実装系伝送路におけるノイズの実態 1. はじめに 享栄高等学校 教諭 尾俣 治義 74AS04 ハードウェアにおいて、アナログ信号とディジ 50Ω タル信号が必要不可欠なものであるが、一般に知 られているディジタル信号とは“1” 、 “0”の信 号であると理解している。 しかし、設計者は学生が勉強するような論理値だ - 図 1 素子伝達特性測定回路図 - けのシミュレーションではなく、ディジタル信号 の中にもアナログ的要因があることを考慮しなが ら設計を行わなくてはならない。 そこでハードウェア技術者にとって一般常識であ る内容例について、波形観測を通じディジタル信 号の実態を紹介します。 観測内容を検討する際、TEG(Test Element Group)を基本にして、Gate-TEG(内部評 価),I/O-TEG(実装評価)などを参考にしま した。 2. 観測内容 - グラフ1 素子伝達特性グラフ - ・ 素子伝達特性 【結 果】 ・ 伝送線の特性インピーダンスと伝搬速度 Vcc = 4.5V の時 : VOH = 4.06V, VOL = 0.125V Vcc = 5.0V の時 : VOH = 4.55V, VOL = 0.119V ・ 素子伝搬遅延時間 Vcc = 5.5V の時 : VOH = 5.04V, VOL = 0.116V ・ 波形伝送(反射) スレショールド電圧:1.38V ( Vcc = 4.5 / 5.0 / 5.5V ) ・ クロストークノイズ 今回は入力電圧を L → H と変動させたが, ・ 電源ノイズ ・ 同時スイッチングノイズ ヒステリシスループを考慮すると、入力電圧を H → L と変動させて、両者の比較してみるこ ・ 許容配線長 ・ 平行配線長 とも良いと考えます。 ・ 容量性負荷 ・ T分岐配線 ② 伝送線の特性インピーダンスと伝搬速度 3. 実験方法と結果 【測定方法】 図2の回路にてプリント板のパターンの特 ① 素子伝達特性 性インピーダンス、及び、伝搬速度を求める。 P・G の出力点を観測し、50Ω同軸ケーブルを 【測定方法】 図1の回路にて素子の出力電圧 対 入力電 プリント板配線パターンに接続する。 圧の特性を測定する。 条件:Vcc = 4.5 ~ 5.5V, CL = 無負荷 Ta = 室温, 条件:ViL = 0.4V, ViH = 2.4V, Ta=室温, P・G 出力の Tr / Tf = 2.0ns ρV = 0.6 / 1.9 = 0.315・・・ 観測点 ≒ 0.32 プリント板 50Ω ρZ =(96.-50)/(96.+50) パターン 1.1m = 0.315・・・ 開放 - 図2 伝送線特性インピータンス測定 及び、伝搬速度測定回路図 - ≒ 0.32 伝 搬 速 度 :6.5 ns 特性インピーダンス:96.0 Ω 反 射 係 数 :0.32 ③ 素子伝搬遅延時間 【測定方法】 図5の回路にて素子の伝搬遅延時間を測 定する。 P・Gの出力から 50Ω同軸ケーブルをプリ ント板の素子に接続し、素子の出力端子に 50pF の容量性負荷を接続する。 X = 5ns / div , Y = 1V / div - 図3 観測点の反射波形 - 13.0 ns V2=0.6 V 素子の入力側Aと素子の出力側Bを観測 し、伝搬遅延時間を測定する。 条件:Vcc=4.5~5.5V, ViL = 0.4V, ViH = 2.4V,CL=50pF,Ta=室温, P・G 出力の Tr / Tf = 2.0ns 50Ω A 50Ω V1 = 1.9 V - 図4 観測点の反射波形のモデル化 - 74AS04 B 50pF - 図5 素子伝搬遅延時間測定回路図 - 【結 果】 ・伝搬速度 = 13.0 / 2=6.5 (ns) 1.5V 1.5V ・特性インピーダンス ZL = Z0・ (V1+V2)/(V1-V2) Z0 =50Ω,V1=1.9V, V2 =0.6 V より ZL = 96.0 (Ω) ・反射係数 TpHL 1.5V TpLH 1.5V ρ= V2 / V1 = (ZL-Z0) / (ZL+Z0) より - 図6 素子の伝搬遅延時間のモデル化 - 【測定結果】 X = 5ns / div, Y = 1V / div 素子伝搬遅延時間の測定写真 X = 5ns / div, Y = 1V / div - 図7-1A Vcc = 4.5 V 時の TpHL - - 図7-1B Vcc = 4.5 V 時の TpLH - X = 5ns / div, Y = 1V / div X = 10ns / div, Y = 1V / div - 図7-2A Vcc = 5.0 V 時の TpHL - - 図7-2B Vcc = 5.0 V 時の TpLH - X = 5ns / div, Y = 1V / div X = 5ns / div, Y = 1V / div - 図7-3A Vcc = 5.5 V 時の TpHL - - 図7-3B Vcc = 5.5 V 時の TpLH - 単位:ns TpLH TpHL 4.5 V 3.80 2.80 5.0 V 3.50 2.95 5.5 V 3.50 3.05 - 表1 素子伝搬遅延時間の結果表 - ④ 波形伝送(反射) a.