2001 年 3月 APA No. 78-6 財団 法人 日本測量調査技術協会 沼 田 洋 一* 1.研究の目的 田 村 正 行** ーザプロファイラによる地形・森林計測をおこなっ 近年、地球温暖化が大きな社会問題となっている。 た。その結果を現地の状況と比較検討したところ、森 森林は地球温暖化の主な要因である二酸化炭素を固定 林の形状がよく把握されていることがわかった。ただ する機能があるため、森林バイオマスを広域にわたっ し、これを実測値と比較検証したところ、定量的には て評価することは地球温暖化を予測する上で重要な課 必ずしも十分な精度が得られなかった。しかし、これ 題である。広域の森林バイオマスの評価に際して樹高 は実測値にも原因があるため、今後、検証方法を改善 は重要なパラメータであるが、これまでその測定は航 することにより、より高い計測精度が示される可能性 空写真測量に頼らざるを得ず、十分な精度が得られな があると考えられる。 かった。 また、樹高はこのような地球環境分野のみでなく林 3.レーザプロファイラの計測原理 業における森林管理の場面でも重要な要素であり、そ 図1にレーザプロファイラの計測原理の概念図を示 の方面でも、やはり効率的かつ高精度な測定方法が望 す。このように、レーザプロファイラとは航空機に走 まれていた。 査式レーザ測距儀、GPS および IMU(Inertial そこで、最新の測量技術である航空機搭載レーザプ Measurement Unit)を搭載したものである。航空機の ロファイラによって広域の樹高計測手法を確立するこ 進行と垂直方向にレーザ光が走査されるので、飛行と とを目的として研究をおこなった。 ともにジグザグ状に地上フットプリントが並ぶことに なる。各フットプリントには、GPS による航空機の 2.研究の概要 3次元位置データ、IMU による航空機の姿勢や方向 レーザプロファイラは、航空機に搭載されたレーザ 計測装置であり、地表面の形状を面的に計測するもの データ、およびレーザによる対地距離データを合わせ ることで、地理座標(x、y、z)データが付与される。 である。森林地帯ではレーザ光が樹冠と地面それぞれ レーザ光のビーム径はきわめて細く、例えば対地高 から反射されるため、それらの高さデータの差し引き 度 1,000m でも直径 30cm 程度である。そのため、森 により樹高分布を面的に計測することができる(高槻 林地帯でもわずかな樹冠の隙間を通してレーザが地面 ら 1999)。しかし、そのような事例はまだ少ないた に到達する(図2断面図例を参照)。これにより、地 め、手法の検討と計測精度の検証をおこなった。 面と樹冠の両方を計測することができる。 計測に先立って、的確な計測条件を検討するために 簡易なシミュレーションをおこない、必要なフットプ 参考までに本研究で使用した ALTM1020(カナダ OPTECH 社製)の主要な仕様を表1に示す。 リント(レーザが照射された点)の密度を検討した。 そして、その結果を踏まえてテストサイトにおいてレ ― 52 ― 図1 レーザプロファイラ計測原理の概念図 図2 レーザプロファイラによる森林計測結果の断面図例 ― 53 ― 表1 ALTM1020 の主要な諸元 図3 ワイヤーフレームで表現した森林モデル形状 4.シミュレーションによる最適なフットプリント間 隔の検討 4.1 し、かつ地表面にも地形形状があるため、ある程度不 規則な並びになる。そこで、ここではモンテカルロ法 シミュレーション手法 を採用して、フットプリントの水平位置(x, y)をそれ (1)森林モデル ぞれを乱数で与えることとした。フットプリント間隔 個々の樹木の大きさや形状は、樹種,林齢,生育条 は、一定面積に照射するフットプリントの個数によっ 件などで異なる。さらに、実際の森林は混交状態であ て調整し、0.5,1,2,3,5,10m の6通りに設 ることが多いため、多様な大きさ・形状の樹木の集合 定した。なお、各フットプリント間隔それぞれ 1 回づ 体であると考えられる。しかし、ここでは簡単のため つの計算では、偶然性による結果の偏りが危惧される に理想的なモデルを考えて、個々の樹木は同一形状の ため、4回づつ計算をおこなった。樹木の本数は 25 円錐形で与えることにした。