第1回「共通安全保障課題に関する東京セミナー」 ~地域 - 防衛省

第1回「共通安全保障課題に関する東京セミナー」
~地域における防衛当局間の将来の協力~
平成 21 年 3 月 18 日(水)
京王プラザホテル(東京)
第1回「共通安全保障課題に関する東京セミナー」は、前日に日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)
各国の防衛当局との間で初めて行われた会合に引き続いて行われたものである。日本の防衛省は二つの
目的を持って本セミナーを主催した。目的の第一は、地域の安定を強化するための日本の関与を再確認
することである。
第二には、
将来の地域安全保障について開かれた議論を行う場を提供することである。
本セミナーは二つのセッションで構成された。セッション1では共通の安全保障課題に対する地域協力
を促進する方策について議論し、セッション2では「地域協力の促進のための防衛当局としての対応」
について議論が行われた。
この中で、共通の安全保障課題として、平和維持、平和構築、災害救援、テロ、経済金融危機等が挙
げられた。また、こうした課題には、一国だけで対応することは困難であり、防衛当局間でも協力する
必要があること、対処する意思を有するが能力が限定されている国の能力向上が必要であること、共同
訓練等を通じた平素からの協力の習慣をつけることが必要であること、効果的な地域協力を促進する上
での大国間の協調が重要であること、更には安全保障対話と具体的行動のためのあり得べき地域的枠組
み等についても議論が及んだ。
100 名を超える出席者を得て、有意義な議論の結果、第 1 回「共通安全保障課題に関する東京セミナ
ー」は来年の第 2 回セミナーの開催を期待しつつ閉会した。本報告書は同セミナーの成果である。なお
本報告書の作成にあたっては(財)平和・安全保障研究所(主として国際基督教大学 福田保氏)の協力
を得た。
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0945 【開会】
0945~1145
【セッション1】
「地域の共通の安全保障課題と地域協力の促進のための方策」
(1頁)
(議長)
西原 正 平和・安全保障研究所理事長
(発表者) 増田 好平 防衛事務次官
アントニオ・C・サントス フィリピン国防次官
ユスフ・ワナンディ 戦略国際問題研究所財団理事会副議長(インドネシア)
モハメド・ジャワール・ハッサン 戦略国際問題研究所会長(マレーシア)
(討論者) 高木誠一郎 青山学院大学教授
質疑応答
1145~1245 休憩
1245~1300【挨拶】岸 信夫 防衛大臣政務官(14頁)
1300~1500
【セッション2】
「地域協力の促進のための防衛当局としての対応」
(15頁)
(議長)
西原 正 平和・安全保障研究所理事長
(発表者)バリー・デスカー 南洋工科大学ラジャラトナム国際関係研究所所長(シンガポール)
ティティナン・ポンスヒラ チュラロンコーン大学安全保障国際問題研究所所長(タイ)
明石 康 日本紛争予防センター会長
磯部 晃一 陸上自衛隊中央即応集団副司令官(国際担当)
(討論者) 秋山 昌廣 海洋政策研究財団会長
質疑応答
1500~1515【まとめ】
西原 正 平和・安全保障研究所理事長(28頁)
議長・パネリスト略歴(30頁)
参考資料(32頁)
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第 1 セッション「地域の共通の安全保障課題と地域協力の促進のための方策」
報告要旨
増田 好平
(防衛事務次官)
本セミナーに多くの方に御参加頂き主催者側の一
人として感謝申し上げる。アジア太平洋地域での安
全保障交流は対話と信頼醸成の段階から具体的な協
力の段階に移行しつつある。また、2007 年の防衛省
移行と同時に国際平和協力活動が自衛隊の本来任務
となり、自衛隊は体制整備に取り組んでいる。こう
した中、ASEAN 諸国と我が国の防衛当局者と有識者で議論を行い、国際平和協力活動な
ど防衛省・自衛隊のより積極的な取組と、地域における対話・協力の促進に寄与すること
を目指して本セミナーを開催することとした。なお、昨日、ASEAN 各国防衛当局の高級
事務レベルを招待し、率直かつ非公式な意見交換を行い人的関係を構築することを目的と
する会合を初めて開催したところであり、出席者の御賛同を頂いて来年も継続する予定で
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ある。
さて、世界的に見て各地域における安全保障上の課題には同質性・共通性が見られると
言える。防衛・軍事の分野では伝統的な国家間の関係に根ざした安全保障上の課題、例え
ば領土の問題や体制の違いから来る問題などがあることに加え、最近はいわゆる非伝統的
な課題、例えば国際テロ、海賊、地域紛争、災害、麻薬、感染症、更には気候変動などが
安全保障上の課題として出てきている。大きく分ければ、この二つに分類される課題のう
ち伝統的な課題は防衛の問題であり、非伝統的な課題への対処は防衛というより秩序維持
的な活動、国際的な軍事による警察活動と呼ぶべき活動によって行われる。また、伝統的
な課題への対処は各国を単位に自国をどう守るかという発想で行われるが、一方、非伝統
的な課題は国境を越えて広がることから、あまり国という要素を前面に出して考える必要
はなく、個々の国を超えて各国間の協力により対処する必要があると認識されている。国
の防衛に加えこうした秩序維持的な活動が本質的に軍隊あるいは軍事に求められる役割と
して出てきていると見ることができる。
アジアでこのような非伝統的な安全保障課題に積極的に取り組んできたのは ASEAN で
はないかと考える。1994 年以来 ASEAN 地域フォーラム(ARF)が開催されるなど、ASEAN
はアジア太平洋地域の政治・安全保障対話の核となってきた。近年は 2015 年までに
ASEAN 政治・安全保障共同体を築くべく努力が行われ、2006 年からは ASEAN 国防大臣
会議(ADMM)も開催されていると承知している。翻って北東アジアにおいては、朝鮮半
島問題を始め伝統的な課題が未だに強く残っており、なかなか非伝統的な安全保障課題に
ついて地域的な取組を進めることが難しい状況にある。こうした点を考えれば、ASEAN
の様々な試みは地域における先進的な取組ではないかと言える。
ASEAN の努力を積極的に支えつつ開かれた協力を進めることが重要であるが、その方
向に向けて何を重視していくか、若干の考察・提案をしたい。第一に、各国の個性の尊重
と対話の推進である。非伝統的課題の大きさと対応手段の不足に鑑みれば、ASEAN 諸国
と地域の他の主要関係国は協力していくほかに道はない。また、域外国による支援に当た
っては受入国国民の微妙な感情を考慮に入れる必要があり、対話を通じた信頼関係がそう
した感情を克服していく鍵となる。防衛当局間でも将来の協力の基盤構築に努力すべきで
ある。第二に、協力の具体的な目標の設定である。対話を通じて共通の安全保障課題を特
定し、各課題に対しどのような協力をし得るか認識の共有が必要がある。第三に、共同訓
練や人的交流の一層の推進である。共同訓練や教官・学生を含む人的交流により経験を共
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有し、各国の対応能力を強化することが有益である。第四に、域外各国の建設的な関与で
ある。我が国はもとより豪州、中国、インドといった ASEAN 域外の主要国が一層関わる
ようになっている。米国が新政権の下でこの地域への関心を新たにしていることは歓迎し
得る。各国は ASEAN への影響力を競うのではなく、ASEAN の安定と強靱性の向上のた
め協調的かつ建設的な取組を行うべきである。最後に、ARF は外交・防衛当局による唯一
の全域的な安全保障対話の場であり、開かれた協力のモデルとなっていくべきである。
ARF は地域の主要国がすべて参加することが大きな利点である。特に参加各国が共有し得
る非伝統的安全保障の分野で実際的協力を促進することで、一層存在意義の高い実効的な
仕組みへと発展させていくべきである。
主なポイント:
・本セミナーを通じて、国際平和維持活動など防衛省・自衛隊のより積極的な取組と、
地域における対話・協力の促進に寄与することを期待。
・国の防衛に加え非伝統的な安全保障課題に対する国際協力の下での秩序維持的な活動
が本質的に軍に求められる役割となってきている。ASEAN の試みは地域における先進
的な取組。
・ASEAN の努力を支えつつ開かれた地域協力を進めるため、①各国の個性の尊重と対
話の強化、②協力の具体的な目標の設定、③共同訓練や人的交流の促進、④域外各国の
建設的な関与、⑤非伝統的な安全保障課題分野における ARF を通じた実際的協力の促
進を提言。
アントニオ・C・サントス
(フィリピン国防次官)
アジア太平洋地域においては、大国間の競争関係
のほか、国際テロ、海賊、大規模災害等の地域の安
定に影響し得る非伝統的な課題がある。これらの課
題は①テロリズム、②ナショナリズム、③経済・資
源問題、④領土問題、⑤国内の不安定、⑥軍備問題、
⑦二国間の緊張関係、⑧非伝統的問題に大きく区分
できる。これらの課題の深刻さはこれらが国家の利害にどのように影響を及ぼすかの認識
によって異なる。これには急迫性、地理的近接性、波及性、重大性、集団性、衝撃をもた
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らす前の連鎖反応などが影響を与える。このほかにも、課題の共通性を決定する要素があ
り、例えば価値の要素としては危機の近接性、脅威の性質、経済状態、愛着、協力パート
ナーの支援など、コストの要素としては経済上のコスト、紛争の拡大・長期化によるコス
ト、国際社会による批判、民衆からの反発なども存在する。
アジアのサブ地域である北東アジア、東南アジア、南アジアは、それぞれ固有の安全保
障の課題を有するが、その中でアジア太平洋地域に共通する伝統的な課題としては、イス
ラム系および非イスラム系の国際テロ、海上安全保障、台湾海峡の緊張、インド・パキス
タンの緊張、南アジアにおける核拡散、北朝鮮の核問題及び朝鮮半島における緊張などが
ある。共通の非伝統的安全保障課題には、地球温暖化・気候変動、環境悪化、感染症の拡
大、エネルギー資源獲得競争、大規模災害、世界経済危機などがある。
問題の規模と複雑さから、どの国も単独ではこれらに効果的に対処する能力を持たない。
