ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 日皮会誌:120(4) ,871―880,2010(平22) Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 地方都市皮膚科診療所におけるウイルス性疣贅と なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 伝染性軟属腫の疫学的特徴の比較検討 横山眞爲子1) 要 奥村 旨 一地域におけるウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫 学的特徴を比較検討したデータは見あたらない. 之啓1) 江川 清文2) 宿主側因子,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫治療にお ける考え方の違いなど社会的因子の影響を考えた. はじめに 2003 年 1 月から 2007 年 12 月までの 5 年間に,当院 ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫は,共に,表皮角化 (熊本県天草市)を受診したウイルス性疣贅と伝染性軟 細胞を感染標的とするウイルスの接触感染により生じ 属腫患者について統計的観察を行った.この間の全初 る皮膚疾患であるが,本邦において一地域における, 診患者 65,838 名中,ウイルス性疣贅は 1,701 例 (男女比 両者の発生頻度や罹患年齢等につき比較検討したデー 1:1.09) ,伝染性軟属腫は 1,328 例(男女比 1:0.95)で タは見あたらない.2003 年 1 月から 2007 年 12 月まで あった.月別初診数は,ウイルス性疣贅では 8 月が, の 5 年間に当院(熊本県天草市おくむら皮ふ科)を受 伝染性軟属腫では 5 月が最も多かった.罹患年齢につ 診した両疾患患者の統計をとり検討した. いては,ウイルス性疣贅は 0 歳から 88 歳にわたり 8 歳にピークがあるのに対し,伝染性軟属腫では 0 歳か 対象と方法 ら 77 歳にわたり 3 歳にピークがあった.ウイルス性疣 2003 年 1 月から 2007 年 12 月までの 5 年間の初診 贅に比べ,伝染性軟属腫により低年齢で罹患する傾向 患者 65,838 名の診療録の記載から,ウイルス性疣贅と は同一個体内でも見られ,ウイルス性疣贅と伝染性軟 伝染性軟属腫患者について,1)年齢,2)性別,3)初 属腫両方に罹患した 197 例中,伝染性軟属腫に先に罹 診日,4)発症部位(診療録の実際の記載を頭頸部,上 患した例は 162 例と圧倒的に多かった.ウイルス性疣 肢,下肢,体幹,陰部・肛囲にわけて検討した),5) 個 贅ではまた,臨床型別にも年齢分布の違いがみられた. 数,6)合併症,基礎疾患,7)家族受診者の有無,に 発症部位については,ウイルス性疣贅は四肢に,伝 ついて調査し,比較検討した. 染性軟属腫は体幹に広範囲に生じていた.ウイルス性 ウイルス性疣贅については,尋常性疣贅(糸・指状 疣贅のうち尋常性疣贅とミルメシアは足, 平疣贅は 疣贅を含む) , 平疣贅,ミルメシアや尖圭コンジロー 上肢に好発していた.また,アトピー性皮膚炎を含む マ等,臨床型別の検討も行った.また,ウイルス性疣 湿疹性病変が,ウイルス性疣贅では 6.9% に,伝染性軟 贅と伝染性軟属腫の合併例についても調べた. 属腫では 15.7% にみられた.家族内発症は伝染性軟属 同一患者の再診例は,ウイルス性疣贅では,疣贅が 腫に多く,ウイルス性疣贅の 299 名(19.1%)に対し, 一旦治癒後に別部位に発症した場合は,別症例として 366 名(33.2%)であった. 算出した.伝染性軟属腫では,一旦治癒後,3 カ月以上 今回の検討で,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫 学的事項の違いが明瞭になった.違いの理由として, 原因ウイルスの標的年齢,標的部位,潜伏期間や感染 力の違いなどウイルス側因子,湿疹性病変の有無など 1) おくむら皮ふ科 2) 東京慈恵会医科大学皮膚科学講座 平成 21 年 4 月 20 日受付,平成 21 年 7 月 30 日掲載決定 熊本県天草市栄町 4―1 別刷請求先:(〒863―0022) 横山眞爲子 たって受診したものは別症例として算出した. 