時間変動係数に基づく観測交通量からの時間帯別OD交通量推定手法

時間変動係数に基づく観測交通量からの時間帯別OD交通量推定手法に関する研究
指導教員 藤田 素弘 教授
25413582
渡邉 健
1. はじめに
中京都市圏は他の三大都市圏と比較して自動車の交
日観測リンク交通量からの
日OD交通量逆推定
通手段分担割合が高く,自動車への依存度が高い地域
である.そのため,交通量の増加に伴う渋滞が大きな
時間帯別観測リンク交通量からの
問題となっている.このような渋滞問題を解消するた
時間変動係数逆推定
めの交通施策を行うには,効率的で説明力の高い交通
量予測手法の開発が必要となる.各時間帯を対象とし
日OD交通量と時間変動係数から
て交通量推計や施策評価が可能な時間帯別均衡配分モ
時間帯別OD交通量の算出
デルは,理論的には実用レベルにあるものの,精度向
図-1 本手法のフローチャート
上のためには時間帯別 OD 交通量の課題を残している.
時間帯別 OD 交通量の精度を向上させる方法のひと
つとして,観測交通量を用いた時間帯別 OD 交通量の
逆推定手法がある.既存研究 1)では,各時間帯を別単
位として OD 交通量を直接推定するものや,同時生起
確率最大化問題として PT 調査による時間係数の先験
確率に強く依存しているものなどがある.PT 調査では
深夜時間帯の OD が集計されにくい等,集計時のバイ
アスが生じている可能性が高く,時間係数自体誤差が
あると考えられる.そこで本研究では,日 OD 交通量
に対する時間帯別 OD 交通量の各時間帯の比率を時間
変動係数と定義し,時間変動係数の逆推定から時間帯
図-2 道路ネットワーク全体図
別 OD 交通量を推定する手法について検討を行う.こ
こで,時間帯別 OD 交通量は日 OD 交通量に時間変動
表-1 高速転換率式パラメータ
係数を乗じて与えられるが,その日 OD 交通量にも誤
θ:a
θ:b
ψ:c
ψ:d
差が存在する.これは道路特性データや高速転換率式
都市圏内々 0.231 -0.356
-1.55
5.984
パラメータ等の要因によるものであるが,本研究は日
域外関連
0.048
0
0
2.876
OD 交通量についても既存研究 2)による日観測交通量
を用いた日 OD 交通量の逆推定手法との併用を基本と
して検討を行う.本手法のフローチャートを図-1 に示 ーク全体図を図-2に示す.
道路特性データは,中京PT の現況(平成13 年)と
す.
将来(平成27 年)のBPR コード表に基づき,ネット
2. 中京都市圏実ネットワークへの適用計算と時間 ワークに合致するように調整したものを使用する.
高速転換率式パラメータは,平成23年の最新の名古
変動パターンの特性
ここではまず既存の OD 表で配分モデルを実ネット
ワークに適用し,時間変動係数の特性を考察する.
(1) 現状時間帯別 OD 交通量の実ネットワークへの適
用
本研究で扱う高速道路転換率内生型利用者均衡配分
は,時間帯別OD交通量(台数)を既知とする需要固定
モデルで,BPR関数型のリンクパフォーマンス関数を
使用したものである.
ネットワークデータは,中京PT のネットワークを基
に,平成22年道路交通センサス調査までに新設された
道路を加えたものを使用する.ゾーン数482ゾーン,リ
ンク数6683,ノード数4468から構成される.ネットワ
屋高速利用者台数データを基に補正を行ったものを使
用する.本研究では24時間一律で同じ転換率式を使用
する.設定したパラメータを表-1に示す.
本研究では,日OD交通量に平成22年道路交通センサ
ス調査データを使用する.車種は乗用車,バス,小型
貨物,大型貨物の4種類あり,OD台数は車種ごとにそ
れぞれ集計されている.時間帯別OD交通量には,ベー
スとして平成22年道路交通センサス調査データを使用
するほか,日OD交通量に各時間帯の時間変動係数を乗
