2006年3月 51号 - 宇宙システム開発利用推進機構

財団法人 資源探査用観測システム研究開発機構 1 . 巻 頭 言
経済産業省 航空機武器宇宙産業課
宇宙産業室長 志村 勝也 …………………
2 . 理事長挨拶
佐藤 文夫 …………………
3 . 専務理事挨拶
沖野 英明 …………………
4 . JAROSの現状と今後(JSUP統合)
JAROS NEWS 編集担当 ……
P1
P2
P3
P4 2006.3.No.51
5 . ASTER機器設計寿命達成後の運用について 研究開発部 佐藤 孝 ……………… P5
6 . PALSARの現状
研究開発部 熊谷 信夫 ……………… P6
7 . ASAR Workshop 2005 参加報告
研究開発部 河村 和夫 ……………… P7
8 . 新任挨拶
石井 重夫 ………………
P8
P8
久家 秀樹 ………………
巻頭言
経済産業省 航空機武器宇宙産業課 宇宙産業室長 志村 勝也
ALOS打上おめでとうございます。PALSARもようやく本
分野で活用されています。
格運転に入り、まさに、皆様方のさらなる活躍が期待され
今後我が国の宇宙産業の競争力を強化するには、海外の
ているところです。
民間需要を取り込むべく宇宙機器産業の技術力、価格競争
我が国の宇宙開発は、ロケット、人工衛星の両分野にお
力の強化に向けた基盤整備を行い宇宙の産業化を進めるこ
いて、着実に技術水準を高め、国際市場で対等に競争でき
とが課題となります。さらに、国民生活の利便性の向上に
るレベルにまで到達しつつあります。ロケット分野では、
資する様々な宇宙利用サービスが新たに提供され、各産業
H蠡Aロケットの打上が2005年2月以来3回連続打上成功
や消費生活において広範かつ高度に利用されることが、宇
し、ASTRO-FのM-Vロケットによる打上も成功しました。
宙産業全体の活性化、ひいては宇宙産業の裾野の拡大につ
またGXロケットプロジェクトの開発が民間主導により進
ながると期待されます。
められているなど、衛星打上の受注合戦に本格的に参入す
以上の観点から、我が国宇宙産業の更なる競争力強化、
るための下地が着実に築かれています。衛星分野において
拡大を目指し、経済産業省では平成18年度政府予算案で約
は、我が国の衛星メーカが国内外衛星の受注に成功するな
90億円の予算を宇宙産業施策関連で計上し、人工衛星の低
ど、海外衛星メーカとも十分比肩しうる競争力を有しつつ
コスト化・高信頼化・高機能化やロケット設計の合理化等
あります。このような流れを止めることなく、着実に宇宙
を図る基盤技術及びリモートセンシング画像処理・解析技
産業の推進をしたいと考えております。
術等、宇宙利用を促進するための基盤技術の確立を目指し
宇宙機器を用いて提供される宇宙利用サービスは我々が
ております。また、産業構造審議会宇宙産業委員会に宇宙
普段意識している以上に生活に密着し広範に利用され、
産業化ワーキンググループを設置し、宇宙の産業化をテー
我々の暮らしに不可欠なものとなっています。例えば、今
マに検討を重ねているところです。
トリノで行われている(この文章が掲載される頃には閉幕
こうした中、貴機構で担当された合成開口レーダPAL-
していると思います)冬季オリンピックの生放送を楽しむ
SARが平成18年1月の打上以降運用に入ったこと、また、
ことができたり、国際電話で海外にいる友人と会話ができ
平成11年12月に打ち上げられた資源探査用将来型センサ
たりするのは放送・通信衛星のおかげですし、気象衛星は
(ASTER)が、継続的に高精度の画像を提供し、国内外よ
高精度な気象情報を的確に提供し、GPS衛星はカーナビゲ
り大変高い評価を得ていることは、日本の高い技術力を示
ーションシステムや船・航空機の安全な航行に必要な位置
すとともに、まさに宇宙利用の活性化にもつながるもので
情報を発信しています。地球を周回する衛星から撮影した
あり、大変喜ばしく存じます。最後に、ASTERと同様PAL-
