フィールド情報学入門 リモートセンシングとGIS 京都大学情報学研究科 酒井徹朗 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 1/30 リモートセンシング Remote Sensingの概念 • 離れた所から直接触れずに対象物を同定あるいは 計測し,またその性質を分析する技術 • 1960年代アメリカで造られた技術用語 • 電磁波の反射(reflection)、放射(radiation)の特性 を用いる • 「すべての物体は,種類および環境条件が異なれば, 異なる電磁波の反射または放射の特性を有する」と いう物体の電磁波特性に基づき対象物や現象を判 読・解折する • 重力や磁力も使われる Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 2/30 リモートセンシングの応用分野 • 工業計測から広域的な陸域・大気・海洋情報の収集,地球 規模の環境変動の監視まできわめて多岐にわたる。 • 陸域では、土地開発の進展や緑地・植生の変化などや,森 林減少など地球スケールの自然環境把握の手段。 • 海洋では,海面水位、汚濁状況,植物性プランクトンの分 布状況,海面温度、波の情報から海上風の風向・風速を推 定することもできる。 • 大気については,二酸化炭素やオゾンなど微量成分の組 成の調査や,雲画像などの気象現象の解折など。 • 地球環境時代を迎えリモートセンシングの重要性はますま す大きくなっている。 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 3/30 リモートセンシングによるデータ収集 可視・反射赤外リモートセンシング:太陽光の反射を利用 熱赤外リモートセンシング:物体からの熱放射 マイクロ波リモートセンシング:照射マイクロ波の反射波利用 地球観測衛星 太陽光の反射 マイクロ波の反射 熱放射 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 4/30 可視・反射赤外リモートセンシング 太陽を光源とする反射光(可視光線・赤外線)を観測、夜間不可 太陽光の放射のピークは可視光線域 太陽高度や地形、大気の状態(天候)の影響が有り、補正が必要 応用例 気象観測衛星:雲や水蒸気の分布、雪氷や流氷の観測 地球観測衛星:土地被覆、土地利用変化、植生、鉱物資源 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 5/30 熱赤外リモートセンシング 物体そのものが放射する電磁波を観測 熱放射の測定により、温度を観測 夜間の人工光の観測により、人間の社会経済活動を観測 雷の放電の観測などがある <応用例> 海水温の測定、気象や漁業などに利用 ホットスポットの観測:山火事や災害の発見 夜間の人工光の変化:大規模地震災害の被災地の判定 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 6/30 マイクロ波リモートセンシング マイクロ波を放射しその反射波を観測、夜間でも観測可能 マイクロ波は波長が長いため雲を通過、全天候に対応 マイクロ波は方向性があるため、地形の影響を強く受ける <応用例> 地形観測、地殻変動による地形の歪 水田作付け面積や成長過程、植生 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 7/30 波長と反射特性 植物:クロロフィルの反射特性、青色と赤色を吸収、緑と近赤外を反射 土:可視域に反射のピークがある 水:可視域で反射するが、赤外域では反射せず吸収する 太陽光による反射 植物 熱放射 反 射 の 強 さ 放 射 の 強 さ 土 水 紫外線 青 緑 赤 可視光線 近赤外線 波長短い 中間赤外線 赤外線 熱赤外線 マイクロ波 波長長い Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 8/30 リモートセンシングの利用波長帯と その特徴 表-1 リモートセンシングの利用波長帯域 区分 名称 波長 特徴 衛星センサー 可視光 可視光(青) 0.4μm~0.5μm 土壌と植生の区別 L,A, 可視光(緑) 0.5μm~0.6μm 植物の活力度 L,A,S,T 可視光(赤) 06μm~0.7μm 陸域と水域の判別、植生度 L,A,S,T,N 赤外線 近赤外 0.7μm~1.3μm 植物活性度、陸水や地形の判読 L,A,S,T2,N 短波長赤外 1.3μm~3μm 陸水域の判定、地質判読、土壌含水量 L2,S,T6,N 中間赤外 3μm~8μm N 熱赤外 8μm~14μm 温度測定 L,T5,N2 遠赤外 14μm~1mm マイクロ波 Xバンド 2.4cm~3.75cm 葉で反射 TerraSAR-X Cバンド 3.75cm~7.5cm 葉や枝で反射 Radasat等 Lバンド 15cm~30cm 葉を透過して幹や地表で反射 Palser(Alos) *注 名称は分野により異なり、短波長赤外を中間赤外に含める場合もある。 衛星センサー L:ランドサット、D:ALOS(大地)、S:スポット、I:イコノス、T:テラ(ASTER)、N:ノア 数字は複数チャンネル数を示す。 