H23 農業農村工学会大会講演会講演要旨集 [6-29(P)] バイオエタノール蒸留残渣液に含まれる黒色有機化合物の土壌中の挙動 Behavior in soil of black organic compound contained in vinasse from bio-ethanol production ○小宮康明 * ・ 川満芳信 * ・ 上野正実 * ・金城和俊 * ・ 冨永淳 * Yasuaki Komiya, Yoshinobu Kawamitsu, Masami Ueno, Kazutoshi Kinjo, Jun Tominaga 1.はじめに 宮古島ではサトウキビ糖蜜からバイオエタノールを効率よく製造し、そ の自動車燃料としての利用を推進する「E3実証事業」が実施されている。この事業では、 ア ル コ ー ル 製 造 量 に 対 し て 約 15倍 の バ イ オ エ タ ノ ー ル 蒸 留 残 渣 液 が 大 量 に 排 出 さ れ る た め、残渣液の多方面からの用途開発研究も進められている。その一つに、残渣液は多種多 量の水溶性無機成分を含むため特殊肥料としての利用が期待されている。その一方で、黒 色有機化合物も多量に含むため、畑地に施用した場合には畑地からの浸透による琉球石灰 岩層の地下水汚染が懸念されている。本報告では、蒸留残渣液に含まれる黒色有機化合物 の土壌中の挙動を明らかにし残渣液の畑地施用による地下水汚染の可能性を検討した。 2 . 実験 試 料 E3実証 実験施 設 から 排 出 さ れ た 残 渣 写真-1 サトウキビ糖蜜由来の蒸留残渣液の濁度 液(写真-1)の性質を表-1 に示す。残渣液は酸性で粘稠 性のある黒色の水溶液である。カリ、塩素、硫酸イオ ンなどの無機成分を大量に含んでいる。また糖類、酵 母、黒色色素(メラノイジン類やポリフェノール類と 原液 10倍希釈 50倍希釈 水道水 2720 272 54.4 0.0 されてい る)などのコロイド状の有機物を含んでいる。 これらを、ここでは黒色有機化合物と総称し、その含 有 量 は 強 熱 減 量 値 か ら 10 % 弱と 推 定 さ れる 。 供 試土 に は 沖縄 地 方 で島 表-1 蒸留残渣液の性質 尻マージと呼ばれ、宮古島にも広く分布する細粒暗赤色土を用いた。 この土は、一般に粘土分が多く弱アルカリ性を示す。 3.土壌カラム実験結果 pH 4.1 EC 4380mS/m 1.07g/cm3 密度 アクリル製円筒容器(内径18.4cm,長さ102cm) 動粘度 1.90mm2/s に 5mmフ ル イ を 通 過 し た 島 尻 マ ー ジ を 約 95cmの 高 さ ま で 緩 く 詰 め た カ ラ 水分 ム を 5 本 用 意 し 、 残 渣 液 の 原 液 (2 通 り の 散 布 方 法 )、 10倍 希 釈 液 、 50 倍希釈液、水 35 含水比 ( % ) 40 45 50 0.8 0 0 に、 毎 日 500 10 10 ml散 布し 計29 20 20 リットルを給 水し、排水孔 30 原液2 40 から流出した 50 浸透水の水質 60 を測定した。 * 1.2 4.2% 8 1.4 10 12 14 16 18 20 0 20 原液1 10培希釈 液 50培希釈 液 水道水 深 度 ( cm ) 回、 合 計 14.5 深 度 ( cm ) れ土壌表面 1 10.4% 灰分 強 熱 減 量 ( % ) 乾 燥 密 度 ( g/cm ) 55 30 原液2 40 50 原液2 40 10培希釈液 50培希釈液 60 水道水 10培希 釈液 50培希 釈液 水道水 60 図-1 含水比分布 深 度 ( cm ) 道水をそれぞ 3 85.4% 強熱減量 対数近似(原液) 80 対数近似(10培 希釈液) 仮想分布(原液) 100 図-2 乾燥密度分布 琉球大 学農学部 ,Faculty of Agriculture, University of the Ryukyus, ─ 654 ─ 蒸留残渣 液 図-3 強熱減量分布 環 境保全 土壌 地下水 浸透水の濁度は初期には小さいが、16回目付近から色づき徐々に増大する傾向が見られ た 。 図 -1~ 図 -3に 実 験 終 了 後 の カ ラ ム の 含 水 比 、 乾 燥 密 度 、 強 熱 減 量 (800℃ )を 示 す 。 