地上の画像データを解析するリモートセンシングの技術
SARが所期の目的を達成し、リモートセンシング分野の発
は、資源探査、環境監視、災害対策、安全保障等、様々な
展に貢献することを大いに期待しています。
-1-
理 事 長 挨 拶
佐藤 文夫
前任の金子理事長の後任として、平成17年4月1日から理事長に就任しております
佐藤文夫でございます。
私は、平成11年度及び12年度にも、本財団の理事長を担当させていただいておりま
すので、今回は2度目の理事長就任になります。
さて、今回理事長に就任してから、約1年になりますが、現在の本財団をとりまく
事業環境は、前回の理事長の時と全く様変わりしており、このような厳しい環境下、
理事長として財団の運営に改めて身の引き締まる思いを感じております。
即ち、前回の理事長の時は、当財団では、経済産業省からの受託事業であるASTER
及びPALSARの研究開発事業が活発に展開されており、更には情報収集衛星の研究開
発事業も開始された時期であったため、本財団及び関係企業等の研究開発事業意欲は
極めて高いものでありました。
しかしながら、現在は、我が国の財政状況の厳しい中、宇宙関係予算が大幅に減少
してきたことや、当財団がこれまで進めてきた研究開発事業等のほとんどがほぼ終了
しつつある一方、今後の新たな研究開発事業が目下のところ具体的に見えていないと
いった状況等を背景に、本財団を含め関連企業の宇宙関係研究開発事業意欲はかつて
のように高い状態にないと感じております。
他方、この4月1日からは、これまで宇宙環境の利用に関する調査及び試験研究等
を実施してきた「
(財)宇宙環境利用推進センター(JSUP)
」が解散され、その事業の
一部が本財団に引き継がれることになります。このため、本財団の事業として、従来
から実施してきた資源探査用観測システム研究開発事業等に加え、宇宙環境利用に係
る事業を展開していくことになっております。
このような本財団の現況下、様相も新たになったことを契機に、気持ちを新たにし、
しっかり先を見据えつつ、何はさておき新たなプロジェクトの具体化に向けて取り組
み、更には、本財団の研究開発事業等への取り組み姿勢も、従来にも増して強いコス
ト意識を持つことが極めて重要であると認識しております。
しかし、その一方、宇宙関係事業は多くの分野においては、まだまだ国の大幅な支
援無しには成立し得ないというのが偽らざる現実であると思っております。このため
本財団が、我が国宇宙関係事業の一翼を担う財団として、今後ともその責務を果たし
ていけるよう、国を始めとし、関係機関、民間企業等関係各位の暖かいご支援とご協
力を賜りたく念願する次第であります。
-2-
専務理事挨拶
沖野 英明
昨年10月に相馬前専務理事の後任として着任致しました。どうぞよろしくお願い致
します。
20年以上前、工業技術院総務課に勤務していたころ、日本で最初の資源探査衛星を
打ち上げるための研究会のお手伝いをしたことが、懐かしく想い出されます。
当時の兵頭宇宙産業室長のもとで、電子技術総合研究所極限技術部の中山部長や工
藤さん、それに金属鉱業事業団の若手の方々と「マルチスペクトル・センサ」や「合
成開口レーダ」を使ってどうしたら石油資源や鉱物資源を宇宙から探査できるのだろ
うかと熱心に議論したことを覚えています。その後の異動でこうした楽しい仕事とは
縁がなくなってしまったのですが、このたびJAROSに参りまして、その後、大型プロ
ジェクト制度のもとでの技術研究組合(RRSS)とそれを引き継いだJAROSによってこの
プロジェクトの研究開発が進められ、地球資源衛星1号(JERS-1)に結実し、設計寿命
を越えて運用されるなど成功裏に終了したことを知り、大変うれしく思った次第です。
その後継プロジェクトとして、JAROSがASTERやPALSARという衛星搭載用光学セ
ンサ・合成開口レーダの開発を実施するとともに、ここ数年は情報収集衛星に搭載す
