自分の病院のように - 大日本住友製薬 医療情報サイト

キーワードは“ともに診る”
と
“自分の病院のように”
利用される開放型病院になるために
一人の患者さんに継続した医療を提供する、そのための地域医療連携システムの
一つとして開 放 型 病 院と共 同 指 導があります。開 放 型 病 院は、病 院の病 床や設 備を
地域のかかりつけ医(登録医)に開放した病院であり、開放型病院にかかりつけ医が
赴き、病院医師とともに診療する「開放型病院共同指導」を行うことができます。病診
連携のシステムとしては理想的な形と言えるかもしれませんが、積極的な開放型病床
の活用や充実した共同指導の実施は、なかなか難しいのが現状のようです。
そこで今 回は、いかに地 域の診 療 所の先 生 方に開 放 型 病 院を使っていただくかを
考えてみました。
“自分の病院のように”
来院してもらう
医 師 会 、射 水 郡 医 師 会 、富山 市 歯 科
医 師 会 )の 医 師 8 名 が 参 加 する開 放
開 放 型 病 床を地 域 の 先 生 方に利
型病床運営委員会を開催して協議を
用してもらうために最も大 切なことは、
重ね、同年10月に開放型病院となりま
「『 患 者 様を一 緒に診ていきましょう』
した。さらに当初20床でスタートした病
と伝え続けること」と話すのは、富山市
床数を、
わずか半年後の1996年2月に
立 富山 市 民 病 院( 6 7 6 床 )の胸 部・血
3 0 床に増 床しました 。現 在の 登 録 医
管 外 科 主 任 部 長であり、開 放 型 病 床
は2 0 0 名 、開 放 型 病 床の稼 働 率は9 0
診療部長の草島義徳先生です。
∼ 1 0 0 %で推 移しており、月に行われ
同院では1995年4月に地元医師会(富
る共同指導は60回を数えます。
山 市 医 師 会 、滑 川 市 医 師 会 、中 新 川
「 医 師 会の先 生 方の多 大なるご協
富山市民病院 開放型病床診療部長
草島 義徳 先生
力 が あったことが
その 姿 勢は 、同 院の 敷 居の 低さに
大きか った 」
(草
なって表れており、開放型病棟担当師
島先生)
ことに加え、 長の中井けい子 氏は「 登 録 医の先 生
富山市立 富山市民病院
できるだ け 多くの
が話しかけるのを待つのではなく、
こち
診療所の先生方
らから話しかけるようにスタッフに指 導
と共 同 指 導ができ
している」と話します。
るように、常に「 一
確かに「自分の病院だと思ってご自
緒に患者様を診て
由に」と言われても、外 部の医 師にす
いきましょう」という
れば、
なかなかそうはいきません。遠慮
姿 勢を示し続けて
したり、勝 手がわからなかったりと、何
きたと言 います 。
かと戸惑いも多いはずです。
「ですから、
検討会には毎回15∼20
ては「何といっても患者様が安心される」
名 の 登 録 医 が 参 加し 、 ( 草島先生 )
ことが挙げられます。いざ
病棟に配置されたカルテ棚。登録医からの紹介患者は、ファイルの色を
分けてすぐに識別できるようにしている。
病院側からは25∼30名
入 院となれば 、ほとんどの 患 者さんは
の 医 師 が 参 加 するとい
不安を抱くものです。そこへ 、
いつも診
う盛況ぶりです。
てくれているかかりつけの先生が現れ
1 回に5 症 例の検 討を
れば、多くの患者さんはホッするという
行いますが 、必 ず 1 時 間
わけです。
で終えるようにしている
中 井 氏も「かかりつけ 医の 先 生 が
そうで す 。勤 務 後 で 疲
共同指導に来られていると、家族の方
れ ている先 生 方も多 い
の 安 心 感も大きく違ってきます 。退 院
ため、いたずらに時間が
時の受け入れなどの対応が違ってくる
こちらからカルテをお渡ししたり、患 者
長くなると負担が大きくなり、次の機会
様の入院生活の様子をお伝えしたり、
に出 席してもらえないこ
積 極 的に登 録 医の先 生に話しかける
ともあります。長く続けて
よう心がけています」と中井氏。
いくためには、出 席 する
病院側にとっても、登録医とのコミュ
登録医の先生方の事情
ニケーションを深めることで「逆に私た
も踏まえ、無 理のない方
ちが知らない患者様の情報をいただく
