i nnovation iPS細胞研究関連製品&受託サービス 2006 年 8 月、京都大学再生医科学研究所の山中伸弥教授 マウスにおいて線維芽細胞以外の細胞(胃および肝臓)でも、 らは、Fbx15 遺伝子の発現を指標に、人工多能性幹細胞= 同様の方法で多能性を有する細胞の作製に成功しています 5)。 induced pluripotent stem cell(iPS細胞)の作製に成功し このように次々と問題点が解決され、すでに第 4 世代と言 たことを発表しました 1)。この中で彼らは、24 種類の因子 われている iPS 細胞の作製方法を利用すれば、多くの研究 を選び、レトロウイルスベクターを用いていろいろな組み合 者が(ES 細胞の作製に比べれば)比較的容易に多能性細胞 わせの遺伝子をマウス線維芽細胞に導入する実験を繰り返 を取得できる状況にあります。しかし、現在のレトロウイル し、その結果 4 つの因子(Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4) スベクターを使用する作製方法では上記 3 因子の遺伝子が の遺伝子導入が分化した細胞に多能性を付与することを示 レトロウイルスベクターによって細胞ゲノムのどこかに(少 しました。 なくとも数コピーずつ)組み込まれることになります。作製 最初に選定された 24 種類の因子は、胚性幹細胞= embryonic された iPS 細胞(場合によっては iPS 化されなかった細胞 stem cell(ES 細胞)で発現が特異的に上昇あるいは低下 も含め)のゲノムへのレトロウイルスベクター挿入位置を正 しているという特徴を有し、遺伝子発現データベースの情報 確かつ網羅的に同定し、それぞれの万能性や分化能などの特 を駆使することによって選定されています。いわば、これら 徴と挿入位置の関係を明らかにしておくことは今後の研究 の遺伝子は万能細胞の発現マーカーとなるものとも考えら の発展や応用において、さらに基礎データの蓄積の点でも大 れます。 変重要な課題のひとつであると考えられます。 この Fbx15 遺伝子の発現を指標として作製された iPS 細 幸いなことに、実にタイミングよく 「次世代シーケンサー」が 胞は、万能性を有してはいるものの、全体的な遺伝子の発現 登場し、その問題にも解決の糸口を見せてくれています 6)。 パターンやゲノム DNA のメチル化のパターンが ES 細胞と タカラバイオでは、454 Life Sciences 社が開発した は少し異なること、キメラの成体は誕生しないことなど、能 Genome Sequencer FLX System(ロシュ・ダイアグノ 力的に ES 細胞より劣るという問題があったため、有用性に スティクス社販売)を利用して、レトロウイルスベクターの挿 疑問を呈される向きもありました。しかし、彼らはそれから 入位置を網羅的に同定する手法を開発しています。その解 わずか 10 ヵ月後に、今度は Nanog 遺伝子の発現を指標と 析結果を各 iPS 細胞の性状や特徴と絡めてデータベースと して細胞を選別するなどの工夫を重ねることによって、生殖 して管理できれば、今後非常に有用なものになると期待して 系列にも分化可能な万能性を持ち、ES 細胞に匹敵するよう います。 2) な iPS 細胞の作製に成功したことを報告しました 。この報 iPS 細胞の価値はもちろん再生医療への応用という点こそ 告では、Nanog 遺伝子の発現で選別した 7 つの iPS 細胞 が最も重要であり、課題でもありますが、一種のツールとし クローンからキメラの成体も得られており、そのうち 1 つ ても様々な応用が期待されています。たとえば創薬のため のクローンは生殖細胞系列を介して次世代へと受け継がれ の材料としての実用化などは、今すぐに可能と思われるもの ていることが確認されています。 さえ多くあります。その中で、iPS 細胞を広く普及しようと さらに 5 ヵ月半後には、ヒト iPS 細胞の作製にも成功したこ いう動きが日本の国家プロジェクトとして推進されつつあり 3) とを発表し 、いよいよ iPS 細胞の実用化プログラムが動き ます。理化学研究所バイオリソースセンターからマウス iPS 始めました。 細胞の分配が開始され、ヒト iPS 細胞の分配も近々開始され ただ、がん遺伝子である c-Myc をレトロウイルスベクター る予定です。 を用いて導入することは当初から問題と考えられていまし このような動きの中で、タカラバイオでは iPS 細胞関連の た。