これらの課題は、二国間・多国間の仕組みを通じて国際的、地域的な協力によって対処し
得る。
東南アジアでは既存の協力の枠組みがあり、これが協力の拡大とパートナーシップ構築
の基盤になると考えられる。マラッカ海峡の海賊問題に対する協力はその一例である。ま
た、2009 年の ADMM では、ASEAN の災害管理・緊急対応に関する合意及び標準運用手
続(SOP)を踏まえつつ、人道支援及び災害救援における ASEAN の軍用資産及び能力の
使用に関するコンセプト・ペーパーが採択された。ADMM は、自然災害・人為的災害に
おける被害を減らすため、ASEAN 諸国の防衛当局間で災害管理における運用改善のため
の協力促進を謳った。2009 年 5 月にはフィリピンで ARF の災害救援に関する実動演習が
行われる予定であり、協力促進に活用し得る。また、フィリピンは米豪の協力を得て、南
部 の イ ン ド ネ シ ア 及 び マ レ ー シ ア と の 境 界 付 近 の 海 上 の 安 全 を 確 保 す る た め 、 Coast
Watch South という仕組みを設立する予定である。このほか海上安全保障の枠組みとして、
海上における法の支配のため国連海洋法条約(UNCLOS)、国際海事機関(IMO)などが、
海賊・海上武装強盗対策のため IMO や地域取極が、キャパシティ・ビルディングのため
グローバル海洋パートナーシップや海上保安フォーラムが、テロ・大量破壊兵器の拡散防
止のために国連安保理決議 1540、拡散に対する安全保障構想(PSI)、海洋航行不法行為
防止条約(SUA)、貨物セキュリティ、港湾セキュリティなどがある。
地域共通の安全保障課題に対応するための仕組みと手続は十分なものに見える。しかし
ながら、伝統的・非伝統的な安全保障課題の双方に連携して対応するためには、各国の軍
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の能力と相互運用性の強化が必要である。現在の世界経済危機に直面し、最大の課題は能
力の強化とその能力の展開のための資源を供給することである。
主なポイント:
・各国の安全保障課題の認識は当該課題の各国への影響度などに左右されるが、アジア
太平洋地域に共通すると考えられる伝統的な課題としては国際テロ、海上安全保障、台
湾海峡の緊張、インド・パキスタンの緊張、南アジアにおける核拡散、北朝鮮の核問題
及び朝鮮半島における緊張などが、非伝統的課題としては地球温暖化・気候変動、環境
悪化、感染症の拡大、エネルギー資源獲得競争、大規模災害、世界経済危機などがある。
・共通の安全保障課題に効果的に対処するためには地域協力が不可欠である。ADMM、
ARF その他様々な枠組みを通じて災害救援、海上安全保障などの非伝統的安全保障での
協力体制が構築されてきている。
・既に様々な枠組みは存在するものの、伝統的・非伝統的な安全保障課題の双方に連携
して対応するためには、各国の軍の能力と相互運用性の強化が必要である。最大の課題
はそのための資源の供給である。
ユスフ・ワナンディ
(戦略国際問題研究所財団理事会副議長、インドネシア)
共通の課題に関するイントロダクションとして、
東アジアの戦略環境についてお話ししたい。
まず、東アジアには多くの新しい安全保障上の課
題が存在するが、現在東アジアだけでなく世界的に
最も深刻な問題となっているのは金融・経済危機で
ある。情報担当米大統領補佐官のデニス・ブレアは、
議会証言でこの危機について、全世界的な大きな安全保障の問題であり、我々が直面する
あらゆる問題に影響を与えると述べている。世界金融・経済危機は、防衛当局にとっての
直接の問題ではないが、世界及び地域の安全保障に対する余波や副作用について注意を向
けることが賢明である。特に発展途上国においては、この問題のために貧困、失業、内乱、
戦争、体制転換さえ起こり得る。
第二に、この地域で大国間のバランス・オブ・パワーの維持は引き続き非常に重要な問
題であり、大国間の地域協力のための場が必要である。ARF は信頼醸成の場としては重要
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であり、ARF を対話から行動に向けて発展させることは必要であるが、いずれは伝統的安
全保障についても扱い得る何らかの機構を地域の軍事大国である米国も参加する形で設立
することが必要である。
第三に、安全保障は伝統的なものだけではなく食糧・エネルギー安全保障など生活全般
に関わるものであり、ASEAN も日本も総合安全保障を志向してきた。ARF は、地域のす
べての国が参加していることから、非伝統的安全保障課題に対する協力を促進する上で理
想的な場である。ARF が今後とも意味のある組織であるためには、信頼醸成のための対話
のみならず行動を志向すべきである。ASEAN 域外国も共同議長にするとともに、専門の
事務局を設け、国防大臣を含む防衛当局の参加を確保すべきである。ARF が行動志向型の
協力の例として最初に取り組んでいる課題は自然災害である。こうした分野には防衛当局
の参加が非常に重要である。ARF を行動志向型の場へと改善していく上で日本の支援は非
常に重要であり、こうした方向に行くことができれば、将来は、平和維持、国境を越える
犯罪、テロ、気候変動、エネルギー安全保障などの非伝統的安全保障上の課題により効果
的に協力することができるだろう。
主なポイント:
・世界金融・経済危機は防衛当局にとっての直接の問題ではないが、地域の平和と安定
に影響を大きな与え得ることから注意を向けることが賢明。
・将来的には地域の大国が伝統的安全保障について議論できる機構が必要。
・ARF が今後とも意味のある組織であるためには、非伝統的な安全保障課題に対する行
動志向的な場となっていく必要がある。
モハメド・ジャワール・ハッサン
(戦略国際問題研究所所長、マレーシア)
米国でのオバマ政権の誕生、日中国関係及び中台
関係の改善により、共通の安全保障課題に対処する
ための地域協力の見通しはこの数カ月間で目に見え
て改善した。安全保障課題に協力して対処しなけれ
ばならなくなってきている最も大きな理由は、東ア
ジア、アジア太平洋地域において経済統合と相互依
存が劇的に進展してきたことにある。中国、日本、米国、韓国、台湾そして ASEAN 各国
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はそれぞれお互いを最大の貿易相手としている。地域各国の経済安全保障はかつてなく密
接に結びつき不可分であり、戦争はますます自滅的で破滅的な行為になっている。地域各
国はお互いに対立するよりも協力していくことを一層考えなければならない。
アジア太平洋地域では各国の安全保障の文化、ドクトリン、国益が大きく異なるため、
軍事上の脅威に対しては共通の安全保障上の利益を打ち立てることは難しい。逆に、保健、
人道支援、気候変動などの非軍事的・非伝統的な安全保障上の課題は、国境を越えた問題
であることから、共通の脅威として認識されやすい。このため、共通の安全保障課題に対
処するための地域協力は、非軍事的安全保障の分野において最も大きな可能性を持ってい
る。地域の主要な共通の安全保障課題には、(1)非軍事的安全保障課題、(2)主要国間
の対立関係、領土紛争、朝鮮半島問題、台湾両岸関係などから生じる平和と安定への脅威、
(3)国境を越える過激派やテロリスト組織、そして(4)核兵器とその拡散が含まれる。
共通の安全保障課題に対して地域協力を推進する上で二つの全般的な提案を行いたい。
第一に、共通の安全保障課題には国際協力が有益とはいえ、最も重要なのは各国の取組で
あることを忘れてはならない。地域協力にできる最大の貢献は、各国が国内の問題に対応
できるよう能力向上を支援することである。第二に、地域協力プロセスはその能力のレベ
ルを超えて過度に追及されるべきではない。地域協力の枠組みの実効性向上のため最大の
努力をすべきではあるが、あらゆる地域協力の枠組みは地域で作用している戦略的な力に
よってもたらされた妥協の産物であり、これらに能力を超えた成果を期待することは時間
の無駄である。
この二つの提案を踏まえつつ、具体的な提言を行いたい。第一に、国家の能力を強化す
ることに焦点を当てるべきである。往々にして、問題が最も深刻になるのは、能力の欠如
のために非伝統的な安全保障課題に対処する準備ができていない国においてである。能力
強化は、資金的・物的な資源の提供、法制度やインテリジェンス及び情報収集の技能を強
化するための研修や知識の移転などの形が考えられる。第二に、共通の安全保障課題は医
療や環境を含め幅広い非軍事的な専門知識を必要とすることから、これらの問題により効
果的に対処すべく、その分野の知識を持った専門家を ARF 等の地域プロセスに全面的に
参加させることが必要である。第三に、排他的な安全保障枠組みは強化されるべきではな
い。現存する防衛条約や安全保障取極は関係国に安心感を与える上で重要な機能を果たし
ており、この点でそれらは維持すべきであるが、排他的な取極は不信感や緊張、敵意を生
み出す傾向があるので、強化すべきではない。第四に、排他的な取極は最小にする一方で、
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各国を包含するような軍の接触、特に各国が参加できる共同訓練を強化すべきである。第
五に、歴史問題が北東アジア諸国間の不信感や猜疑心、根深い反目の原因となっているこ
とから、これが解決されなければならない。第六に、中国は軍に関する透明性を高め始め
ており、この前向きな動きを更に慫慂するべきである。第七に、ARF は、北東アジアの海
洋問題を管理するために、東南アジアにおける中国と ASEAN の行動宣言に類似した行動
規範を作成するべきである。第八に、地域各国は、核兵器の拡散に対してバランスのとれ
た努力を行うべきである。非核兵器国への核兵器の不拡散に重点が置かれる傾向があるが、
核兵器国の核軍縮にもっと焦点を当てるべきである。最後に、国際テロの問題は各国と地
域の努力により大きく減少しているが、地域各国はこの問題に留意し、脅威に効果的に対
処する能力の構築を継続するべきである。
主なポイント:
・共通の安全保障課題に対処するための地域協力は非軍事的な安全保障の分野において
最も進展する可能性を持っている。
・共通の安全保障課題に効果的に対処するための鍵は各国の能力構築にある。資源の提
供や研修、知識の移転を通した個々の国家の能力強化のための地域協力が地域で最も必
要とされている。
・地域プロセスに非軍事の関連分野の専門家を参加させること、排他的枠組みを強化し
