H21 年度 1 学期 筑波大学 計量経済学 期末試験解答例 浅野 H21 年 6 月 25 日 (75 分) 問 1 設問 a),b)に答えよ。(10 点) 2つの生産要素、資本 K、労働 L の投入により生産物 Y は決まるとする。この関係は Y = f(K,L) a) と書ける。Y の K,L に対する弾力性はそれぞれ一定とする。線形回帰により関係を推定する際 の関数形を示し、係数の意味を述べよ。 lnY = α + βlnK + γlnL, β, γはそれぞれ生産物の資本,労働に対する弾力性。 第 3 の生産要素としてエネルギーE があるとする。Y の E に対する弾力性も一定、また技術進 b) 歩により生産性は毎年一定率で上昇するとせよ。この関係は Y = f(K,L,E,t)と書ける。ここで t は(2009,2010..等の)年を表す。線形回帰により関係を推定する際の関数形を示し、t に対応する 係数の意味を述べよ。 lnY = α + βlnK + γlnL+δlnE + λt, λ は技術進歩率 問2 (20 点) 42人の賃金率のデータについて古典的正規回帰モデル:Y = α + βX + ε があてはまるとする。 Yは 賃金率($/時)、 Xは性別を表すダミー変数(女なら1、男ならゼロ)である。元データはないが以 下の統計量は与えられている。 人数 平均賃金率 標本分散 男 21 15.0 3.0 女 21 12.0 5.0 a) (α, β) の意味を述べ、その推定値を求めよ。 α :男性の平均賃金、推定値 a = 15、 β:女性の平均賃金 − 男性の平均賃金 推定値 b = −3、 b) 回帰の残差二乗和RSSの値と回帰の標準誤差Sを求めよ。ヒント:標本分散はΣi(Yi− Y )2/(n−1) 男性データからの残差二乗和は(nM−1)SM2 = 20x3 = 60, 女性は(nF−1)SF2 = 20x5 = 100, 添字M(F)は 男(女)を表す。 RSS = 60+100= 160, S2 =RSS/(n-2)=160/40=4 =>S=2 c) 帰無仮説"賃金格差が無い"をパラメータ値についての仮定として示し、検定統計量の値を示せ (分数、平方根表示で十分)。検定統計量の分布を明記すること。 仮説は H0:β = 0, 検定量はt0 = b/SE(b) であり自由度40のt分布に従う。 係数の標準誤差はSE(b)2 = S2/Σixi2 (xi = Xi− X )の平方根である。 X はダミー変数の平均値であり、こ のデータでは1/2(女性は半分)。したがって、すべてのiにつきxi2= 1/4=> Σixi2 = 42/4 SE(b) = 2/ 42 / 4 、検定量 t0 = −3/( 2/ 42 / 4 ) d) ここでは男女の賃金の分散は同じと仮定しているが、この仮定自体を検定する方法と検定量の 値を示し、検定量の従う分布が何かを述べよ。 正規分布からの無作為標本については(n−1)S2/σ2 ~ χ 2 (n−1)が成立。 SM2,SF2をそれぞれ男女の賃金の標本分散とする。WM = (nM−1)SM2/σM2~ χ 2 (nM−1), WF = (nF−1)SF2/σF2 ~ χ 2 (nF−1)、WM,WFは独立。 よってF = {WM/ (nM−1)}/{WF/ (nF−1)}= (SM2/σM2)/(SF2/σF2) ~ F(nM−1, nF−1 )、 1 H21 年度 1 学期 筑波大学 H0: σM2= σF2 の下ではF0 = SM2/SF2は自由度(nM−1, nF−1)のF分布に従う(テキストP.280、例2参照)。 F0= SM2/SF2 = 3/5, F0は自由度(20,20)のF分布に従う。検定は両側(F1−α/2< F0<F α/2なら仮説を棄却し ない)。 問3 (25 点) モデル Yi = α+βXi+εi に対応するデータ行列 Y,X (n=4)は以下の通りである。 ⎡0⎤ ⎢0⎥ Y= ⎢ ⎥ , X = ⎢2⎥ ⎢ ⎥ ⎣2⎦ ⎡1 −1⎤ ⎢1 0 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢1 0 ⎥ ⎢ ⎥ ⎣1 1 ⎦ a) Y を X に回帰した時の係数ベクトル b = (b1,b2)’を求めよ。b = (1, 1)’ b) 回帰の残差二乗和、回帰の標準誤差(S) 、決定係数を求めよ。 0⎤ ⎡0⎤ ⎡ ⎢1 ⎥ ⎢ −1⎥ ˆ = ⎢ ⎥ , e =Y− Y ˆ = ⎢ ⎥ , RSS=2, S2 = RSS/(n−k) = 2/2 = 1=> S=1, R2 = 1− RSS/TSS = 1− 2/4 = 0.5 Y ⎢1 ⎥ ⎢ 1 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ ⎣2⎦ ⎣0⎦ c) 係数ベクトルの第 2 要素 b2 の標準誤差を求めよ。 SE(b2) = 1x 1 / 2 = 1/ 2 d) b の分散行列の推定値を示せ。(ヒント:2x2 行列になる) ⎡1 / 4 0 ⎤ ˆ ( b) = S2(X’X)-1 = 12 ⎢ ⎥ Var ⎣ 0 1 / 2⎦ e) , X 行列の 1 列目を X1,2 列目を X2 とする。残差回帰(FWL 定理-1)のステップ1の結果を Y とする。 Y ,X の値およびステップ 3 の式とその結果(数値)を示せ。 ステップ 2 の結果を X 2 2 問題で X1(定数項)に補助回帰して残差を作る操作は、各変数を標本平均からの偏差を作ること。 