実際、マウスの実験では、Nanog 遺伝子の発現で選別 研究用ツール、受託サービスを積極的に開発・提供し、日本 した iPS 細胞に由来するマウスの約 20 %において、導入 における iPS 細胞研究の発展にますます寄与したいと考え 遺伝子 c-Myc の再活性化により腫瘍が発生したことから、 ています。 そのように作製された iPS 細胞がガン化を起こすことは明 白でした。しかし、その後、c-Myc を用いない(つまり Oct3/4、Sox2、Klf4 の 3 因子のみ)で iPS 細胞を作製す ■ マウス iPS 細胞作製の概略とご利用いただける タカラバイオ製品・受託サービス る方法が山中教授ら自身によって開発され、マウスの実験で マウス iPS 細胞の作製は、線維芽細胞、肝臓細胞、胃上皮 はガン化に関して良好な結果が報告されています 4)。さらに 細胞などから行われています。以下に、マウス iPS 細胞作 BIO VIEW No.55 ● 17 i nnovation 製工程の概略と各工程でご利用いただけるタカラバイオ ○ゲノム DNA のメチル化パターン やクロンテックなどの製品(緑字)、およびタカラバイオ s メチル化解析受託 受託サービス(青字)についてご紹介します。 s Methyl EasyTM DNA Bisulphite Modification ① iPS 細胞作製に必要な 3 因子(Oct3/4、Sox2、Klf4)の遺 Kit(Human Genetic Signature 社) 伝子を入手 ▼ ○レトロウイルス、レンチウイルスによる遺伝子挿入/ s 人工合成遺伝子作製受託 挿入位置の確認: s 各種 RT-PCR キット ・LAM-PCR からのシーケンス解析 s高速シーケンサー GS FLX による解析受託 ② 組換えレトロウイルス、レンチウイルスの作製 各遺伝子を組み込んだレトロウイルスあるいはレンチウイ NEW(40 ページ参照) ルスベクタープラスミドを作製 ・サザンブロット解析 TM s North2South® シリーズなど(Thermo Fisher s pDON-AI-2 Neo DNA 、Retro-X Q Vector など Scientific 社(Pierce)) s ベクター構築受託 ○神経や筋肉組織への分化、テラトーマ形成、キメラマ レトロウイルス、レンチウイルスを一過性に産生 s Retrovirus Packaging Kit Eco ウスの誕生 s Retro-XTM Universal Packaging System s Lenti-XTM HT Packaging System ■ iPS 細胞研究関連遺伝子検出用リアルタイム s TransIT®-293(293 細胞に特化した遺伝子導入試薬) 培養上清(ウイルス)を回収、力価の測定 s Retrovirus Titer Set(for Real Time PCR) s Lenti-X ▼ TM qRT-PCR Titration Kit RT-PCR プライマー 山中教授らの論文1)で ES 細胞での発現が特異的に上昇あ るいは低下している遺伝子として最初に選定された 24 遺 伝子を、リアルタイム RT-PCR で迅速・確実に検出するた めのプライマーを用意しました(表 1) 。 ③ 細胞培養条件 フィーダー細胞を用いて、ES 細胞培地中で培養する。 表 1 マウス iPS 細胞関連遺伝子検出用 リアルタイム RT-PCR プライマーリスト ゼラチンコーティングプレートを使用。ウイルスを感染させ ▼ る前日に、フィーダー細胞とともに培養を開始する。 ④ マウス細胞へのレトロウイルス、レンチウイルスの感染 ▼ ⑤ G418 で選択(感染後 3 日目から) ▼ ⑥ 2 ∼ 3 週間培養してコロニーを形成 ▼ ⑦ iPS 細胞の評価 ○増殖:倍加時間は 9.4 ∼ 17.5 時間(ES 細胞の場合は 17 時間) ○コロニーの形状 ○遺伝子発現解析: ・リアルタイム RT-PCR による Oct3/4、Nanog、ERas、 Sox2、Ecat1、Dppa5、Fbxo15 などのマーカー遺伝子 の検出 s iPS 細胞研究関連遺伝子検出用リアルタイム RT-PCR プライマー NEW s リアルタイム RT-PCR 用各種試薬 s リアルタイム PCR 装置 Thermal Cycler Dice® Real Time System シリーズ ・マイクロアレイによる網羅的な発現解析 * 1:1 ステップリアルタイム RT-PCR では、若干プライマーダイマーを形 成する場合があります。 * 2:1 ステップリアルタイム RT-PCR では、非特異的増幅がみられますの で、2 ステップリアルタイム RT-PCR でご使用ください。 