る合成開口レーダの開発にも取り組んでくるなど、JAROS発足当初には考えられなか
ったような発展を見たわけですが、人工衛星は5年程度の設計寿命であること、宇宙
からの地球観測に関するデータは一度限りの取得ですむものではなく継続して取得す
ることが必要であること、さらに、より精度の高い観測データを高頻度かつ大量に取
得することに対する社会的な要請が出てきていることなどを考えますと、ASTERや
PALSARに続くプロジェクトに今後とも積極的に取り組んでいくことが求められてい
ます。
諸外国では国防・国家セキュリティ関係で公的資金が継続的に投入されており、そ
れが部品メーカから組立メーカまでの宇宙機器産業の持続的発展をもたらし、さらに
それをベースにした画像解析・提供面での民間ビジネスの展開がなされていますが、
日本では人工衛星搭載用のセンサ・レーダの研究開発が継続されにくいという状況に
あり、宇宙産業の発展を支える関連メーカの技術の維持や技術者の確保が必ずしもう
まくいっていないようであり大変残念なことに思います。
「我が国は人工衛星と宇宙輸送システムを必要な時に、独自に宇宙空間に打ち上げ
る能力を将来にわたって維持する」
(総合科学技術会議)という我が国の宇宙開発利用
の基本方針を着実に遂行して頂くよう関係各方面にお願いしたいと思います。
-3-
JAROSの現状と今後(JSUP統合)
中の第一世代合成開口レーダの校正検証作業等も実
施する「情報収集衛星搭載用合成開口レーダに関す
る研究開発」
● その他、機械システム振興協会、日本機械工業連合
会等からの「受託調査」
JAROS NEWS 編集担当
JAROSは、地球資源衛星1号に搭載する資源探査
用観測システムの研究開発を行う目的で、
(株)東芝、
日本電気(株)
、
(株)日立製作所、富士通(株)
、三
菱電機(株)の5社を創立者として、昭和61(1986)
年11月21日に内閣総理大臣及び通商産業大臣の許可
を得て設立されました。
その後リモートセンシングによって地球規模での
温室効果気体の分布状態を把握することを目的とし
た「温室効果気体観測システムの研究開発」が事業
目的に追加(平成元(1989)年)されました。そし
て、前記事業目的に係わる各種事業を展開すること
により、宇宙機器に関する技術の進展、資源の安定
供給の確保及び地球温暖化問題の解決への貢献を図
り、我が国経済の発展及び国際社会への貢献に寄与
することを目的として、経済産業省、NEDO、JAXA
からの研究開発受託事業、機械システム振興協会、
日本機械工業連合会等からの各種調査受託事業及び
調査等の自主事業と幅広い事業を実施しています。
これまで関与しました搭載センサとしては、
● 地球資源衛星1号機(JERS-1)に搭載された光学
センサ(OPS)
、合成開口レーダ(SAR)
● 地球観測プラットフォーム技術衛星(ADEOS-1)
に搭載された温室効果気体センサ(IMG)
● 米国Terra衛星に搭載された資源探査用イメージャ型
光学センサ(ASTER)
● 陸域観測技術衛星(ALOS)に搭載されたフェーズ
ドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)
の電子機器部等の開発
が挙げられます。
なお、現在進行中の受託事業等は以下の通りです。
● 〈経済産業省より〉設計寿命の5年を超えて運用中
のASTER機器から、定期的に校正データを取得す
ることにより、画像を評価し軌道上にあるASTER
機器が正常に動作していることを検証する「極軌道
プラットフォーム搭載用資源探査観測システムの研
究開発」
● 〈経済産業省より〉ALOS打上げ(1月24日完)ま
での支援作業及び維持設計、打上げ後はPALSAR
の軌道上での動作確認を行う初期チェックアウト及
びそれに引き続く校正検証作業を行う「次世代合成
開口レーダ等の研究開発」
● 〈NEDO及びJAXAより〉次期情報収集衛星搭載用