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 9/30 画像処理の手順 Z 大気補正は大気中での散乱などの影響の補正 • 反射率が既知の物体を用いた補正 • バンド間の比計算 幾何補正はセンサの歪や地図投影法の補正 • 対象地域の地図と画像の共通点を用い変 換する 地形補正は傾斜地の太陽光反射の相違の補正 • 太陽高度、数値地形図(傾斜・方位)を 用い補正 • 簡便法はバンド間の比計算 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 10/30 分類処理 画像強調と特徴抽出 • 輝度頻度分布などによる色調変換やカラー合成 • 空間フィルタリング • スペクトル特徴抽出(主成分分析、植生指数など) • テクスチャー特徴抽出 画像分類 • 教師付き分類(事前に分類情報がある場合):分 類クラスが既知の区域をトレーニングエリアとし て抽出し、分類クラスの統計量を算出し、それを 用い対象地域全体を最尤法などで分類する • 教師なし分類(事前に分類情報が少ない場合): サンプリングされた画素をクラスタ分析し、その 分類クラスの統計量を求め、それを用いて全体を 最尤法などで分類する Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 11/30 フォールスカラーとNDVI ナチョナルカラー:R;赤,G;緑,B;青 正規化植生指数(NDVI):-1~+1 フォールスカラー:R;近赤外,G;赤,B;緑 NDVI=(近赤外-赤)/(近赤外+赤) 植生が赤色で表示される フォールスカラー画像 イコノス衛星画像 大きいほど植生の活性度が高い NDVI画像 京都府立植物園 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 12/30 地理情報システム GIS: Geographic Information System コンピュータ上に地図情報やさまざまな付加情報を持 たせ参照できる表示機能をもったシステム 利用分野 生活インフラの管理(家屋、道路、水道など) 生産施設の管理(圃場、 自然環境の管理(森林、公園、流域) 防災や軍事利用など GISを表す4つのM 環境における変数の測定(Measurement) 特性をあらわす地図の作成(Mapping) 環境変化の監視(Monitoring) 対策や代替案のモデル化(Modeling) Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 13/30 レイヤの概念 行政界 道路 土地利用 線路 建物 水系 標高 航空写真 リモセン分類結果 レイヤはGISでのデータ管理の単位 主体図ごとにそれぞれのレイヤで管理 従来の地図は1枚に凝縮、GISでは個別 レイヤは位置情報により統合的管理 ・ ・ ・ ・ Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 14/30 データ構造の概念 GISのデータ構造はベクトル型とラスター型が主要 それぞれ一長一短あり、併用されてる場合が多い ベクトル型は点と線と面で空間情報を表現 点 (ポイント) 線 (ライン) 面 (ポリゴン) ベクトル型データ構造 ラスター型は配列で空間情報を表現 B B B B B B B B B B B B B B B B B B A A A B B B B B A A A B B B B B B A B B B B B B B B B B B B A B ラスター型データ構造 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 15/30 位置情報の取得 GISで空間情報を扱うためにはその位置情報が必要 従来は、地図上で位置確定するか、地図上で明確な地 点(橋梁,道路交差点,水準点など)まで測量 現在は、衛星測位システムによる位置情報取得が可能 現在運用されている衛星測位システムは二つ、 米国のGPS (Global Positioning System)と ロシアのGLONASS (Global Navigation Satellite System) GPSが一般に普及している Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 16/30 GPSによる測位法 1点測位法 ディファレンシャル法 スタティック法 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 17/30 一点測位法 受信機1台のみでおこなう測位方法 衛星の位置を既知として、電波の発射時刻と受信時刻との 差から 擬似距離を算出し、受信機の位置を計算 受信機の時計の誤差を補正するため、衛星は4個必要 簡単でリアルタイムに測位できるが,計測精度は他に比べ 低く,その誤差は10m程度 <利用> ナビゲーション(車や人) 簡易測位や簡易測量 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 18/30 ディファレンシャル法 位置が未知の観測点と、位置が明確な基準点で、同時に観測 