日 に 論 文 内 容 と そ れ に 関 連 し た 事 項 に つ い て 口 頭 試 問 を 行った結果、合格と認めた。
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