GP6を活用した地すべり移動量監視システムの整備について 金沢河川国道事務所 流域対策課長 金子正則 流域対策係長 稲垣裕之 流域対策課 ○白鳥篤央 1.はじめに 蔦 甚之助谷地すべり地では、リアルタイムに地すべり移動量を監視することを目的に、平成13年度 よりGPS観測機器を用いた移動量監視システムの整備を進めている。本報告は〉平等システムの概 要、整備計画、現段階での整備状況について紹介するものである。 2.甚之助谷地すべりの概要 写真一1に示す甚之助谷地すべりは、手取川源 流である白山の南西傾斜面に位置し、標高1,200m から.2,7001nの全国でも希な高山域にあり、地すべり 防止区域面積が502haと直轄地すべり施工箇所の 内、山形県の豊州に次ぐ大規模な地すべりである。 地すべり地周辺の地質は手取層群と白山火山 噴火物からなっている。手取層群は白山火山の基 岩をなす地質であるが、構造運動による破砕と熱 水・温泉変質によって粘土化し、破砕と風化が著しく なっている。また、断層破砕帯が縦横に存在してい .るため、これを伝わって地下水が流入し、間隙今庄 ・が=増加し易い状況にある。 当地すべりにおいては昭和37年より地すべり対 策事業として、横ボーリングや排永トンネル、集水井 など地下水位の低下を目的とした地下水排除工を 写真一1甚之助谷地すべり全景 実施してきた。 3.甚之助谷地すべり監視の現状 上述のように甚之勘谷では地下水排除工の施工が進められてきたが、地すべり移動が依然とし て認められているため、後述するGPS観測を除き、以下のような地すべり観測を行っている。表一1 に甚之助谷における地すべり観測の現状を示す。 ’ 表一1 地すべり観測の現状 観測項目 移動量測量 孔内伸縮計 観測箇所・観測内容 地すべり防止区域内において年1回実施 9孔(冬期を除く月1回の観測) 一405一 孔内傾斜計 15孔(11孔はリアルタイム観測、4孔は冬期を除く月1回のデータ収集) 孔内本位計 12孔(11孔はリアルタイム観測、1孔は冬期を除く月1回のデータ収集) 地盤傾斜計・ ・ 3箇所(冬期を除く月1回のデータ収集) 1亀裂変位計 光ファイベセンサ観測 光パイプ歪み計観測 5箇所(冬期を除く月1回のデータ収集) 2箇所(堰堤’ ・箇所. ニ集水井の変形を観測、冬期を除く月1回のデータ収集) 一 i繍孔内の歪みをリア・レタ仏で翻) ド これらの観測により、地すべり滑動を監視しているが、以下のような問題点もある。 (観測孔を用いた観測) . r ・すべり面が20mから70m(中間尾根では100mを超える地点にも確認されている)と深く広範 囲にわたっており、ボーリングコストがかかる。 ・移動が激しいブロックでは、観測孔がせん断変位を受け》数年ですべり面下部の観測ができ なくなってしまう場合もあった。 (移動量観測) ・年1回のみの観測であり、地すべり移動の詳細な時間的推移が把握できない. このため、より効率的な地すべり移動状況をリアルタイムで監視できる手法が望まれていた。そこで GPSを用いた観測システムを導入することとした。 4.GPSによる地すべり監視システムのi整備計画 4.1GPS観、測の概i要 GPSとは、複数の衛星からの信号を地上 で受信レ地球上での位置を求めるシステム である。 GP6の測位形態は、単独測位と相対測 ,位に大別される。単独測位は1台の受信機 が得た情報から位置を算出するものであるが、 誤差が大きく精度が要求される観測には不’ 適であるといえる。これに対し、相対測位は2. 地点に届く電波の時間的な差を測定して点 間の距離を算出するものであり、単独測位に 比べ誤差は小さい。∫ ’ 相対測位には、トランスロケーション方式 (カーナビゲーションシステムなどに使用、誤 二一1 RTK方式による観測イメニジ 一406一 差は2∼3m)、スタティック法(既知点と未知点に受信機をセット、誤差は数1nm)、キネマティック法 (片方の受信機を移動することにより複数の未知点の座標を求める、誤差は数cm)がある、 キネマティック法の中でも、受信機を移動しながら計測し、リアルタイムで位置を知ることができる、 RTK(リアルタイムキネマティック)方式がある。これは、固定観測局と移動観測局の双方に、GPS受 信機を内蔵し、固定観測局で受信したGPSデータの惰報を移動観測局へ常時送信し、双方の測 量データを合わせて演算処理することにより移動観測局の位置を観測するものであり、甚之助谷に おいては、この方式を採用している。観測イメージを図一1に示す。また、今回採用したGPSシステ ムでは、移動観測局にジャイロ装置(観測局の揺れや傾きを補正)が搭載されており、固定観測局と 移動観測局の距離が約300rn以下の場合、観測誤差は±1mm程度であるため、より高精度の観 測が可能になると考えられる。 42 GPS観測局の整備計画 平成12年度にGPS観測機器の配置計画の 検討を行い、各ブロックの地すべり滑動を捉えるよ うに、ユ1基の移動観測局を配置することとした。 そのうち、平成14年度末までに2基のGPS移 動観測局を甚之助面恥5号堰堤と中間尾根にそ れぞれ設置し、今年度中に残る9基の整備を行う 辞謙ノ繁盛器無難纏黙 した。 GPS移動観測局全体計画図を図一2に、甚 之助谷新5号堰堤に設置した移動観測局を写真 一2に、この地点から5k皿下流の市ノ瀬監督員詰 所に設置した固定観測局を写真一3にそれぞれ 0 】km 一 示す。 図一2 GPS移動観測局全体計画図 麟鋸魏難 写真一2 GPS移動観測局(甚之助:丁丁5号堰堤) 写真一3 GPS固定観測局(市ノ瀬監督員詰所) 一4Q7一 4.3甚之助谷地すべりにおける監視システム 甚之助谷において行われている諸観測データ を、リアルタイムで一元的に管理できるよう光ファ イバー網の整備を行っている。 現在は、孔内伸縮計・孔内水位計の一一部、な らびにGPS観測データを白山砂防科学館ならび に白峰砂防出張所で確認することができる。写 真一4に白山砂防科学館における観測表示板、 写真一5に観測表示画面を示す。また、今年度、 白山・室堂から事務所まで光ファイバーが通線 する予定となっており、将来は事務所において、 甚之助谷地すべりの状況をリアルタイムで監視 写真一4 白山砂防科学館における観測表示板 することが可能となる。図一3に、甚之助谷地す べり監視システム全体図(イメージ)を示す。 写真一5 観測表示画面 図一3 甚之助谷地すべり監視システム全体図(イメージ) 5.おわりに 今回紹介した甚之助地すべりにおけるGPS観測については、今年度残り9基の移動観測局の 設置が行われる予定である。設置終了後には、GPS観測により得られたデータ、以前から実施して いる他機器による地すべり観測データ、気象(雨量・積雪)データの総合的な解析を行うとともに、そ の活用を図ることによって、GPS観測データの有効性の確認、地すべり現象のより詳細な把握、さら には効果的な監視システムの構築を目指すこととする。 また、甚之助地すべり地拡高標高地にあり冬期間は約6mもの積雪に覆われる。このため積雪に 覆われている期間はGPS観測を中断せざるを得ない。よって、他機器による通年のリアルタイム観 測データをより有効に活用していく必要がある。 一408一
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