開館 30 周年によせて 未来へ 茅ヶ崎市の松林公民館が地域に根を下ろし、30 年が経過した。そういう歴史を刻んだ公民館が、 未来に向けてもっと羽ばたいて、これからもこの松林の地域に公民館が続いていくだろう。その松 林の地域の未来に向けた公民館への期待を語ってみたい。 私は東日本大震災から、日本の公民館は大いに学び、そこから公民館を再発見していくことがで きると確信をもつことができた。震災による被災は、当然のことながら地域性と結びつき、 「地域」 の在り方が浮き彫りになるとともに、地域性を土台に育まれた公民館もまた浮き彫りになったから である。この経験は、公民館の在り方とともに、広く、これからの地域、日本のあり方を考えるう えでも大切な課題が横たわっていることを思い知らされたのである。それから間もなく三年が過ぎ ようとしている。 日本の半世紀前、つまり戦後のしばらくは、ずいぶん田舎の風情が強かった。封建的な習わしも つきまとっていた。そんな時代の中で、 「公民館」は、新しい時代を作るために生まれたのである。 新しい時代をつくる作法として、「地域」にこだわった出発であった。公民館は、豊かな地域の在 り方を追求する拠点、つまりよりどころとして、地域の人々に発信する役目を持ち続けてきた。 ところが、日本の社会はその後、地域生活には関心が薄れ、それによって地域の活動を活性化す る組織や団体は力を落とし、また、それに応じて公民館に対する関心も薄れてきた地域も増えてき たのである。そんななか、茅ヶ崎では、地域にこだわり、新しい息吹を地域に届ける公民館がよう やく誕生するようになったのである。見向きもしなくなる「地域」に、公民館が根をはるようにな 4 羽ばたけ 日本体育大学教授 上田幸夫 った。旧来のイメージとは別の、新しい市民の新しい地域創造の場が、身近な生活の場に生まれ、 親しむことができたのである。それは地域の財産である。 こうして、茅ヶ崎市では、生活の場に公民館をもとに、地域の仲間を呼び寄せることができたの である。 今、私はこの経験の計り知れない意義を実感している。それは大震災を経験した私たちが、再認 識したのは、「地域」である。震災や自然災害は、本来、地域としっかり結びついているものなの である。そうである以上、この地域をたくましく見据えることの必要性が実感を持って迫ってくる。 その実感を土台に私たちは今、学ばねばならぬ。学んだつもりでも、学び得ていないといったこと があってはならない。わかった気になったりしてはならない。真剣に、豊かな地域生活をすすめる 手立てが、今こそ必要であるということを学び取る機会なのである。 豊かな地域生活を進める手立てとしての大事な役割は、公民館が担う本来の責務なのである。だ からといって、そういう役割をしっかり果たしてあたりまえと、呑気に構えていては震災から学ん だことにはならない。今の公民館が、もっとそのような役割を発揮していくための条件を今以上に 高めていくことが、今の私たちに課せられているのではないかと心に刻み、小さな動きでも始める ことではないか。 そういう小さな動きが地域の人たちの努力によって、その役割がしっかり維持され、継続され、 これからの松林公民館が羽ばたいていくことを心から願っている。 5
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