結果 1(ウイルス性疣贅) 患者:男性 813 例,女性 888 例,計 1,701 例(表 1) . 臨床型別では尋常性疣贅が最も多く 1,630 例(95.8%) (うち指状疣贅 51 例 (3.0%) ) , 平疣贅 63 例 (3.7%) , ミ ル メ シ ア 19 例(1.1%) ,尖 圭 コ ン ジ ロ ー マ 6 例 (0.4%)であった(表 2) . 月別の受診者数:8 月に最も多く,冬季に少ない傾 872 横山眞爲子ほか 表 1 ウイルス性疣贅及び伝染性軟属腫の年齢別症例数(単位:例) ウイルス性疣贅 伝染性軟属腫 年齢 男性 女性 計 男性 女性 0~ 9歳 231 205 436 653 595 1, 248 10~ 1 9歳 255 261 516 21 20 41 20~ 2 9歳 52 86 138 0 3 3 30~ 3 9歳 50 90 140 3 16 19 40~ 4 9歳 66 75 141 3 3 6 50~ 5 9歳 76 78 154 1 4 5 60~ 6 9歳 40 49 89 1 4 5 70~ 7 9歳 33 33 66 0 1 1 80~ 8 9歳 10 11 21 総数 813 888 1, 701 計 0 0 0 682 646 1, 328 最小値 0歳(8カ月) 0歳(6カ月) 最大値 88歳 77歳 中央値 16歳 4歳 最頻値 8歳 3歳 表 2 ウイルス性疣贅の臨床別症例数(単位:例) 尋常性疣贅 扁平疣贅 年齢 男性 女性 計 男性 女性 ミルメシア 計 男性 女性 尖圭コンジローマ 計 男性 女性 計 0~ 9歳 2 2 0 195 415 6 8 14 7 6 13 0 0 0 1 0~ 1 9歳 2 4 8 252 500 5 10 15 2 3 5 0 0 0 2 0~ 2 9歳 5 1 79 130 0 6 6 0 1 1 1 1 2 3 0~ 3 9歳 4 6 85 131 3 5 8 0 0 0 2 0 2 4 0~ 4 9歳 6 4 70 134 1 6 7 0 0 0 1 0 1 5 0~ 5 9歳 7 3 73 146 5 7 12 0 0 0 0 0 0 6 0~ 6 9歳 4 0 47 87 0 1 1 0 0 0 0 1 1 7 0~ 7 9歳 3 3 33 66 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8 0~ 8 9歳 1 0 11 21 0 0 0 0 0 0 0 0 0 総数 7 8 5 845 1, 630 20 43 63 9 10 19 4 2 6 最小値 0歳(8カ月) 4歳 4歳 22歳 最大値 88歳 66歳 22歳 61歳 中央値 16歳 23歳 9歳 34歳 最頻値 8歳 7,8,13歳 8歳 ― 尋常性疣贅と扁平疣贅の重複 15例 尋常性疣贅とミルメシアの重複 2例 向にあった(図 1) . 年齢:ウイルス性疣贅全体では,0 歳(月齢 8 カ月) から 88 歳にわたり,5 歳から 15 歳までに多く,ピーク は 8 歳 で あ っ た(0 か ら 9 歳 436 例 25.6%) (表 1) (図 2) .臨床型別に年齢分布をみると(表 2) (図 3) ,最も 症例の多い尋常性疣贅は,8 歳をピークに 6 歳から 12 地方都市皮膚科診療所におけるウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫学的特徴の比較検討 873 図 1 月別受診数 歳までに多く,0 歳から 88 歳の全体にわたってみられ は 118 例(6.9%)であった.皮膚の細菌感染を伴った 平疣贅は,4 歳からみられはじめ,7 例が 16 例(0.9%)あり,うち疣贅病変部にのみに二次 歳から 13 歳までに多くみられたが,10 歳代後半から 感染を来していた症例は 10 例(0.6%)であった.細菌 た.次に多い 20 歳代に一旦減少し,30 歳代,40 歳代,50 歳代に小 感染 の う ち 伝 染 性 膿 痂 疹 と 診 断 さ れ た 症 例 は 3 例 さなピークがみられた.66 歳を最高齢に,67 歳以上に (0.2%) あったが,これらの症例はいずれも疣贅病変部 はみられなかった.