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The 22nd Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2008
1A2-7
北海道江別市の観光戦略を支援する Web サイト構築
On Constructing Web Site and Strategy for Tourism in Ebetsu City
斎藤 一*1,2
Hajime Siato
*1
石井 真人*2
Msato Ishii
安田 光孝*1
隼田 尚彦*1,2
Mitsutaka Yasuda
Naohiko Hayata
*2
北海道情報大学 情報メディア学部
Faculty of Information Media, Hokkaido Information University
向田 茂*1
三浦 洋*1
Shigeru Mukaida Hiroshi Miura
北海道情報大学大学院
Graduate School of Hokkaido Information University
Ebetsu city is located in the southwest corner of Hokkaido's Ishikari Plain. This document describes the web site and
strategy for tourism in Ebetsu city.
1. はじめに
2.3 調査と分析
北海道江別市は,石狩平野の中央部に位置し,札幌市に隣
接した人口約12万人の街である.レンガを含むやきものが特産
品の一つとされ,毎年,道内の陶芸作家等が一堂に会する「え
べつやきもの市」を開催している.本研究では,これまでに,第
三世代のバランスト・スコアカードを用いて,観光資源としての
「やきもの」を活用した,江別市の新たな観光戦略策定を行った.
本稿では,これらの調査結果と策定した戦略について説明する.
また,やきもののまち江別を PR するための Web サイトについて,
特にやきものを 3DCG 化したデジタルアーカイブについて述べ
る.
江別市では毎年,「えべつやきもの市」が行われており,イベ
ントとして成功を収めているが江別市への観光には結びついて
いない.そこで,やきもののまちと称している江別市で観光資源
の基盤となっている窯業として,現在江別市内に存在・活動して
いるレンガ工場,陶芸作家の現状を調査・分析した.
(1) レンガ工場の現状
江別の土と砂を使ってレンガを生産し,主に本州に出荷し
ている.しかし,レンガの単価が低いこと,耐震強度等の理由
による需要の低下,公共事業から発展したために経営の拡
大が難しいということから先細りが危惧されている.
(2) 陶芸作家の現状
江別市内で活動している陶芸作家達が年に 1 度,チャリテ
ィー展を行っているほか,「えべつやきもの市」にも出展して
いる.江別市からの活動援助はほとんどされておらず,江別
市の観光マップに名前が載っている程度である.
(3) 調査結果の分析
レンガ工場や陶芸作家達が,観光に繋がる活動をしている
と同時に各々問題点を抱えていることがわかった.やきものの
まち江別として現在ある観光資源は有用性があるが,観光地
としての江別市自体の認知度が低いこと,やきもののまちと言
いながらも江別市の協力体制があまり整っていないことが浮
き彫りになった.
2. 江別市の観光資源
2.1 やきものとは
やきものとは,天然の土や粉末状にした石などを窯で焼いて
作った器の総称のことであり,土器(どき),陶器(とうき),磁器
(じき),炻器(せっき)の 4 種類に分類される.現在,陶磁器の
国内生産出荷額の落ち込みは激しく,11 年前の半分(3036 億
円)に減っている.そこで,やきものを,生活用品などではなく,
ファイン・アートという,芸術的価値を専らにする活動や作品とし
て見直す動きがある.やきものをファイン・アートとして認識させ
ることができれば,大きな需要が生まれる可能性がある.また最
近では,海外で「日本文化はクール(かっこいい)」との認識が広
まっており,各地の東洋古美術商の間で,日本の現代陶芸が
着目されていることから,やきものの輸出のチャンスが訪れてい
る.
3. BSC による観光戦略の分析
2.2 江別とやきものの関係
古くは縄文時代の中頃,それまで南と北に分かれていた北海
道の土器文化は,江別を中心とした石狩低地帯において融合
し「江別式土器」「江別文化」と呼ばれる独特な土器文化を生み
出した.市内の遺跡からの発掘品 57 点は,有形文化財に指定
されている.江別のレンガ産業の歴史も北海道では古く百余年
を数え,明治期から「野幌れんが」の名で知られ,現在も道内唯
一のレンガ生産地として歴史を刻み続けている.そして戦後は,
陶芸界で釉薬の第一人者だった小森忍が野幌に移住し,晩年
を過ごした地でもある.ここで小森は,北海道の陶芸の基礎を築
き上げた.これらが「江別市陶芸の里条例」を制定し,江別市が
陶芸の里を目指した背景である.