法でやっていくことが 大
ことができ、
より質の 高い治 療や看 護
切なようです。
こともありますね」と説明します。
につなげることができます」
(中井氏 )
。
症例検討会で
コミュニケーションを深める
メリットの大きい
共同指導
草 島 先 生は 、開 放 型
また、登 録 医が病 院に来たときだけ
病 床の 利 用を活 性 化さ
ではなく、
日頃から「顔を合わせる機会
せるためには、
「 地 域の
を作り、登録医の先生方とコミュニケー
先 生 方 、そして 患 者 様
ションを図っておくことが大 切」と草 島
にもメリットを感じてもらう
先生。
ことが 大 切です 」と話し
同院では開放型病床を設置した当
ます 。実 際に同 院では、
時から、毎月、開 放 型 病 床に入 院した
開 放 型 病 床を利 用する
患者さんの症例検討会を行ってきまし
と「最優先で入院できる」
た 。症 例 検 討 会はすでに1 0 0 回を超
ということを約束するとと
えており、
「 検 討 会で出される症 例の
もに、入 院の判 断はあく
かかりつけの 先 生には、必 ず 連 絡 す
までもかかりつけ医に委
るようにしています」と細かい配慮も見
ねています。
せます。
また、共同指導に関し
富山市民病院の地域医療連携室・看護師長 高畑由記子氏(左)と開放
型病棟担当師長 中井けい子氏(右)。開放型病床を有効に活用し、地
域医療機関との関係強化に努めている。
富山市民病院内に設置された登録医師ための控え室。医師の休憩だけ
ではなく、患者さんとの談話の際などにも使われている。医師会より事
務員が派遣されており、登録医にとっても使い勝手のよい控え室となっ
ている。
に 比 べ て 、より多く
かを判断できるため、
「効率的なリハビ
の 患 者 情 報を持っ
リテーションができ、通 常の 入 院 患 者
ています。現在の状
様に比べると早い段 階での在 宅 復 帰
態はもちろん 、病 歴、 が可能なこともある」
( 草島先生 )
と言
ホームページ上でも開放型病棟の利用方法が丁寧に案内されている。
Q O L 、生 活 状 況 、
います。
家 族の状 況や介 護
一方、経済的なメリットとしては、
「開
力など 、あらゆる面
放型病院共同指導料」
(左下囲参照)
の 情 報を保 有して
があります 。同指 導 料は、患 者 1 人 1日
いるのがかかりつけ
につき、診 療 所 側で3 5 0 点 、病 院 側で
医であり、その情 報
220点が算定でき、退院時に自宅復帰
を 入 院 中 にも活 か
する患 者さんを対 象に共 同で退 院 指
すことによって 、継
導を行った場合には、
「退院時共同指
さらに「 患 者さんに対して継 続した
続した医 療が 展 開できます 。加えて、
導 加 算 」として診 療 所 側は3 3 0 点 、病
医療が提供できること」も大きなメリット
これらの細かな情報により、
どの程度ま
院側は430点が算定できます。
です。かかりつけ医は、病院のスタッフ
で回 復 すれば自宅 療 養が可 能かどう
もちろん、その分 患 者さんの負担は
増えますので、開 放 型 病 床の 入 院 及
<開放型病院共同指導料>
び 共 同 指 導に関しては、事 前に説 明
し納得してもらうことが大切です。
○開放型病院共同指導料(Ⅰ)
〔診療所側〕 350点(患者1人1日につき1回)
・退院時共同指導加算 330点
○開放型病院共同指導料(Ⅱ)
〔開放型病院側〕220点(患者1人1日につき1回)
・退院時共同指導加算 430点
ストレスを感じさせない
病院に
多くの 地 域のかかりつけ医に利 用
してもらうには、
“利 用しやすい病 院 ”
になることが大切ですが、実際に開放
型病院を利用するかかりつけ医たちは、
<開放型病院共同指導料の主な施設基準(要約)>
①当該病院の施設・設備の開放について、地域医師会等と開放利用に関わ
る合意(契約等)が得られており、かつ病院の運営規定等に合意内容が
明示されている
どのように考えているのでしょうか。
岡山市の医療法人 佐藤医院院長
の佐 藤 涼 介 先 生は「まずはスタッフの
対 応 が 気 持ちよいこと」を挙げます 。
②当該2次医療圏の当該病院の開設者と直接関係のない(雇用関係にない)
