修士論文概要(2013 年 2 月 13 日) SSI-MT79113175 局所メッシュ細分化とメッシュ適合に基づく ボイドを含む製品の解析用四面体メッシュ生成 北海道大学 大学院情報科学研究科 システム情報科学専攻 システム創成情報学講座 システム情報設計学研究室 東 翔也 1 はじめに 近年,工業用 X 線 CT を用いた工業製品の計測技術へ注 目が高まりつつある.X 線 CT による計測は従来のレーザ ー計測や画像計測などとは異なり,製品の表面形状のみ ならず,内部形状をも計測することが可能である.その ため,工業用 X 線 CT 計測技術の発展に伴い,計測データ を用いた製品の内部欠陥検出,CAD モデルと現物との比 図 1 ボイドを含んだ製品の X 線 CT 計測メッシュ 較,流体シミュレーション,強度解析,CAD モデル生成 測定条件 など形状計測データの広範囲な活用が可能になってきて 等値面抽出閾値 いる.本研究では,X 線 CT 計測の活用範囲の中でも内部 現物 欠陥であるボイド(図 1)を含んだ製品に対して,焦点を 当てている.これまでは破壊試験などを行い,強度分析 計測データ ボイド情報 (STL) メッシュ品質 評価基準 X線CT 計測 ボリュームデータ 処理 X線CT装置 を実施してきたが,コスト削減のため,X 線 CT 計測デー 解析メッシュ 生成(本研究) 解析メッシュ (四面体) 解析条件 Delaunay法 タからの CAE を用いてその強度を効率的に判断する必要 性が高まっている.そのため,CAE 用の有限要素解析用 解析結果 解析 メッシュ集合演算 MRR CAESolver, Pre/Post メッシュが必要になってきている. 図 2 本研究の位置づけ 図 2 に本研究の位置づけを示す.本研究では X 線 CT 計測で得られた表面メッシュデータから CAE で用いる解 ボイド表面 M VSi メッシュ 面の向き 析用四面体メッシュを生成する手法の開発を目的とする. 提案手法は,ボイドを除いた製品形状に対して四面体メ 閉メッシュ化 とボイド分離 ッシュを生成しボイドメッシュと干渉及びボイド内部に 含まれる四面体の除去を行い,ボイドメッシュ外側近傍 M AS ボイド の四面体の各表面頂点を移動させることによる近似を行 う(メッシュ適合) .そして,四面体除去を行う前にボイ M VA 要素サイズ 製品形状 四面体メッ シュ生成 A-2 A-1 ボイドを含む 製品のX線 CT計測 メッシュ 製品形状 表面メッシュ M PS 初期四面体 メッシュ Delaunay法 高密度 製品形状 四面体 メッシュ M 解析用四面体 ˆ S MA メッシュ 局所メッシュ 細分化A-3 干渉判定 V P 製品形状メッシュ ドメッシュ上の各頂点における曲率に基づいて四面体の メッシュ 適合 A-4 QEM Shrink wrapping ひずみ エネルギー 品質改善 A-5 ODT 図 3 提案手法の概要 細分化を行うことにより,ボイド形状の高精度近似を実 現している.本手法の特長は,ボイドを除いた製品形状 イド形状を近似できるため,ボイド形状の複雑さによら 2 局所メッシュ細分化とメッシュ適 合による四面体メッシュ生成アル ゴリズム ない頑健な手法となっている. 本研究で提案する四面体メッシュ生成法は,図 3 に示 に対して四面体メッシュを生成することができれば,四 面体の除去と頂点移動のみといった安定な処理だけでボ される以下の 5 つの STEP から構成される. 1 Step1) 閉メッシュ化とボイド分離(A-1) 図1のように,製品の一部を切り出してきた製品形状表 干渉四面体 及び内部四面体 ボイド表面メッシュ 四面体 除去 面メッシュに対して閉メッシュ化を行い,製品形状表面 Shrink wrapping メッシュとボイドメッシュの分離を行う. Step2) 製品形状四面体メッシュ生成(A-2) Step1 で得られた製品形状表面メッシュに対して, Delaunay 法により四面体メッシュを生成する. 製品形状 四面体メッシュ Step3) 局所メッシュ細分化(A-3) 図 4 メッシュ適合 Step1 で得られたボイドメッシュ上の各頂点の曲率に応 許容誤差 e じて,Step2 で得られた四面体メッシュを細分化する. Step4) メッシュ適合(A-4,図 4) 最長稜線長 s Step3 で細分化した四面体メッシュを用いて,ボイドメ 弦までの長さ x ッシュと干渉している四面体と,ボイド内部に含まれて いる四面体の除去を行う.次に,四面体除去後の内部表 半径 1 κ 図 5 許容誤差 面の各頂点をボイドメッシュ上へと移動させることと, Relaxation を繰り返すことによりボイドメッシュを近似 エッジスプリット する. Step5) 品質改善(A-5) Step4 で得られた四面体メッシュに対して,品質を向上 させるため,ODT スムージングを用いて品質改善を行う. 3 ボイド分離(A-1) 本研究では,入力となる表面メッシュに対して,製品 図 6 エッジスプリット 形状表面メッシュとボイドメッシュの分離を行う.