合成開口レーダに関する研究開発を実施し現在運用
一方、今回統合の運びとなりましたJSUP(宇宙環
境利用推進センター)は、石川島播磨重工業(株)
、
新日本製鐵(株)
、住友商事(株)
、大成建設(株)
、
(株)東芝、日本電気(株)
、富士通(株)
、三菱重工
業(株)等の出捐会社60社により、JAROSと同じく
昭和61(1986)年2月22日に設立されました。
国家プロジェクトや産業による宇宙環境の利用
(微少重力環境における物理的特性の利用)を総合的
にサポートし、我が国の科学水準の向上及び産業の
発展に貢献する事業を行ってきました。具体的には
以下の項目です。
● 宇宙環境の利用に関する試験研究及び開発、
調査研究
● 宇宙環境の利用に関する普及啓発
● 宇宙環境の利用に関する実験機器の供用
● 宇宙環境の利用に関する情報の収集及び提供
● 宇宙環境の利用に関する人材の養成
JSUPは平成18年3月をもって事業を終了しました。
JAROSは、平成18年4月よりJSUP解散に伴い
JSUPの業務の一部を引き継ぐことになりましが、前
事業項目のうち、
「宇宙実験機器の供用」
「宇宙環境
の利用に関する人材の養成」については、既に事業
目的を達成しているため、この2つを除いた残りの
項目を引き継ぐことになりました。なお、これらの
項目の内、18年4月1日以降当面実施される事業は、
以下の通りです。
● 受託事業(予定)として、創薬に貢献するマウス宇
宙実験などが可能となる小型、軽量で回収可能な宇
宙実験システムの開発を目指し、技術的な課題の解
決のため、要素試作試験を行い、実現可能なシステ
ム仕様の検討を行う回収型バイオ・サイエンス小型
実験衛星システムの開発に関するフィージビリティ
スタディ
● 情報収集・普及啓発活動(自主活動)として、
a )宇宙環境利用に関し、最新情報をもとにその動
向をまとめ「宇宙環境利用の展望」として発行
する。
b )宇宙環境利用に関する一般的な普及活動と関係
者に対する啓発を行い、新たな関心層の発掘を
行うためのIN SPACE(ミニシンポジウム)を
開催する。
-4-
ASTER機器設計寿命達成後の運用について
研究開発部 佐藤 孝
ASTERは、VNIR(可視近赤外放射計)
、SWIR(短
波長近赤外放射計)及びTIR(熱赤外放射計)の3つ
のセンサを有したマルチバンドの地球観測センサで
あり、1999年12月打ち上げ以降、2004年12月に設計
寿命5年を経過し、その後も順調に稼働しています。
を行いながら、多くのユーザに出来るだけ長く高品
質のデータを供給できるよう努力を続けています。
ASTERが打ち上げられてから、これまで6年の間
に取得した画像を貼り合わせて作成した世界地図を
図1に示します。これは、地球表面(特に陸地)を繰
り返し観測し、標準処理されたデータのブラウズ画
像であり、各地点で複数観測されたシーンの内、目
視判読により最も雲量の少ないシーンを選択し、世
界地図上に表示したものです。なお、世界地図に表
示した本ブラウズマップでは、世界中をカバーして
いるように見えていますが、天候不順で雲・雪に覆
われることが多い地域(低緯度帯に広がる熱帯地域、
高緯度帯に広がるシベリア・アラスカ地域等)では、
良好なデータの得られる頻度が少ないため、利用可
能なデータは少なくなっています。当地域には、石
油資源賦存の可能性が高い未開発地域が多いため、
高頻度の繰り返し観測を実施し、良好なデータ取得
を目指しています。これらのデータ取得の計画実行
はERSDAC(
(財)資源・環境観測解析センター)で行
われています。
ASTERの構成部品のなかにはVNIR、SWIRで用い
られているポインティング機構*、SWIRとTIRにそ
れぞれ搭載されているスターリング方式の冷凍機*、
TIRのスキャニング部*等の機械的駆動部分やVNIR、
SWIRの校正用ハロゲンランプ*等に関しては設計寿
命を設定し、その使用状況をモニタしながら運用を