ミルメシアは 4 歳からみられはじ の二次感染は伴っていなかった.副腎皮質ホルモンの め,8 歳にピークがみられ,最高齢は 22 歳で,若年者 長期内服者が,膠原病などの治療目的で成人に 3 例あ に偏った分布がみられた.尖圭コンジローマは,20 り,小児では,腎炎の治療目的での内服が 1 例あった. 歳代,30 歳代に多くみられた. 免疫抑制剤の内服者が 1 例あり,成人で腎移植後の治 発症部位と個数:尋常性疣贅は,下肢,上肢,頭頸 療例であった. 部の順に多かった. 平疣贅は上肢,頭頸部,下肢の 家族内受診者:299 名(19.1%) ,141 家族(同胞 93 順に多く,ミルメシアは下肢が多かった(表 3) .尋常 組うち双生児 1 組,親子 49 組,夫婦 7 組)であった. 性疣贅で,上肢,下肢をさらに詳しく見ると上肢 628 結果 2(伝染性軟属腫) 例中,手,指は 565 例(90.0%) ,下肢 688 例中,足, 趾は 605 例(87.9%)であった(表 4) .また,足底及び 足趾の底側発症例のうち部位の詳細が明らかなもの 101 例(尋常性疣贅 92 例,ミルメシア 9 例)の個疹の 患者:男性 682 例,女性 646 例,計 1,328 例(表 1) . 月別の受診者数:初夏(5 月,6 月)に多かった(図 1) . 分布を図に示した(図 4) .ウイルス性疣贅全体で,単 年齢:0 歳(月齢 6 カ月)から 77 歳にわたり 1 歳か 発例は 929 例であった.病変が複数の区分にわかれて ら 6 歳までに多く,ピークは 3 歳であった(0 歳から 生じていたのは尋常性疣贅で 115 例, 平疣贅で 5 例 9 歳 1,248 例 94.0%) (表 1) (図 2,3) . であった(表 5) . 合併症,基礎疾患(表 6) :湿疹性病変がみられたの 発症部位と個数:体幹に最も多く,続いて,上肢, 下肢,頭頸部,陰部・肛囲の順であった (表 3) .上肢, 874 横山眞爲子ほか 図 2 ウイルス性疣贅及び伝染性軟属腫の年齢別症例数 図 3 ウイルス性疣贅(臨床型別)および伝染性軟属腫の症例数年齢分布 地方都市皮膚科診療所におけるウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫学的特徴の比較検討 875 表 3 ウイルス性疣贅の臨床別,及び伝染性軟属腫の部位別症例数(単位:例) 部位 尋常性疣贅 扁平疣贅 頭頚部 416 23 上肢 628 32 下肢 688 体幹 陰部,肛囲 ミルメシア 尖圭コンジローマ 伝染性軟属腫 0 0 245 3 0 508 10 16 0 361 14 2 0 0 992 3 0 0 6 104 表 4 部位詳細(単位:例) 尋常性疣贅 手,指 手を除く上肢 足,趾 足を除く下肢 扁平疣贅 ミルメシア 伝染性 軟属腫 5 6 5 20 3 13 8 0 16 0 495 6 0 5 10 16 0 8 9 0 0 361 図 4 足底のウイルス性疣贅の発症部位 (101症例の 合成図) 表 5 ウイルス性疣贅及び伝染性軟属腫の単発例数と複数個発症例の分布範囲(単位:例) 単発例 ウイルス性疣贅 (尋常性疣贅) (扁平疣贅) (ミルメシア) (尖圭コンジローマ) 伝染性軟属腫 複数個発症例 症例数 1区分 複数区分 部位記載無し 929 650 122 0 1, 701 921 594 115 0 1, 630 0 58 5 0 63 14 5 0 0 19 0 6 0 0 6 47 608 672 1 1, 328 下肢をさらに詳しく見ると上肢 508 例中,手が 13 例 して細菌性二次感染を来していた例が 17 例(1.3%) , (2.6%)あったが,手掌発症例はなかった.下肢 361 伝染性膿痂疹と診断された症例が 32 例(2.4%)であっ 例中,足,趾の症例はなかった(表 4) .単発例は 47 例であった.複数個発症例で,病変が複数の区分にわ かれて生じていたのは 672 例 (50.6%) であった (表 5) . 基礎疾患,合併症(表 6) :湿疹性病変がみられたの は 208 例(15.7%)であった.