したがって、 ⎡ −1⎤ ⎡ −1⎤ ⎢ −1⎥ ⎢ ⎥ =⎢ ⎥ , X = ⎢ 0 ⎥ , b2 = ( X 'X −1 ' Y 2 2 2 ) X 2Y = 1 ⎢ 1 ⎥ ⎢ 0 ⎥ ⎢ ⎥ ⎢ ⎥ 1 1 ⎣ ⎦ ⎣ ⎦ 問4 (30点) 計量経済学を履修中のT君は2つの学習塾(AとB)でアルバイト教師をしている。T君は塾の模擬試 験の点数(Y)は生徒の勉強時間(S)と知能指数(Q)に依存し、線形モデル: Y=α + βS + γQ + ε があて はまると考えた。以下は塾教師のみが知ることができる個人情報から得られた4つの回帰結果であ る(標本数は塾A:30、塾B:12)。 なおDは塾Bを示すダミー変数である。 (1) 塾A Y = 10.0 + 0.80S + 0.10Q, R2 = 0.60, n = 30, RSS = 1200 (2) 塾B Y = 18.0 + 0.60S + 0.07Q, R = 0.60, n = 12, RSS = 600 (3) Pooled 1 Y = 15.0 + 0.70S + 0.08Q, R = 0.50, n = 42, RSS = 2400 2 2 2 H21 年度 1 学期 筑波大学 (4) Pooled 2 = 10.0 + 0.80S + (ア)Q +(イ) D + (ウ)D × Q Y 2 R = (エ), n = 42, RSS = (オ) + ***D × S a) T君は勉強(S)をよくする生徒は知能指数Qも高い傾向があることに気がついた。実際、塾Aにつ いてQをSに回帰すると結果はQ = 100 + 0.5Sであり係数は有意だった。 塾AのデータでYを(定数項と)Sだけに回帰するとSの係数はいくつになるか。 dY/dS = 0.8 + 0.10dQ/dS = 0.8+0.10x0.5 = 0.85 b) 空欄(ア)、(イ)、(ウ)に入る数字は何か。 0.10, 8.0, −0.03 c) 空欄(エ),(オ)に入る数字は何か。(分数表示で十分) 30/48, 1800 d) 仮説:「2つの塾の構造に違いがない」を検定する検定量を示し、検定量の従う分布を述べ、 有意度5%で検定する手続きを説明せよ。 検定量 F0= {(2400−1800)/3}/{1800/(42−6)} = 4 。F0は帰無仮説の下で自由度3,36のF分布に従う。 F0>F0.05なら有意度5%で仮説を棄却する。 e) T君は知能指数Qが高い生徒ほど勉強時間Sの限界効果は高いのではないかとの疑問をもった。 上記の推定結果からT君の疑問に答えることはできるか。できると「思う」、「思わない」を 明らかにし、どのような統計的手続きを行えばよいか簡潔に説明せよ。(「思う」場合は上の 結果をどのように使うか、「思わない」場合はどのような追加的な回帰式を推定するか説明す ること。) 思わない。説明変数に QとSの交差項を加える。これによりSの限界効果はQの線形関数となり、も し限界効果がQにより変化するなら交差項の係数は有意となるはず。 問 5 設問 a),b),c)に答えよ。(15 点) ⎡ 1⎤ ⎡2 1⎤ 2 次元正規分布に従う確率ベクトル Y につき E(Y) = μ = ⎢ ⎥ , Var(Y) = Σ = ⎢ ⎥ である。また、 ⎣1 2⎦ ⎣ −1⎦ ⎡1⎤ 定数ベクトル a = ⎢ ⎥ , ⎣1⎦ ⎡1 1⎤ 定数行列 B = ⎢ ⎥ ⎣0 1⎦ とする。 a) E(a’Y), Var(a’Y) を求めよ。 E(a’Y) = a’μ = 0, Var(a’Y) = a’Σa = 6 b) E(BY), Var(BY) を求めよ。 ⎡ 0⎤ ⎡1 1⎤ ⎡ 2 1 ⎤ ⎡1 0⎤ ⎡6 3⎤ E(BY) = Bμ = ⎢ ⎥ , Var(BY) = BΣB’ = ⎢ ⎥⎢ ⎥ ⎢ ⎥= ⎢ ⎥ ⎣ −1⎦ ⎣0 1⎦ ⎣ 1 2 ⎦ ⎣1 1⎦ ⎣ 3 2 ⎦ a) (B(Y−μ))’B’-1Σ-1B-1B(Y−μ) の従う分布は何か述べ、その理由を簡潔に説明せよ。 自由度 2 のカイ二乗分布。理由:平均ゼロの多変量正規分布に従う確率ベクトルεについての 2 次形式ε’Var(ε)-1ε となっている。自由度はεの次元(ここでは 2)。 3 H21 年度 1 学期 筑波大学 期末試験結果および成績 基本統計量 期末 総合 77 77 平均 49.8 53.9 標準偏差 14.9 13.9 最高 82 84 最低 16 20 n 成績の基準と分布 成績分布 成績の基準 人数 期末 総合 A 9 75 75 以上 B 23 58 58 以上 C 33 45 42 以上 D 12 45 42 未満 注意 総合は(中間+期末)/2 期末のみの成績により最終成績が上がった人数 B=>A 2人、C=>B 5人、D=>C 2 人。2 段階以上「改善」した人数はゼロ。 期末のみ受験して単位を取得したのは 3 人中 2 人。 期末点数の分布 100% 25 90% 80% 20 70% 60% 15 50% 40% 10 30% 5 20% 10% 0 0% 10 20 30 40 50 60 70 80 90 総合点の分布 25 100% 90% 20 80% 70% 15 60% 50% 10 40% 30% 5 20% 10% 0 0% 10 20 30 40 50 60 4 70 80 90
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