行っています。現状では劣化の状況を示すことなく
順調に作動し続けていますが、打ち上げ以降連続運
転を続けている冷凍機はすでに設計寿命5万時間を
超えており、またVNIR、SWIRのポインティング機
構は設計寿命間近となっている等寿命を考慮すると
作動状況を注意していく必要があります。このため、
JAROSでは今後も安定した動作が継続されていくよ
う、各部品の劣化状況の評価、長期使用の可能性評
価および問題が発生した場合の対応策の検討等を行
っており、これらをASTERプロジェクト全体と調整
*印:設計寿命を有する機構及び部品
図 1 ASTERの取得画像で作成した世界地図
-5-
PALSARの現状
研究開発部 熊谷 信夫
平成8年度からMETI(当時はMITI)/JAROSと
JAXA(当時はNASDA)で共同開発を実施してきたフェ
ーズドアレイLバンド合成開口レーダPALSARが、陸
域観測技術衛星ALOSに搭載されて平成18年1月24日
に種子島宇宙センターから打ち上げられました。
当初、平成14年度打ち上げを目指して開発してきま
< パネル展開前 >
したが、JAXA側の予算の関係や他の衛星やロケット
< パネル展開中 >
で発生したコンポーネントや部品の不具合への対応な
どで打ち上げが3年間延びてしまいました。一時は
ALOSの小型化の話も出てPALSARそのものの打ち上
げが危ぶまれる時期もありました。
このような産みの苦しみはありましたが、順調に打
ち上げられ、現在軌道上でALOS本体及びPALSAR、
PRISM、AVNIR−蠡等の各センサの機能確認を実施
する初期チェックアウトを行っています。
打ち上げ後のクリティカルフェーズの中で、3日目
にP A L S A R アンテナの展開が無事完了しました。
ALOSでは衛星にモニタカメラを搭載し、データ中継
< パネル展開後 >
用のDRCアンテナの展開、PALSARアンテナの展開等
図 1 PALSARアンテナのパネル展開のモニタ画像
の状況を画像で地上に送ってきています。
PALSARアンテナは、最初にアンテナパネルを重ね
た状態で衛星本体から直角の位置まで開く90度展開、
オフナディア角の中心付近にアンテナを傾けるオフナ
ディア展開、アンテナパネルを傘のように開いて、平
面上に固定するパネル展開の順に実施されました。
図1にパネル展開の状況をモニタカメラで撮影した
画像を示します。また図2に打ち上げ後23日目にPALSARで撮像された初画像を示します。
今後の予定ですが、平成18年4月初めまで機能確認
を中心とした初期チェックアウトを行い、それに続い
て平成18年9月までPALSARも含めた各搭載機器の機
能性能を確認する初期校正検証試験を実施していく予
定です。順調にいけば、平成18年9月から実運用を開
始することになります。
最後に、長期にわたってPALSARの開発に携わって
こられた関係機関、メーカの方々、また開発に当たっ
てご支援いただいた多くの方々に心より感謝を申し上
げたいと思います。
図 2 PALSARの初画像
(夜間の静岡市周辺)
-6-
ASAR Workshop 2005参加報告
研究開発部 河村 和夫
目 的:平成17年度NEDO委託業務「実利用のため
の次世代合成開口レーダ技術に関する調査」の一環
として、本海外調査を実施した。
SARに関する国際会議「Advanced SAR Workshop
2005」に参加すると共に、CCRS(Canada Centre for
Remote Sensing)及びMDA Geospatial Services社を訪問し
て、SAR実利用の観点から最新の情報(各国のSARプ
ログラム、技術動向、応用等)を収集し、我が国の次
世代SARの開発推進に役立てる。
訪問先
(1)ASAR Workshop 2005(11月15日∼17日モントリオール)
SAR技術の進展を論評するために、CSA(Canadian