皮膚に細菌感染を伴う例 が 49 例(3.7%)あり,そのうち,軟属腫の個疹に限局 た. 家族内受診者:366 名(33.2%) ,175 家族(同胞 170 組うち双生児 6 組,親子 11 組)であった. 結果 3(ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫罹患例) ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の両疾患に罹患した 876 横山眞爲子ほか 表 6 基礎疾患,合併症 ウイルス性疣贅 1, 701例中 伝染性軟属腫 1, 328例中 両者罹患例 注) 197例中 118例 6. 9% 208例 15. 7% 17例 8. 6% 16例 0. 9% 49例 3. 7% 5例 2. 5% 3例 0. 2% 32例 2. 4% 4例 2. 0% 他のウイルス性感染症 14例 0. 8% 8例 0. 6% 2例 1. 0% 表在性皮膚真菌症 33例 1. 9% 2例 0. 2% 2例 1. 0% ざ瘡 15例 0. 9% 0例 0. 0% 1例 0. 5% 4例 0. 2% 1例 0. 1% 0例 0. 0% 49例 2. 9% 1例 0. 1% 0例 0. 0% 湿疹性病変 細菌性二次感染 (上記のうち伝染性膿痂疹) ステロイド長期内服 生活習慣病等内服 注)ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の両者 表 71 これまでの統計報告(ウイルス性疣贅) 年齢 施設 調査時期 診療所(群馬県高崎市) 1993年 6月~ 1996年 6月 2, 257 杉原ら 2) 大学病院(島根県出雲市) 1979年 1 0月~ 1984年 1 0月 291 越智ら 3) 大学病院(山口県宇部市) 1963年~ 1982年 1, 067 10~ 19歳, 1:1. 48 19~ 20歳 (注 1) 当院 2003年 1月~ 2007年 1 2月 1, 701 1:1. 09 服部 1) 診療所(熊本県天草市) 症例数(例) 男女比 最多年齢 最低年齢 最高年齢 0~ 9歳の 占める割合 1:1. 16 0~ 9歳 (注 1) (注 2) 0~ 9歳 70歳代 28. 4% 1:1. 23 10~ 19歳 (注 1) 0~ 9歳 80歳代 20. 6% 0歳 80歳代 15. 9% 0歳(8カ月) 88歳 25. 6% 8歳 (注 1 ) (1 0歳きざみ評価) (注 2 )学齢別では小学生 表 72 これまでの統計報告(ウイルス性疣贅) 受診月 臨床型 好発部位 服部 1) 夏季に多く 冬季に少ない 扁平疣贅 3 . 1%,糸状疣贅 2. 5%,尖圭コンジローマ 1. 3%(注 3) 足(尋常性疣贅) 杉原ら 2) 8月が最多, 冬季に少ない 尋常性疣贅 69. 4 %,扁平疣贅 1 4. 8%,糸状疣贅 2. 7%,尖圭コンジローマ 3. 4% 手(尋常性疣贅), 顔(扁平疣贅) 越智ら 3) ― 尋常性疣贅 66. 7 %,扁平疣贅 32. 1%,尖圭コンジローマ 3. 3% 手(尋常性疣贅), 顔(扁平疣贅) 尋常性疣贅 95. 8%(指状疣贅 3. 0 %) ,扁平疣贅 3 . 7%, ミルメシア 1. 1%,尖圭コンジローマ 0. 4% 下肢(尋常性疣贅), 上肢(扁平疣贅) 当院 8月が最多, 冬季に少ない (注 3 )尋常性疣贅以外の%のみ記載あり 症例について調べた.同日に両疾患で受診した者は 8 は 162 名,ウイルス性疣贅での初診日が早かった者は 名であったが,調査期間中いずれか一方で受診した者 27 名であった. が他日もう一方で受診した症例は,調査期間より過去 これらの症例での基礎疾患をみると,湿疹性病変を の受診も含むと,189 名あり,両疾患に罹患した症例は 有していたのは 17 例(8.6%)で,合併率は,ウイルス 合計 197 名であった. 性疣贅全体より大きく,伝染性軟属腫全体より小さ 189 名中,伝染性軟属腫の初診日の方が早かった者 かった.