50 倍液と10倍液のカラムでは水道水との違いは明瞭ではないが、原液散布カラムでは乾燥密 度と強熱減量がいずれも顕著に増加している。これは、黒色有機化合物が間隙空間に捕捉 されたことを示している。すなわち残渣液は土壌によって濾過され有機化合物は土壌表面 に近いほど多く捕捉され、強熱減量分布は対数曲線で近似される。そこで、原液に含まれ る強熱減量成分がすべて間隙に捕捉され対数分布すると仮定し、仮想分布曲線を求めた。 この曲線は実測値よりやや高めの値を示しているが、黒色有機化合物の流出も始まってお 50 り、この差は妥当な結果と思われる。 4.ライシメーター実験結果 コンテナ 40 ー(内寸 :W.99cm、L.145cm、H.97cm) 圃場土と同程度の密度に詰め、土層厚 30 濁 度 に 15mmフ ル イ を 通 過 し た 島 尻 マ ー ジ を 20 No.1 (75cm-10倍希釈) No.2 (75cm-水道水) No.3 (75cm-原液) No.4 (75cm-原液) No.5 (75cm-10倍希釈) No.6 (75cm-水道水) No.7 (40cm-10倍希釈) No.8 (40cm-原液) No.9 (60cm-原液) No.10 (60cm-10倍希釈) 残 水残 渣 水 道渣 残 水 水 水 液 道 水液 渣 道 道 道 散 液 水 散散 水 水 水 土粒子が懸濁していた 布 散 布布 散 散 散 散 布 布布 布 布 が75cm、 60cm、40cm(旧設計基準による 10 最低 土 層厚)の3種 類の簡 易型ライ シメ ーターを計12台製作し、残渣液の原液、 0 2/15 3/15 4/12 5/10 6/7 10倍 希 釈 液 、 水 道 水 を そ れ ぞ れ 適 宜 散 布 し 、 ま た 浸 透 水 を 採 水 し 、 pH、 EC、 7/5 8/2 8/30 9/27 10/25 11/22 2009年 図-4 浸透水の濁度の推移 濁度、硝酸態窒素濃度などを測定した。4台のライシメーターでは最終の残渣液散布(散 布 量 を 3回 に 分 け 計 86.1リ ッ ト ル ( 潅 水 60mm相 当 )) か ら 約 5 ヶ 月 後 に 採 土 し 、 pH、 EC、 強熱減量を測定した。図-4に浸透水の濁度の推移を示す。濁度は不規則に変動し、浸透水 は薄いカーキー色を呈するときもあったが、ほとんどの場合無色透明であった。この程度 の散布量 であれ ば40cmの層厚でも黒色有機化合物は濾過さ 強 熱 減 量 (%) れ土層か ら流出 することはないようである。図-5は土層の 7 た残渣液 が深度 40cmまで浸透したときの強熱減量の推定分 10 布を対数 曲線で 示した。10倍液散布の実測値は推定分布に のかなり の量が 土中で消 滅したことを示している。この原 因は土壌 微生物 による有 機物の分解と考えられ、その証拠 として、 残渣液 の散布に よる浸透水の硝酸態窒素濃度の増 大および土壌呼吸量の増加があげられる。 5.まとめ バイオエタノール蒸留残渣液に含まれる黒 20 深 度 (cm) い。この ことは 強熱減量 成分の主体である黒色有機化合物 9 10 11 12 13 14 15 0 強熱減量 分布を 示したものである。ま た図には60mm散布し 近似して いるが 、原液散 布の実測値はこれよりかなり小さ 8 30 40 50 60 原液(60cm) 原液(40cm) 10倍液(60cm) 10倍液(40cm) 原土 推定分布(原液) 推定分布(10倍) 図-5 強熱減量分布 色有機化合物は、土壌散布量が許容量以下であれば、土壌の濾過機能によって間隙に捕捉 され微生物によって分解される。したがって、畑地施用においては黒色有機化合物や硝酸 態窒素が土層から流出し琉球石灰岩層の地下水を汚染することがないよう土壌と作物の種 類を考慮した散布量、散布時期、散布方法、散布回数等をマニュアル化する必要がある。 本研究は(株)りゅうせきから沖縄農業研究会への委託研究「蒸留残渣液の特殊肥料とし ての利活用方法に関する研究開発」の一環として実施したことを付記し謝意を表する。 ─ 655 ─
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