Space Agency)が2年毎にASAR Workshopを開催し、
今 回 は 第 6 回 目 と な る 。ヨ ー ロ ッ パ の E U S A R
Workshopも2年毎に開催され、このワークショップ
とで交互の開催となる。カナダは国を挙げての
RADARSATプログラム、及びESAの地球観測プログ
ラムに参加し積極的に活動を行っている。
カナダのCSAで開催された。プレゼンテーション
の内容は、
( a )今年打上げ予定のRADARSAT-2およ
び2012年にRADARSAT-2の寿命後の、観測頻度向
上も狙った群衛星RADARSAT-CのフェーズAの活動、
( b )ドイツのTerraSAR-X、TANDEM-Xの概要、
(c)
商用化における各種アプリケーション、
( d )SAR技術
としてのポラリメトリによる船舶と氷山の識別、イン
タフェロメトリによる地滑り、氷河の移動等の観測。
(2)Canada Centre for Remote Sensing(CCRS)(11月18日オタワ)
CCRSはリモートセンシングにおいて中心的役割を
担い、以下の項目で広く認められている。
( a )リモー
トセンシングデータの収集、データ処理、データの
アーカイブ、
( b )地球観測データのアプリケーション
開発、
( b )衛星からの地球観測データベースへのタイ
ムリーなアクセスと、ユーザへのデータ配布・配信
(Canadian Earth Observation Network)
、
( c )リモート
センシングデータに基づく、カナダの自然科学およ
び環境面での、社会的な構造・構成に関する国家規
模のプレゼンテーション。
CCRSの全スタッフは342名で構成され、衛星および
航空機によるリモートセンシング活動を行っている。
(3)MDA Geospatial Services社(旧名RSI社)(11月21日バンクーバー)
SARデータの加工・販売ビジネスモデルの調査を目
的にMDA Geospatial Services社を訪問した。MDA
Geospatial Services社の親会社であるMDA(MacDonald
Dettwiler & Associates)は1969年にバンクーバー(カ
ナダ)で創立され1999年RSI社を100%傘下におき
GEOSPATIAL(衛星データ配布、付加価値サービス、
衛星・航空地図)業務を任せた。主な顧客は政府、自
治体、公共機関である。
まとめ
SAR実用化について:カナダは既にSARデータ、画
像の商用化を行っており、来年度にはドイツが
TerraSAR-Xにより商用化(InfoTerra社)に参入
SAR技術について:今後の衛星SARはポラリメト
リ、インタフェロメトリが当たり前の状況にある。
一方、小型化、低価格化、コンステレーションによ
る多頻度観測の動きが始まった。
体制について:官民協調プロジェクトの方向にあ
り、国と国との協調、企業間の協調も必要とのこと
であった。
感 想
SARに携わる研究者、解析ツールの開発担当者等、
世界でこれほど多くの人がSARの研究開発に従事し
ていることに感銘を受けた。また日本との違いは日
本が単発的にSAR衛星を運用するのに比べ、このワ
ークショップでは継続的運用の必要性が述べられ、
現にカナダはRADARSAT-1、RADARSAT-2、
RADARSAT-C(コンステレーション)と途切れること
なく運用を計画している。商用化には継続性が必須
と考える。
SARの利用方法は自然環境保全ならびに国土の地理
情報と共通点は多いが、国別事情があると強く感じ
た。日本においては、資源探査は勿論、災害時の被
害状況、たとえば道路の確保状況を即刻把握するこ
とが優先し、また地震国であるため地盤の変化を継
続的に観測することも重要で、分解能の優先度が高
い。一方カナダでは、人の少ない広大な大地を広範
囲に頻度高く監視する要求が強い。観測項目も氷河
の移動、船舶の海氷との衝突を避けるために船舶と