皮膚の細菌感染を伴った例が 5 例(2.5%)あ 地方都市皮膚科診療所におけるウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫学的特徴の比較検討 877 表 81 これまでの統計報告(伝染性軟属腫) 年齢 施設 調査時期 症例数(例) 男女比 診療所(神奈川県茅ヶ崎市) 1976年 1月~ 1980年 5月 369 杉原ら 2) 大学病院(島根県出雲市) 1979年 1 0月~ 1984年 1 0月 越智ら 3) 大学病院(山口県宇部市) 最多年齢 最低年齢 最高年齢 0~ 9歳の 占める割合 1:0. 72 5歳 0歳 (4カ月) 36歳 86. 7% 114 1:0. 97 1歳 0歳 70歳代 87. 7% 1963年~ 1982年 225 1:0. 92 1歳 0歳 70歳代 91. 5% 末永ら 5) 大学病院(福岡県北九州市) 1979年 7月~ 1984年 1 2月 235 1:0. 70 3歳 0歳 12歳以上 (詳細不明) ― 小野ら 6) 兵庫県皮膚科医会の定点 1987年~ 1988年 8, 701 1:0. 94 0~ 9歳 (注 1) 0~ 9歳 (注 1) 60歳代 90. 9% 横田ら 7) 総合病院(北海道札幌市) 1990年~ 1994年 148 0歳 60歳代 77. 0% 当院 2003年 1月~ 2007年 1 2月 0歳 (6カ月) 77歳 94. 0% 新関 4) 診療所(熊本県天草市) 1, 328 1:1. 14 4歳と 5歳 1:0. 95 3歳 (注 1 ) (1 0歳きざみ評価) 表 82 これまでの統計報告(伝染性軟属腫) 受診月 新関 4) 好発部位 5月が最多だが冬季に多い 体幹,両上肢 杉原ら 2) 7 ,8月に多く,冬季に少ない ― 越智ら 3) ― ― 末永ら 5) 8月が最多 ― 小野ら 6) 6月が最多 ― 横田ら 7) 1月 3月 7月が多い 体幹 当院 体幹 5月に多い の比率が大きかった.従来の報告では,男性にやや多 いという報告2)∼6)が多かったが, 女性が多かったとの報 告7)もあった (表 8) .小児と成人で男女比を比較検討し た小野ら6)の報告では, 小児で男児にやや多く, 横田ら7) の報告では,小児で男女ほぼ同数であったが,両報告 とも成人では女性に多くみられたとあった.感染源を 特定はできないが,成人では女性の方が小児との接触 機会が多いと考えられ,要因の一つかも知れないと考 えた. 月別受診数では,5 年間の累積でみるとウイルス性 疣贅は,8 月に最も多く冬に少ない傾向があった.伝染 り, うち疣贅病変部の細菌性二次感染が 1 例 (0.5%) , 性軟属腫は 5 月に最も多く,2 疾患のピークは異なっ 伝染性膿痂疹と診断された症例が 4 例(2.0%)であっ ていた.原因ウイルスの違いにより発症時期が異なる た.他のウイルス性感染症が 2 例(1.0%)みられた 可能性もあるが,伝染性軟属腫については,集団生活 をする上で,夏の水遊びが始まる前に保育園や幼稚園 (表 6) . 考 察 から,受診を勧められることが多く,そのような社会 的背景もあると思われた. 熊本県天草市にある一皮膚科診療所を最近 5 年間に 従来の報告1)2)では,ウイルス性疣贅は夏に受診が多 受診したウイルス性疣贅と伝染性軟属腫患者につい いとされていた(表 7) .伝染性軟属腫も夏季に受診が て,性別,年齢分布や発症部位等につき比較検討する 多いという報告2)5)6)が大半であったが,冬季に多いと と共に,文献的考察を加えた(表 7,8) . いう報告4)もみられ,様々であった(表 8) .杉原ら2)の 今回の調査結果では,ウイルス性疣贅の男女比は 島根医科大学附属病院におけるウイルス性皮膚疾患の 1:1.09 とほぼ同数であった.従来の報告1)∼3)では,ウイ 統計的観察中,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の月別 ルス性疣贅の患者は女性にやや多いとされている(表 受診数は,両者とも,8 月に多く冬季に少ない,という 7) .伝染性軟属腫の当院での男女比は,全体では 1: 同様の傾向をとっていた. 0.95 とほぼ同数であったが,成人では 1:3.88 と女性 発症年齢は,ウイルス性疣贅に比べ,伝染性軟属腫 878 横山眞爲子ほか の方がより若年層に偏って分布していた.