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すざく衛星搭載X線CCD(XIS)の現状報告
松本浩典、内山秀樹、小澤碧、山口弘悦、中嶋大、森英之、鶴剛、小山勝二(京大)、田和憲明、勝田哲、穴吹直
久、林田清、常深博(阪大)、村上弘志、尾崎正伸、堂谷忠靖(ISAS/JAXA)、馬場彩(理研)、E.D.Miller, B.LaMarr,
S.Kissel, M.Bautz (MIT)、前野将太、森浩二(宮崎大)、北本俊二(立教), 他XIS team
Abstract:
X線天文衛星「すざく」には4台のX線CCDカメラ(XIS0,1,2,3)が搭載されており、X-ray Imaging Spectrometer (XIS) と呼ばれてい
る。2005年7月の打ち上げ以降、順調に観測を行ってきたが、放射線損傷により徐々にゲインが低下し分解能が劣化してき
た。対策としてSpaced-row Charge Injection (SCI)を世界で初めて機上で行い、性能回復に成功した。また、2006年11月9日に
突如XIS2が不具合を起こし、現在観測を停止している。現在はその原因究明の途中であり、対策を検討中である。本ポスター
では、上記を含めたXISの現状報告を行う。
1. X-ray Imaging Spectrometer (XIS)
3. XIS2の不具合
4台のX線CCDカメラ
•表面照射型(FI) 3台 (XIS0,2,3)
•裏面照射型(BI) 1台 (XIS1)
2006年11月9日 01:03(UT)に、XIS2の
各セグメントのイベント数が突如激し
く変化。しかし、電圧などのHK値には
変化は見当たらない (図6)。
諸性能
•ダイナミックレンジ 0.2—12keV
•視野 18’x18’
•有効面積
@1.5keV 330cm2(FI), 370cm2(BI)
@8keV 160cm2(FI), 110cm2(BI)
Imaging Area
Frame Store region
図7に異常発生前後のXIS2のイメージ
を示す。異常発生前はX線星(X1916)の
像が見えているが、異常発生後はSCI
の電荷パターンがおかしくなっているの
が見える。X線星も映っていない。
図1: X-ray Imaging Spectrometer (XIS)
2. Spaced-row Charge Injection (SCI)
XISのゲイン・エネルギー分解能は徐々
に低下している(図2)。これは、宇宙線に
よる放射線損傷のためである。放射線損
傷を受けると、Si結晶中には格子欠陥が
生じ、それが電荷トラップとして働く。そ
のため、電荷転送効率が減少し、ゲイン
が低下する。トラップに電荷が捕らえられ
る過程は確率過程なので、そのゆらぎで
エネルギー分解能も悪化する。
そこでXISの特徴の一つである電荷注入
機能を用いて、2006年10月より、CCDに定
期的に電荷を注入する Spaced-row
Charge Injection (SCI) を行っている。これ
は、注入電荷によりトラップを埋め、X線イ
ベントによる電荷を守ろうとするものである
(図3)。
実際にSCIを行った場合の55Feのス
ペクトルを図4に示す。ゲインが上
がっていることがわかる。またエネ
ルギー分解能も210eVから140eVに
まで回復した。これはほぼ打ち上げ
直後の値である。
図5はゲインと分解能の時間発展
を示しており、黄色で囲った部分
がSCI ONを表す。性能がほぼ打
ち上げ直後にまで回復しているこ
とがわかる。また劣化の速度も遅
くなっていることがわかる。
2006/5
2006/12
図2: キャリブレーションソース(55Fe)で測定し
たゲインと分解能の低下。XIS0の場合。
図6: 2006年11月9日のXIS2のライトカーブ。
2006/11/9 00:57
2006/11/9 01:04
異常発生後、XIS2は観測を停止。時折診
断モードでデータをとり、原因を追求中。
現在判明していること
2005/9
異常発生
図7: 異常発生前(左)と異常発生後(右)の
XIS2のイメージ。
•電荷を逆転送しながらイベントを読み出すと正常な振る舞いが見られ
るので、読み出し口の故障などではない。
•セグメントAなどからイベントが出なくなったのは、大量の電荷でアナ
ログ回路がサチッているから。
•電荷漏れ量は、イメージエリアの電圧と相関がある。従ってイメージ
エリアのどこかで電荷漏れが発生しているらしい。
•図7でSCIの異常なパターンが見えているのは、どこかで発生した漏
れ電荷が、電荷注入用のレジスターに流れ込み、それが注入された
ためであろう。電荷注入機構の故障ではないと思われる。
4. 低エネルギー側検出効率の変化
図3: Spaced-row Charge Injection (SCI)
の原理(左)と、その様子(右)。
分解能(FWHM)
SCI OFF: 210eV
SCI ON : 140eV
Pulse Height (ch)
図4: 2006年10月時点の55Feのスペクトル。
図8に示すように、XISは全センサー
で低エネルギー側の検出効率に低
下が見られる。これはCCDとX線望
遠鏡の間にある可視光遮断幕に、
何らかの物質が付着したせいである
と思われる。
付着物の化学組成は調査中である
が、炭素が主体の物質だと思われ
る。候補の一つがフタル酸ジエチル
ヘキシル DEHP(C24H38O4)であり、
ジャイロのアウトガスに含まれ得る。
低エネルギーバンドの吸収から、
C/O=6/1を仮定して導出した付着物
質の炭素柱密度の時間変化を図9
に示す。
現在のところ、付着物の増加は激しくなく、
やや微増傾向にある。しかし、XIS3のデー
タは減少が始まったことを示唆するのかも
知れない。今後も引き続き調査を継続す
る予定である。
詳しくはW14a内山秀樹講演(3/29
10:00)をお聞きください。
図5: SCIを行った場合のゲインと分解能。
白:2005年8月
赤:2006年8月
図8:超新星残骸E0102-72のXIS1(BI)で
とったスペクトル。
図9: 付着物質の炭素柱密度。組成比
としてC/O=6/1を仮定。