低コヒーレンスリフレクトメータ

(1) 低コヒーレンスリフレクトメータ(OLCR)の開発
1980年代、光モジュールや石英系プレーナ光波回路(PLC)の進展と共に,特性向上を目
的として光デバイスの内部を非破壊で診断することが必要となり,高空間分解能リフレクトメータ
への需要が急速に高まった。そこで、1987年、当時開発されたばかりのスーパールミネッセン
ト・ダイオード(SLD)と単一モード光ファイバカプラを用いて、数十ミクロンの空間分解能で
反射分布を測定できる低コヒーレンスリフレクトメータ(OLCR)と呼ばれる高空間分解能リフ
レクトメータを考案して基本特許(図1)を取得し、論文発表、世界標準化を行った。
図1(特許第 1970693 号)
次に、雑音解析を通じて、OLCR系内や測定導波路の端面で生じる微弱な反射光と局発(LO)
光とのビート雑音がOLCRの反射率測定限界を決定する最大の要因であること見出した。雑音低
減のための指針が得られたので、測定系の改良によるビート雑音の低減とエルビウム添加光ファイ
バ光源の高出力化、光バランス回路の高性能化による強度雑音の低減によって、対数スケールにて
-161dB(約一京分の一)の前人未到の最少反射率測定限界を実現した(図2)。ちなみにガラ
ス表面の反射率は―15dB(約25分の1)である。このような世界に類を見ない高性能OLC
Rによって、世界で始めて、数センチメートルから10メートルに至るまでの光導波路において、
その後方レーリイ散乱分布から導波路の損失を非破壊で測定できるようになった(図3)。
図2
図3
さらに、高性能OLCRを装置メーカへ技術移転して商品化を達成した(図4、価格は約500
万円)。商品化にあたっては、偏波状態に依存せずに反射パワーを測定できることが絶対条件であっ
たが、高感度化のために不可欠な光バランス検波系と偏波無依存測定のための偏波ダイバーシテイ
系を両立させなくてはいけないというコヒーレント光通信研究分野の大問題が立ちはだかった。と
ころが、デポラライズされた無偏波光を偏光子に通過させた後にその偏波をファラデー回転子で9
0°回転させるか(図5)、または、無偏波光をファラデー回転子で90°回転させた後に偏光子を
通過させるか(図6)のいずれの方法によって、偏波状態に依存せずに反射光の光パワーを測定で
きることが判明し、両系を奇跡的に(整合性よくスムーズに)測定システムに組み込むことに成功
して商品化にこぎつけた。OLCRは現在では光モジュール等の反射分布を測定する標準的な装置
として世界中で使用されている。また、OLCR技術は、眼球や生体の検査用に立体的反射分布を
測定する光干渉断層診断装置(OCT)として改良され、世界中の医療機関や病院で使用されるに
至った。
図4
図5
図6
図6