文献上,こ 類していないことなどウイルス性疣贅の分類について の両者を同施設で同時期に調べた統計は,ウイルス性 概念の変遷があることも影響していると考えられた. 皮膚疾患として一括された大学病院からの報告はあっ また,基礎疾患として,アトピー性皮膚炎を含む湿 2)3) .これらの報告の 疹 病 変 を 有 す る 例 は,ウ イ ル ス 性 疣 贅 で は 118 例 中で両疾患における 0 歳から 9 歳の症例の全体に占め (6.9%) ,伝染性軟属腫では 208 例(15.7%) (表 6)と伝 たが,年齢の詳細は不明であった る割合から考えると,やはり,ウイルス性疣贅より伝 染性軟属腫の方に多かった.さらに,伝染性軟属腫は, 染性軟属腫の方が若年層にみられているようであっ モルスクム反応を伴うことがあるため,二次的に湿疹 た. 病変を伴うことが多い.発症部位について,伝染性軟 伝染性軟属腫の原因ウイルスである伝染性軟属腫ウ 属腫の方が,ウイルス性疣贅より広範囲にわたって発 イルス(molluscum contagiosum virus:MCV)の潜伏 症していた原因の一つとして,湿疹に対する搔破行為 期間が数週間であるのに比べ,ウイルス性疣贅の原因 が,自己接種の機会を増やす可能性を考えた. となるヒト乳頭腫ウイルス(human papillomavirus: 一方,ウイルス性疣贅では,少数ながら,発症前に HPV)のそれは数カ月と長いことが知られている.両 外傷の既往を認めた例があったのに比し,伝染性軟属 疾患の年齢分布の違いが生じる理由として,HPV より 腫では,患者が記憶するような外傷の既往後に発症し 潜伏期間の短い MCV の方が,ある集団内で短期間の た例はなかった.ウイルス性疣贅でも,明らかな外傷 うちに,感染―発症―伝播のサイクルを繰り返す結果 の既往のない例がほとんどであるが,好発部位の足底 として,年齢分布では若年齢に大きなピークができる に発症した例の分布の詳細を見ると,土踏まずには全 のではないかと考えた. くみられず,それ以外の,より外傷を受けやすいと思 ウイルス性疣贅ではまた,臨床型により年齢分布に われる部位に発症していた (図 4) .ウイルス性疣贅が, 差異がみられた(表 2) (図 3) .尋常性疣贅以外の病型 衣類で覆われた体幹より,外傷を受けやすい,頭頸部, については症例数が少なく,それぞれの特徴をとらえ 四肢末端などに生じ易いことからしても,搔破のよう るには更に症例の集積が必要だが,尖圭コンジローマ な軽微な傷でも感染し易い MCV よりも HPV の方が, に関しては,20 歳代,30 歳代に多くみられたことは従 感染を成立させるために,より強度の外傷を必要とす 来の報告2)3)と共通しており,性感染症としての側面が るのかもしれない. うかがわれた. 発症部位について,5 つの区分 (頭頸部,上肢,下肢, 家族内の受診者があった患者は,ウイルス性疣贅で は 19.1% あったのに対し,伝染性軟属腫では 33.2% で 体幹,陰部・肛囲)で検討すると,ウイルス性疣贅が あった.ウイルス間で感染力に違いがあり,MCV の方 体幹にみられるのは少数であったのに対し,伝染性軟 が HPV より家族間で感染しやすいのかも知れない 属腫では,体幹に最も多くみられた(表 3) .さらに, が,5 年間の限られた調査期間中には,潜伏期間の短い ウイルス性疣贅では,1 つの区分にみられる例が多 MCV の発症例の方が多くなることも考えられた. かったのに比べ,伝染性軟属腫では複数の区分にまた ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の両方に罹患した症 がって見られる例が多かった (表 5) .従来の報告4)7)で 例の,それぞれの初診日をみると,ウイルス性疣贅よ も,伝染性軟属腫は体幹に多く発症していた(表 8) . り伝染性軟属腫で先に受診した者の方が多かった.集 一方ウイルス性疣贅は,原因となる HPV の遺伝子型 団で見た場合,ウイルス性疣贅より伝染性軟属腫の罹 の違いにより,それに対応する臨床型や,好発部位が 患年齢が低年齢層にあったが,各個人でも伝染性軟属 異なることが知られている8). 今回は臨床診断のみでの 腫に罹患する年齢の方が若いことが推察された.