円錐の高さ、底面の直径 本で与えているので、これによりそれぞれ延べ 100 本 および森林内での密度は、現地の林分状況に近い値で ずつのデータで精度評価をおこなえるので、サンプル 与えている。表2に森林モデルの各パラメータ、図3 数としては妥当と考えられる。 に森林モデル形状をワイヤーフレームで表現したもの (3)精度評価手法 を示す。 樹冠(計算上は円錐の側面)にあたったレーザ光は、 (2)レーザプロファイラ計測モデル それ以上透過せずにそこで全て反射されて検知される フットプリントは、機体の揺れなどがない理想的な ものとする。これにより、照射された全てのフットプ 飛行条件で、地表面が水平かつ平坦であれば、単純な リントによって森林の形状が与えられることになる。 ジグザグ線上にほぼ等間隔で並ぶことになる。しかし、 ただし、レーザは必ずしも樹頂には照射されないため、 実際には機体はロール・ピッチ・ヨー角が常に変動 そのままでは真値と比較することができない。そのた め、ランダムなフットプリントをもとに TIN 表2 森林モデルのパラメータ (Triangulated Irregular Network)を発生させ、樹木 (円錐)の中心位置に対応する TIN 上の高さをもって レーザによる樹高計測値とし、それとあらかじめ設定 された値を比較することで樹高計測精度を評価した。 その際、地形は標高ゼロで平坦であると仮定している。 4.2 シミュレーション結果 ― 54 ― 図4 a)∼ f)に、6通りのフットプリント間隔で計算 リントがあれば、多少は樹頂の形状が丸められること して求められた森林形状の例をワイヤーフレーム図で があるものの、ほぼ正確に森林形状を再現できること 示す。実際にはそれぞれ 4 通りずつの図が生成されて が示された。 いるが、森林の表現性能は視覚的にいずれも同等であ った。このように、2 m 四方に1点程度のフットプ 次に、それぞれのフットプリント間隔での計算結果 図4 シミュレーションにより再現された森林モデル形状の例 ― 55 ― 図5 フットプリント間隔に対する樹高計測 RMS 誤差 図6 モデルによる最大誤差の違いの概念図 について、延べ 100 本の樹高計測精度を RMS(Root 台地となっている。また植生としては、広葉樹林主体 Mean Square)誤差で評価したものを図5に示す。定 の自然林の中に人工的にコントロールされた広葉樹 性的には2 m 四方に1点で十分と考えられたが、そ 林,針葉樹林が明瞭なパターンで分布しているため、 の条件では、このように定量的に約5 m という大き 本研究のテストサイトとして適している。さらに、そ な計測誤差を示す。この誤差は、フットプリントが必 の一画に高さ 25m、アーム長約 40m のゴンドラがあ ずしも樹頂に照射されず、その周囲に照射されたもの り、その回転半径内の樹高が計測されている。そこで、 から内挿して樹高を求めているために発生するもので 演習林内約5 km 四方を対象として計測をおこなった ある。つまり計算上、樹冠層の最低部と樹頂部の高度 上で、ゴンドラを中心とする半径 40m の円内(以後 差分の誤差が発生し得る。本モデルでは簡単のため、 検証用サイトと称する)で計測精度の検証をおこなっ この差が樹高と等しく与えられているが、実際には樹 た。なお、ゴンドラ周辺は広葉樹主体で、樹高は約5 冠層は樹木の中間から上部にかけて位置するので、こ m から 25m 程度である。 れよりは誤差は小さいものと考えられる(図6参照)。 例えば、樹冠層が樹木の上部 1/2 程度、樹冠形状の凹 凸などから許容される RMS 誤差を2 m と仮定する と、グラフ上では2倍の4 m となり、必要なフット プリント密度は約 1.5m 四方に1点ということになる。 そこで、計測にあたってはフットプリント密度が約 1.5m 四方に1点程度となるように計画することにし た。 5.レーザプロファイラによる樹高計測手法の検討 5.1 計測方法 (1)テストサイト テストサイトは北海道大学苫小牧演習林である(図 7参照)。地形的には標高 100m 以下の比較的平坦な 図7 a) テストサイト位置図 ― 56 ― よる機体の姿勢や方位データおよびレーザ照査方向の 対地距離データである。