ないこと、開かれた共同訓練などの推進、歴史問題の解決、軍備の透明性の向上、北東
アジアにおける海洋問題の管理のための行動規範の作成、核不拡散と核軍縮のバランス
のとれた努力などが推奨される。
討論者:高木 誠一郎
(青山学院大学教授)
三つの質問を提示したい。最初の質問は組織作り
の困難さに関するものである。非伝統的な安全保障
問題は多岐に渡る。各国の体制は様々であり、地域
のすべての国が同じような方法でこれらの問題に取
り組むわけではない。防衛当局がこれらの問題に取
り組む国もあれば、警察組織がこれらに対処する国
もある。また多くの場合、市民社会組織が非伝統的安全保障問題への対処に関与している。
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ひとつの国の中でさえいくつもの組織が関与するのであり、様々な国の異なる組織の間で
調整を行うことは大変困難である。地域諸国は、いくつもの国の多数の機関の間で調整を
行う困難さと複雑さにどのように対処することができるのか。
地域協力を促進する上での第二の困難さは、根強いナショナリズムの問題である。ナシ
ョナリズム的な感情は効果的な協力を阻害する可能性がある。中国の四川大地震がその例
である。日本政府が救援物資の輸送のための自衛隊輸送機の派遣を申し出、政府間では受
け入れられたにも関わらず、中国国民の反日感情への配慮によってこの合意はすぐに撤回
されてしまった。ミャンマーのサイクロンはもう一つの事例である。ミャンマーが国際援
助の受け入れを拒んだため、国際的な救援活動が影響を受けた。この問題を乗り越える方
法を見つけなければならない。
第三に、より難しいのは台湾の扱いである。この問題の複雑さについて十分承知の上で
問題提起すれば、非伝統的な安全保障課題はすべての国にとって共通のものであり、経済・
人口で一定の大きさを有する台湾を除外し続けて実効的な地域協力が可能だろうか。台湾
独立を支持するものと誤解しないで頂きたいが、例えば感染症対策に関して、最近世界保
健機関(WHO)が実施を始めた国際保健規則(IHR)の台湾への直接適用のような創造的
なアプローチを他の分野でも考える余地はないか。
質疑応答
(1)討論者の指摘に対するコメント
ワナンディ氏:調整の難しさに関しては、協力のすべての分野をカバーすることはできな
いものの、第一義的には外務省が調整役となって、各主体の対応を調整する上で中心的な
役割を果たすべきである。ナショナリズムに関しては、地域主義がナショナリズム的な感
情を抑制する一つの良い方法であり、ASEAN がその好例である。台湾に関しては中国と
台湾の間の問題であり、他の地域諸国は大きな役割は果たせない。地域諸国ができること
は、台湾海峡両岸の平和的な関係が地域の安定と発展に貢献するとのメッセージを発する
ことくらいである。
増田氏:当事者としてコメントしておきたい点として、四川大地震の際には、自衛隊機の
派遣について軍同士の間では中国側と合意ができたと思っていたが、我々の側のパブリッ
ク・リレーションズあるいはメディアとの関係をどう捉えるかという点がうまくできず、
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かなり早くからこのことが明らかになり、中国国民の色々な議論を誘発した。パブリック・
リレーションズのあり方を物事を進めていくに当たりよく考えていく必要があると感じて
いる。
また、非伝統的課題に関して少し違う角度から申し上げれば、先週、海上自衛隊の護衛
艦 2 隻が海賊対策のためソマリア沖に向けて出発した。ソマリア沖では北東アジアの日本、
韓国及び中国の艦船が一緒に存在して行動している空間が生まれることになる。その中で
3 カ国が何らかの形で協力できることがあれば、またそれが各国の国内に伝えられること
になれば、それぞれの国の国民がそれをどう見るかというのは、非常に重要ではないかと
考える。このように非伝統的課題への対応における協力関係が、ある意味で伝統的な課題
にも寄与し得ると言える。
(2)中国
質問:中国の台頭は今世紀における最も大きな出来事である。中国はどのように地域協力
に関わっていくべきか。特に、東南アジア諸国から見て、中国の台頭により中国をどう地
域協力に取り込んでいくかについて変化があるか。
ジャワール氏:中国は、二国間及び中国・ASEAN 間のプロセスのほか、ARF 等のトラッ
クⅠ、アジア太平洋安全保障協力会議(CSCAP)等のトラックⅡの多国間安全保障プロセ
スに参加している。当初は中国が多国間の場で開かれた協議を行うことに慣れておらず、
ただペーパーを読み上げて自国の立場に固執するようなところも見られた。しかし、中国
は次第に地域への関与になじんできて非常に責任あるプレイヤーとなった。今や、ARF に
おいて色々な課題でイニシアティブを発揮するなど、中国は他の幾つかの国よりも上手に
多国間の取組に関与するようになっており、地域の責任あるステークホルダーとなってい
る。
ワナンディ氏:中国の地域の枠組みへの参加は良いことであり、率直に言って中国には懸
念される動きもあるが、今は少なくとも地域の枠組みを通じて中国に問いかけを行うこと
ができる。過去十数年にわたる ASEAN と中国の対話で安全保障を含む様々な問題を取り
上げており、例えば中国の軍事費や防衛ドクトリン、防衛体制、南シナ海問題などについ
て直接問いかけを行っている。制度的枠組みがあるのでこうしたことが可能となっている。
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こうした信頼醸成のための枠組みは地域の主要国間でも将来は構築されるべきである。こ
のため、私は米国を含む地域の主要国が一堂に会して軍事的問題を含む課題を扱うことが
できる首脳レベルの会合の開催が必要であると考える。
質問:南シナ海の話が出たが、中国と ASEAN の関係国は政治宣言としての南シナ海行動
規範に合意した。なぜ東南アジア諸国は南沙群島から中国が海軍を引き揚げない中でこの
宣言に合意することができたのか。
サントス氏:中国は物理的にも経済的にも強大な国であり、我々は中国を関与させる必要
がある。フィリピンは最近、UNCLOS に沿ってフィリピンの領海基線法を成立させたが、
排他的経済水域(EEZ)の境界付近に位置するスカボロー礁と南沙群島の一部であるカラ
ヤン群島については、「島の制度」(regime of islands)と考え、フィリピンの主たる領海
基線に含めなかった。また、紛争解決のメカニズムとして UNCLOS があり、フィリピン
はこれに国内法が合致することを確保するよう領海基線法を作成した。中国の潜水艦の存
在については、フィリピンはこれを探知する能力を持たず、証拠もなく抗議を行うことは
できない。しかしながら、政治・安全保障対話や武官を通じてフィリピンと中国は率直に
問いを発することができる。重要なことは相互に相手を尊重することである。
(3)世界経済危機の影響
質問:1973 年の石油危機を踏まえると、現在の世界的経済危機は安全保障課題だという点
に共感を覚える。また、歴史的に経済危機が政治と安全保障の決定を大きく変えることが
ある。1929 年の恐慌の 2 年後に満州事変が起こり、独伊がそれに続き、軍事的に台頭し
ようとした。70 年代の石油危機の後、米国の時代が終わったと思ったのか、ソ連が軍事行
動を起こし、イランで米国大使館人質事件が起こるなどしている。経済危機が政治・安全
保障上の愚行を呼び起こしたことがある。2009 年のアジアでは、現在の世界経済危機が地
域の安全保障にどのような影響を与えるか。二つの危険性が考えられる。まず、中国の大
きくなった軍事能力の使用に対する自制が経済危機の中で難しくならないかというもので
ある。中国の経済成長が停滞し、国内の政府に対する不満・批判が強まれば、対外強硬路
線が強まり東シナ海、南シナ海での積極的行動を促しやすいのではないか。もう一つは、
経済危機によってテロリストが大量破壊兵器を用いて自爆攻撃を行うような危険はないの
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だろうか。
ワナンディ氏:経済危機は数年続くと予想され、既に対策の成果が出るのが遅れており、
問題解決が更に遅れるかも知れない。先進国のアプローチの違いが問題解決を遅らせ、途
上国は崩壊するかも知れない。最悪のシナリオを避けるため今より遙かに緊密な協力が必
要である。G-20 にはアジアから 6 カ国(注:豪州、中国、インド、インドネシア、日本、
韓国)が参加しているが、ルールの変更及び世界と地域の経済を再び軌道に乗せるために
必要な景気刺激策について、6 カ国の間で望ましいレベルの協力は行われていない。
ASEAN+3(APT)によるチェンマイ・イニシアティブの緊急資金 1,200 億ドルは多国間
化され、来月のタイでの APT 首脳会談においては将来の地域の景気刺激策のための追加
資金に合意することが期待される。危機対応のための IMF や世界銀行のルールの変更は中
期的課題であり、ルール変更を提案するためには一層緊密な協力が求められる。
テロについては、我々は国内で良好に対応してきており、引き続き警戒する必要はある
し、脅威は残っているが、大きな問題ではなくなってきている。
ジャワール氏:前回の経済危機では米国や欧州の輸出市場が健在だったが、今回は異なる。
経済はグローバル化しており、最終的に米国その他の主要経済が回復すれば東南アジアも
回復するであろうが、当面は経済刺激策や効率化、国内市場の開拓等に努める必要がある。
現在の経済危機は大きな関心事であるが、東南アジアにとってのより大きな問題は国家
建設であり、ミャンマー、タイ、フィリピン、マレーシアなどの諸国では非常に重要な課
題である。東南アジア諸国も政治的変革の渦中にある。この政治変革においてインドネシ
アの民主化は他国よりも成功しているが、他の国は困難に直面している。国家建設に関す
る問題が東南アジア諸国の主要な関心事となっているのである。
中国に関しては、今回の経済危機まで各国とも軍事費を増額させてきたように、中国の
軍事支出を止めることはできない。最も重要なことは、信頼構築、関与、透明性向上そし
て摩擦の原因を減らすことである。中国の軍事費や軍事能力を大局的に捉えることが必要
で、海軍力では日本は質的には中国と同様に高く、日本には核能力はないがその気になれ
ば持てるほどの能力があるし、米国との同盟も有利な点である。中国の海軍力はインドよ
り低い。中国の軍事費は増加を続けているが、過去 10 年の中国の軍事費の絶対額の合計