じて時間帯別OD交通量を算出する方法を用いる.セン
サス調査データによる時間変動パターンを図-3に示す.
これより,乗用車は7時,普通貨物は9時がピークとな
8時
0.12
6000
リンク交通量推計値(台)
0.1
0.08
時
間
変 0.06
動
係
数 0.04
0.02
0
乗用車
小型貨物
普通貨物
5000
4000
3000
2000
1000
全車種
0
図-3 全域車種別時間変動パターン
全車日配分
80000
60000
リンク交通量推計値(台)
リンク交通量推計値(台)
1000 2000 3000 4000 5000 6000
リンク交通量実測値(台)
図-5 センサス
OD 配分結果(8 時台)
全車日配分
80000
0
40000
20000
60000
40000
20000
0
0
20000
40000
60000
0
80000
0
リンク交通量実測値(台)
20000
40000
60000
80000
リンク交通量実測値(台)
図-4 日交通量配分結果(センサス)
図-6 日交通量配分結果(逆推定)
っている.小型貨物は12時前後にピークがあり,車種
表-2 配分結果の RMS 誤差の比較
によって異なった特徴がみられる.
また精度検証のための実測値は,平成22年道路交通
センサス
センサス調査データの観測リンク交通量のうち愛知県
内で24時間分の時間帯別観測交通量が得られる箇所を
対象とし,上下方向別512地点の値と配分結果との比較
を行う.
(2) 時間帯別OD交通量の推計上の特性
まずはセンサス調査によって得られた日OD交通量
逆推定
普通車
RMS[台]
普通車
RMS[台]
全線
5031
全線
4896
高速
3945
高速
4390
一般
5338
一般
5053
大型車
RMS[台]
大型車
RMS[台]
全線
2370
全線
1551
を用いて日配分を行う.配分結果を図-4に示す.これ
高速
3275
高速
1555
より,データは概ね適しているといえるが,大きく離
一般
1998
一般
1552
れた点もいくつか見られる.特に交通量の多いリンク
で誤差の大きい点が目立つ.
点がいくつか見られた.そこでまずは既存 OD 表と観
次に時間帯別OD交通量を用いて配分計算を行った.
測リンク交通量を用いた逆推定手法により日 OD 交通
朝ピーク時間帯の例として8時台の配分結果を図-5に
量の修正を行う.本研究では,既存研究による道路区
示す.これより,朝ピーク時間帯におけるリンク交通 間交通量及び発生交通量の残差平方和最小化モデル 2)
量の過大推計の傾向が読み取れる.この傾向は7,9時
を用いる.なお,道路交通センサス調査による観測リ
台においても同様に見られた.またオフピーク時にお ンク交通量データは普通車と大型車に分類し集計され
けるリンク交通量は過小推計の傾向が見られた.これ ている.よって乗用車と小型貨物を普通車,バスと大
らの要因として,OD調査時の時間変動係数の集計バイ
型貨物を大型車として扱い,2 車種別での逆推定を行
アスや,域外から流入するOD交通量による影響が考え
った.逆推定により得られた OD 交通量を用いて日配
られる.よって全体のOD交通量の時間変動係数を修正
分を行った結果を図-6 に示す.これより,交通量の多
する必要があると考えられる.
いリンクでの過大推計が改善されているのが分かる.
センサス OD 交通量をそのまま使用した場合と逆推定
3. 観測リンク交通量からの日OD交通量逆推定
による修正後の OD 交通量を用いた場合との精度を比
既存の OD 表で日配分を行った結果,誤差の大きい 較したものを表-2 に示す.表から,修正後の方が RMS
誤差は小さくなっており,特に大型車の精度が向上し
ているのが分かる.
4. 残留交通量を考慮した観測交通量からの時間変動
係数による時間帯別OD交通量逆推定
時間帯別均衡配分では一般的に前後の時間帯での残