無負荷時 50Ω 【測定方法】 図8の回路にてドライバ側素子の出力に 50Ω同軸ケーブル 1.0mを接続し、無負荷状 74AS04 ℓ=1.0m 50Ω 態と有負荷状態による条件で、反射波形を比 較する。 条件:Vcc = 5.0 V, ViL = 0.4 V, ViH = 2.4 V, b.有負荷時 50Ω PER = 1.0 µs, WID = 500 ns, Tr / Tf = 2.0 ns 74AS04 A B ℓ=1.0m 74AS04 50Ω ※A,B は観測点 - 図8 波形伝送(反射)観測回路図 - B点 A点 A点 B点 X = 5 ns / div,Y = 1 V / div - 図9-1A 無負荷時の波形伝送(反射) - X = 5 ns / div,Y = 1 V / div - 図9-1B 無負荷時の波形伝送(反射)- A点 A点 B点 X = 10 ns / div, Y = 1V / div - 図9-2A 有負荷時の波形伝送(反射) - B点 X = 10 ns / div,Y = 1 V / div - 図9-2B 有負荷時の波形伝送(反射) - ⑤ クロストークノイズ 【測定方法】 図10の回路にてクロストークノイズを 74AS04 50Ω C C‘ 74AS04 ℓ=20cm 50Ω 観測する。 プリント板上に複数の伝送線を平行並べて ドライバ素子から出力される信号が近隣の 伝送線にどのような影響を与えているかを 観測する。 条件:平行配線長ℓ= 20 ㎝, 配線数 = 2 本, 配線間隔 = 1 グリット,Vcc = 5.0 V, 85Ω 85Ω A2 B2 B1 85Ω ※A1,A2,B1,B2,C,C’は観測点 A1 - 図10 クロストークノイズ測定回路図 - ViL = 0.4 V,ViH = 2.4 V,Ta = 室温, Tr / Tf = 2.0 ns C点 【結 果】 C点 A1 点 C’点 X = 10 ns / div,Y= 1 V / div VnR = 0.3 V,VnF = 0.4 V, TnR = 2.5 ns,TnF = 2.0 ns - 図11-2A 1列目クロストークノイズ観測写真 - C点 C点 B1点 C’点 X = 5 ns / div, Y = 1 V / div - 図11-1 C 点・C’点の測定写真 - X = 10 ns / div,Y= 1 V / div VfR = 0.3 V,VfF = 0.2 V, TfR = 3.0 ns,TfF = 2.0 ns - 図11-2B 1列目クロストークノイズ観測写真 - Vcc B点 C点 C点 50Ω A点 50pF 74AS240 A2点 74AS240 50pF 74AS240 50pF X = 10 ns / div,Y= 1 V / div VnR = 0.1 V,VnF = 0.2 V, TnR = 1.5 ns,TnF = 2.0 ns 50Ω - 図11-3A 2列目クロストークノイズ観測写真 - - 図12 電源ノイズ測定回路図 - C点 【結 果】 a. パスコン無の場合 B2点 X = 10 ns / div,Y= 1 V / div B点 VfR = 0.1 V,VfF = 0.1 V, TfR = 2.0 ns,TfF = 1.0 ns - 図11-3B 2列目クロストークノイズ観測写真 - C点 ⑥ 電源ノイズ 【測定方法】 図12の回路にて素子の同時スイッチング 本数8本の時、パスコンの有無によってどの ように電源電圧が変動するのかを観測する。 