はある一国の 1 年間の軍事費と同水準である。中国と伝統的問題を抱えている国もあるが、
12
できる限り状況に合わせ、敵対的・対立的にならないよう努力すべきである。
(4)テロ
質問:マラッカ海峡の海上テロの問題が深刻だが、国家主権の壁が効果的な多国間協力を
阻害している。テロと海賊問題のつながりを理解することが不可欠である。
サントス氏:フィリピンでは現在もジェマ・イスラミヤとつながりを持つアブ・サヤフが
脅威であり、フィリピン南部は非常にテロリストが浸透しやすい状況にある。しかし、米
国および豪州との協力により、船舶監視用のレーダーを設置するなどフィリピンは能力を
強化している。テロに対処する上で各国の能力を強化することは非常に重要である。それ
によって二国間・多国間の共同が可能となる。
第 1 セッション要旨
提起された主な意見は次のとおり。
・共通の安全保障課題には伝統的なものと非伝統的なものの双方が含まれるが、非伝統
的な国境を越える課題に効果的に対処するためには地域的・国際的な協力が必要とされ
る。
・非伝統的安全保障課題に対する協力を模索することにより国家間の関係の改善にも寄
与し得る。
・現在の世界金融危機は、防衛当局が直接的な役割を果たすわけではないが、重要な安
全保障上の課題であり、国内の不安定化や国際的な緊張など危機から生じる副作用に対
して警戒が必要。
・共通の安全保障課題に対処する上で、地域協力と同様に各国の能力向上が極めて重要。
共同訓練や人材交流などは各国の能力向上に寄与し得る。
・ARF は非伝統的な安全保障課題への対処においてより行動志向的になるべきである。
日本など主要国は ARF をそのような方向に発展させるために重要な役割を担うことが
できる。
・伝統的課題についても大国間で協議できる地域の枠組みが必要。
13
〔挨拶〕岸 信夫(防衛大臣政務官)
多国間地域フォーラムの役割は、対話と議論から、軍事訓練や国際災害救援のための戦
略ガイドラインの起草など具体的な協力の実施へと移りつつある。地域各国の防衛当局は
地域の平和と安定に関与すべきときである。様々な安全保障課題を解決するために国際協
力が重要である。この東京セミナーには三つの特徴と価値がある。まず、近年テロのよう
な世界レベルの事項に大きな関心が向けられているが、本セミナーはこの地域の共通の安
全保障課題に注目している。第二に、このセミナーを防衛当局が主催することである。既
に多くの地域会議が実施されてきているが、防衛当局がこれらを主催することはまれであ
った。第三に、このセミナーが、安全保障問題に関する一般の関心を高めて頂くことを目
的に、広く公開されていることである。防衛省は本セミナーが安全保障環境の改善と地域
における対話と協力の促進のための努力に寄与することを希望している。
14
第 2 セッション「地域協力の促進のための防衛当局としての対応」
バリー・デスカー(南洋工科大学ラジャラトナム国際関係研究所所長、シンガポール)
地域安全保障制度の鍵となる要素は米国である。
中国がより強大となり地域機構及び国際機構におい
て影響力を増すにつれ、米中関係を管理することが
米国の政策決定者にとって極めて重要な関心事とな
るだろう。その際の課題は、日本の安全保障上の利
益が損なわれないということについて日本を安心さ
せることである。米国はこの地域の主要同盟国との防衛関係の強化を行ってきた。米国政
府はまた、インドネシアへの軍事支援計画の一部を再開した。2005 年以来日本の自衛隊が
タイでの米国・シンガポール・タイ軍の演習であるコブラ・ゴールドに参加していること
は重要である。このような戦略的展開の重要性は 2 点ある。一つは、それが日本の「普通
の国」になりたいとの願望を反映していること、もう一つは、日米安全保障条約関係のよ
うな二国間同盟はこれからも米国の安全保障政策の中心として残るものの、米国のアジア
における安全保障協力が一層多角化しつつあることである。
15
地域の防衛および安全保障協力における現在の潮流は何であろうか。東アジア首脳会議
(EAS)および東アジア共同体(EAC)は非公式な信頼醸成と地域が関心を有する幅広い
戦略問題に関する議論の機会を提供するが、いずれも防衛部門を有していない。防衛に関
する潜在的に重要な動きは、ADMM の不可欠の一部として提案された ASEAN の対話国
を含む ADMM プラスである。ADMM プラスは信頼醸成の枠組みを提供し、海上安全保障
やテロ、平和維持、人道支援・災害救援など伝統的・非伝統的な課題への対処を促進する
ものとなるだろう。ASEAN は、ADMM プラスを、主要国を関与させて建設的・協調的な
行動規範を促進する手段と考えている。
アジア太平洋経済協力(APEC)と ARF との間で相乗効果をもたらすような関係が築か
れれば、ADMM プラスは一層重要になるだろう。その結果、地域の安全保障環境と経済
環境を形成することができるような、包括性・代表性のある新たな安全保障の枠組みも形
成され得る。これは、APEC と ARF の首脳レベルの会議を連続で開催することによって
実現されるだろう。現時点では ARF は基本的に外相会議である。必要なのは ADMM プラ
スで高級事務レベルより上級の相当規模の防衛部門の参加である。仮に APEC が 3 年に 1
度 ASEAN 域内国において開催されるとすれば、同時に ARF 首脳会議も行うことができ
る。APEC が ARF の機能を模倣する必要はなく、APEC は基本的に経済中心のフォーラ
ムであるべきである。ADMM プラスで取り上げられる地域安全保障機構の問題は、ARF
首脳会議において政府首脳の関心を集めるだろう。
効果的な地域協力を行う際に大きな障害となるのは、地域主義に関して異なる見方が競
合していることである。防衛当局がこのような障害を克服する上で有益な役割を果たすと
すれば、包括的で協調的な関係を強化し、軍拡の危険を減少させるような共通の展望に収
斂させる必要がある。伝統的・非伝統的な安全保障課題は、地域の防衛当局間で相互信頼
を築くための具体的な方策の基礎を提供している。すべての問題が議論される首脳レベル
の機構が必要である。
主なポイント:
・二国間同盟は米国の安全保障政策の中心として残るものの、米国のアジアでの安全保
障協力は一層多角化しつつある。
・ADMM プラスは信頼醸成の枠組みを提供し、海上安全保障やテロ、平和維持、人道
支援・災害救援など伝統的・非伝統的な課題への対処を促進するものとなるだろう。
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・APEC と ARF の首脳レベルの会議を連続で開催することが有益である。ADMM プラ
スで取り上げられる地域安全保障問題は、ARF 首脳会議において政府首脳の関心を集め
るだろう。
・効果的な地域協力を行う際に大きな障害となるのは、地域主義に関して異なる見方が
競合していることである。これらを包括的で協調的な関係を強化し、軍拡の危険を減少
させるような共通の展望に収斂させる必要がある。
ティティナン・ポンスヒラ (チュラロンコーン大学安全保障国際問題研究所所長、タイ)
今日の重要課題は、どのようにして国境を越えて
地域的な性格をもつ安全保障課題に協力して対処し、
制御し、解決するかということである。これらの課
題にはテロ、海賊行為、大規模災害、エネルギー安
全保障、食糧安全保障、環境安全保障、感染症、移
民、人身売買、麻薬の密輸その他の国境を越える犯
罪が含まれる。これらの課題に対処するための地域の取組の中で最も主要なものは ARF
である。しかし、ARF は信頼醸成の段階からなかなか進めず大きな限界がある。
地域における安全保障対話は ADMM の開始によって新たな刺激と弾みがついた。
ADMM の開始直後から ASEAN 域外国も含む ADMM プラスのコンセプトが議論に上って
いる。ADMM プラスは、初期段階にあり未熟ではあるが、ASEAN の能力を超える防衛・
安全保障問題のための質的に新しい地域協力の舞台を提供するものである。ADMM プラ
スのジレンマは、ARF の二の舞を避けるため、その包括性と開放性については、共通の地
域的な課題に直面している地域内の国、かつ課題への対処という動機に基づいた参加国に
限定しなければならないということである。ADMM プラスがいわゆる「開かれた地域主
義」のもう一つの推進役に過ぎないものになれば、この会合の意義は希薄になり、ARF や
APEC のように、多数の参加国の対立する実行不能な言い分のために、明確で達成可能な
目的を定めることができない結果になりかねない。
ADMM プラスは、ASEAN 内で発生しその解決のために ASEAN 域外の協力を必要とす
る、災害救援や海上安全保障のような機能別の課題分野に限定せざるを得ないかも知れな
い。非伝統的な安全保障課題の多くは地球規模の性質又は(ASEAN+3 を越えるという意
味で)地域を越える性質のものであり、ADMM は ADMM プラスを推進するに当たり共通
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の安全保障課題に優先順位を付さなければならない可能性がある。
2009 年 2 月に開催された第 14 回 ASEAN 首脳会議は重要であった。これは、2015 年
までの ASEAN 共同体構築を視野に入れた画期的な憲章が採択された後の最初の会議であ
る。この首脳会議の結果から見ると、ASEAN は対内的・対外的に、どちらも問題の多い
大きく二つの方向に向かおうとしているのかも知れない。ASEAN 内部においては、憲章
では元来の「内政不干渉」原則を維持する一方で、人権や基本的自由の尊重を求めた。こ
のような内在的な矛盾は、完全な軍事独裁政権から活発な民主的統治まで、あまりにも多
様な政治体制が存在する現状にも明らかに示されているとおり、民主化のギャップが解消
され(政治体制に関して)最大公約数的な合意へと集約されない限り、憲章に対する根本
的な挑戦となる。
ASEAN 憲章は民主化された ASEAN を構想している。ASEAN 諸国は、政治的な打開
を自力でもたらすか、ASEAN の信頼性と将来の成長がかかっている憲章を修復不可能な
ほどに損なうかの岐路にある。
対外的には、域外国の不満が前面に出てきている。ASEAN が運転席にいるということ
がどこにも進まないことと同義であったため、ASEAN のパートナーは世界情勢の急速な
変化に対応すべく別の選択肢を考えている。そうした別の選択肢としては、豪州によるア