これらを統合してフットプリ ントごとの(x,y,z)データを求めた後、落葉期データに 関しては統計的な手法により地形を表すデータのみを 抽出した。繁茂期データに関しては上記手法により求 められた(x,y,z)データを全て使用した。 次に、ランダム点データであるこれらフットプリン トの(x,y,z)データをもとに、落葉期・繁茂期それぞれ のデータから TIN を発生させた上でメッシュ化し、 その差し引きによりテストサイト全体の樹高メッシュ 図を作成した。ただし計測精度検証に際しては、繁茂 期のフットプリントの高さデータから、そのフットプ リント水平位置に相当する落葉期データの TIN の高 さデータを差し引いたものをもって樹冠形状を表すデ 図7 b) テストサイトの樹冠の状況 ータとした。そして、それを実測による樹木位置から 一定の範囲内にあるこれら樹冠形状データの統計値と (2)レーザプロファイラ計測条件 比較することにより、計測精度を評価することにした。 計測は、1998 年 11 月上旬(落葉期)に地形計測を 主目的として1回、1999 年 7 月下旬(繁茂期)に樹冠 この理由は、下記のような水平位置の不確定性がある ためである。 計測を目的として1回おこなわれた。主要な計測条件 を表3に示す。 ・メッシュ化したデータどうしの差し引きでは、本 なお、表の中で対地高度が 1,070m と 500m の条件 来の樹木の位置とは異なる位置で樹高が計算され の測点間隔が等しくなっている(2.0m)が、これは る場合が多い 走査幅や対地速度その他のパラメータによってフット ・樹高実測データの樹木水平位置(根本で測定)と プリント間隔を調整しているからである。 このように、 樹頂の水平位置が異なる 地形計測・樹冠計測ともに、約 1.5m 程度のフットプ ・レーザが必ずしも樹頂にあたるとは限らない リント間隔を確保した上で計測をおこなった。 表3 主要なレーザプロファイラ計測条件 5.2 データ処理方法 レーザプロファイラにより取得されるデータは、レ ーザ照射時の、GPS による機体位置データ、IMU に 図8 レーザプロファイラによる地盤標高と三角点等の比較 ― 57 ― 5.3 計測結果 おり、良好なデータが取得されていることが確認され まず、レーザプロファイラによる地盤標高の計測結 た。 果と、三角点ならびに GPS 測量で求めた基準点標高 の比較結果を図8に示す。RMS 誤差は 28cm となって 次にテストサイト全体の樹高メッシュ図を図9に、 また拡大図を図 10 に示す。このように、人工的な林 図9 テストサイトの樹高メッシュ図(全体図) (黒枠は図 10 に示した拡大図の範囲) ― 58 ― 図 10 テストサイトの樹高メッシュ図(拡大図) 班のパターンや北東∼南西に向けて走る 2 本の送電線 間にかけてのパターンがよく一致しており、ローカル 下の伐開線、 その他のパターンが明瞭に表されており、 なスケールで見ても森林形状をよく捉えていることが 全体的な森林形状が的確に把握されていることがわか わかった。 った。 次に、樹高実測値とレーザプロファイラによる計測 さらに詳細に樹高計測結果を評価するため、検証用 値を定量的に比較した結果を図 13 に示す。その際の サイトの上空からの写真を図 11 に、また同サイトの 比較方法は 4.2 節で述べた通りである。なお、レーザ 樹高計測結果を図 12 に示す。図 11 の赤線はタワーク データの参照範囲は実測位置の周囲半径2 m の円内 レーンの回転範囲であり、この円内の樹高が実測され とし、統計値としては a)単純平均値および b)最大値 ている。なお、図 12 は図 10、11 に示したメッシュ図 を採用した。半径2 m の範囲としたのは樹冠の代表 とは異なり、前述のようにレーザのランダム点に基づ 的なスケールであると考えたことによる。また上記範 くものである。このように、高木から低木,樹冠の隙 囲内の平均値に加えて最大値を採用したのは、レーザ ― 59 ― が必ずしも樹頂に照射されないことから、範囲内の最 大値が最も樹高に近い値を示す可能性があると考えた からである。評価の結果、RMS 誤差はそれぞれ 6.1m および 9.0m であった。 