条件:Vcc = 5.0 ns,ViL = 0.4 V,ViH = 2.4 V, CL = 50 pF,Ta = 室温, パスコン = 無 / 0.33μF / 15μF, 同時スイッチング本数=8本 X = 10 ns / div, Y = 1 V / div - 図13-1A 電源ノイズ観測写真 - b. パスコン 0.33μF の場合 A点 B点 B点 C点 C点 X = 5 ns / div, Y = 1 V / div GND - 図13-1B 電源ノイズ観測写真(TpHL) - X = 10 ns / div, Y = 1 V / div - 図13-2A 電源ノイズ観測写真 - A点 A点 B点 B点 C点 C点 X = 5 ns / div, Y = 1 V / div GND - 図13-1C 電源ノイズ観測写真(TpLH) - GND X = 5 ns / div, Y = 1 V / div - 図13-2B 電源ノイズ観測写真(TpHL) - A点 B点 C点 X = 5 ns / div, Y = 1 V / div GND - 図13-2C 電源ノイズ観測写真(TpLH) - c. パスコン 15μF の場合 VpHL VpLH 無 0.9 V 3.0 V 0.33pF 0.7 V 1.4 V 15pF 0.6 V 2.0 V B点 - 表2 ±ピーク電圧値 - C点 ⑦ 同時スイッチングノイズ X = 10 ns / div, Y= 1 V / div 【測定方法】 図14の回路にて素子の同時スイッチング - 図13-3A 電源ノイズ観測写真 - 本数を2/4/7本と変化させ、同IC中の 素子1本を固定出力したとき、固定出力素子 にどのような影響を与えているのかを観測す A点 る。 条件:Vcc = 5.0 V,ViL = 0.4 V,ViH = 2.4 V, CL = 50 pF,Ta = 室温, B点 同時スイッチング本数 = 2 / 4 / 7 本 Vcc C点 X = 5 ns / div, Y = 1 V / div GND - 図13-3B 電源ノイズ観測写真(TpHL) - 74AS240 B点 74AS240 50Ω 50pF C点 50pF 2/4/7本 A点 B点 50Ω C点 GND X = 5 ns / div, Y= 1 V / div - 図13-3C 電源ノイズ観測写真(TpLH) - 74AS240 50pF - 図14 同時スイッチングノイズ測定回路図- 【結 果】 X = 10 ns / div, Y = 1 V / div X = 10 ns / div, Y = 1 V / div VswFHL = 0.4 V VswFHL = 0.2 V VswFLH = 0.3 V VswFLH = 0.7 V 同時スイッチング本数=7本 同時スイッチング本数=2本 - 図15A 同時スイッチングノイズ観測写真 - - 図15C 同時スイッチングノイズ観測写真 - スイッチング本数 VswFLH VswFHL 7本 0.7 V 0.4 V 4本 0.5 V 0.4 V 2本 0.3 V 0.2 V -表3 同時スイッチングノイズピーク電圧値 - ⑧ 容量性負荷 【測定方法】 X = 10 ns / div, Y = 1 V / div 0 / 50 / 100 / 150 / 200 pF と変動させ、負荷 VswFHL = 0.4 V 容量に応じてどのような現象となるかを観測 VswFLH = 0.5 V 同時スイッチング本数=4本 - 図15B 同時スイッチングノイズ観測写真 - 図5の回路にて、素子出力の負荷容量値を する。 条件:Vcc = 5.0 V,ViL = 0.4 V,ViH = 2.4 V, CL=0~200pF,Ta=室温, P・Gの出力 Tr / Tf = 2.0 ns 【結 果】 X = 5 ns / div, Y = 1 V / div - 図16 容量性負荷の観測写真 - 4. まとめ 以上のように実装系ディジタル回路には教科 このような事態に遭遇した場合、半田付け不良 書に記述されている理論値では想像がつかない や結線ミスを疑い、確認しても問題ないにもか 現象がおきています。 かわらず、動作不良を起こしていることが不思 冒頭で述べたように、ディジタル信号の中にも 議で仕方がないのです。 アナログ的な要因があることを理解していただ これからは上記の出来事を考慮して設計すれば、 いたのではないでしょうか。 より良い物づくりができると思います。 このようなことはないでしょうか。 『作成した制御回路が理論的には正しいのに動 かない』 、 『動作途中で誤動作を起こす』などと いったことを経験していると思います。 最後に、時間が不足していたため、細かな結 論などを文章化できないことをお詫びします。 上側写真 A1点のクロストークノイズ 下側写真 B1点のクロストークノイズ 上側写真A2点のクロストークノイズ 下側写真B2点のクロストークノイズ 平行配線長を 30 ㎝のとき 素子は CMOS ゲートアレイ(汎用 LSI)
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