連絡先:斎藤 一,北海道情報大学,北海道江別市西野幌
59-2,011-385-4411,[email protected]
図1
バランスト・スコアカード
3.1 戦略 BSC
前述した調査結果を基に,BSC(バランスト・スコアカード)
[ロバート.S.キャプラン 01]を用いて江別の観光戦略を分析す
る.BSC とは,企業や組織のビジョンと戦略を,4 つの視点から
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The 22nd Annual Conference of the Japanese Society for Artificial Intelligence, 2008
具体的なアクションへと変換して計画・管理し,戦略の立案と実
行を支援するとともに,戦略そのものも市場や環境の変化に合
わせて柔軟に適合させるための経営戦略立案・実行評価のフ
レームワーク,または,このフレームワークで利用させる達成目
標と評価指標を記載したカードのことである.これまでの調査を
基に,BSC を作成した(図 1).
3.2 江別の戦略マップ
戦略マップとは,目標とビジョンを達成するためのシナリオで
あり,目的を達成するために落とし込まれた各アクションの因果
関係や関連を図式化したものである.また,戦略の全体像を把
握することができるため,戦略策定の意義を認識するために非
常に有効なものである[ロバート.S.キャプラン 01].本研究では,
今までの取材を基に江別の戦略マップを作成した(図 2).戦略
マップにより,観光客増加には,観光客の満足度向上が欠かせ
ないこと,満足度向上には,交通の利便性の向上や外国人観
光客への配慮が必要であること.そして,これらを解決するには,
交通マップの研究や観光客のニーズを分析が必要,といった戦
略の一連の流れを把握することができる.
3.3 やきものの3次元データ化
上記 Web サイトのメインコンテンツとして,実際のやきものを
非接触 3 次元計測装置(Vivid910)を使用して, 3 次元データ
として取得しデジタルアーカイブとすることを試みている.
Vivid910 は,複数枚の静止画像と距離画像から 3 次元形状を
構成する.そのため,ターンテーブルに乗せた撮影対象を回転
させながら複数回の撮影を行い,その画像を基に 3 次元形状を
構成していく.
図 4 3 次元化したやきもののデータ
図 4 はこの方法を用いて取り込んだデータである.やきもの
を 3 次元データ化することにより,様々な角度からユーザの好き
なように観察することができる.これにより,写真や絵等の 2 次
元データよりも詳しくやきもののことを知ることができる.
また,SOM(Self-Organizing MAP)を用いて,作家の作品か
ら受ける印象等の作風の変化や,常滑焼,有田焼等の焼き方
による作品の違いを図表化することを試みている.これにより,
作品の解説,焼き方の解説と併せ,陶芸の鑑賞の仕方を学ぶ
手助けになると考えている.
図 2 江別市の観光戦略マップ
BSC および戦略マップには戦略の一つとしてやきものに関す
る Web サイトを構築することが挙げられている.これは,観光客
のニーズ分析から,やきものに対して興味の少ない層に対する
コンテンツが必要であるとの判断である.そこで,若者を対象と
したコンテンツを充実させ,江別市とやきものに対して興味を持
ってもらうことで江別市を訪れる観光客を増やすことを期待して
いる.本研究では,江別市をやきものに興味を持ってもらうため,
「やきもののまち江別を PR する Web サイト」を開発している.
4. まとめ
本研究では,江別市に存在する観光資源を有効活用するた
めに,窯業等の現状を調査し,BSC を用いて江別市の観光戦
略を策定した.また,現在構築中のやきもののまち江別を PR す
る Web サイトについて説明した.今後は,サイトの公開にむけて
3 次元化したデータを更に増やしていく予定である.そして,江
別市自体や,窯業関係者との協力関係を拡充し新たなコンテン
ツを提案していく必要があると考えている.
参考文献
[えべつやきもの市] http://www.yakimono21.org/ichi/
[ロバート.S.キャプラン 01] ロバート.S.キャプラン,
デビッド.P.ノートン著,櫻井通晴監訳:キャプランと
ノートンの戦略バランスト・スコアカード,東洋経済新新
報社 (2001)
[石井 07] 石井真人,斎藤一,向田茂,三浦洋,西平順,
前田隆:やきもののまち江別を PR する Web サイトの設計,
Info Hokkaido 2007,(2007)
図 3 3 次元データの取得と加工
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