 
 2   E kln U an,kl   E kln 1Van,kl1  xˆ an U an,ij 
n
Eij
a  kl
kl
 
(6)

 
 2   E kln1U an,kl1   E kln Van,kl  xˆ an Van,ij    ij  0 i, j  1,2,  m
a  kl
kl
 

  Eijn  1  0 i, j  1,2,  m
 ij
n
(7)
n
留交通量を考慮できる OD 修正法を用いるが,逆推定
よって OD ペア rs 間のリンク a 利用率 Pa , rs が得られる
の基本モデルでは残留交通量を修正した後の時間帯別
場合,上式から発着地域別時間変動係数 E kln を得ること
OD 交通量を近似的に求めることになり,ベースとな
る発時刻での時間帯別 OD 交通量とは幾分異なる.よ
ができる.非負制約については, Ekln   (本モデルでは
0.001)を制約条件として次の step に従い計算を行う 3).
ってここでは,残留交通量修正前(一般的な発時刻で
集計した時間帯別 OD 交通量)の時間変動係数を逆推
定する手法について新たに検討した.
各時間帯の発 OD
交通量は,日 OD 交通量に時間変動係数を乗じて得る
ことができる.ここで与条件として,ゾーン rs 間の日
OD 交通量を Qrs ,n 時間帯におけるリンク a の観測リ
ンク交通量を x̂ an とする.また, n 時間帯における OD
n
ペア rs 間の時間変動係数を Ers ,OD 交通量 Qrs がリ
n
ンク a を利用する確率を Pa , rs ,時間帯別残留交通量を
q
n
rs とすると,配分計算によって算出されるリンク

x   E P Q  E P Q d  E P Q d
r
n n
rs a ,rs rs
n1 n
n1
rs a ,rs rs rs
n n
n
rs a ,rs rs rs
(1)
n
ここで, d rs  crs / 2T ( crs は最短経路時間, T は時
間帯幅),出発地域 K ,到着地域 L の地域別時間変動
n
kl
n
n
step2. Ekln (s)   となる変数 E kl に対し,Ekln (s  1)  
とおき変数群から取り除く.また,新たな変数
n
群から解 Ekl ( s  1) を得る.
n
解とする.そうでない場合は s  s  1 として
s
n
る.そうでない場合は s  0 ,E kln を E kl (s) とし
て step2 へ
Ekln   ,および Ekln   のとき,  ≧ 0 (8)
Eijn
a の step3. 全ての解 Ekln (s  1) に対し式(8)を満たせば最適
推計リンク交通量 x an は次式で表すことができる.
n
a
step1. 全ての解 E kln に対し次式を満たせば最適解とす
係数を E ,地域数 m とし,リンク交通量の推計値 x
n
a
n
a
と実測値 x̂ の残差平方和が最小になるようにモデル
step2 へ
こうして新しく得た時間変動係数を用いて作成した時
間帯別 OD 表を使用し配分計算を行う.配分結果を再
び逆推定モデルに当てはめ,また新たな時間変動係数
を得る.これを時間変動係数の値が収束するまで繰り
返し行うことにより,最も適した変動係数が導かれる.
化を行うと,目的関数は以下のような式になる.
5. 配分計算と精度検証
2


min .Z     Ekln Pan,rsQrs (1  d rsn )  Ekln1Pan,rsQrs d rsn1  xˆan  (2) (1) 時間変動係数の収束計算
n a  kl rK sL

センサスODデータをそのまま使用し配分計算を行


s.t.  Ekln  1
(3)
n
った結果,ピーク時間帯での過大推計が見られた.そ
こで,元ODデータを基に得た時間変動係数を初期解と
して逆推定モデルの収束計算を行う.ただし域外から
発生するODペアはトリップ時間が1時間を超えるもの
上記の問題の最適化条件は,制約条件を取り込んだ が多く,配分計算では実際に都市圏内に流入する時刻
Lagrange 関数を定義することにより導き出される. よりも早く交通量として流れてしまう等の影響を考慮
n
n 1
n 1
Pan,rs Qrs 1  d rsn  U an,kl ,  Pa ,rs Qrs d rs  Va,kl とし, し,域外発の時間変動係数は次のような修正処理を行

rK sL
rK sL
った上で固定し収束計算を行った.すなわち,長距離
制約条件を取り込んだ Lagrange 関数 は次のように 移動の場合,域内に流入するのに時間がかかることや,
休憩等により移動を中断していることも考えられる.
なる.
よって長距離ODペアの都市圏内に流入する時刻を域
2


n n
n 1 n 1
n
n  (5)
内の境界までの平均所要時間で修正を行い,さらにそ
     EklU a,kl   Ekl Va,kl  xˆa    kl 1   Ekl 
n a  kl
kl
 kl  n
の時刻から3:3:2:2の割合で分散化したものを域外発の
Ekln  0

(4)

ここで, kl は Lagrange 乗数を表す.出発地域 K のう
ち任意の出発地域 I ,到着地域 J とし, を E およ
n
ij
び ij で偏微分して零とおくと次式が得られる.
時間変動係数をして扱った.この割合は,元OD交通量
でいくつか試行した結果最も良かったものとして採用
した.また,時間変動係数を逆推定する地域区分のパ
①
域外発固定,都市圏内一律,の1パターン
②
域外発固定,域内→域内,域内→域外の2パターン
③
域外発固定,名古屋,海部・尾張,知多・三河の3地域に区分