s アレイ解析受託 ・ウェスタンブロット解析 s SuperSignal® シリ ー ズ ほ か( Thermo Fisher Scientific 社(Pierce) ) ○アルカリホスファターゼ活性検出 s TRACP & ALP double-stain Kit ○表面抗原の解析 本プライマーはタカラバイオ独自のアルゴリズムで設計 され、弊社リアルタイム PCR 用試薬 SYBR® Premix Ex (製品コード RR081A/B)お TaqTM II(Perfect Real Time) よび One Step SYBR® PrimeScript® RT-PCR Kit II(Perfect Real Time) (製品コード RR086A/B)の標準反応条件に最 18 ● BIO VIEW No.55 i nnovation 適化されていますので、条件検討なしですぐに実験を行う ■ iPS 細胞の利用 ことができます。 iPS細胞の分配が開始されることにより、iPS細胞の利用面 24 種類のプライマーはすべて反応性を確認済みです。 での研究も加速すると予想されます。タカラバイオでは、 リアルタイム PCR/RT-PCR のトータルサポートなど基礎 価 格 ¥15,000(税別)/ 1 セット(1 種類) 技術の支援、細胞内の標的タンパク質の存在時期や量を 納 期 ご注文方法 約 1 週間 弊社ウェブサイトにある専用の発注依頼書 にご希望のプライマーの「注文コード」と 必要事項を記入いただき、担当窓口まで FAX にてお申し込みください。 正確、迅速かつ可逆的にコントロールし分化誘導制御にも 品開発による応用研究への展開、高速シーケンス受託や アレイ解析受託ほか様々な受託サービスの充実によって、 皆様の iPS細胞研究をサポートいたします。 【参考文献】 【お問い合わせ先】 タカラバイオ(株)ドラゴンジェノミクスセンター TEL:077-543-7331 FAX:077-543-7225 −実験例: Sox 2 遺伝子の検出− 増幅曲線 有用な ProteoTunerTM System など新技術に基づいた新製 融解曲線分析 ・サンプル:マウス胎児由来細胞 total RNA ・試薬:PrimeScript® RT reagent Kit(Perfect Real Time) SYBR® Premix Ex TaqTM II(Perfect Real Time) ※逆転写反応、PCR 反応条件は説明書に従った。 ・装置:Thermal Cycler Dice® Real Time System 1) Takahashi K., Yamanaka S., :Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. (2006)Cell, 126(4), 663-676. 2) Okita K., Ichisaka T., Yamanaka S., :Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells.(2007)Nature, 448(7151), 313-317. 3) Takahashi K., Tanabe K., Ohnuki M., Narita M., Ichisaka T., Tomoda K., Yamanaka S., :Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors.(2007)Cell, 131(5), 861-72. 4) Nakagawa M., Koyanagi M., Tanabe K., Takahashi K., Ichisaka T., Aoi T., Okita K., Mochiduki Y., Takizawa N., Yamanaka S., :Generation of induced pluripotent stem cells without Myc from mouse and human fibroblasts.(2008)Nat. Biotechnol, 26(1), 101-106. 5) Aoi T., Yae K., Nakagawa M., Ichisaka T., Okita K., Takahashi K., Chiba T., Yamanaka S., :Generation of pluripotent stem cells from adult mouse liver and stomach cells.