小学校6学年社会科実践例 実践者 研修主題 「都筑郡家からつながる奈良時代」(平成 17 年度) 横浜市立中川小学校 中野 直茂 教諭 「事実の実感的なとらえを生かした授業をどう創るか」 1 研修会研究仮説と第6学年部会の研究の手だて 研究仮説 「事実の実感的なとらえ」のみとりを大切にして授業構成をすることによって「子ど もによる切実な追究」を創ることができる。 第6学年部会 研究の手だて ①授業構成 単元構成の工夫 ②個のみとりを授業にどう生かしていくか 2 個人テーマ 上記1の内容を踏まえ、子どもたちが「事実の実感的なとらえ」をできるような教材の工夫、個の 「みとり」を生かして単元構成をしていくことなどを大切にし、学習を展開していくことにした。そ こで、自分なりに上記1をとらえなおし、下記の個人テーマを設定して研究を進めた。 子どもたちが、興味・関心を持つ事実から学習に入り、その追究を通して心を動かされ るような経験をすることで、子ども自らの考えを変容させ、子どもによる切実な追究を 創る。 ○何を教材として取り上げるのか (1)自分たちのくらす横浜北部地域にあった都筑郡家 現在の横浜市域は、奈良時代、武蔵国と相模の国に分かれて属していた。中川小の地域は武蔵国の 方に属した。そして、現在の都筑区の名称は、この時代のこの地域の総称であった「都筑郡」に由来 する。 奈良時代、現在の青葉区荏田に「都筑郡家」が築かれた。ここは武蔵の国に属し、現在の横浜北部 地域を管轄したと考えられている役所である。本校からは直線で約5km ほどのところになる。ここ では、税の徴収や戸籍の管理などが行われ、都(平城京)から遠いこの地にも朝廷の力が及んでいたこ とがとらえられる。 この「都筑郡家」は横浜市歴史博物館の常設展示室に大きな立体模型が展示されている。その様子 を見ると、建物の配置から、役割、荷物を運ぶ人々の様子、倉に税を納める様子など当時の様子が具 体的にとらえられる。遠い昔、遠い場所の話でなく、自分たちのくらす地域に実際にあった奈良時代 の役所。それを教材として取り上げることで、この学習への子どもたちの興味・関心を高めることが できると考えた。 本校は幸いにも横浜市歴史博物館が学区内に立地している。学年全体での見学は、4月中旬に行っ たが、今回の学習に関しても、気軽に行ける点を生かして、子どもたちが歴史博物館を活用しながら 学習を展開していくことをめざしたい。 教材化にあたっての歴史博物館との連携 「都筑郡家」を教材化することに関して、横浜市歴史博物館の方にご協力をお願いした。 歴史博物館学芸課の学習支援担当(エデュケーター)の方に力添えをいただき、学芸員の平野卓治先 生をご紹介いただいた。 平野先生からは、 「都筑郡家」についての具体的な事柄についてや当時の中央とのつながりを示す 具体的な資料(木簡、記録など)などについて解説をしていただき、詳しい資料をいただくことができ た。その中から、具体的に子どもたちが「事実を実感的にとらえられる」資料として、次の事柄を得 ることができた。 ・ 「都筑郡家」の規模、建物の配置、役割 ・税の種類 ・一人が運んだ税の重さ(推測であるが、20kg 前後) ・国府から都までの往復の日数(往き 30 日、帰り 15 日) ・木簡(複製) ・万葉集にある都筑出身の防人「服部於田」による歌(遠くはなれた故郷を懐かしむ歌) 「わが行きの息つくしかば足柄の峰はほ雲を見とど偲ばね」 こうした資料をどのように、どのタイミングで子どもたちに提示するか、効果的なときを考えてい きたい。 (2) 聖武天皇と大仏・・・(略) ○子どものみとりを生かした単元構成・・・(略) ○興味・関心を高める導入 「都筑郡家」について子どもたちは何も知らないといっても過言ではない。歴史博物館見学のときも そのことにふれた感想を書いた子はいなかった。そこで、この学習では導入がとても重要になると考 えた。 そこで、 「驚くことと体験すること」を第1時にできるようにしたい。そこでの驚きや体験から感 じたことがその後の追究のエネルギーになると考えるからである。 