XAFSを用いた溶液中微量金属の形態解明と反応機構解析 - SPring-8

XAFSを用いた溶液中微量金属の形態解明と反応機構解析
(財)電力中央研究所 秋保広幸
● :Se(IV)-フィッティング
● :Se(VI)-フィッティング
:Se(IV)-ICP
:Se(VI)-ICP
100
Se:100 mg/l 50℃
Se(IV)、Se(VI)の存 在割 合 [%)]
電中研では、化石燃料に由来する石炭や燃焼灰など
の固体試料にXAFS分析を適用し、試料に含まれる微量
金属元素の存在形態の特定を行ってきた。また、多素子
SDDを用いることにより、溶液試料中の微量なセレン
(10ppm程度)の形態を、4価(亜セレン酸:Se(IV)O32-)と
6価(セレン酸:Se(VI)O42-)に判別できることを明らかにし
た。さらに、in situでの測定機構を設けることによりSe(IV)
からSe(VI)への酸化過程の直接解析を可能とし、XAFS
スペクトルの線形フィッティング解析から得られたSe(IV)
とSe(VI)の存在割合が高い定量性を有していることを示
した。この手法は、溶液中の金属成分の形態や酸化・還
元などの反応機構の解明に応用できるものと考えられる。
セレンは我が国の排水規制項目の一つであり、特に
Se(VI)の処理が困難である。電中研では、排水中での
Se(IV)からSe(VI)への酸化抑制にMnが有効であることを
見出しており、in situ XAFS分析を適用することにより、
Seの酸化抑制に関わるMnの反応機構が明らかとなった。
80
60
40
20
0
0
120
240
360
反応時間 [min]
480
図 Seの存在形態の時間変化
(in situ XAFS分析とICP発光分析との比較)
1
2009.9.3 第6回産業利用報告会
SPring-8シンポジウム
XAFSを用いた溶液中微量金属
の形態解明と反応機構解析
財団法人電力中央研究所
エネルギー技術研究所
秋保
広幸
2
要旨

電中研では、化石燃料に由来する石炭や燃焼灰などの固体試料に
XAFS分析を適用し、試料に含まれる微量金属元素の存在形態の特定
を行ってきた。また、多素子SDDを用いることにより、溶液試料中の微量
なセレン(10ppm程度)の形態を、4価(亜セレン酸:Se(IV)O32-)と6価(セ
レン酸:Se(VI)O42-)に判別できることを明らかにした。さらに、in situでの
測定機構を設けることによりSe(IV)からSe(VI)への酸化過程の直接解析
を可能とし、XAFSスペクトルの線形フィッティング解析から得られた
Se(IV)とSe(VI)の存在割合が高い定量性を有していることを示した。

この手法は、溶液中の金属成分の形態や酸化・還元などの反応機構の
解明に応用できるものと考えられる。セレンは我が国の排水規制項目の
一つであり、特にSe(VI)の処理が困難である。電中研では、排水中での
Se(IV)からSe(VI)への酸化抑制にMnが有効であることを見出しており、
in situ XAFS分析を適用することにより、Seの酸化抑制に関わるMnの
反応機構が明らかとなった。
3
背景


SPring-8の輝度の高い放射光を利用することにより、
従来は困難であった様々な物質に含まれる微量な
元素の同定が可能となった。
電力中央研究所では、これまで化石燃料に由来
する固体試料(石炭、燃焼灰、石膏など)に数百~
数ppm程度で含まれる微量な金属元素の蛍光
XAFS分析を行い、対象元素の価数や化合形態な
どを明らかにしてきた。
4
石炭燃焼過程における微量物質の挙動
燃焼排ガス
燃焼
NOx
SOx
ばいじん
ガス状微量物質
排煙処理装置
煙突
脱硝、集じん、脱硫
大気へ排出
排水
石炭
燃焼灰
石膏
・有機物 (C, H, N, O, S)
・無機鉱物 (Si, Al, Fe, ・・・)
・微量物質 (Hg, Se, As, Cr, ・・・)
汚泥
燃焼灰や副生品の有効利用、ならびに廃棄物処理の観点から、
微量物質の存在形態や挙動把握が重要
5
目的

