特集 省エネ対策、環境対策、安全対策を探求した日産自動車専用船 スマートシップ「日王丸」訪船記 共有船舶建造支援部 スマートシップとは… スマートセンサー、スマートハウス、スマートフォ ンなど最近よく耳にするスマートとは、我々が普 段用いている、痩せていてスタイルが良いではな く、賢いとか高知能を表わす言葉である。この言 葉を商船に当てはめると、 「エネルギーを省く」 「エ ネルギーを創る」 「 環境対策を施す」 「 高度な航海 能力を持つ」 「安全性を確保する」 「高い輸送品質 たとえ ● ば 電子制御された主機関によって使用燃料油は年間約130トン削減 され、 NOxの排出量も低減 ●L ED照明を採用して省電力長寿命、 しかも高所での交換作業が軽減 ● 甲板上にソーラーパネルを設置して発電。 使用電力の一部をまかなう ● ランプウェイを始め甲板機器のすべてを電気駆動にして、 海洋汚染 防止のため油圧機器を甲板上からなくした ● 東日本大震災を教訓に、本船から陸側への電力と水の供給を可能に を有する」 「メンテナンス費用を抑える」などの能 した。 また、 これら以外にも船体のいたるところにスマート化を盛り込み、 力を備えた船ということになろうか。 年間最大約1, 400トンの燃料削減、 18%のCO2 削減も実現 北星海運㈱(東京都中央区)と機構の共有で建 造され、今年1月に竣工したRORO船「日王丸」 は、これらの諸条件を満足させるスマートシップと して計画された。 まさに次代を見据えた環境対応型のRORO船が誕生した。 このレポート 今回、北星海運のご好意により本船試乗の機会を得て、 をまとめてみた。 鉄道・運輸機構だより ¦ 2012 Summer 04 スマートシップ 「日王丸」 訪船記 特集 また屋上にはアンチローリングタン あいにくの雨 模 様となったこの日、 上に移動。ここに取り付けられた太陽 次に暴 露 甲 板 、 つまり 貨 物 艙の屋 横 揺れと逆 方 向に移 動させることで エア弁とダンパの作 動によって船 体の のタンクに多量の水を入れ、その水を 創エネ と 減 揺 我々は午 前9時 半に川 崎 港 岸 壁に集 光パネルの説明を受ける。考えてみる 揺れを抑 える効 果があり 、減 揺 装 置 いざ 船 内へ 合した。船舶の場合、航海中の定員は と大型のRORO船の場合、広大なス と呼ばれている。 クも設 置されている。これは左 右2つ 法律で厳格に決められており、機構側 ペースがありながら屋上はこれまでほ kWhもの電 力を げんよう そう ち に与えられた枠は3名。ほとんどのメ とんど利用されることはなかった。本 ンバーは を設 置して最 大 空き地の有効活用である。 発電することができるという。まさに 50 なければならない。いきおい急ぎ足で の見学となった。 まずランプウェイを上って船内へ。こ こから北星海運の佐藤有造社長と井 上 祐二船 舶 専 任 部 長に案 内していた だく。そして車両甲板へ。 本 船の主な積 荷は完 成 車とトレー ラーシャーシで、それらを置くための 陸上電力コネクション:災害時に陸側へ送電が可能 アンチローリングタンク 暴露甲板上に設置された太陽光発電パネル 蓄電池:最大500Ahの蓄電が可能 スペースを車両甲板と呼び、本船の場 ショアランプウェイ:インバータ制御により開閉時の騒音軽減を実現 船はここに281枚のソーラーパネル 時の出 港までに船 を 降り 合6層からなっている。そのうち2層 がシャーシ用 甲 板で最 大115本の 搭 載が可 能 。残り4層が自 動 車 用 甲 板で 最 大 880 台︵スカイライン換 算︶ を搭載することができる。 鉄道・運輸機構だより ¦ 2012 Summer 05 車両甲板 (シャーシ用) 車両甲板 (自動車用) 11 スムー ズな 離 着 岸 次に操 舵 室へ。本 船の特 徴の一つに 船 側より 突 出 させたブリッジウイン グを設けたことが挙げられる。これに よって、離着岸時に船と岸壁の距離を 正 確に把 握 することができるように なり 、離 着 岸に要する時 間 短 縮と安 全性の向上につながる。また本船はサ イドスラスターを船 首 船 尾に各1基 ずつ設置して、真横移動や、その場回 LED照明:艙内、居住区には可能な限りLED灯が 採用されている。消費電力30%減 頭が可能となっている。 