それぞれの方向別に時間変動係数の逆推定
(3地域×3地域+域内発その他=10パターン)
域外発固定,上記3地域の到着地にその他を追加,
さらに,岐阜→岐阜,三重→三重を追加した15パターン
④

全線
7時
8時
9時
合計
初期 OD
651
669
411
7295
都市圏内一律
523
466
367
6507
残留有
516
450
358
6349
普
域内→域内,域外
524
464
361
6503
通
残留有
513
446
348
6322
車
3 地域方向別
496
435
344
6286
残留有
493
434
345
6267
15 パターン
487
430
341
6249
残留有
482
433
340
6229
全線
7時
8時
9時
合計
初期 OD
151
197
241
4218
都市圏内一律
132
154
163
3877
(3地域×4地域+岐阜→岐岐阜+三重→三重+その他=15パターン)
図-7 逆推定における地域方向区分の各パターン
ターンを図-7に示す.
(2) 配分結果
各パターンの朝ピーク時誤差の比較を表-3 に示す.
これらより,残留交通量修正済み OD 交通量のモデル
と比較して,大きな変化はないものの,全体的に精度
は向上していることが読み取れる.また各パターンを
比較すると,地域をより細分化した場合の方が朝ピー
ク時間帯の RMS 誤差はどちらの車種でも小さくなっ
ており,時間帯別 OD 交通量の精度は向上していると
いえる.次に,各地域区分の中でも最も精度の高かっ
た 15 パターンの 8 時台散布図を図-8 に示す.これよ
り,元 OD データをそのまま使用した場合と比較して,
過大推計の傾向が改善されていることがわかる.7,9
時台においても同様に過大推計の改善が見られた.
残留有
134
140
161
3872
大
域内→域内,域外
131
153
158
3711
型
残留有
131
136
152
3682
車
3 地域方向別
127
150
160
3668
残留有
130
138
157
3677
15 パターン
129
130
142
3458
123 135
全車
8時
139
3478
残留有
6000
リンク交通量推計値(台)

表-3 配分結果のRMS誤差の比較
5000
4000
6. まとめ
3000
本研究では,平成 22 年道路交通センサス調査による
日 OD 交通量と日観測リンク交通量のデータを基に,
2000
既存研究による逆推定モデルを用いて日 OD 交通量の
1000
修正を行い,また修正した日 OD 交通量と時間帯別観
0
測リンク交通量を基に,残留交通量を考慮した時間変
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
動係数の逆推定手法を提案した.また,修正した時間
リンク交通量実測値(台)
変動係数を基に作成した時間帯別 OD 交通量を用いて
図-8 15 パターン散布図(8 時台)
配分計算を行い,平成 22 年における交通量の再現性向
上を図った.その結果,朝ピーク時間帯の過大推計が 7. 参考文献
改善され,朝ピーク時間帯及び全体の誤差は小さくな 1) 前川友宏,飯田恭敬,倉内文孝,上坂克己:B ゾー
ンベースによる OD 交通量逆推定モデルの実際適用
り精度は向上した.また,残留交通量修正済み OD 交
性,交通工学研究発表会論文集 Vol.29,2009
通量のモデルと比較しても,朝ピーク時間帯及び全体
2) 土木学会:交通ネットワークの均衡分析―最新の理
の誤差はより小さくなることが分かった.一方で,他
論と解法―,1998.
地域と比較して交通量の少ない地域区分や,OD 間距 3) 飯田恭敬:交通ネットワークの信頼性と OD 逆推定,
技術書院,2008
離の長いペアを多く含む時間変動パターンにおいては,
4) 土木学会:道路交通需要予測の理論と適用 第Ⅰ編
前後の時間帯での時間変動係数に一定のブレが見られ
利用者均衡配分の適用に向けて,2003
た.これは,時間帯別均衡配分と OD 修正法の適用条 5) 藤田素弘,雲林院康宏,松井寛:高速道路を考慮した
件の特性によるものと思われる.よって今後は長距離
時間帯別均衡配分モデルの拡張に関する研究
土木計画学研究・論文集,PP563-572,2001
OD についての扱いや修正方法についての検討が必要
と思われる.