海氷の識別等、日本とはかなり事情に差があると感
じた。 (NEDO 木村氏 JAROS西川 河村3名で訪問)
●
●
●
●
●
カナダ国会議事堂
-7-
新任挨拶
新任挨拶
石井 重夫
久家 秀樹
平成17年4月1日付にて研究開発部技術参与とし
平成17年7月1日付にて三菱電機より着任致しま
て宇宙開発に再度携わることとなりました。
した。
宇宙開発へ最初に係わりましたのは、JAXAの宇
三菱電機におきましては、長く防衛部門にてEOシ
宙科学部門(旧宇宙科学研究所)で当時大学の共同実
ステム(Electro Optics System)の開発に、直近五年間
験設備であったプラズマシミュレーションチャンバ
は宇宙部門にてリモートセンシング用センサの開発
ー内での電離層プラズマ状態を模擬することでした。
に従事致しました。防衛・宇宙、アクティブ・パッ
当時は、日本の宇宙開発がスタートしたばかりで
シブ、光学・電波、センサ・同利用システムなど、
研究者、技術者が一丸となって開発を行う状態で、
主として画像センサに係わる様々な開発に参画して
私も衛星の残留磁気測定や衛星の環境試験、観測機
参りました。
器の熱設計、衛星センサー開発、打上げ業務、衛星
宇宙分野の五年間だけでも、A S T E R / S W I R 、
の追跡管制等に携わってきました。
AMSR、AMSR-E、その他センサと立て続けの打ち
その後、J A X A(旧N A S D A )に移ってからは、
上げ及び運用、それに平行してAVNIR-蠡、PAL-
JERS-1搭載放射計の概念設計、種子島でのロケッ
SAR、その他光学・電波センサの開発と、短期間に
ト打上げ業務、つくばでの衛星搭載用電池の開発試
実に様々な開発フェーズも経験させて頂きました。
験等を経てJAXA退職まで後半の約10年間は、信頼
一貫して新規開発の最前線に身を置けたことは、
性・品質管理に従事しました。
開発に伴う多くの苦労もありましたが、技術者冥利
今回、JAROSで信頼性・品質管理に従事すること
に尽きるものと考えております。
になりましたが、専門技術を有し、尚且つ世界の最
JAROSにおいては、主として熱赤外センサなどの
先端の設計をしてきた方々との意思疎通を図りなが
光学センサを担当させて頂きます。前記の経験を生
ら管理を実施することが宇宙開発では重要であると
かして、微力ながらJAROSのセンサ開発さらにはリ
考えておりますので、ご指導ご協力の程、宜しくお
モートセンシング事業の発展に寄与できればと思い
願い致します。
ます。
ご指導ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。
注)
*ASTER:Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection radiometer
*SWIR:Short Wave Infrared Radiometer
(ASTERを構成する放射計の一つ)
*AMSR:Advanced Microwave Scanning Radiometer
*AMSR-E:EOS搭載AMSR
*AVNIR-蠡:Advanced Visible and Near Infrared Radiometer type蠡
*PALSAR:Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar
JAROS NEWS 2006.3.No.51
平成18年3月発行
編集発行 財団法人 資源探査用観測システム研究開発機構 JAROS(Japan Resources Observation System Organization)
〒104-0032 東京都中央区八丁堀2丁目20番1号 (藤和八丁堀ビル)
TEL.03-5543-1061 FAX.03-5543-1067
-8-
URL http://www.jaros.or.jp/