常時微動観測の応用

常時微動観測の応用
鳥取大学大学院工学研究科
社会基盤工学専攻
香川敬生
1
常時微動とは
地震の無い時でも地面は常に
揺れている。
常時微動は自然現象や人間活
動に起因する,一見ランダム
なノイズだが 伝播している
なノイズだが,伝播している
地盤の情報を含んでいる。
様々な振動源から生じた波が
常時微動を構成している。
その震動源は,自然現象(周期1秒以上:脈動),人間活動による
人工ノイズ(周期1秒以下:雑微動)と考えられる。
2
地震動を構成する表面波
表面には,上下動を伴わないラブ
(Love)波と,上下動を伴うレイ
リー(Rayleigh)波がある。
リ
(Rayleigh)波がある。
3
表面波の伝播特性
微動源は地表にあるため 微動は主に表面波として伝播する。
微動源は地表にあるため,微動は主に表面波として伝播する。
表面波は,実体波(P波,S波)に比べて幾何減衰が小さい。
4
周期の長い波ほど遠方まで伝播し易い。
常時微動の(単点)観測
いつでもどこでも手軽に実施できる。
常時微動の単点観測風景
常時微動の観測システム
高感度の地震計とデータ収
録機で構成される。
録機で構成される
高品質のデータを得るため, ごく近傍にノイズ源の無い場所で,
アンプとフィルタ を装備 定常状態の微動を観測する。
アンプとフィルターを装備
定常状態の微動を観測する
している。
観測点の位置を知るために,GPS
高精度の絶対時刻を得るた
め,GPS信号を用いる。
を用いている
を用いている。
5
スペクトル:あらゆる振動は周期関数の和で表現できる
フーリエ振幅スペクトル
フ
リエ振幅スペクトル
振幅
周波数f
フーリエ位相スペクトル
位相
周波数f
6
スペクトル比の利用
まずは振幅の利用
地盤によって揺れ方が異な
る。
参照地点(通常は揺れ難い
硬質地盤)とのスペクトル
比を取ることで,その場所
の相対的な揺れや易さを評
価する。
同時観測記録を用いること
で,微動(震源)の時間変
化に依存しない結果が期待
できる。
7
単点観測
微動の水平/上下スペクトル比(H/Vスペクトル)
レイリー(Rayleigh)波
のみの上下動と,ラブ
(Love)波とレイリー
(Rayleigh)波の両方が
含まれるスペクトルの比
を取る とで 地盤に固
を取ることで,地盤に固
有な震動特性を抽出でき
る。また,微動震源によ
る変動も補正でき 時間
る変動も補正でき,時間
的にも安定である。
(中村,1986)
比較的簡単に測定でき,
面 な特性把握
面的な特性把握に向いて
いる。
振幅レベルにはバラツキがあり,安定して得られる
卓越周期が利用されることが多い。
H/Vスペクトルとして広く
用いられている
用いられている。
8
単点観測による地盤卓越周期の把握(H/Vスペクトル)
微動水平成分と上下成分のスペクトル比ととると,地盤の卓
越周期(揺れ易い周期)を安定して評価することができる。
広範囲で多点の測定をすれば,卓越
周期の分布が分かる。
NS/UD(微動)
EW/UD(微動)
Rayleigh波のH/V
鳥取平野
大大特Ⅰ(岩田・他,2008)より
卓越周期 ∝
堆積地盤の厚さ
堆積地盤の地震波伝播速度
堆積層厚に対応する。
9
地盤の卓越周期と「4分の1波長則」
堆積層の平均S波速度=約800m/s
得られた卓越周期=約0.5秒
堆積層の厚さはおよそ
800m/s×0.5s÷4=100m
10
微動アレー観測
常時微動の伝播速度を把握する
複数の地震計を並べて(アレー)観測し,
地震計間をいろいろな方向に伝播する微
動(=表面波)の速度を把握する。
アレ は,波動を捕まえるアンテナのようなも
アレーは
波動を捕まえるアンテナのようなも
の。
目標探査深度によって,半径を変化させて観測
を実施する。
を実施する
常時微動のアレー観測風景
写真提供:地盤研究財団 宮腰研博士
中心観測点
小三角形
大三角形
11
観測波形例
↑
観測波形(7点同時観測の場合)
フィルターを施して
タ を施し
長周期のみを見た場合 →
レイリー波を対象とした
レイリ
波を対象とした
上下動の観測波形
香川・他(1992)
12
微動の周波数分解
Band pass filter
常時微動を構成する表面波
位相情報も活用
観測(記号)と推定
構造(実線)による
表面波伝播速度
周期による表面波の深さ分布
微動を構成する表面波は,周期
(∝波長)によって影響する深さ
波
影響する さ
範囲が異なり,そのために周期毎
の伝播速度が異なる。
周期毎の表面波伝播速度
地 構造 依存する
は地下構造に依存するの
で,観測結果を満たす地
下構造が推定可能となる。
  cT
λ:波長
c:地震波伝播速度
T:周期
14
地震計群を伝播する表面波(位相速度)
表面波を周期毎に分解し(フーリエ変換),観測点毎にその波形(正弦
波)を見ると 波の到来 伝播によって観測点毎に位相遅れが生じる こ
波)を見ると,波の到来・伝播によって観測点毎に位相遅れが生じる。こ
の位相差によって,地震計群を伝播する速度(「位相速度」と言う)を評
価することができる。
 多方向からランダムに到来する表面波の伝播速度を推定するためには,
15
より多くの地震計で長時間の微動を記録し,統計解析をおこなう。
解析方法
得られた観測記録から,多方向伝播を仮定した統計的な解析手法により,
伝播速度と到来方向が推定される。この時,一般には地震計台数が多いほ
ど観測精度が向上する。
FF-K(周波数-波数)法:
K(周波数 波数)法
「時間-2次元空間」の波動を
「周波数-2次元波数」にフーリ
エ変換し,最も可能性の高い到来
方向と位相速度を周期毎に求める。
周波数(f)毎に
得られる2次元
波数(k)評価値
のピーク
のピ
ク
f
c
k
k
アレ 半径の5倍程度の波長まで対応。