ボイ ドと製品の判別は符号付き体積の符号にて行う.符号付 ルに基づく曲率推定法[1]を用い,頂点 の最大主曲率は以 き体積とは,連結メッシュの三角形要素の各頂点と原点 下の最大固有値として算出される. とのベクトルがつくる四面体の符号付き体積を連結メッ (1) シュ内の三角形数で総和をとったものである.このある 連結メッシュの符号が正ならば製品形状表面メッシュ, ここで, は から半径 r の球内のの三角形の面積を 負であればボイド表面メッシュと判別される. 表し, 4 製品形状四面体メッシュ生成(A-2) を表す) .式(1)により各頂点の最大主曲率を導出し, は は e の隣接三角形同士の法線同士の角度を, の長さを表す(e はメッシュのあるエッジ その曲率と許容誤差に基づき,以下の式でボイド表面上 ボイド分離により得られた製品形状表面メッシュに 対して,Delaunay法に基づき四面体生成を行う.四面体生 の各頂点を含む各四面体要素の要素サイズを決定する (図 5) . 成にはフリーのオープンソースコード,TetGen[2]を用いた. 5 局所メッシュ細分化(A-3) ボイド表面メッシュ上の曲率値が高い所を細かくし, 形状表現精度を高めるため,製品形状表面メッシュに対 して生成された四面体のうち,ボイドメッシュ上の各頂 点を含む四面体要素を細分化する.細分化における四面 体要素サイズはその四面体が包含しているボイドメッシ ュ上の各頂点の曲率値に基づき決定する.ここで,用い る曲率は各頂点における最大主曲率であり,曲率テンソ (2) ここで,κは各頂点の最大主曲率,s は該当四面体要 素の最長稜線の長さを表す.また,τは許容誤差を表す. 細分化の方法としてはエッジスプリット(図 6)を行う. まず,式(2)を満たすようなボイドメッシュ上の頂点を 含む四面体の最長稜線の中点に点を発生させ,その点か ら最長稜線を含まない他頂点へと稜線を発生させ,四面 体を 2 分割する. 6 メッシュ適合(A-4) 6.1 干渉及び,内部四面体除去 四面体 頂点 製品の四面体メッシュ生成後,製品形状表面メッシュ 内部に生成された四面体メッシュのうち,ボイド内部に 頂点を 1 つでも含む,あるいは干渉している四面体を除 去する.その後,干渉四面体とボイド内に含まれている 四面体の除去を行う.本研究では除去後,ボイド形状外 ボイド表面 メッシュ 側近傍に位置する四面体表面頂点を近似頂点とする. 四面体 表面三角形メッシュ 6.2 Shrink wrapping 図7 Shrink wrapping ボイド表面メッシュを製品形状表面メッシュ内部に生 成された四面体メッシュにて近似する.この近似には Shrink wrapping[3](図 7)を利用する.Shrink wrapping は n i M VSi 目的形状上への頂点移動と Relaxation の繰り返しにより, 当該形状を近似するという手法である.この手法により ni pˆ i 交差 三角形 tc 高精度に近似でき,かつ表面メッシュの Relaxation が行わ れるので表面三角形メッシュの品質の向上ができる. pi 移動後 頂点位置 (頂点・面間距離 の総和を最小化) 四面体の頂点の移動には QEM[4](Quadric Error Metrics) を用いる.QEM を用いる理由は四面体各頂点をそのまま ボイドメッシュ上へと移動させるとボイドメッシュの凸 部や凹部において誤差が大きくなるためである. 図8 形状近似誤差 QEM は頂点と面分の自乗距離を誤差評価量とするもの pˆ i であり,本研究では近似頂点の法線方向に交差する三角 形(交差三角形)とその三角形の隣接三角形からの自乗 pi pˆ j 距離の総和を形状近似誤差と定義している(図 8) .QEM による最適頂点位置は式(3)で求められる. 図 9 Relaxation イメージ (3) u ここで, は頂点 i の最適頂点位置, は頂点 i の移動 前の頂点位置, は交差三角形の 3 頂点の Q 行列の和で あり, は頂点の法線, は最適移動距離を表す. また,Relaxation(図 9)は式(4)のように表すことが E (T ) uI x uxρxdx でき,四面体表面上の頂点位置を修正する. Ω x x (4) ここで は の隣接稜線集合, は の隣接頂点集 合, は の隣接頂点, は減衰係数, は に接続して いる稜線の平均稜線長を表している. 7 品質改善(A-5) 品質改善のためにODT (Optimal Delaunay Triangulation) スムージング[5]を導入している.ODT とは,与えられた 頂点集合に対して,図 10 に示すようなエネルギーが最小 図 10 ODT で最小化するエネルギー となる三角形分割のことである.ODT スムージングはエ ッジのフリッピングと式(5)で示した頂点位置へと各頂 点を移動させることを繰り返すことにより品質を改善す る方法である. (5) ここで, は k ステップ時の頂点の位置, は頂点 i の 1 近傍領域(スター) , は単体 の外心, は刻み幅を 表す. 8 実行結果と考察 図 11 に本研究で用いた X 線 CT 計測から得られた実製 品データの入力表面メッシュと,本提案手法を適用した 結果を示す.