基準点では位置の誤差情報を算出し、その情報を用い観測点 では位置を補正 両測定点とも、同じ衛星を用い、位置情報を計算 ディファレンシャル機能付きGPS及びビーコン局等の気重点情 報が必要、誤差は1m程度 <利用> 近海や港湾での航法支援 やや精度の高い簡易測量 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 19/30 スタティック法 高精度の受信機2台で観測 GPS電波の搬送波位相を測定し、観測点間の基線ベクトル を測定 観測・解析に時間を要するが、計測精度は高く,その誤差 は数mm <利用> 精度の高い基準点測量 地殻変動などの科学観測 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 20/30 GISの処理過程 データ入手:必要なデータの収集 既存の地図や統計資料、現地調査 前処理:データをGISに導入する操作 労力と時間が最もかかる データ管理:データベースの構築管理 GISソフトの根幹、一般ユーザは不関与 情報分析処理:情報を引き出す分析操作 情報検索、新レイヤの作成、モデル化 出力作成:最終的な出力結果の作成 情報分析の例 重ねあわせ操作 バファー操作 点や線から一定距離内の範囲の 情報を取り出す = + 2つのレイヤを重ね合わせ、新た なレイヤを作成 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 21/30 空間情報に関するデータフォーマットの 標準化とその相関 インターネットでのデジタルアースを支える地図情報の標準化 GPS NMEA、GPX GML (Geography Markup Language) 地理情報の記述の基盤 各種GISソフト グーグルマップ KML (Keyhole Markup Language) グーグルアース Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 22/30 移植例 KML化 グーグルアースへの移植 GIS画面 グーグルマップへの移植 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 23/30 事例紹介 TERRA衛星に搭載されているASTERセンサによる衛星 画像(解像度15m)を用い、流域の土地被覆を把握する 対象地:石垣島南部 衛 星 画 像 幾 何 補 正 土 地 被 覆 分 類 GIS 流 域 区 分 地 形 図 流域単位の 土地被覆図 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 24/30 幾何補正 衛星画像に付属する位置情報(写真4隅と中央)を用い補正 図はフォールス画像、左上部は植生で覆われた西表島、 右上部が石垣島、その間の青色は珊瑚礁、 幾何補正前 幾何補正後 八重山諸島(西表島と石垣島) Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 25/30 分類 変数:緑バンド、赤バンド、近赤外バンド、NDVI 分類方法:教師なし分類、15クラス指定 結果:森林(緑系色)、農地や市街地(ピンク系色) 珊瑚礁や海面(水色系) フォールスカラー画像 教師なし分類後の画像 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 26/30 GISによる分析 GISで、分類結果、国土地理院の地図、流域各レイヤを重ね合わせる Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 27/30 流域の土地被覆分類結果 流域のポリゴン情報を用い、分類結果のレイヤーから 流域ごとの土地被覆分類を抽出 流域A 流域A 流域B 流域B Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 28/30 GPSによる行動軌跡の収集 国立公園など景勝地や森林を訪 れる人が多くなり、そのオーバー ユースによる自然破壊が問題 登山者(入山者)の行動軌跡を収 集し、行動範囲と頻度を分析 図中の青線と赤線は入林口の 違いを、その太さは利用者数を 示す 図右上の上谷・下谷地域と左下 の本流沿いに入林者が集中 登山者の行動軌跡(吉村哲彦氏原図) Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 29/30 3S技術 リモートセンシング(RS) 衛星測位システム(GPS) 地理情報システム(GIS) 空間情報の収集・分析とその結果を利活用する「道具」 空間情報を用いた情報システムは,気候変動解析など のような地球レベルの大規模なものから,防災予測シ ステムや環境マップなどのような地域レベルの小規模な ものまで多様 今後一層,空間情報を実社会に活かす空間情報学の 役割は重要 Copyright(C) 2009 Field Informatics Research Group, Kyoto University. All rights reserved. 30/30
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