20診療所以上の医師又は歯科医師が登録している。もしくは、当該地
域の医師・歯科医師の5割以上が登録
③開放病床は概ね5床以上
佐 藤 先 生は、地 域 病 院に積 極 的に患
者さんを紹介するとともに、毎週水曜日
の 午 後を「 病 院 訪 問日」とし、共 同 指
導などを積 極 的に行っています 。そん
④届出前30日間に一定以上の開放病床の利用、共同指導の実績がある
⑤地域医療支援病院は①∼④までを満たしているものとして取り扱われる
な“ 共 同 指 導に慣れている”佐 藤 先
生でも「自分が勤務していない病院で
の診 療・指 導は、ストレスを感じること
が多い」と話します。特にあまり馴染み
「こういうケースにも即座に対応しても
備を整えておきます 。もちろん、事前に
のない病 院では、勝 手がわからないこ
らえる」と中山先生は話します。
電 話をかけてから訪 問 する登 録 医ば
ともあって、気疲れすることが多いそう
かりとは限りませんので、突 然 訪れた
「 そんなときにスタッフの 方々の 対
ときには規則にとらわれない
柔軟な対応を
応が良いと、気 持ちよく共同指 導に出
富山市民病院の「開放型病床利用
心がけています」
( 塩見氏 )
。
向ける」と佐 藤 先 生 。
「こんにちは、お
の手引き」には、共同指導の時間は「原
富山 市 民 病 院の中 井 氏も「中には
疲れ 様です 」といった 何 気ない 一 言
則として午前9時から午後5時まで」と
朝の診 察が始まる前 、7 時 頃に来られ
でも、外 部 の 医 師にとってはとても大
記 載されています 。また、四 天 王 寺 病
る先生もおられますが、
いつ来られても
切なことだと話します 。前 述の富山 市
院 の 運 営 規 則には 登 録 医 の 診 療 時
気持ちよく診療していただけるよう、体
民 病 院における「 積 極 的に登 録 医に
間は「原則として午後1時から4時まで」
制を整えています」と話します。
話しかけるようにしている」という心が
となっています。
このほか緊急時の対応は、かかりつ
けは 、登 録 医 の 立 場 から見ても好 感
このように、多くの開放型病院では、
け医としても特に気になるところです 。
を持って迎えられていることがわかり
登録医の診療時間を設定していますが、 「 患 者さんの容 態が急 変したときには、
ます 。
自院の診療時間の合間を縫って診療・
電話一本で受け入れてくれるという柔
また、同じように開放型病院をよく利
指 導に訪れる登 録 医は、常に病 院 側
軟な対 応も、かかりつけ医にとっては
用している大 阪 市 浪 速 区の中 山クリ
が決めた時間どおりに病院に来られる
ありがたい」と中山 先 生 。患 者 宅から
ニック院長
中山博文先生は、
「多少
とは限りません。中山 先 生も「 在 宅 診
直 接 、病 院 へ 搬 送して入 院させる場
の無理は聞いてもらえる病 院はありが
療の帰りや夜の診療が終わった8時頃
合などには、紹介状など所定の書類が
たい」と語ります。
に訪 問 することも多いのですが 、
(四
書けないことも少なくありません。そん
例えば 先日あった膀 胱 がんを併 発
天 王 寺 病 院では)そんなときでも病 棟
な時に「とにかく電話一本で受け入れ
した鬱状態の独居高齢者のケースでは、 にきちんと連絡が届いていて対応して
てくれる」体 制が 整っていれば 、非 常
膀 胱がんの手 術を終えて自宅に退 院
いただけるので、
とても助かります 」と
に助かるのだと話します。
したものの 、入 院による廃 用症 候 群と
話します。
共同指導の時間、検査予約の方法、
です。
登録医に対しても、
「即座に病院側の
担 当 医に連 絡を入れるなどの 配 慮も
鬱状態のために在宅生活に適応できず、 四 天 王 寺 病 院・地
食 事も十 分とれないために再 入 院 が
域医療連絡室担当主
必要という状況に。手術をした病院は
任の塩見和之氏も「院
急 性 期 病 院で病 院の 主 治 医は泌 尿
内各部署への連絡体
器科であるために対応が難しく、早速、 制については、特に気
連携先の開放型病院である社会福祉
を遣っています 」と話
法人四天王寺福祉事業団 四天王寺
します 。同 院では、共