ジア太平洋共同体の提案、インドネシアによる G-20 を中心とした地域的取組の提唱、シ
ャングリラ会合、日中韓 3 カ国首脳会議などがある。ADMM プラスの概念に一層の注目
とコミットメントを与えるべきであるのはこうした理由からである。
主なポイント:
・ADMM プラスは ASEAN の能力を超える防衛・安全保障問題に関する質的に新しい
地域協力の舞台を提供する。ADMM のジレンマは、ADMM プラスが、参加国が多過ぎ
るために明確で達成可能な目標を定めることができなかった ARF の二の舞になりかね
ないことである。これを避けるためには、開放性や課題分野を限定しなければならない
かも知れない。
・ASEAN が 2015 年までに共同体を築くためには、メンバー間の民主化のギャップが
解消され、
(政治体制に関して)最大公約数的な合意へと集約される必要がある。ASEAN
憲章は、民主化された ASEAN を構想している。ASEAN の信頼性は憲章の規定に沿っ
た内部の政治発展にかかっている。
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・対外的には、ASEAN のパートナーから運転席にいる ASEAN への不満がある。この
ため ADMM プラスには一層の注意とコミットメントを与えるべきである。
明石 康
(日本紛争予防センター会長)
国連憲章は普遍主義対地域主義という視点で見る
ことができる。国連憲章の起草過程において、普遍
主義が優ったのであるが、地域主義は安全保障理事
会の副次的システムとして第 8 章に残っている。サ
ンフランシスコにおける考え直しとして、個別的及
び集団的な自衛のための固有の権利に言及する第
51 条が挿入された。冷戦が始まり国連が予定されていたように機能しなくなると、第 51
条が多用されるようになった。1980 年代末から 1990 年代初めの冷戦終結により、普遍的
な安全保障を体現するものとして国連に再び世界の関心が集まるようになった。ところが
当初の平和維持活動の成功の後、国連はソマリア、ルワンダあるいは旧ユーゴスラビアに
おいて予期しない困難に直面し、これが米国を単独主義へと後退させることになった。今
日、オバマ政権の誕生により、地域主義は新たな活力を得る可能性がある。これは地球規
模の取組、地域的な取組、二国間の取組、各国の取組どれか一つを選ぶという問題ではな
く、これらの努力を適切に組み合わせることが重要なのである。
アジア諸国は、国連加盟を重要と認識しつつも、国連の進んでいる方向について完全に
居心地よいものと感じてはいないように見える。東アジアにおいては、二つの大規模な国
連平和維持活動(カンボジア及び東ティモール)が行われ、ネパール及びカシミールにも
より小規模なミッションが展開しているが、この地域における他の紛争に関しては、スリ
ランカ、アチェ、ミンダナオ等における国連の役割は何もない。このアジアの状況は、多
数の大規模な国連平和維持・平和構築活動が継続しているアフリカ等と鮮明な対照をなし
ている。
近年、地球規模及び地域の非伝統的な安全保障課題が登場しており、例えば紛争後の平
和構築などの分野で地域における活動の調整や軍民協力が必要とされている。平和維持活
動に続いて、過去の紛争が再発しないことを確実にするため長期にわたる平和構築が必要
である。紛争後の平和構築においては、DDR(武装解除、動員解除、社会復帰)、地雷除
去作業及び不発弾処理などに軍事組織の積極的な参加が必要とされる。その後の法と秩序
19
の確立期や人道支援においても警察及びある程度の軍の存在が必要となる。そうして初め
て持続的なガバナンスの段階を迎えることとなる。このほか時に軍の関与が求められる非
伝統的な安全保障課題としては、自然災害、テロ、核兵器の拡散、様々な形の越境犯罪が
挙げられる。これらの取組のすべてにおいて、軍、警察及び文民組織の間の調整が益々不
可欠になっている。
ASEAN はサブ・リージョナルな組織であり、東アジアの非 ASEAN 諸国の不在を埋め
るため、現在は ASEAN+3 や ASEAN+6 などが存在する。ARF と APEC のような大きな
地域的枠組みは重要な機能を担っているが、メンバー国の過多と各国の多様性のために安
全保障上の特定の目的を果たすことが難しいとの指摘がある。何らかの中間的な機構が必
要なのかも知れない。ADMM プラスは地域及び地球規模の新たな脅威のうちの幾つかの
解決のために新たに重要な貢献をし得るかも知れない。しかしながら、こうした新しい提
案は極めて慎重に構想し、注意深く育てて行かなければならない。また、あまり野心的な
アプローチは避けるべきである。新たな枠組みは具体的な需要と要請に見合うように、ま
た任務と能力の均衡がとれるように構築される必要がある。
主なポイント:
・地球規模の取組、地域的な取組、二国間の取組、各国の取組を適切に組み合わせるこ
とが重要。
・紛争解決には平和維持に続く平和構築が重要。平和構築においては、DDR、地雷除去、
不発弾処理、法と秩序の確立、人道支援などに軍の積極的な参加が必要とされている。
また、軍の関与が求められる他の非伝統的な安全保障課題には、自然災害、テロ、核兵
器の拡散、越境犯罪がある。これらの取組のすべてにおいて、軍、警察及び文民組織の
間の調整がますます不可欠になっている。
・既存の大きな地域的枠組みはメンバー国が多すぎることなどから安全保障上の特定の
目的を果たすことが難しいとの指摘もある。新しい中間的な機構は、慎重に構想し、注
意深く育て、具体的な需要に適合するとともに、任務と能力が均衡することが必要。
20
磯部 晃一
(陸上自衛隊中央即応集団副司令官(国際担当))
国際の平和と安全に貢献するために、日本の自衛
隊は、国際平和協力活動に従事している。この活動
は三つの種類に分けられる。すなわち、国連平和維
持活動、国際緊急援助活動、そしてイラクでの人道
復興支援活動のような特別措置法に基づいた活動で
ある。
自衛隊による国際緊急援助活動は、災害の種類、被害の程度、被災国政府や国際機関に
よる要請などにより異なる形態をとる。陸上自衛隊は、中央即応集団および各方面隊が医
療支援やヘリコプター輸送、給水などにあたる国際緊急援助部隊を派遣できる態勢を維持
している。また陸上自衛隊と共同で、海上自衛隊の護衛艦隊と航空自衛隊の航空支援集団
司令部が陸上自衛隊の部隊を海外に展開するための海上・航空輸送能力を維持している。
2005 年以来、自衛隊はスマトラ島およびインド洋(2005 年)、パキスタン(2005 年)、イ
ンドネシアのジャワ島中部(2006 年)で三つの大規模な国際緊急援助活動を行った。これ
らの活動を通して自衛隊は二つの教訓を得た。それは、即応性の重要性と文民組織との協
力の重要性である。イラクで陸上自衛隊による人道復興支援の経験から、地元社会との調
整の仕組みを作ることが、復興計画をより迅速かつ容易に行う上で重要との教訓を得たが、
これは今後の国際緊急援助活動にも適用できると考えている。
中央即応集団は、より責任をもって国内外の活動を行うために 2007 年に設立された。
中央即応集団は三つの「I」の概念に基づいて、関係機関との協力関係を築き強化してきた。
最初の「I」はイニシアティブ(initiative)を表す。多様なアクターが多様な役割を果た
すため、作戦と活動の調整は複雑であり、イニシアティブをとることが任務を達成する上
で不可欠である。二番目の「I」は革新性(innovative)である。一つ一つの活動は独特の
ものであるので、これを行う自衛隊は革新性を持たなければならない。三番目の「I」は相
互性(interactive)である。軍民協力においては相互性が極めて重要である。
相互的であるために、中央即応集団は国連難民高等弁務官(UNHCR)や国連大学(UNU)、
国際協力機構(JICA)、赤十字国際委員会(ICRC)など、潜在的に協力の可能性を有する
文民組織と定期的に接触している。これらの文民組織との関係を保つことで、現場での相
互の協力が容易になる。中央即応集団は、能力を強化し、軍民協力に関する情報を得ると
ともに、様々な文民組織との関係を強化するため、ワークショップに積極的に参加してい
21
る。諸外国との関係、特に諸外国の軍との協力も同様に重要であることから、中央即応集
団は国外のパートナーとの対話も行っている。教育訓練のために、中央即応集団はコブラ・
ゴールドのような多国間演習や研修にも参加している。また、中央即応集団は国際活動教
育隊を有している。同部隊は、国際平和活動に関する教育と研究を任務とし、海外で活動
する部隊の教育を行う。同部隊では国際機関や NGO から講師を招いている。
主なポイント:
・陸上自衛隊は、中央即応集団および各方面隊が適時に国際災害救援部隊を派遣できる
態勢を維持している。
・国際緊急援助活動や人道復興支援活動を通して自衛隊は二つの教訓を得た。それは、
即応性の重要性と文民組織との協力の重要性である。
・国内外の活動の効果を上げるため中央即応集団は三つの「I」の概念に基づいて関係機
関との協力関係を築き強化してきた。それは、イニシアティブ(initiative)、刷新性
(innovative)、相互性(interactive)である。相互的であるために、中央即応集団は文
民組織や国外のパートナーと定期的に接触している。
討論者:秋山 昌廣(海洋政策研究財団会長)
10 年前は多国間安全保障協力については欧州が
めざましかったが、最近アジアでも多層的な安全保
障の枠組みが築かれてきていることはよいことであ
り、ADMM プラスや APEC と ARF の連携のアイデ
ィアも興味深いが、メンバーシップ及び取り上げる
課題については更に議論が必要である。ティティナ
ン教授の仰ったオープンかつ地域的な枠組みという考えについても更に議論の余地がある。
ARF 等では平和維持や平和構築に関する事項はあまり取り扱って来なかったが、今後は
これに一層焦点を当てるべきである。
地域協力については、首脳レベルを含むハイレベルで継続的な意見交換が重要である。
意見交換の対象には、朝鮮半島や台湾海峡、海洋問題、各国の軍備など伝統的な課題及び
非伝統的な課題がある。
軍が共同しての活動をこの地域で行うことは容易ではないが、ARF その他の場で少なく
22
ともその方向に向けた議論を行うことが必要である。
アジア諸国は日米中の三国間の良好な関係に関心を有している。この地域の安全保障協
力を考える上で重要なこの 3 カ国の関係についても議論することが有益である。
中央即応集団(CRF)はその機能についてもっと東南アジア諸国への周知に努めるべき
である。
