日英語における相表現のずれ ― 日本語の「テイル」形と英語の進行形 ― 04111BMU 宮 田 朋 香 1. 問題 英語の動詞に関する日本人の間違いのなかでも、相に関する間違いはよく目につくものである。アス ペクト形式が担っている機能的意味が日英語でずれていることは、私たちが英語を学習するうえで問題 を引き起こす原因になっている。 私たちは、日本語の「テイル」形( 「テ」に形式動詞の「イル」がついたもの)と英語の進行形をほ とんど同義のように取り扱うが、英語の進行形がいつも日本語の「テイル」形になるわけではなく、ま た、日本語の「テイル」形がいつも英語の進行形になるわけではない。 例えば、次の例のように、日本語の「テイル」形の用法に引きずられて起こる誤りが多く見られる。 (1) a. その高速道路は私の家のそばを通っている。 b. The highway runs past my house. c. (2) * The highway is running past my house. a. 戸が開いている。 b. The door is open. c. * The door is being open. この論文の目的は、日本語における「テイル」形、英語における進行形を分析し、それぞれの意味の 記述を比較しながら、日英語の対応関係を示すことである。 2. 方法 2 章で、アスペクトについてまとめ、3 章と 4 章で、日本語の「テイル」形と英語の進行形で用いら れる動詞の特徴を考察し、それぞれの中心的意味と用法についてまとめる。5 章では 2 つの用法を比較 し、共通点と相違点を示し、6 章で、これらの考察の結果をまとめる。 3. 考察 寺村(1984)が分類した日本語の「テイル」形の用法と Leech(1971)が分類した英語の進行形の用 法を中心に比較を進める。それぞれの用法を比較すると、2 つの形態にはかなりの違いがあることが分 かる。その根本的相違は、日本語の「テイル」形は「既存の結果」を表すのに対し、英語の進行形は「未 完全の事態」を表すことである。 2 つの用法を比較する際、継続中である動作や状態を示す場合、実現済みまたは実現予定の出来事を 示す場合、近接未来を示す場合、一時的または永続的習慣を示す場合の 4 つに分け考察を進め、日本語 の「テイル」形と英語の進行形のそれぞれの意味がどこまで重なり、どこからずれが生じるのか、そし て、そのずれの要因は何かを考察する。 3. 結果 本論では、日本語の「テイル」形と英語の進行形の意味と用法を示し、それぞれを比較し、その類似 点と相違点を検討した。これは次の表のようにまとめられる。 日本語の「テイル」形 英語の進行形 一時的 ○ ○ 永続的 ○ × 過程 × ○ 結果の残存 ○ × 近接未来 × ○ 一時的 ○ ○ 永続的 ○ × 継続 習慣 用法別に見る日本語の「テイル」形と英語の進行形の比較 日本語の「テイル」形と英語の進行形は、一時的な動作・状態が継続していることを表す場合は類似 しているが、その他の場合はかなりの違いがある。この違いの根本的な要因は、日本語の「テイル」形 は「既完結の事態」を表すのに対し、英語の進行形は「未完結の事態」を表すことである。つまり、時 間軸上で表すとこの 2 つは正反対になっている。このため、日本語の「テイル」形は、 「既完結の事態」 を表すため、 「結果の残存」を表す用法があるのに対し、英語の進行形にはそのような用法はない。一 方、英語の進行形は「未完結の事態」を表すため、その時点では未完結であるが、将来完結することが 予期される、というところから発達した近接未来を表す用法があるが、日本語の「テイル」形には近接 未来を表す用法はない。 また、日本語の「テイル」形が継続や習慣を表すとき、それが一時的か永続的かは問題にしない。一 方、英語の進行形は一時的な継続、習慣のみを表す。しかし、一時的な動作・状態が進行中であること を表すのみで、それが、継続か過程かは問題としていない。 【参考文献】金田一春彦 (1950) 「国語動詞の一分類」『言語研究』第 15 号 pp. 48-63 寺村秀夫 (1984) 『日本語のシンタクスと意味Ⅱ』くろしお出版 中右実 (1997) 『ヴォイスとアスペクト』(日英語比較選書 7)研究社 町田健 (1989) 『日本語の時制とアスペクト』アルク 松村瑞子 (1996) 『日英語の時制と相―意味・語用論的観点から―』開文社 Leech, Geoffrey N. (1971) Meaning and the English Verb, London: Longman.
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