病 院( 大 阪 市 天 王 寺 区 、2 2 5 床 )に受
同 指 導に 赴く旨の 連
け入れを要 請したところ、ベッドもすぐ
絡が登録医から入ると、
に用意してもらい、
スムーズに入院する
連 絡 室 スタッフが 病
ことができました 。普 段から登 録 医と
棟や主 治 医に連 絡し、
病院側の関係がしっかりとできていれば、 カルテなど 必 要 な 準
入院中の患者さんを診察する佐藤先生。入院中もかかりつけ医がベッドサイドを
訪れることで、患者さんの安心感が得られ、退院への動機付けも高まるという。
患者紹介の方法など、所定のルールを
日本ではまだまだ米
設けている病 院がほとんどですが、診
国のような「 病 院に入
療所医師の立場になって臨機応変に
院しても主 治 医 は か
対 応 することも、病 院 側の 姿 勢として
かりつけ 医 」といった
大切なことだと言えそうです。
完 全なオープンシステ
ムは希なケースですが、
今回は開放型病院の立場、それ
か かりつ け 医と病 院
を利 用するかかりつけ医の立 場 双 方
が連携を深めていくこ
から、利用しやすい開放型病院のあり
とで 、
より質 の 高 い 継
方を考えてみました。しかし基 本はや
続 的な医 療を提 供 で
はり「 一 緒に患 者さんを診ましょう」と
きるようになるはすです。
いう病 院 側の姿 勢と、それに応えるか
そして、
それが患者さんにとっても大き
かりつけ医の姿勢です。
なメリットになると言えるでしょう。
ナースステーションに立ち寄り、入院中の
患者さんのカルテを確認する中山先生。
普段からコミュニケーションがとれており、
病棟看護師との連携もスムーズだ。
デイケアの患者さんにも訪問指導
少しでも早い自宅復帰を目指す
前 出 の 佐 藤 先 生 は、開 放 型 病 床に出 向 き、積 極 的に
本 人 は自 宅 復 帰を 希 望し
共 同 指 導を 実 施しているかかりつ け 医 の 一 人 で 、そ の
て い ま す が 、家 族 の 負 担 を
数は毎 週 約 5 ∼ 1 0 人 程 度に上ります。ただ、佐 藤 先 生
考えると介 護 施 設 へ の 入 所
の ユニ ークな 点 は、そうやって 病 院に出 向 い て 診 療 す
に なりそうで す 。そ こ で 佐
る患 者さん の 約 半 分は、自院が併 設するデイケア・デイ
藤 先 生 は 、主 治 医 と な る 診
サービスの利用者であることです。
療 所 の 医 師 や 病 院 医 師 、家
もちろん、
この場合はかかりつけの医師は別にいるこ
族 を 交 えて カンファレンスを 開 き 、自 宅 復 帰 の た め の
ともあり、佐 藤 先 生 は「 主 治 医 」にはならず 、共 同 指 導
提 案をしました 。電 動 ベッドを 入れて、そ の 上で 過ごす。
料も算定していません。しかし佐藤先生は「デイケアや
おしめ は巡 回 型 ヘ ル パ ーを 1 日 4 ∼ 5 回 入 れ て 替 える
デイサービスで日常生活動作やリハビリテーションを診
ことで 家 族 の 負 担 を 減らす 。週 3 回 の デイケアでリハ
ている医師として入院治療にも関わることで、少なから
ビリテーションを行うとともに、入浴もそ の際に――。
ず患者さんにもメリットがある」と話します。
「 具 体 的 な 青 写 真 が 示 せ れ ば 、家 族 も 受 け 入 れ や
先日訪問した女性患者さん(93歳)は、昨年3月に大
すくなります 」と佐 藤 先 生 。まだ 最 終 的 な 結 論 は 出 て
腿骨骨折によって入院。骨粗しょう症が進行しており、入
いませ ん が 、患 者さん は 年 末には自 宅 へ 帰 れることに
院中にも骨折を繰り返し、歩行不能となってしまいました。
なりそうで す 。「 入 院 期 間 中 も 患 者 さ ん の 様 子 を 常 に
患者さんは骨折前、佐藤医院のデイケアに通っていたた
見 続 け てきた からこそ 、自 宅 へ 帰 す 方 法を 見 つ け るこ
め、入 院 後も佐 藤 先 生は定 期 的に病 院を 訪れて様 子を
とができた。これも病院を訪問することのメリットですね」
診てきました。
と佐 藤 先 生 は 語って い ま す 。
医療法人佐藤医院
院長 佐藤涼介 先生