磯部副司令官への質問:中央即応集団のパートナーシップ構築の取組と国際災害救援活
動の関係はどのようなものか。
質疑応答
(1)討論者の質問に関するコメント
磯部陸将補:自衛隊は、平和維持活動であれ、国際緊急援助活動であれ、自衛隊単独では
海外での活動を成し遂げられないというのが基本認識である。災害の現場では多くの関係
機関と協力・調整して活動を行う必要がある。日頃からの調整が関係機関とのパートナー
シップ構築のために重要である。
先程の発表では CRF の任務についての説明を省略したので、ここで少し補足したい。
CRF は 3 年前に設立された司令部であり、陸上自衛隊の部隊を海外での活動に派遣するこ
とがその任務である。待機部隊の本隊は各方面隊にあり、CRF 司令官は各方面隊から提供
される部隊を用いて活動を行う。五つの方面隊は 6 カ月交代で待機体制を維持している。
海外で災害が発生し、被災国政府の要請があれば、方面総監が CRF 司令官に部隊を提供
し、CRF から部隊を派遣する。海空自衛隊は輸送のための即応態勢をとっており、災害の
状況により必要があれば統合任務部隊を編成し、又は現地に統合調整所を開設する。
(2)平和維持および平和構築活動
質問:シンガポールとタイの軍は、平和維持および平和構築活動に関してどのような準備
を行っているか。例えば法制面や言語面を含めどのような訓練をしているか。
ティティナン氏:タイ軍は朝鮮戦争以来数多くの平和維持活動に参加してきた。6 月には
ダルフールに大隊を派遣する予定である。タイには少将を長とする平和維持センターが設
けられている。平和維持活動はタイ軍人にとって尊厳と自尊心、威信、そして収入の源泉
でもある。平和維持は、平和構築や平和創造とは異なり、タイの外交政策全般と不可分に
23
なっている。成功裏に行われた東ティモールにおける平和維持活動(PKO)の司令官も輩
出している。
デスカー氏:シンガポール軍の平和維持活動への参加は比較的日が浅く、東ティモールか
ら参加が始まったところであるが、それ以来シンガポール軍の平和維持活動への参加が拡
大している。しかしながら、シンガポール軍がより重要な役割を果たしているのは人道支
援・災害救援活動である。現在では、シンガポール軍は地域において生じ得る各種事態に
迅速かつ効果的に対応するための訓練を積んでいる。
明石氏:私は長い間地域的な平和維持・平和構築の訓練プログラムの拡大を強く支持して
きた。1992 年に国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)の長をしていたとき、共同訓練
への参加は国連の活動に参加する部隊の効率性を強化するだけでなく、参加者間の相互信
頼を強化することにも貢献すると認識した。このため、日中韓を含む地域の各国に共同訓
練への参加を唱道してきた。日本は、国際協力のための専門部隊を有しているとのことだ
が、もう一歩進めて平和維持活動におけるアジア諸国の能力を強化するための協力を一段
と強化してほしい。平和構築の分野では、広島大学が外務省、防衛省その他文民組織と協
力して、将来の平和構築を担う人材育成のための地域的な訓練プログラムを行っている。
磯部副司令官への質問:国連待機制度についての検討状況如何。2002 年に国際平和協力
に関する有識者会議が国連待機制度への参加を提言したが、日本政府は国連待機制度に参
加することを決定したのか。
磯部陸将補:日本政府は国連待機軍制度に参加することを決定していないが、どのような
協力が可能か防衛省でも検討を進めていると承知している。現在、PKO のような活動のた
めに自衛隊は 6 カ月交代で担任部隊を定めており、施設部隊、航空部隊及び医療部隊を数
カ月以内に海外に派遣し得る態勢をとっている。
国連平和維持活動に参加することの一つの利点は、地域の軍事組織間での信頼醸成に貢
献することである。例えば、陸上自衛隊はカンボジアでは中国軍工兵部隊と隣り合って活
動したし、東ティモールでは韓国軍工兵部隊と協力した。共に働くことで自衛隊と中国軍、
韓国軍との相互の尊重も生まれた。
24
質問:各国の軍の間の能力の差異はカンボジアの平和維持活動にどのような影響を与えた
か。
明石氏:先に警察部隊について述べると、シンガポールは素晴らしい警察部隊を派遣し、
立派にリーダーシップを発揮した。UNTAC の代表としてより苦労したのは軍よりも警察
の質の問題であった。軍については、ASEAN 諸国を含めアジアの国の部隊はすべて効率
的であったが、文化や考え方には異なる国から参加した指揮官の間及び指揮官と部隊との
間で違いがあった。その相違を埋めるために、時折私が指揮官と部隊の間に介入しなけれ
ばならなかった。アジア以外の国から参加した国の中には疑問を覚える質の部隊もあった
が、こうした国は共産主義の崩壊で大きな社会変革の過程にあった。派遣国が国内に問題
を抱えている場合には国連の活動における派遣部隊のパフォーマンスにも課題があり、犠
牲も多かった。それ以降国連は能力を向上し PKO 局も強化された。他方で、国連平和維
持活動は従来の単純な活動から、第 2 世代の PKO は多くの文民部門や専門能力を必要と
する多面的な活動になり、部隊編成においてもコンゴやレバノンのように通常求められる
より高い軍事的能力を要するようになり、部隊行動基準(ROE)も変わった。こうした変
化は、どのアジア諸国にとっても大きな挑戦となっている。私個人としては、日本はこれ
まで、国連の枠組みの下であっても、困難で複雑な活動に対してやや慎重で消極的に過ぎ
たように思われる。また、国連の枠組み又は承認の下でなくとも、関係諸国の幅広い利益
となるのであれば、自衛隊が何らかの活動に参加するケースも考えられると思う。
デスカー氏:シンガポールは警察官の派遣には軍の PKO 参加より長い伝統を有する。こ
こで強調したいのは、ADMM が始まったことから、ASEAN 諸国の間でこれまで以上に平
和維持活動のベスト・プラクティスから学べることになるということである。平和維持に
限らず海上安全保障や人道支援・災害救援についても同様である。
明石氏:ベスト・プラクティスに関していえば、過去の経験に学ぶことが重要である一方
で、磯部副司令官が指摘したように、個々の状況は異なるため、我々は革新性を持つこと
が重要である。一つの事例から多くを学び過ぎることは、学ばな過ぎることと同様に良い
ことではない。自分の経験で言えば、ソマリアでの攻勢的な行動の失敗から、国連は旧ユ
ーゴスラビアでは「モガディシュの一線を越えない」ことを合言葉にして伝統的な平和維
25
持原則を維持しようと努めた。ところがユーゴスラビアは内戦状態であり、結局 NATO と
の協力を編み出さなければならなかった。平和維持活動に携わる者は、過去の経験に学び
つつも、常に新たな要素を予期しなければならない。
(3)災害救援
質問:地域ではどのように自然災害に対処することができるか。平和維持活動であれば国
連安全保障理事会が決議を行い、各国から兵力を募集するが、災害救援に関してはこのよ
うな機構が存在しないので有志連合的に各国が協同する必要がある。こうした活動に各国
はどのように参加するのか。
明石氏:災害については緊急人道支援に当たる国連人道問題調整部(OCHA)が存在する。
OCHA の支部はジュネーブにあるが、小規模な事務所は神戸にもあり、災害情報を収集し、
各国に支援を呼び掛ける。しかし、自然災害に対する地域の情報共有や活動の調整の中心
となる組織は存在していないと承知している。
磯部氏:今回配布されたセミナーの参考資料にも記されているが、大規模災害に対処する
ための地域協力のために、日本は防衛省主催の東京ディフェンス・フォーラムと陸上自衛
隊主催のアジア太平洋多国間協力プログラムを実施して、地域諸国の防衛当局者を経験の
共有のために招いている。災害救援の活動の教訓については、アジア諸国の要望に応じて
共有することが可能である。また、米太平洋軍が有するアジア太平洋先進ネットワーク
(APAN)を使って関連情報をオンラインで共有することも可能である。
ティティナン氏:地域の中でも自然災害への各国の準備の度合いには差がある。日本のよ
うに包括的な対策を有している国もある一方で、そのような準備を整えていない国も多い。
地域的な対応という点では、ADMM ではそれをどのように行うかが難しい問題となって
いる。仮に地域の合意ができたとしても、迅速な行動をとれるような待機制度が必要とな
る。ミャンマーでのサイクロンを受けて、スリン ASEAN 事務総長は食糧の備蓄を提案し
たが、まだ初期段階であり、十分な議論は行われていない。
「how」の問題が解決するまで
は、異なるレベルの準備に基づく各国による対処に頼らざるを得ない。
26
デスカー氏:2004 年の津波災害に際してインドネシアは直ちに軍の派遣を含む国際社会の
支援の受入を決定した。ミャンマーのサイクロン被害では、同国政府は、国際部隊を受け
入れれば、政府が対策を行う意思がないと思われることを懸念していた。多くの ASEAN
諸国は部隊を待機させていたがミャンマー政府の了解を待っていた。この例は、自決と不
介入、主権の尊重を強調する ASEAN の一つの問題をよく表している。これらの原則のた
め、地域各国は、被災国の対応を批判したり、被災国の同意がない限り隣国での災害に対
して行動したりすることを控えたのである。こうした傾向は ASEAN 憲章にも盛り込まれ、
かつては存在していた柔軟性も失われてしまった。
秋山氏:日本は自然災害に対しては様々な人的資源を有している。これらの派遣は当事国
もしくは国際機関の要請に基づくことが原則である。
(4)インドの役割
質問:インドが影響力を増大させていることは地域の安全保障にとってどのような影響を
もたらすか。
デスカー氏:インドの地域および世界での影響力は今後も増大するだろう。インドの東方
政策により東南アジアとの関係は緊密化している。しかしインドにはまだ多くの課題があ
る。力の投射については、インドは国際機関においてグローバルな役割を果たすことに関
心を有していながら、隣国との関係に集中してしまっている。世界の主要国となった国は
地域と世界に対して負う責任も増加することを、インドや日本のような国は明記する必要
がある。また、それら主要国は、国内において、国際社会に対する自国の責任について理
解を得る努力もしなければならない。
第 2 セッション要旨
提起された主な意見は次のとおり。
・平和維持のほか、紛争後の平和構築活動、中でも DDR、地雷除去、不発弾処理、人道
支援、法と秩序の維持の分野において、軍の積極的関与が必要とされることがある。災
害救援やテロ等においても軍の役割が想定される。これらのすべてにおいて軍、警察、