また,図 12 に品質評価結果を,表 1,2 に 正面 近似誤差評価結果を示す.品質評価には式(6)により求 内部構造(切断面) 頂点数:5,229,三角形数:10,212 められる stretch[6]を用いる. Vh St (h) 6 6 max eh I e S h 外面 (a)入力三角形メッシュ (6) ここで,Vh , S h は四面体要素 h の体積と表面積, I e は稜線 e の長さである.St (h) の値は正四面体で 1,要素 形状が歪むにつれて 0 に近づく. ODT による品質改善により,平均 stretch が 0.56 から, 0.61 へと向上した.また,図 12 の stretch 分布より,品質 の高い四面体の割合が増加したことから ODTスムージン グによる要素品質の改善の効果がみられた.しかしなが 頂点数:7,933 四面体数:32,645,処理時間:49.66 秒 ら,最小 stretch は改善されていないままであり,現状の (a)提案手法による出力メッシュ 最小 stretch が 2.0×10-10 となっている.原因としては,縮 図 11 解析メッシュ生成結果 退四面体(ほぼ平面のつぶれた四面体)に近い要素が存 品質改善後四面体stretch分布 品質改善前四面体stretch 在しているためであると考えられる. 8000 形状近似評価における形状近似誤差はあるメッシュか 7000 7000 6000 6000 ら他方のメッシュ上の最近点までの距離を用いた.これ 5000 5000 を双方向にて評価を行った. 表 1 より,細分化の導入により,ボイドメッシュを近 頻度 9000 8000 頻度 9000 4000 3000 2000 2000 1000 1000 0 0 似する四面体各頂点位置がボイドメッシュにより近い位 データ区間 データ区間 (a)品質改善前 置に変化していることがわかる.四面体メッシュからボ (b)品質改善後 図 12 イドメッシュ(TM→VM)への最大誤差で一部悪化もみ Stretch 分布 表 1 細分化前後近似誤差結果 られたが,双方向からの平均誤差値の低下から,全体的 には近似精度が向上したと言える. 9 結論と今後の課題 4000 3000 細分化前 細分化後(提案手法) 最大誤差 平均誤差 最大誤差 平均誤差 VM→TM誤差 1.42 0.392 0.852 0.165 TM→VM誤差 1.39 0.273 1.67 0.264 本研究の結論は以下の通りである. 1.局所メッシュ細分化とメッシュ適合により,ボイド形状 を含んだ実製品データに対して四面体メッシュを生成 [2] [3] できる手法を提案した. 2.ボイド形状の高精度再現のための局所メッシュ細分化 [4] を導入することにより,近似誤差を低減することができ, ボイド形状の再現精度を向上することができた. また,今後の課題としては以下があげられる. [5] 1.細分化により生じてしまった sliver 要素の修正 参考文献 [1] P. Alliez, D. Cohen-Steiner, O. Devillers, B. Levy, and M. Desbrun, “Anisotropic Polygonal Remeshing,” Proc. ACM SIGGRAPH ’03,pp. 485-493, (2003). [6] Hang Si,TetGen ,( http://tetgen.berlios.de/) LeifP.Kobbelt et.al, “A Shrink Wrapping Approach to RemeshingPolygonal Surfaces”,EUROGRAPHICS’99,18(3), (1999). Michael Garland and Paul S. Heckbert, “Surface Simplification using Quadric Error Metrics”, in Proc. SIGGRAPH97, pp.209-216,(1997) Q. Du, D. Wang Tetrahedral mesh generation and optimization based on centroidal Voronoi tessellations , International Journal for Numerical Methods in Engineering, Vol. 56, No. 9, pp. 1355-1373(2003) B. H. V. Topping, J. Muylle, P. Ivanyi, R. Putanowicz, and B. Cheng, “Finite Element Mesh Generation”,Stirling, U.K.: Saxe-Couburg Publications,(2004).
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