このように、いずれの場合もばらつきは大きいもの の、半径 2m の範囲内の平均値を採用した場合の方が 精度が高いことがわかった。 図 11 検証用サイトの上空写真 図 12 検証用サイト周辺の樹高計測結果 ― 60 ― 図 13 樹高実測値とレーザプロファイラによる計測値の比較 ― 61 ― 6.考察 もっと高い樹高計測精度が示されるものと考えられ 6.1 る。 範囲内の統計値のとり方について 図 13 に示したように、実測値との比較に際して、 半径2 m の範囲のレーザプロファイラ計測最大値よ 7.まとめ りも平均値を採用した方が計測精度が高い。これは、 レーザプロファイラによる広域の樹高分布計測手法 周囲に実測対象木よりも高い樹木がある場合、範囲内 やその精度を検討した。簡易なシミュレーションによ の最大値では単純にその高い樹木にあたったフットプ って適切なフットプリント間隔を検討したのち、実際 リントのデータを採用してしまう場合があるためであ に樹高計測をおこなって実測値と比較した。 る。したがって、樹高が一様な群落の場合は最大値の シミュレーションに関しては、必要なフットプリン 採用が適していると考えられるが、本テストサイトの ト密度を概略で評価にするには十分意味があるものと ように樹高のばらつきが大きい場合は、全体としては 考えられるが、森林モデル(本モデルは針葉樹に近い) 最大値よりも平均値の方が適していることがわかっ やレーザプロファイラ計測モデル(実際にはランダム た。 ではなく、ジグザグ状からのゆらぎで与えられるべき である)の与え方、樹冠でのレーザ透過などを考慮し 6.2 計測精度について て、さらに改善する余地がある。 前節で示したように、範囲内の平均値を採用しても また、樹高計測に関しては、定性的には広域の樹高 樹高計測精度は RMSE 約6 m と低かった。この原因 分布を的確に表しているが、定量的には RMS 誤差が としては下記のようなものがあげられる。 約 6m であり、やや大きいことが確認された。しかし、 ①フットプリント位置の誤差(水平:対地高度 定量評価する際の基準となる実測データにも精度上の /1,000,垂直:15cm)や地形計測誤差が影響して 制約があり、実際の計測精度はこれよりも高いことが いること。 予想される。今後、検証を目的としたデータを取得し ②約 20m の幅でばらついている樹高を、基本的に は樹頂の周囲の値から内挿して求めていること。 て、正確な樹高計測精度の評価をおこなっていく必要 がある。 ③レーザ光は必ずしも樹冠表面のみで反射されると は限らず、ある程度樹冠内部で反射される場合も 謝辞 あること。 本研究で使用した樹高実測データ等は、北海道大学 ④実測データの樹木の水平位置と、樹頂の水平位置 にずれがある (実測の際の目的が本研究と異なり、 苫小牧演習林の日浦勉氏よりご提供いただいたもので ある。ここに謝意を表します。 樹頂位置と実際の樹木位置が正確に一致している 必要がなかったため)こと。経験的には7∼8 参考文献 m 程度の誤差は十分にあり得る。 1) 高槻幸枝,田村正行,沼田洋一,“レーザープロファイラ これらのうち、①∼③は本手法に必ず付随するもの ーによる樹高計測実験−森林バイオマス推定の基礎デ であり、全て解決することはできないが、フットプリ ータとして−”,日本リモートセンシング学会 第 27 回 ント間隔をさらに小さくすることである程度改善でき ると考えられる。また、④は精度評価のための基準デ 学術講演会論文集,251-252,1999. 2) 高橋博将,豊山孝子,“レーザープロファイラーを用 ータに起因するものである。水平位置の7∼8 m も いた地形計測の精度検証”,APA, No.73-6, 48-55, 1999. の誤差は、樹冠の中心から周縁部、場合によっては樹 冠からはずれたり隣の樹木にかかったりするだけの幅 (* アジア航測株式会社) を持つため、比較検証自体が正確さに欠けることにな (** 環境庁国立環境研究所) る。さらに図9,10 に示したように全体的な樹高分 布が的確に捉えられていることも加味すると、仮に本 研究目的に合致した基準データで精度を評価すれば、 ― 62 ―
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