文民組織の協力が不可欠である。
27
・平和維持に参加する各国部隊の能力に差があることは活動の効率性や要員の安全に影
響し得る。また、国連 PKO はより複雑になっており、地域における共同訓練などを通
じて能力向上を図ることが重要である。
・過去の活動の経験から学ぶことは大切であるが、個々の状況は異なるので、平和維持
活動に携わる者は、常に新たな要素を予期し、柔軟に反応しなければならない。
・地域の中でも災害に対する準備の度合いは異なる。防衛当局間でも災害救援の経験の
共有を図る必要がある。
・ADMM プラスは、非伝統的な安全保障課題に対処するために有益な場を提供できる
可能性がある。他方で、参加国が広がりすぎて行動が起こせない ARF の二の舞になる
可能性も存在している。
・APEC と ARF を連続して開催することにより ARF 首脳会議を定期的に開くべきであ
る。
・新しい中間的な機構は、慎重に構想し、注意深く育て、具体的な需要に適合するとと
もに、任務と能力が均衡することが必要。
【まとめ】
西原
正
議長総括
平和・安全保障研究所理事長
本日の議論を要約するならば、指摘された中で重
要なポイントには下記が含まれる。
(1)非伝統的な安全保障課題への対処においては
多国間の協力が必要である。
(2)大規模災害、平和維持活動など即座の対応を
必要とする課題や急速に拡大する課題に対しては軍
が果たすべき役割が存在し得る。
(3)平和維持・平和構築、災害救援、テロ、海賊、国境を越える犯罪等の非伝統的安
全保障課題が挙げられたが、それらのすべてについて軍による地域協力が必要とな
るわけではない。被災国自身が対応できるのであればその対応に委ねるべきであり、
他国の軍が活動する場合は受入国自身の努力を支援するように活動すべきである。
(4)各国の主権と国家のプライドなどはなお重要であり、特に軍を派遣しての地域協
28
力の障害となり得る。
(5)地域諸国の軍が多国間で協力して活動するには何らかの法的な基盤、協力の意思、
協力する能力が必要である。
(6)多国間の共同訓練を通じて協力の習慣を作ることが緊急時に役立つ。また、各国
は他国の支援を受け入れる文化を育てていくことが必要である。
(7)APEC、ARF、ADMM や ADMM プラスなどの地域的枠組みは防衛当局間の協力
を促進させる大きな可能性を持つ。ただし、こうした枠組みについては、あまり野
心的になることなく、注意深く育てていく必要がある。
29
議長・パネリスト略歴
議長・パネリスト略歴
議
西原
長
正(にしはら
まさし)
平和・安全保障研究所理事長(2006 年-)。ミシガン大学博士(政治学)。京都産業大学、
防衛大学校で教鞭をとり、6年間防衛大学校校長を務める。小泉総理の私的懇談会「対外
関係タスクフォース」メンバー、大量破壊兵器(WMD)委員会メンバー等を歴任。
パネリスト(発言順)
増田好平(ますだ
こうへい)
防衛事務次官(2007 年-)。東京大学卒業後、防衛庁に入庁し、防衛庁長官官房防衛審議
官、内閣官房イラク復興推進室長、内閣府イラク復興支援担当室長、防衛庁防衛参事官(統
合運用・IT等担当)、防衛庁人事教育局長等を経て、現職。
アントニオ・C・サントス(フィリピン)
フィリピン国防次官(防衛問題担当)。フィリピン工科大学卒業。35年以上に亘る国軍勤
務の中で、フィリピン国軍総司令部副参謀総長(作戦担当)等の要職を歴任。2000 年に少
将で退役後、国防省において国防次官(作戦担当)、国防次官(計画、政策及び特別課題担
当)等を歴任。
ユスフ・ワナンディ(インドネシア)
インドネシア戦略国際問題研究所(CSIS)創設者、CSIS 財団理事会副議長。太平洋経済
協 力会 議イン ドネ シア国 内委 員会( INCPEC) 議長 、アジ ア太 平洋安 全保 障協力 会 議
(CSCAP)インドネシア国内委員会共同議長、CSCAP 運営委員会委員を兼任。英字全国
紙「ジャカルタ・ポスト」社主。インドネシア大学助教授、インドネシア最高諮問会議書
記、国民協議会議員(4 期)等を歴任。
モハメド・ジャワール(マレーシア)
マレーシア戦略問題研究所(ISIS)会長兼CEO(2006 年-)。国家統一局長、内務省局
長、首相府調査部長(分析担当)、国家安全保障会議主席補佐官、駐インドネシア及び駐タ
イ・マレーシア大使館参事官等を歴任し、ISIS副所長(1990 年)、所長を経て現職。
高木誠一郎(たかぎ
せいいちろう)
青山学院大学国際政治経済学部教授。スタンフォード大学博士(政治学)。埼玉大学教授、
政策研究大学院大学教授、防衛庁防衛研究所第2研究部長を歴任後、現職。専門は国際政
治学、中国研究、アジア・太平洋の国際関係、安全保障研究。
30
議長・パネリスト略歴
バリー・デスカー(シンガポール)
南洋工科大学ラジャトナム国際関係研究所所長兼同大学国防戦略研究所所長。シンガポー
ル大学、ロンドン大学、コーネル大学で学ぶ。シンガポール外務省入省後、シンガポール
国連代表部次席代表、駐インドネシア大使、シンガポール貿易発展委員会事務局長等を歴
任。現職のほか、シンガポール・ビジネス連合副会長、シンガポール・テクノロジー・マ
リン会長等も務める。
ティティナン・ポンスヒラ(タイ)
チュラロンコーン大学安全保障国際問題研究所(ISIS)所長、同大学政治学部国際政治経
済担当准教授。ロンドン大学LSE校博士。タイの政治、政治経済、外交政策、民主化に
おけるメディアの役割、ASEAN及び東アジアの安全保障と経済協力に関する論文、著
書等多数。
明石
康(あかし
やすし)
日本紛争予防センター会長。バージニア大学修士。タフツ大学フレッチャー・スクール大
学院留学。日本人初の国連職員(1957)。日本政府国連代表部大使、国連軍縮担当事務次
長、国連カンボジア暫定機構(UNTAC)事務総長特別代表、旧ユーゴスラビア問題担当
国連事務総長特別代表、人道問題担当国連事務次長等を歴任。現職のほか、スリランカ平
和構築及び復旧・復興担当日本政府代表、立命館大学大学院、国際教養大学客員教授等も
務める。
磯部晃一(いそべ
こういち)
陸上自衛隊中央即応集団副司令官(国際担当)。陸将補。防衛大学校卒。第9飛行隊長、陸
上幕僚監部訓練課演習班長、研究本部主任研究開発官、陸幕防衛課長、東部方面総監部幕
僚副長等を経て、現職。
秋山昌廣(あきやま
まさひろ)
海洋政策研究財団(シップ・アンド・オーシャン財団)会長(2001 年-)。東京大学卒。
在カナダ日本国大使館参事官、東京税関長、大蔵省大臣官房審議官(銀行担当)、防衛庁事
務次官、ハーバード大学客員研究員等を歴任。現職のほか、立教大学21世紀社会デザイ
ン研究科教授等も務める。
31
参考資料
・大規模災害
・海上安全保障
・国際平和協力
・テロリズム
・大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散
(本資料は、第1回共通安全保障課題に関する東京セミナーの席上配布されたものである。
)
32
参考資料
大規模災害
アジアは地震、台風、洪水、噴火、旱魃、森林火災等、自然災害が多く発生する地域である。
近年では、2004 年 12 月のインドネシア・スマトラ島沖大規模地震及びインド洋津波、2005 年 10
月のパキスタン等大規模地震、2006 年 6 月のインドネシア・ジャワ島中部地震、2008 年 5 月のミ
ャンマーにおけるサイクロン、同月の中国四川省における大規模地震等が発生している。
日本の取り組み
・ 国際緊急援助活動
自然災害等の規模・状況に応じて、救助チーム、医療チーム、専門家チーム、自衛隊部隊の
4 種類の援助隊が単独又は混合で派遣される。陸上自衛隊は、医療、輸送の各活動やこれらに
給水活動を組み合わせた活動をそれぞれ自己完結的に行えるよう、中央即応集団及び各方面隊
が任務に対応できる態勢を維持している。海上自衛隊は自衛艦隊が、航空自衛隊は航空支援集
団が、国際緊急援助活動を行う部隊や同部隊への補給品等の輸送ができる態勢を維持している。
自衛隊は国際緊急援助活動をインドネシア、インド、パキスタン、タイ、イラン等で行った。
・ 東京ディフェンス・フォーラム(TDF)の開催 1
・ アジア太平洋地域多国間協力プログラム(MCAP)の開催 2
・ 防災・災害復興支援無償資金協力の実施
・ 日・インドネシア防災に関する共同委員会の創設(2005 年)
・ アジア防災センター(ADRC)の設置(1998 年) 3
地域の取り組み
・ ARF における取り組み
‐災害救援に関する会期間会合(ISM)
‐「災害救援協力に関する ARF 一般ガイドライン」の採択(2007 年)
‐「ARF 人道支援・災害救援に関する戦略的指針」の作成
‐机上演習(豪・インドネシア共催、2008 年 5 月)
‐実動演習(Voluntary Demonstration of Response)(2009 年 5 月に開催予定)
‐「ARF 待機制度(Standby Arrangements)」の検討
‐‐災害救援協力に関する各国コンタクト・ポイントの設置
・ ASEAN における取り組み
‐ASEAN 防災委員会(ACDM)の設立(2003 年)
‐ASEAN 防災緊急対応協定(AADMER)の締結(2005 年)
‐地域待機制度及び共同災害救援・緊急対応活動のための標準運用手続(SASOP)
‐ASEAN 災害救援演習(ARDEX)
‐ASEAN 人道支援・災害管理調整センター(AHA センター)
・ 多国間共同訓練(コブラ・ゴールド等)
・ 東南アジア災害早期警報システムの設置(アジア災害予防センター:ADPC)
地域共通の課題
・ 被災国と支援国・機関間の調整と情報共有の促進
・ 迅速に対応するための制度及び手続きの整備
・ キャパシティ・ビルディング、相互運用性の促進
・ 地域相互支援・調整メカニズムの発展
1
当該分野においては、特に災害救援における国際協力の推進に重きを置いている。詳細は以下を参照のこと。
<http://www.jda-trdi.go.jp/j/defense/dialogue/tdf/index.html>.
2
2006 年 8 月、「大規模災害における軍民協力の理想的な活動モデル」について議論を行った。
3
防災情報の共有、人材育成、コミュニティの防災力向上を通して、アジアにおける防災関係者の人材の交流を含
む多国間の防災能力向上のためのネットワークづくりを進めている。メンバー国は 27 カ国であり、日本、中国、
韓国、ASEAN10 諸国はメンバーである。アジア防災センターホームページ<http://www.adrc.asia/top_j.php>.