発電量表示ディスプレイに目を向ける 機構・久保田理事 レーダーマストと電光掲示板(陸上や他船と文字でのコミュニケーションが可能) ブリッジ:最新の航海機器に皆、見入っていた 切り上げ構造により風の抵抗を上方向に受け流す。 省エネ効果:燃料油約50トン/年 ブリッジウイングに設置された操作盤 鉄道・運輸機構だより ¦ 2012 Summer 06 スマートシップ 「日王丸」 訪船記 特集 レーダーで他船の状況を確認して出入港や 航海に臨む ゆったりとしたスペースの機関制御室 造水装置:海水を清水に変える 07 鉄道・運輸機構だより ¦ 2012 Summer スマー トエンジン 高膨張泡消火装置:CO2 消火装置ではなく泡消火を採用 主 機 関は内 航 船では初となる電 子 制 御の 電動揚錨機・係船機:従来の油圧駆動方式から電動化された 2サイクルディーゼル機関が搭載されている。 ブリッジウイング下に設置された揚錨機・係船機コントロール盤: 係船機ロープの巻き取り、揚錨はここで行われる この主 機 関は当 然NOx 二次 規 制に対 応し ており、省エネ効 果も大きく、年 間 約130 トンの燃料油削減が可能になったという。 内航船としては最大級のエンジン:排気、燃料供給を機械制御から電子制御化された 負しています。 ︵日産グリーンプログラム2016︶ の 境 対 応 車 エ(コカー、EV の)開 発に注 力していると同 時に、NGP2016 急遽、本船から常時1000kWhの らの支援がなにかできないかと考え、 テレビや新聞で知り、災害時に海側か 08 鉄道・運輸機構だより ¦ 2012 Summer やスーパーエコシップ﹁北翔丸﹂などの 活かして数十年後にも対応できる最 建 造コンセ プト 出港して次の寄港 地である追 浜ま 高 水 準の環 境 対 応 船の建 造に至った ゆった り 広々スペース さすがに大 型のRORO船ともな で約1時 間 半 。この時 間 を 利 用 して 建造実績があり、それらのノウハウを ると船 内はどこも、ゆったりとスペー これだけの環 境 対 応 型 船を造るに 至った経緯をお聞かせください。 災害への支援も念頭に造られたとか。 とアイデアが盛り込まれた船だと自 わけです。現在、考え得る最新の機器 開放感の違いを痛感した。 目標達成に向けて、我々、海上輸送を 電 力 を 陸 側に送 電 可 能にし、さらに 荷 主である日 産 自 動 車は近 年 、環 担当する船舶にも環境対策を求めら 200トンの清 水も供 給できる設 備 東日本大震災後、被災地の現状を れる時 代になっています。当 社は幸い を整えました。 見送る機構の職員 にして、 これまでエコシップ﹁日龍 丸 ﹂ 川崎出港:いよいよ出港の時刻となり、 3名を除く機構関係者は下船。 そして離岸。 しているタンカーや貨物船に比べると 佐藤社長に話を伺った。 佐藤社長の要望で設けられたという和室 スが取られており、我々が日ごろ目に 乗組員の居住環境に配慮したスペース スマートシップ 「日王丸」 訪船記 特集 右前方に追浜港が見える 接岸準備 追浜港には積荷の完成車が並ぶ 追浜港に接岸:船首尾に設けられたスラスターにより大幅な時間短縮が実現 小 型のスマー トシップ 短時間の見学ではあったが、最先端 の船ということを再認識した。 この﹁日王 丸 ﹂は10000トンを 超す内 航 船としては最 大クラスの船 型で、 一方、機構の共有船の多くは10 00トン未満の小型船が占めており、 本 船と同レベルの環 境 対 応を行 うこ とは難しい。しかし小さな船でもでき るスマート化 、あるいは小さな船だか らこそのスマートシップが 実 現 すれ ば、内 航の未 来 も 明るくなるような 気がする。 追浜入港前の佐藤社長と機構・後藤理事 ■幅 (型) 26. 00m ■主機関 三井MAN B&W 8S550ME-C8 1基 10m 乾舷甲板 8. ■航海速力 21. 2ノット ■垂線間長 160. 00m ■載貨重量 7, 200トン ■深さ (型) No. 4甲板 24. 60m ■連続最大出力 13, 280kW×127rpm ■喫水 (型) 7. 16m ■建造 ㈱新来島どっく 鉄道・運輸機構だより ¦ 2012 Summer 最後に、お忙しい中、快くお付き合い ■総トン数 11, 514トン 下さった佐藤様をはじめとして北星海 09 ■全長 169. 98m 運の皆様に厚く感謝申し上げます。 「日王丸」の 主 要目
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