また, 分類であるが,尋常性疣贅とミルメシアは下肢(特に これらの症例で,基礎疾患や合併症がとくに多いとい 足,趾) , 平疣贅は上肢,尖圭コンジローマは陰部と, うことはなかった(表 6) . それぞれに好発部位がみられた(表 3,4) . 今回の調査結果が,従来の報告と異なった点の一つ 文献上のデータと比較すると,臨床型の頻度や,好 として,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫で,月別受診 発部位は,診療所からのデータ1)に近く,大学病院から 数の傾向が異なっていたことが挙げられる.月別受診 のデータ2)3)とは違いが見られた (表 7) .診療所と大学 数には,季節による活動性の違いや潜伏期間の違いと 病院では受診する患者層が異なっていることも考えら いったウイルス側因子の影響も考えられるが,宿主 (患 れるが,従来の報告では尋常性疣贅とミルメシアを分 者)の受診動機といった社会的因子が,より反映され 地方都市皮膚科診療所におけるウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫学的特徴の比較検討 879 合,受診時に,すでに保育園や幼稚園から摘除を勧め ているのではないかと考えた. また,伝染性軟属腫において, 従来の報告に比べ我々 られてきていたことも多く,摘除した例が多かった. の調査結果では,0 歳から 9 歳の患者の全体に占める 臨床診断は,当院の皮膚科専門医 2 名により行われ 割合が大きかった点も特徴的であった(表 8) .他の報 た.診断は,臨床像のみから比較的容易であったが, 告より若年者が多いこの傾向については,ウイルス性 尋常性疣贅と 平疣贅,尋常性疣贅とミルメシア,尋 疣贅ではみられないことから,母集団の年齢構成とは 常性疣贅と脂漏性角化症等,臨床像のみからは鑑別が 別の因子の影響が考えられた.患者の受診動機にも関 難しいことがある.今回の検討では,疾患の性質およ 与することだが, “とる” “ ,とらない” (軟属腫を積極的 び対象年齢等の理由により,病理組織検査を行ってお に摘除するのか,経過観察を主体にするのか)といっ らず,また HPV 型面からの検討が出来ていない.伝染 た,地域社会や地域医療における伝染性軟属腫治療に 性軟属腫についても MCV10)の遺伝子型別などウイル 9) 対する考え方の違い を反映しているかも知れない. こ ス学的な検討はできなかった.今回の臨床診断による の考え方の違いは,先に述べた,月別受診数の傾向が 比較検討は,これらについての限界を残すが,比較的 文献により異なっていた原因の一つとしても考えられ 人の移動の少ない小規模地方都市の診療所を受診した る.因みに当院では,患者本人,付き添いの家族に伝 全患者を対象とした今回の統計的観察は,一地域にお 染性軟属腫という疾患についての説明を行ったあと, ける,ウイルス性疣贅と伝染性軟属腫の疫学的特徴を, 状況に応じて治療をするようにしているが,幼児の場 比較的よく反映しているものと考えた. 文 1)服部 瑛:一般外来診療における疣贅の統計―第 2 報―,皮膚病診療,1997 ; 19 : 563―566. 2)杉原久美子,出来尾哲,地土井嚢璽ほか:島根医科 大学付属病院皮膚科開院後 5 年間のウイルス性皮 膚疾患の統計的観察,西日皮膚,1987 ; 49 : 890―897. 3)越智敬三,麻上千鳥,原 紀正,山田健一,白石達 雄,藤田英輔:最近 20 年間におけるウイルス性皮 膚疾患教室例の臨床的,統計的検討,西日皮膚, 1984 ; 46 : 49―54. 4)新 関 寛 二:伝 染 性 軟 属 腫 の 疫 学 的 研 究―第 1 報―,皮膚臨床,1981 ; 23 : 877―883. 5)末永義則,青野誠一郎,柳沢一明,堤 啓:産業 医科大学皮膚科における伝染性軟属腫の統計的考 察,西日皮膚,1987 ; 49 : 100―103. 献 6)小野公義,赤崎良太,浅野翔一ほか:伝染性軟属腫 の疫学―1987,88 年の兵庫県皮膚病サーベイラン スから,皮膚病診療,1989 ; 11 : 533―538. 7)横田田鶴子,安居千賀子,土屋喜久夫,嶋崎 匡: 市立札幌病院における伝染性軟属腫の統計,西日 皮膚,1997 ; 59 : 94―97. 