33
参考資料
海上安全保障
海上の安全に対する脅威は、紛争、海難、海洋汚染等多様であるが、東南アジア地域海域にお
いて近年特に大きな問題となっているのが、海上犯罪と呼ばれる海賊や武器・人・麻薬の海上密
輸・密航である。
日本の取り組み
防衛省は防衛政策局に海洋政策を担当する部署を設けるなどして、海洋の秩序維持や海上輸送
路の安全確保に関して戦略的に検討していくこととしている。また、海上保安庁は東南アジアに
おける海賊対策として、巡視船・航空機を東南アジア海域に派遣し、公海上における哨戒を行う
とともに、関係諸国との連携訓練、情報収集・分析・提供体制の強化、東南アジア諸国の海上保
安機関への犯罪取締り能力向上のための支援を実施している。
アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP) 4
各国海上保安機関に対する無償資金協力(港湾施設体制強化、巡視船の供与等)
各国海上保安機関の設立支援(フィリピン、インドネシア、マレーシア)
海上保安機関間の連携強化(セミナー、会合の実施:海賊対策国際会議、海賊対策アジア協
力会議、アジア海上保安機関長官級会合、アジア海賊対策チャレンジ、海上薬物取締セミナ
ー(MADLES)等)
・ 各国海上保安機関取締能力向上支援(若手職員の育成)
・ ARF 海上安全保障に関する会期間会合(ISM)の共催
・
・
・
・
地域の取り組み
1)地域会合
・ ARF 海上安全保障に関する ISM(第1回は日本、インドネシア、NZ 共催)
・ APEC STAR イニシアティブ
・ 北太平洋海上安全保安フォーラム(日加中韓露米)、西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)等
2)地域諸国間による主な二国間・多国間海上安全保障協力
・ 調整された(coordinated)パトロール(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイによ
る海軍パトロール: INDOSIN、MALINDO、MASLINDO、マラッカ海峡パトロール(MSP)合
意書等)
・ 航空パトロール Eyes in the Sky (EiS)(インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ)
・ 海峡利用国との軍事演習
-米・協力海上即応訓練(CARAT) 5
-インド(シンガポール・インド海洋二国間演習:SIMBEX、インドネシア・インド合同哨
戒演習:INDINDO)
・ 多国間共同訓練(多国間海上共同訓練、日・タイ・マレーシア 3 カ国海賊対策連携訓練、5 カ
国防衛取極め(FPDA) 6 における海上阻止訓練等)
地域共通の課題
・ 各国海上保安機関及び海軍・海上自衛隊の海賊等海上犯罪に対処するための能力向上・教育
研修
・ 海上保安機関と海軍・海上自衛隊の連携強化及び調整(海上安全保障を担う機関が国によっ
て異なっているため、協力を行う際に困難を伴うこともあるため)
・ 国内及び地域諸国間の関連法執行機関間の連携強化
4
日本が提案・主導し、2004 年 11 月に採択。情報共有センター(ISC)は 2006 年 11 月にシンガポールに設立。
協定締結国(14):日本、ASEAN8 カ国(インドネシア、マレーシアを除く)、中国、韓国、インド、バングラデ
シュ、スリランカ。インドネシア、マレーシアはオブザーバーとして会議に参加。
5
米国がブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)との間で実施している、一連
の二国間海上演習の総称。
6
マレーシア、シンガポール、英国、オーストラリア、ニュージーランド。
34
参考資料
国際平和協力
東アジア・東南アジアにおける国際平和協力は、例えば、カンボジアで国連カンボジア暫定機
構(UNTAC。1992.2-1993.9)、東ティモールでは、国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET。
1999.10-2002.5)、国連東ティモール支援団(UNMISET。2002.5-2005.5)等の国連平和維持活動
が行われ、2006 年 8 月からは国連東ティモール統合ミッション(UNMIT)が活動中である。
日本の取り組み
・ UNTAC、UNTAET/UNMISET 等への参加
・ 2007 年 1 月に国際平和協力活動等が自衛隊の本来任務と位置付けられた。
・ 陸上自衛隊中央即応集団隷下に国際活動教育隊(2007 年 3 月)や中央即応連隊(2008 年 3 月)を新編
・ 国際平和協力センター(仮称)の設立準備
・ 自衛隊の国際平和協力演習の実施等
・ 「平和構築に関するベストプラクティス参照ペーパー」案の作成(アジア太平洋地域防衛当
局者フォーラム(東京ディフェンス・フォーラム)第 7 回分科会にて) 7
・ アジア太平洋地域多国間協力プログラム 8
・ 平和構築に関する各種会合・セミナー(東京平和構築シンポジウム等)
・ 平和構築人材育成事業
地域の取り組み
・ ARF における取り組み
- 平和維持活動に関する会期間会合(ISM)(1996-1997 年)
- ARF における各種会合(平和維持専門家会合、平和維持活動に関するセミナー等)
- 平和維持活動に関する各国 ARF コンタクト・ポイントの設置
- セミナー及び演習を含む地域的イベントのリスト化
・ PKO 演習(コブラ・ゴールド、カンボジア平和支援演習(Cambodia Peace Support Operations)
南アジア平和維持活動指揮所演習、Khaan Quest 等)
・ 米国「世界平和活動イニシアティブ(GPOI)」における平和活動演習(インドネシア、マレー
シア、タイ他) 9
・ ASEAN における取り組み
- 平和維持・平和構築に関し以下の点に合意
・各国の平和維持センターの活用
・標準運用手続(SOP)の採択
・平和・安定維持のための地域取極の設立
地域共通の課題
・ 平和維持共同訓練の実施
・ 要員の教育及び訓練(現地の文化や言語等)
・ (計画・研修・活動を含めた)統合ミッションコンセプトの草案
・ 各国の平和維持センターの活用およびセンター間の連携強化
・ 平和構築・紛争後の国家建設に関する教育プログラムの実施
・ 相互運用性の向上(ガイドラインや標準運用手続)
・ 現地情勢に関する情報共有及び活動の調整
・ 軍民協力の模索(平和維持・平和構築・紛争後の国家建設における防衛・軍当局と市民社会・
NGOとの有機的な役割分担と協力の強化)
7
東京ディフェンス・フォーラム(TDF)は防衛省が 1996 年から主催している国際会議である。2008 年の第 7 回
分科会ならびに「平和構築に関するベストプラクティス参照ペーパー」については以下を参照。
<http://www.jda-trdi.go.jp/j/defense/dialogue/tdf/pdf/7th_sub_summary.pdf>.
8
2008 年 8 月、アジア太平洋地域の陸軍等からオブザーバーを招へいし、
「平和活動における各種連携について~
陸軍及び軍民間の連携について~」をテーマとし意見交換や研修を行った。
9
アメリカはマレーシア平和維持研修所を東南アジア地域における平和活動研修の拠点(Center of Excellence)と
位置付けている。GPOI については以下を参照。<http://www.state.gov/t/pm/ppa/gpoi/c20212.htm>.
35
参考資料
テロリズム
インドネシアでは 2002 年から 2005 年にかけてイスラム過激派組織「ジュマ・イスラミーヤ(JI)」
が関与したとみられる大規模なテロが発生した。テロ組織の取締りなどに一定の進捗が見られた
こともあり、2006 年以降は大規模なテロは発生していないが、フィリピンやタイ南部では国内治
安上の脅威となっており、東南アジアは依然としてテロの脅威が存在している地域である。
日本の取り組み
2001 年の 9.11 テロを受けて、同年に制定された旧テロ対策特措法及び 2008 年 1 月に制定され
た補給支援特措法に基づき、海上自衛隊はインド洋において補給活動を実施してきている。また、
テロ対処面における危機管理能力向上を目的に、東南アジア諸国を中心に 1)出入国管理、2)航
空保安、3)港湾・海洋保安、4)税関協力、5)不拡散・輸出管理、6)警察・法執行機関の協力、
7)テロ資金対策、8)CBRN(化学、生物、放射性物質、核)テロ対策、9)テロ防止関連条約締
結促進等の分野において、研修生の受け入れ、専門家の派遣、機材供与等の支援活動を、ODA等
を活用しつつ実施している 10 。
・ テロ対策等治安無償資金協力の創設(2006 年度 70 億円、2007 年度 72 億円、2008 年度 60 億
円)
・ 捜査・テロ対策関連機材の供与(無線通信システム構築、捜査活動通信システム、鑑識活動
資機材の供与等)
・ 日 ASEAN テロ対策対話
・ セミナーの実施(テロ資金供与防止条約締結促進セミナー、テロ防止関連条約締結促進セミ
ナー、化学・生物テロ事前対処及び危機管理セミナー等)
地域の取り組み
法執行機関間協力を中心に、情報交換や能力向上支援が行われている。
・ テロ対策関連センターの設置(東南アジア地域テロ対策センター(SEARCCT)、ジャカルタ
法執行協力センター(JCLEC)等)
・ 共同声明、協定の締結(ASEAN テロ対策協定)
・ 域外諸国(特にアメリカ、オーストラリア)との協力
-米国:経済・軍事支援、国際軍事教育訓練(IMET)、軍事演習(米比バリカタン、米・タイ・
シンガポール・インドネシア・日本 コブラ・ゴールド等)
-豪国:経済・軍事支援、インドネシア特殊部隊コパススとの連携再開・強化等
・ ASEAN 諸国間の協力(法執行機関間の情報共有、セミナーの実施等)
・ 地域会合を通じての取り組み
-ARF「テロ対策及び国境を越える犯罪に関する会期間会合(ISM)」、その他の対テロ声明
採択等
-APEC における安全な貿易を確保するための各種取り組み(テロ対策・タスク・フォース
(CTTF)の設置、STAR イニシアティブ等)
・ アジア太平洋マネーロンダリング対策グループ(APG)
地域共通の課題
・ 地域諸国間のテロ対策能力の不均衡是正
・ 国境警備・入国管理の強化
・ 防衛当局と警察当局との連携
・ 国内治安の強化と人権擁護のバランス
10
詳細は外務省 HP 以下を参照のこと。<http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/terro/kyoryoku_06.html#b>.
36
参考資料
大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散
日本の取り組み
北朝鮮核・ミサイル問題に関し、政府は六者会合を通じてこの問題の平和的解決と朝鮮半島の
非核化を目指している。アジア地域における大量破壊兵器不拡散体制整備のためにはアジア諸
国・地域の協力が不可欠との認識の下、
「拡散に対する安全保障構想(PSI)」を含む包括的な不拡
散体制強化のための働きかけ(アウトリーチ活動)を行っている(アジア不拡散協議(ASTOP)、
アジア輸出管理セミナー等)。日本は 2004 年 10 月には相模湾沖合等で、2007 年 10 月には伊豆大
島東方海域等でPSI海上阻止訓練を主催した。防衛省は、アジア諸国の国防当局に対し、これまで
のPSI訓練によって得た情報や知見の提供を通じて、PSIに対する理解の醸成に努めている 11 。
地域の取り組み
地域のほぼ全諸国が大量破壊兵器を包括的に禁止する法的枠組みである核不拡散条約(NPT)、
生物兵器禁止条約(BWC)、化学兵器禁止条約(CWC)に署名しているが、国際輸出管理レジー
ムへの参加は少数にとどまっている(下表)。ASEAN諸国が輸出管理レジームに消極的である理
由の一つに、品目・技術等の移転や原子力平和利用の権利に制限を与えうることに懸念を抱いて
いる点が一般的に挙げられる 12 。また、拡散阻止活動であるPSIには、日本、シンガポール、ブル
ネイ、カンボジア、フィリピンが支持を表明しており、日本、シンガポールがPSI訓練を開催した
実績がある。
地域レベルでは、北朝鮮核問題を始めとする WMD 拡散問題は ARF や APEC で取り上げられて
いるが声明レベルに留まっており、法的枠組みは東南アジア非核兵器地帯条約(SEANWFZ)の
みである。同条約には ASEAN 諸国が加盟国になっているが、インド、パキスタンを含む核保有
国は加盟していない(下表)。
国
日本
中国
韓国
北朝鮮
ブルネイ
カンボジア
インドネシア
ラオス
マレーシア
ミャンマー
フィリピン
シンガポール
タイ
ベトナム
AG
x
HCOC
x
MTCR
x
x
x
x
NSG
x
x
x
ZAC
x
x
x
SEANWFZ
x
x
X
X
X
X
X
X
X
X
x
x
注:AG:オーストラリアグループ、HCOC:弾道ミサイルの拡散に立ち向かうためのハーグ行
動規範、MTCR:ミサイル技術管理レジーム、NSG:原子力供給国グループ、ZAC:ザンガー
委員会、SEANWFZ:東南アジア非核兵器地帯条約
地域共通の課題
・ PSI のような阻止行動における各国・国内関連当局の連携強化(防衛、外交、法執行、輸出管
理等を包括した取り組み)
・ 国際輸出管理レジームへのより積極的な参加
・ 輸出管理体制の不備と能力の不足
・ 政策課題としてのプライオリティの低さ(大量破壊兵器拡散に対する脅威認識の差異)
11
防衛省『防衛白書』平成 20 年版、平成 17 年版、外務省「軍縮・不拡散~日本の取り組み~」、2006 年 3 月。
この点について、インドネシア、ラオス、マレーシア、ベトナムは、国連安保理に設置された 1540 委員会に提
出した報告書において言及している。<http://disarmament2.un.org/Committee1540/report.html>.
12
37