硫酸銅浴に用いられる各種添加剤の参照電極法による解析

硫酸銅浴に用いられる各種添加剤の参照電極法による解析
関東学院大学大学院工学研究科工業化学専攻
関東学院大学工学部物質生命科学科
2. 実験方法
浴組成を Table 1 に示す.添加剤には,抑制剤として
PEG(平均分子量3000)とCl-(供給源としてHCl),促進剤
として SPS を用い,添加剤を含まない浴を基本浴,PEG
と Cl-を含む浴を PEG 浴,PEG 浴に SPS を加えた浴を
SPS 浴とした.試験極には 400m の櫛型パターンを用い
て浸漬エッチング(50℃ 30wt%-HNO3 3min.)にて約
30m の溝を作製して,作用面積が 1×1cm2 になるよう被
覆した銅板を用いた.対極に白金ワイヤー,参照電極にマ
イクロ白金ディスク電極(10m)を用いた.また,試験極
と参照電極の距離は凸,凹部とに 30m,トレース速度を
1sec.,電流密度を 10mA/cm2 とした.
ことから,PEG は抑制,SPSは促進効果を示すことが確認
された.このことから,PEG が吸着している部位での電位
は基本浴より卑に,SPS が吸着している部位ではPEG 浴
より貴にそれぞれ移行するものと考えられる.
凸部および凹部における参照電極法による測定結果を
それぞれ Fig.1,Fig.2 に示す.基本浴および,PEG 浴では
凸部,凹部ともに同程度の電位であった.また,基本浴と比
べPEG 浴,SPS 浴の凸部における電位はともに卑に移行
している.分極曲線の測定結果から,PEG 浴,SPS 浴にお
ける凸部にPEG が吸着して抑制効果を示すが,SPS は凸
部に吸着せず,凹部で優先的に吸着する挙動を示すこと
が示唆された.しかし,凹部において,SPS 浴における電位
は PEG 浴のそれよりも貴に移行することが確認された.
このことから,SPS 浴の凹部には,SPS が吸着しているも
のと考察される.
以上の結果から,PEG は凸部および凹部にも吸着して
抑制効果を示すが,SPS は凸部に吸着せず,凹部で優先的
に吸着する挙動を示すことが示唆された.
本測定法により添加剤の吸着挙動ならびに相互作用の
機構を詳細に解析して,明らかにすることができた.
-0.2
電位(V vs. Pt)
1. 緒言
一般的に添加剤を含む硫酸銅浴からの銅電析は,装飾
や ULSI 微細配線の形成などに用いられている.この添
加剤は主に,抑制剤であるポリエチレングリコール
(PEG)や塩化物イオン(Cl-), 促進剤であるビス(3-スル
ホプロピル)ジスルファイド 2 ナトリウム(SPS)などであ
る.これら添加剤を含まない単純浴からビアホール等の
銅充填を行うと,電流線が凸部に集中して,優先的に析出
する.このため,凹部内部にボイドが形成され,埋め込み不
良が起こる.そこで,前述した添加剤を加えることで,抑制
剤が凸部に,促進剤は凹部に吸着して,それらの相互作用
により均一電着性が向上し,それにともないボイドの発
生が抑制され,フィリング率も高くなるとされている.し
かし,現在までの電気化学的測定から提唱されている吸
着モデルには推測,経験則が多いため,その真意は定かで
ないとされている.
本検討では,この添加剤の吸着挙動を詳細に解析する
目的で微小電極を用いた新たな電気化学測定法である参
照電極法により,添加剤の吸着挙動の解析を行った.
○高橋 夏樹
○山下 嗣人
-0.3
-0.4
-0.5
0
900
1800
時間(sec.)
PEG-Cl浴
基本浴
2700
SPS浴
Fig.1 各添加剤が凸部の電位変化に及ぼす影響
Table 1 浴組成
-0.2
電位(V vs. Pt)
3
CuSO4・5H2O
0.8mol/dm
H2SO4
0.5mol/dm3
PEG(平均分子量3000) 100ppm
-
50ppm
Cl (HCl)
SPS
1ppm
浴温
25℃
-0.3
-0.4
-0.5
3. 結果および考察
銅の電析反応におよぼす各添加剤の影響を解析する目
的で,分極測定を行った.その結果.PEG 浴,SPS 浴におけ
る銅の析出電位は,基本浴のそれよりも卑であるが,SPS
浴からの電位は PEG 浴のそれよりも貴へ移行した.この
0
900
基本浴
1800
時間(sec.)
PEG-Cl浴
2700
SPS浴
Fig.2 各添加剤が凹部の電位変化に及ぼす影響