担任自身が西暦 755 年の都筑郡中川に住む「中べぇ」として登場することにした。設定としては、 都筑郡家に税を運ぶ途中ということで、巻頭衣をまとい、税を背負っているようにした。 実在の人物ということではないが、子どもたちは興味を持つことが予想されるし、また、この後で 取り上げる「服部於田」についても同じ都筑から防人として遠く北九州まで向かわなければならなか ったことに気持ちを寄り添って考えられると思ったからである。 この「中べぇ」から子どもたちはたくさんの疑問をもち、「知りたい」という思いを持てるのでは ないだろうか。 次に体験である。およそ 20kg という荷物(税)を運ぶことは当時の人にとっても大変なことであっ たのは容易に想像がつく。また、それは税を納める人自身が運び、郡家から国府、さらに都(平城京) までも運んでいったということは子どもたちにとっても驚きの事実である。 当時と同じ道具で運ぶというところまでは用意できないが、安全面なども考慮して、リュックサッ クで同じような重さを背負う体験をできるようにしたい。それによって「中べぇ」たち庶民の税を運 ぶことの大変さを実感できると思う。 3 実践 (1) 単元名 都筑郡家からつながる奈良時代 (2) 単元目標 都筑郡家について調べることを通して奈良時代の政治に興味を持ち、税を納める庶民の気持ちに ついて考えたり、大仏を造った聖武天皇の思いにふれたりしながら、国のしくみが整えられていっ たことをとらえる。 [社会的事象への関心・意欲・態度] ・都筑郡家や大仏について資料を集め、調べようとする。 ・当時の人々や政治を進めた聖武天皇などの思いについて考えようとする。 [社会的な思考・判断] ・都筑郡家や大仏造りについて調べることから、国家作りが進められていくことについて自分の考 えを持ち、当時の人の思いや聖武天皇の思いと比べることで自分の考えを深める。 [観察・資料活用の技能・表現] ・都筑郡家や大仏にかかわる資料を活用し、国のしくみが整えられていく様子について調べる。 [社会的事象についての知識・理解] ・天皇中心の政治が確立されたことを理解する。 ・自分たちの地域にあった都筑郡家が聖武天皇や奈良時代の政治につながっていることを理解する。 (3)児童の実態・・・(略) (4)単元構成(7時間) 資料 荷物 道のり図 都筑郡家についてしらべる。 3時間 都筑郡家の模型写真 ○どのように平城京まで運ばれたのか体験してみよう。① ・重さ こんなに大変な思いをして運んでいたんだ。 ・道のり ・運ぶ様子 自分で運ばなければいけないなんて。しかも、飢え死にする人もいたんだ。 中べぇさんが向かった都筑郡家ってどんなところだろう。 ○都筑郡家ってどんな所で、何をしたのか調べよう。② ・武蔵の国、都筑郡の郡庁 ・税を集めてチェックした。 ・税だけでなく、労役というものもあった。 資料 作成資料 万葉集 防人になった服部於田さんはかわいそうだな。 行きたくなかっただろうな。 でも、行かなくてはいけなかったんだろうね。 それだけ国のしくみがしっかりしたのかな。 国の政治のしくみについて調べる。 4時間 資料 作成資料 本 ○国のしくみはどのようになっているのか調べよう。③ ・国府、郡家 ・平城京 し っかり 国のし くみ ができ たん だ ・国分寺、大仏 ね。 ・天皇中心(聖武天皇) あれほど大きな大仏を造る必要はあったのかな。 ○あれほど大きな大仏を造る必要はあったのか考えよう。① (本時) ・人々にとって負担が大きい。 資料 大仏建立の詔 ・働いて死んだ人もいる。 行基についての解説 ・9年もかかった。 ・伝染病、飢饉や争いが続いて、それを仏教の力で鎮めようとした。 ・行基も協力した。 普通の人にとっては大変な思いをしたんだね。 進んで協力した人もいるから、造る必要があったと思うよ。 造るのに賛成の人も反対の人もいたけど、あれだけ大きな ものを造れるくらい、国の力がしっかりとしたんだね。 (5)実際の流れ・・・(略) (6)本時について ○本時目標 大仏造りが人々にとって意味があったのか、調べてつかんだ根拠をもとに話し合うことを通して大 仏造りに込められた人々の願いを実感し、自分の考えを変えたり深めたりすることができる。 ○本時展開案 学習内容と・予想される子どもの反応 1 ○教師の支援と☆留意事項 本時の学習問題を確認する。 人々にとって大仏を造ったことに意味はあっ た。 2 各自の考えを明らかにして話し合う。 ○自分の考えと、その根拠をはっ (意味があった) きりとさせて話すようにする。 ・伝染病、飢饉、争いごとが続いて人々も不安になっ ていた。 ・造ることに協力した人たちがいる。 ☆事前に個のみとりをし、指名の ・大仏を造ることで人々が幸せになれると信じられて 順や対立しそうな子の関係を把 いた。 握しておく。 (意味がなかった) ・作業が危険で、亡くなった人がたくさんいた。 ・たくさんの費用がかかった。 ・出来上がったとき、お祝いの式に、造ったふつうの 人々は招待されなかった。 ・その後も争いごとは続いた。 3 働く人の給料やきまりなどについて知り、改めて自 ○事前のみとりで、労働条件につ 分の考えを見つめ直す。 いて把握している子がいなかっ ・お米を結構もらっていたんだ。 た。きつい、厳しい、危険とい ・働く仕事の中身で給料が違うんだ。 うだけではない面もあったと多 ・休んでいいときもあって、そんなにひどい様子じゃ 面的にとらえ直すことで、改め ないね。 て自分の考えを見つめ直し、ま 4 感想を交流する。 とめられるようにする。 ○本時授業記録・・・(略) (7)考察 ~実践を振り返って~ 研修会主題「事実の実感的なとらえを生かした授業をどう創るか」に向けて、研究仮説、第6学年 部会の研究の手だてをもとに個人テーマを設定し、研究、実践した。その内容を以下の点に整理して 考察を加えたい。 「事実の実感的なとらえが できていたか それを生かした授業が創れたか ○教材について ●都筑郡家 今から遠い 1300 年ほど前の時代のことを子どもたちの身近に持ってくることについて大きな意味 があったと思う。これを調べることにより、奈良時代に国のしくみが整えられ、しかも都から遠く離 れた関東のこの地まで支配の力が及んでいたことを具代的にとらえることができた。 一方、資料での調べやすさという点では、子どもたちの力に任せることには限界があった。そこで、 歴史博物館との連携を図り、教材化を進めた。全国でも貴重な、建物の完全な形・配置まで判明する 郡家の跡。そして、それを今の私たちに視覚で見せてくれる立体模型。また、この時代に都筑の地か ら防人に派遣された「服部於田」の万葉集に載っている歌。都に送られた税の品。木簡。そうした具 体的な資料と、実在ではないが、その当時の人に思いを近づけるために登場させた人物。これらによ って、学習への興味・関心を高めることができた。 重さ、道のりについては、実際に体験活動をすることで、自分の力、経験と比べながら当時の人た ちの苦労について感じ、話すことができた。「実感的にとらえる」姿だったと思う。 (第1時の感想から) (以下略) ○横浜市歴史博物館との連携 今回、この単元の学習を進めるにあたって歴史博物館と関わりを持って取り組んできた。教材化に 際しては、貴重な資料や解説をしていただき、それをもとに具体的に資料を提示したり子どもたちに 伝えたりすることができた。地域にある素材を教材化していくうえで、地域の歴史に詳しい歴史博物 館から学ぶところは大きい。 子どもにとっては、どうだろうか。学区にあるとは言っても、そう何度も足を運んだことのある子 は少ない。しかし、今回の実践では、都筑郡家を取り上げたことから身近な地域の歴史に関心を持ち、 クラスの中で若干ではあるが休みの日に改めて見学に行く子たちもいた。担任も同行し、大きな立体 模型の前で話をした。知りたいことがあるとき、できたときに、それを調べに行く、見に行くことは 社会科が大切にしてきたことだと思う。それを全員ではないが、子どもたちが実践していけたのは意 味があることだったと思う。
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