アレー半径の5倍程度の波長まで対応。
到来方向が分かる。
アレー半径の10倍程度の波長まで対応。
到来方向は分からない。
到来方
分
。
1.0
SPA
AC CORRELATIO
ON
SPAC(空間自己相関)法:
周期毎に観測記録の相関を取り,
その空間減衰に対応する波長を評
価することで位相速度を求める。
(到来方向は求めない。)
0.5
J0( 2πf r / c )
0.0
‐0.5
0
2
FREQUENCY [Hz]
4
観測された空
間自己相関係
数を満足する
ベッセル関数
の核から位相
速度を得る。
近年は,ノイズ補正CCA法(アレー半径の数十倍まで),地震波干渉法(観
16
測点間の伝達関数が得られる)が話題となっている。
地下構造モデルの違いによる位相速度分散性の変化
モデル1
観測位相速度
3
浅い
THKNS
[km]
0.700
モデル1
基盤深度
V E L O C IT Y ( k m / s )
4
2
RHO
[g/cm3]
2.100
2.700
THKNS
[km]
0.900
Vp
[km/s]
2.200
5.400
Vs
[km/s]
0.800
3.200
RHO
[g/cm3]
2.100
2.700
Vs
[km/s]
0 800
0.800
3.200
RHO
[g/cm3]
2 100
2.100
2.700
モデル3
モデル3
深い
0
0
Vs
[km/s]
0.800
3.200
モデル2
モデル2
1
Vp
[km/s]
2.200
5.400
0.5
THKNS
[km]
1 300
1.300
Vp
[km/s]
2 200
2.200
5.400
1.0
FREQUENCY(Hz)
観測位相速度と一致する分散曲線をもつ速度構造モデルを求める。
【逆解析:インバ ジョン】ここでも様々な手法が提案されている
【逆解析:インバージョン】ここでも様々な手法が提案されている
構造モデルが得られれば,地震の際の揺れやすさを把握できる。
簡便:ある場所より何倍揺れるか
詳細:周期毎の揺れやすさ
17
アレー観測事例
Rmax=800m
Rmax=200m
18
大大特Ⅰ(岩田・他,2008)より
地盤構造の逆解析事例
S-wave velocity(km/s)
Rayleigh波分散曲線
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
00
0.0
0.2
Dep
pth (km)
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
14
1.4
1.6
大阪堆積構造モデルによるS波
速度構造モデル
大阪堆積構造モデルによるRayleigh波分
散曲線
GA探索範囲
岩田・他(2008)より
Kagawa et al.(2004)
19
深層を含めた地震動評価への適用事例(大阪市内)
周波数(周期)毎の地盤増幅(詳細計算)
地震動評価に活用可能
深さ[m]
深
増幅率
ボーリング
ボ
リング
による浅部
微動アレー
による深部
Vs[m/s]
S波速度構造
周波数[Hz]
左のモデルから計算される地盤増幅(赤)
と
20
地震観測による地盤増幅(緑)
浅層構造への適用事例(鳥取市内)
10
A m plitud e R atio
「鳥取城堀跡が微動特性および地震動に及ぼす影
「鳥
城 跡が微動特性お び地震動
ぼす
響に関する研究」
蔭山 太俊(2011)鳥取大学工学部卒業論文
1
0.1
0.01
A m plituude R atioo
10
(出展) 鳥取県立歴史博物館
H/V (No.90)
(No 90)
0.1
1
Period(s)
10
H/V (No.103)
1
00.11
0.01
0.1
1
Period(s)
1021
表層軟弱層の有無で期待されるH/Vスペクトル
(Model1)
※
3mの軟弱層による影響
30m厚の堆積層によるピーク
理論H/V
30m
Vs=500m/s
(Model2)
Vs=90m/s
Vs=150m/s
3m
27m
100
A m p lit u d e R a t io
Vs=150m/s
Model2
Model1
10
1
0.1
00.01
01
0.01
0.1
1
Period (s)
Vs=500m/s
※平澤(2005) [鳥取大学卒業論文]より
10
微動アレーから最表層の速度が分かる
山陰臨海平野地盤図’95
凡例
ミニアレー観測
埋土
粘土
粘
砂
礫
Vs(m/s)
120
180
No.87
1m
200
0.3m
150
100
50
Vs(m/s)
80
135
層厚(m)
3
∞
No.103
250
理論値
250
50
P h a s e V e lo c ity (m / s )
ρ(g/c㎥) Vp(m/s)
15
1.5
1400
1.7
1450
層厚(m)
4
∞
Phase Velo
ocity (m/s)
ρ(g/c㎥) Vp(m/s)
16
1.6
1450
1.7
1500
理論値
3m
1m
0.3m
200
150
100
より軟弱
50
0
0
0
5
10
Frequency (Hz)
15
20
0
5
10
15
Frequency (Hz)
20
地震動への影響を試算
加速度応答スペクトル(NS成分)
h=0.05
Acc. (gaal)
10000
堀砂質
堀なし
1000
100
10
1
0.1
1
Period (sec)
10
Acc. Am
mp. Ratio
加速度応答スペクトル比(NS成分)
構造物の固有周期[地震工学会]
25
2.5
2
1.5
1
0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
Period (sec)