微量のセレン(Se)を含む液体試料を対象とした蛍
光XAFS分析を実施し、
①液体試料に含まれる金属元素の形態解明
②液相中での反応機構解析に対するin situ 蛍光
XAFS分析の適用性
を明らかにする。
6
実験①
-バッチXAFS測定(BL16B2)-
試料注入部
放射光
蛍光X線
検出器
アクリル製の測定セルに注入した試料溶液に放射光を照射し、
発生した蛍光X線を測定した。
7
実験②
-in situ XAFS測定(BL16B2)-
ポンプへ
測定セル
多素子SDD検出器
送液ポンプ
入
射
X
線
測定セル
溶液試料
Se(IV):100 mg/l
S2O82-:5,000mg/l
Mn(II):0, 500 mg/l
温度:50℃
[測定条件] 吸収端:Se-K(12.655keV) モノクロメータ結晶面:Si(111)
入射エネルギー:12.325~13.889keV ミラー:3.5mrad 4象限スリット:1.0mm×3.0mm
イオンチャンバ(I0):17cm 15%Ar/85%N2 検出器(I):7素子SDD 測定時間:約60min/回
反応中の試料溶液はポンプにより測定セルに導入され、再びポン
プを介して反応容器へと戻る仕組みとなっている。
8
①液体中の微量金属の形態解明
-濃度の異なるSe6+溶液の蛍光XAFS測定結果-
1.4
1.0
←B
1.2
1.0
D 規格化したXAFSスペクトル
1000mg/kg
100mg/kg
F
10mg/kg
C
E
0.5
←A
12.9
1000mg/kg Se6+
100mg/kgSe6+
10mg/kg Se6+
0
12.60
12.8
←F
12.7
←E
←C
←D
I/Io
0.8
12.70
12.80
E(keV)
10-1000mg/kgの範囲では、濃度に依存せず良好な再現性が
得られた。
9
①液体中の微量金属の形態解明
6+
←Se
←Se
4+
4
3
←Se0
規格化したX線吸光度(任意単位)
-価数の異なるSe6+溶液の蛍光XAFS測定結果-
2
Se 6+ ion
セレン酸(Na
2SeO 4)
4+
Se ion
亜セレン酸(Na
2SeO 3)
0
Se std.
セレン箔標準試料
1
0
12.64
12.66
12.68
12.7
12.72
照射X線エネルギーE(keV)
吸収端エネルギーの変化量から、セレンの酸化状態の特定が
可能であった。
10
①液体中の微量金属の形態解明
0.3
0.2
←Se-O
フーリエ変換振幅 (任意単位)
(セレンに配位する酸素の数)
-価数と濃度の異なるSe溶液のXAFS解析結果-
Se 6+(1000mg/kg)
Se 6+(100mg/kg)
6+
Se (10mg/kg)
2セレン酸イオン(SeO 4 )
O2Se6+
セレン酸イオン
(SeVIO42-)
Se4+
O2-
Na+
1.5
~1.8Å
Se 4+(1000mg/kg)
Se 4+(100mg/kg)
Se 4+(10mg/kg)
亜セレン酸イオン(SeO 32-)
Na+
0.1
セレン酸ナトリウム(Na2SeO4)
0
亜セレン酸イオン
(SeIVO32-)
1
2
3
4
セレンに配位する酸素の距離 r(Å)
亜セレン酸ナトリウム(Na2SeO3)
↑Na2Se(VI)O4とNa2Se(IV)O3の結晶構造↑
濃度に依存せず、価数の違いを反映した解析結果が得られた。
( Se(VI)O42-はSeの周りにOが4配位、Se(IV)O32-では3配位し、Se-Oの結合距離は1.5-1.8Å)
11
②in situ 蛍光XAFSの適用性
- Se-K吸収端のin situ 蛍光 XAFS分析結果-
norm. absorption / a.u.
Se(IV) Se(VI)
エネルギー値
がシフト
Se-K
Se(VI)に固有の
ピークが出現
Se(VI)O42-(std)
480 min
360 min
240 min
120 min
0 min
Se(IV)O32-(std)
12.65 12.66 12.67 12.68 12.69
photon energy / keV
反応時間の経過に伴う
Se(IV)からSe(VI)への
形態変化をin situで
捉えることに成功した。
12.7
12
②in situ 蛍光XAFSの適用性
-in situ XAFSとICPとの比較-
Se-K
3
Se(VI)に固有の
ピークが出現
Se(VI)O42-(std)
480 min
: 実測値(360min.)
: 解析値(Se(IV)+Se(VI))
2
Se(IV)
1
360 min
240 min
120 min
0 min
Se(IV)O32-(std)
12.65 12.66 12.67 12.68 12.69
photon energy / keV
12.7
in situ XAFS
溶液試料
(Se(IV)+酸化剤)
norm. absorption / a.u.
norm. absorption / a.u.
Se(IV) Se(VI)
エネルギー値
がシフト
ICP分析
0
12.6
12.65
12.7
12.75
photon energy / keV
12.8
Se(VI)
XANES領域の解析結果(360min.)
線形フィッティング
Se(IV)
Se(VI)
比較
in situ XAFS分析で得られたスペクトルへのSe(IV)とSe(VI)の寄与を
線形フィッティングにより定量化し、ICPでの定量分析結果と比較した。
13
②in situ 蛍光XAFSの適用性
-in situ XAFS測定結果の定量性評価-
● :Se(IV)-フィッティング
● :Se(VI)-フィッティング
:Se(IV)-ICP
:Se(VI)-ICP
100
Se(IV)、Se(VI)の存在割合 [%)]
Se:100 mg/l 50℃
80
60
40
20
0
0
120
240
360
反応時間 [min]
480
in situ XAFSとICP分析で得られたSe(IV)とSe(VI)の時間変化が
ほぼ一致したことから、in situ XAFS分析の定量性が示された。
14
in situ 蛍光XAFSの応用例
-Seの酸化抑制に関わるMnの反応機構解析-
Se-K
Mn(IV)
2-
Se(VI)O4 (std)
酸化剤を含むSe(IV)
溶液にMn(II)を加え
ると、Se(VI)への酸
化が起こらない。
600 min
480 min
360 min
240 min
120 min
0 min
Se(IV)O32-(std)
12.65 12.66 12.67 12.68 12.69
photon energy / keV
12.7
Mnに対するin situ
XAFS分析の結果、
Se(IV)の代わりに
Mn(II)がMn(IV)O2へ
と酸化されていた。
Mn-K
Mn(IV)O2(std)
norm. absorption / a.u.
norm. absorption / a.u.
Se(IV) Se(VI)
沈殿
480 min
360 min
240 min
120 min
Mn(II)
6.52
6.54
6.56
6.58
photon energy / keV
0 min
6.6
in situ XAFS分析を用いることによって、溶液中でのSe酸化抑制に
関わるMnの反応機構が明らかとなった。
15