(2008)Science, Feb 14[Epub ahead of print] 6) 本号 40 ページ参照 ■ 本稿でご紹介した製品(一部) 製品名 [高い正確性を提供する RT-PCR キット] PrimeScript® High Fidelity RT-PCR Kit PrimeScript® High Fidelity RT-PCR Kit PrimeScript® II High Fidelity RT-PCR Kit NEW PrimeScript® II High Fidelity RT-PCR Kit [組換えレトロウイルス、レンチウイルスの作製] pDON-AI-2 Neo DNA Retro-X™ Q Vector Set Retrovirus Packaging Kit Eco Retro-X™ Universal Packaging System Retrovirus Titer Set(for Real Time PCR) Lenti-X™ HT Packaging System NEW Lenti-X™ HT Packaging System Lenti-X™ qRT-PCR Titration Kit NEW TransIT®-293 G418 G418 [リアルタイム PCR / RT-PCR 用試薬] PrimeScript® RT reagent Kit(Perfect Real Time) PrimeScript® RT reagent Kit(Perfect Real Time) SYBR® Premix Ex Taq™ II(Perfect Real Time) SYBR® Premix Ex Taq™ II(Perfect Real Time) One Step SYBR® PrimeScript® RT-PCR Kit II(Perfect Real Time) One Step SYBR® PrimeScript® RT-PCR Kit II(Perfect Real Time) Thermal Cycler Dice ® Real Time System [その他] SuperSignal® West Femto Maximum Sensitivity Substrate TRACP & ALP double-stain Kit MethylEasy™ Xceed Rapid DNA Bisulphite Modification Kit North2South® Complete Biotin Random Prime Labeling and Detection Kit ProteoTuner™ System NEW 製品コード 容量 R022A R022B(A × 4) R023A R023B(A × 4) 3653 631516 6160 631530 6166 632160 632161 632165 MIR2700 631307 631308 RR037A RR037B(A × 4) RR081A RR081B(A × 2) RR086A RR086B(A × 5) TP800 34095 MK300 ME002 17175 632172 価格 50 回 200 回 50 回 200 回 ¥42,000 ¥140,000 ¥46,000 ¥155,000 20 µg 20 µg × 4 10 回分 1 Set 100 反応分 20 回 40 回 100 回 1 ml 1g 5g ¥50,000 ¥130,000 ¥50,000 ¥146,000 ¥35,000 ¥160,000 ¥221,000 ¥95,000 ¥52,000 ¥22,000 ¥86,000 200 反応分 800 反応分 回(50 µl 反応系) 回(50 µl 反応系) 回(50 µl 反応系) 回(50 µl 反応系) 一式 ¥36,000 ¥126,000 ¥39,000 ¥76,000 ¥40,000 ¥160,000 ¥3,600,000 1 Kit 5 枚分(24 穴培養プレート) 40 回分 1 Kit 1 Kit ¥58,000 ¥25,000 ¥40,000 ¥99,000 ¥170,000 200 400 100 500 ラ 営 営 営利施設の場合、ご購入前にライセンスを取得していただく必要があります。 ラ マークのある製品は、ご購入に際してライセンス確認書が必要になります。 本文中の製品に該当するライセンス確認事項は 50 ∼ 51 ページをご覧ください。 z x b ⁄1 ⁄7 ⁄8 ¤3 ¤7 ¤8 ¤9 ‹0 ‹1 ‹2 ‹3 ‹4 ‹5 ‹6 BIO VIEW No.55 ● 19
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