<2013.12 月号> 株式会社フォーラムジャパン 東京都千代田区神田小川町 3-20 第 2 龍名館ビル 6F 社員による紹介制度と職業安定法第40条 ~入社を仲介した社員に紹介料を支払っても問題ないでしょうか?~ アベノミクス効果による景気回復で企業の人手不足感が高まっています。そのため、新規に求人を行う企業が増えて います。下表の通り、リーマンショック後の長期不況の影響で 2009 年の有効求人倍率・新規求人倍率はともに最も低い 値を示していますが、この時期を底に、年々求人倍率が上昇しています。 景気回復にともない、2012 年から有効求人倍率が回復し、今年 10 月の有効求人倍率は 0.98 倍。新規求人倍率は 1.59 倍と、最近では最も高い値を示しています。 求人数が増える一方、求職者数は、逆に減少しています。そのため、企業は採用難に陥り始めています。求人媒体を 使った採用活動で思うように人材を集められない企業が増え始めていますが、求人にかかる経費が右肩上がりに上昇し てしまいます。 年度(西暦) 2006 年 2007 年 2008 年 2009 年 2010 年 2011 年 2012 年 2013 年 10 月 年度(和暦) 平成 18 年 平成 19 年 平成 20 年 平成 21 年 平成 22 年 平成 23 年 平成 24 年 平成 25 年 有効求人倍率 1.06 1.02 0.77 0.45 0.56 0.68 0.82 0.98 新規求人倍率 1.56 1.47 1.08 0.79 0.93 1.11 1.32 1.59 (厚生労働省年度別一般職業状況より) 全国求人情報協会によると、10 月の求人メディア全体の広告掲載件数は 810,220 件で前年同月比+21.9%と高い伸び になりました。三カ月移動平均件数(9 月)は、+30.2%となっています。各メディアの件数は、有料求人情報誌 59,942 件(-12.5%)、フリーペーパー298,457 件(+5.6%)、折込求人紙 96,980 件(+29.2%)、求人サイト 354,839 件(+49.0%)と、 有料求人情報誌以外はすべて前年同月比を上回っています。 反面、応募者数は減少しています。景気回復期にはよく見られる現象です。つまり企業の求人需要が旺盛になる一方 で、求職者数が減少し、思うように採用が進まない状態になっているのです。せっかく応募者が集まっても、採用担当 者からは「見合う人材がなかなか見つからない」という悩みを聞くことも増えています。そんななか、以下のように「社 員紹介制度」を導入する企業が増えています。 【事例】当社では会社規模の拡大に伴い、採用活動に力を入れています。そこで、より多くの優 秀な人材を確保するために、媒体による求人活動に加え、社員紹介制度を導入することになりま した。この制度では、社員が紹介した応募者が入社し、試用期間を経過したら、紹介した社員に 一律10万円の紹介料を支払うものとします。 ところでこの紹介制度導入を導入するにあたって、注意すべきことはないのでしょうか? 以下、社員紹介制度を導入するうえで、気をつけておきたい点についてご紹介します。 1.社員紹介制度 社員紹介制度とは、社員に転職を希望する知人などを紹介してもらい、紹介のモチベーションを高めるために、そ の報酬として仲介した社員に金銭(紹介料)を支払う制度です。 求人コストを抑えることができるうえ、社員の目による一時審査を経ているため、適性を有した人材を確保しやす い、採用コストが抑えられるなどの利点があり、採用方法のひとつとする会社が増えています。 しかし、社員に対する金銭の支払が職業安定法第 40 条に違反する可能性があることに注意しなければなりません。 2.職業安定法第40条 第40条(報酬の供与の禁止) 労働者の募集を行うものは、その被用者で当該労働者の募集に従事するもの又は募集受託者に対し、賃金、給料 その他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き、報酬を与えて はならない。 第36条(委託募集) 労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えて労働者の募集に従事させようとすると きは、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。 2 前項の報酬の額については、あらかじめ、厚生労働大臣の認可を受けなければならない。 3 労働者を雇用しようとする者が、その被用者以外の者をして報酬を与えることなく労働者の募集に従事させよ うとするときは、その旨を厚生労働大臣に届け出なければならない。 職業安定法では、民間事業所等の行う労働者募集について、文書募集および直接募集については自由とされてい ますが、第三者に委託して行う委託募集については許可制または届出制(職業安定法第36条※上記条文参照 )とさ れています。 「文書募集」とは、求人募集広告等を利用して行う採用活動のことを指しています。 「直接募集」とは、労働者を 雇用する者が、文書募集以外の方法で、自らまたはその被用者をして行う労働者の募集のことを指しています。社 員紹介制度は、この直接募集にあたります。 直接募集の方法には、職業安定法上の規制があります。そのひとつが、募集主が募集業務に従事させている被用 者に対して、「賃金、給料その他これらに準ずるもの(以下賃金等という) 」以外の報酬を支払ってはならないとい う規制です(職業安定法第40条※上記条文参照 )。これは、中間搾取を防止するための委託募集に関する規制が直接 募集という形式を取ることにより潜脱※ されることを防ぐための規制です。 ※潜脱とは? 一定の手段とその結果を法が禁止している場合 、禁止されている手段以外の手段を用いて結果を得て 、法の規制を免れること 3.実務における対応 以上のように、リクルーターに対する賃金等以外の報酬の支払いは職業安定法第40条の違反になるのですが、 中間搾取の弊害がない場合は、社員紹介制度を定着させ、リクルーターのモチベーションを高めるため、積極的に 報酬を支払っていきたいと考えると思います。では、その場合、実務上どんな点に注意して、社員紹介制度を運用 していけばよいのでしょうか? 職業安定法第40条をもう一度ご覧下さい。そこには、 「労働者の募集を行うものは、その被用者で当該労働者の 募集に従事するもの又は募集受託者に対し(中略)報酬を与えてはならない。」とありますから、基本的に報酬を禁 じられているととらえるべきです。しかし、それが許される例外が、(中略)の部分にあります。「賃金、給料その 他これらに準ずるものを支払う場合又は第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合を除き」の部分です。 例外の1つが、「第36条第2項の認可に係る報酬を与える場合」です。これは、紹介事業のことです。そして、 もうひとつの例外が、「賃金、給料その他これらに準ずるものを支払う場合」です。 わかりやすくいえば、報酬として支払うことは禁じられているが、給与等として支払えば、40条の違反に問わ れることはないということです。具体的には、賞与の査定への反映、またはリクルート活動を行った時間につき、 時間外手当、休日手当を算定して支払うという方法が考えられます。 【社員紹介制度を運用するための注意点(まとめ) 】 紹介料は、報酬ではなく給与等として支払うこと。 会社の就業規則(賃金規定)に、以下のことを明確に定めること。 ・ 紹介料を「手当」として支給する旨 ・ 支給される対象社員の範囲、要件、支給金額 一定期間における、同一人による制度適用の回数に何らかの制限を設けること などが考えられます。せっかくの制度が、法違反と指摘されないよう十分配慮して運用してください。
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