8)江 川 清 文:HPV 型 特 異 的 細 胞 変 性(細 胞 病 原 性)効果,西日皮膚,2002 ; 64 : 675―680. 9)江川清文:みずいぼ(伝染性軟属腫)の診断と治 療―治療をめぐる論争,江川清文編:疣贅治療考, 東京,医歯薬出版,2005,231―234. 10)川島 眞,上村知子,山下浩子,肥田野信,松倉俊 彦:本邦の伝染性軟属腫ウイルスの型について, 日皮会誌,1990 ; 100 : 1457―1460. 880 横山眞爲子ほか Viral Warts and Molluscum Contagiosum in Amakusa Maiko Yokoyama1), Yukihiro Okumura1)and Kiyofumi Egawa2) 1) Okumura Dermatological Clinic, Kumamoto, Japan Department of Dermatology, The Jikei University School of Medicine, Tokyo, Japan 2) (Received April 20, 2009; accepted for publication July 30, 2009) We performed statistical surveys of outpatients with viral warts (VW) and!or molluscum contagiosum (MC) at our clinic in Amakusa from January 2003 to December 2007. The subjects consisted of 1,701 patients with VW (male-female ratio, 1 : 1.09) and 1,328 with MC (1 : 0.95). VW patients visited us most frequently in August, while MC patients were most often seen in May. VW affected somewhat older children than MC: VW were most frequently seen in 8 years olds and MC, in 3 years olds. Anatomical sites most frequently affected by the diseases were the feet for verruca vulgaris and myrmecia, the upper extremities for verruca planae, and the trunk for MC. MC involved a much wider area than VW. Eczematous changes (including atopic dermatitis) were noted in 6.9% of patients with VW and 15.7% of patients with MC. This study reveals differences in epidemiological data between VW and MC, possibly due to viral factors, such as the differences in target age, target region, latent period and infectivity of each virus, host-related factors including the status with! without eczematous changes, and social factors such as the differences in therapy for VW and MC. (Jpn J Dermatol 120: 871∼880, 2010) Key words: viral wart, molluscum contagiosum, epidemiological study
© Copyright 2025 ExpyDoc