RF-MEMS スイッチ用圧電薄膜型マイクロアクチュエータの開発

RF-MEMS スイッチ用圧電薄膜型マイクロアクチュエータの開発
Development of a micro actuator driven by piezoelectric thin film for RF-MEMS switches
鈴木 孝明*1 (正員),田澤 慶朗*1,神野
伊策*1 (正員),小寺 秀俊*1 (正員)
Takaaki Suzuki (Mem.), Yoshiro Tazawa, Isaku Kanno (Mem.), Hidetoshi Kotera (Mem.)
A piezoelectric RF-MEMS switch driven by PZT thin films was investigated for low-voltage actuation. PZT thin
films with composition of Zr/Ti=53/47 were grown on the (111) Pt/Ti/Si substrates by RF-sputtering. In the previous
paper, the cantilever type actuators composed of PZT thin films and Cr elastic layers have been successively
fabricated as unimorph structure, but large initial bending arose due to the residual stress in the PZT and Cr layers. In
this paper, we optimized the deposition condition for Cr elastic layer in order to reduce the initial bending. Then, new
structures of piezoelectric actuators having cantilever and four edges supported beam types were fabricated, and
evaluated for the driving property. The deflection of cantilever and four edges supported beam type actuators applied
the voltage of 5V were 2.6μm and 1.3μm, respectively. As a result, it is confirmed that the proposed actuators can be
adopted for RF-MEMS switches with low-voltage actuation.
Keywords:
MEMS, RF-switches, PZT thin films, low voltage actuation
緒 言
1
構造体を作製し,アクチュエータの機械的な動きでス
イッチングの ON/OFF を行う素子であり,物理的に信
近年,社会の高度情報化に伴いミリ波帯域(30GHz
号をグランドへ短絡させたり,信号線同士を連結した
~300GHz)を用いた近距離大容量無線通信技術が検討
りすることでスイッチングを行うため,ミリ波帯にお
されている[1, 2]。特に,ミリ波帯域においては通信品
いても低挿入損失,
高アイソレーションを実現できる。
質を確保するために低損失性を有する高周波回路を構
現在 MEMS スイッチでは主に構造が単純かつプロセ
成する必要があり,高周波回路におけるキーデバイス
スが容易なことから駆動源として静電引力が用いられ
の一つとして RF スイッチング素子がある。RF スイッ
ているが,駆動電圧が 20~80V と高いことから,携帯
チは,
フロントエンド回路における送受信の切替えや,
通信機器のスイッチや他の半導体素子との併用に大き
デュアルバンド増幅器における帯域切替え,フェーズ
な問題点となっていた[6]。
ドアレイアンテナにおける位相切替え,アッテネータ
そこで我々は,大きな発生力が得られる圧電薄膜を
における減衰量切替え,バリアブルキャパシタ,可変
アクチュエータの駆動源として用いた低電圧で駆動す
フィルタ等,様々な高周波回路素子のファンクション
る RF-MEMS スイッチの開発を検討してきた。アクチ
や周波数帯域を切替える事に使用され,その汎用性の
ュエータの構造は,下部電極である Pt 層と上部電極及
高さから多くの研究者に研究されている[3-5]。
び弾性層である Cr 層に PZT 圧電薄膜が挟まれたユニ
マイクロ波以下の周波数帯域における従来の半導体
モルフ構造とし,圧電薄膜の成膜方法として,薄膜の
スイッチでは,ミリ波帯域において ON 状態での挿入
組成安定性・量産性・自発分極の安定性を有する RF
損失が大きく,OFF 状態の絶縁性が低いといった問題
マグネトロンスパッタリング法を用いた。これまでに
があった。これに対し,高周波領域の低損失スイッチ
圧電駆動型 MEMS スイッチとして,長さ 500μm のユ
ング素子として,RF-MEMS スイッチが注目を集めて
ニモルフ型片持ち梁を試作し,電極間に 5V 印加した
い る 。 RF-MEMS ス イ ッ チ と は , MEMS (Micro
時,最大で 1μm 変位し,低電圧でのスイッチングが可
Electro-Mechanical Systems)技術を用いて高精度三次元
能であることを示している[7]。しかし,成膜時に薄膜
連絡先:鈴木 孝明,〒606-8501 京都市左京区吉田本町,
京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻
e-mail: [email protected]
*1
京都大学
間に生じる内部応力のために,アクチュエータに大き
な初期たわみが生じ,MEMS スイッチを作製する際,
アクチュエータと伝送線路間のギャップ,コンタクト
面の制御及び素子の小型化という点で困難があった。
そこで本研究では,薄膜間の内部応力制御と伝送線
4
2
S 21 ≅
路コンタクト部の制御を行い,低電圧で駆動可能な
RF-MEMS スイッチ用の圧電薄膜型マイクロアクチュ
≅
エータについて検討を行った。薄膜間の内部応力制御
については,
弾性層である Cr 薄膜の成膜条件を最適化
≅
することで,初期たわみの軽減について検討した。ま
4 + ω C 2 Z 02
2
4 Rs2
Z 02
( for f ≈ f 0 )
4ω 2 L2
た,大きな変位量が得られる片持ち梁型アクチュエー
Z 02
( for f ≤ f 0 )
( for f ≥ f 0 )
(1)
小さなコネクタにより連結した新たなアクチュエータ
ただし,f0 =1/2π LC である。上式を用いてスイッチ
ング特性を計算した結果を Fig. 2 に示す。縦軸は,挿
構造を提案,試作し,初期たわみと変位量について評
入損失,アイソレーション及びリターンロスを,横軸
価を行ったので報告する。
は信号の周波数を示している。スイッチ OFF 時におい
タと伝送線路コンタクト部をバネ特性を有する剛性の
て,
30GHz におけるアイソレーションは−20dB となり,
設計したモデルでは,ミリ波帯において十分スイッチ
2
RF-MEMS スイッチの駆動原理
ングできることが分かった。
本研究では,ミリ波帯(30GHz~)でのスイッチング
を目的とし,高周波帯で高いアイソレーションが得ら
れるキャパシタンス型シャントスイッチを検討する。
キャパシタンス型シャントスイッチは,伝送線上に誘
電体薄膜を成膜し,伝送線路とアクチュエータ間にコ
線をグランドへ短絡させスイッチングを行う方法であ
ッチを Fig. 1 に示す。アクチュエータとしては,下部
電極である Pt 層と上部電極及び弾性層である Cr 層に
PZT 圧電薄膜が挟まれたユニモルフカンチレバー構造
としている。接触部を 50μm×50μm,アクチュエータ
と伝送線路とのギャップを 3μm とした場合,スイッチ
ON 時の電気容量は 7.4pfF であり,ON 時における挿
0
-0.1
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
-0.6
0
0
-10
-20
-30
-40
-50
-60
100
40
60
80
Frequency [GHz]
(a) UP POSITION [Switch ON]
入損失は,周波数によらず低くすることができる。ま
た,成膜する PZT 薄膜の比誘電率が 230 と静電駆動型
で使用される SiN(比誘電率 7.6)[8]に対し大きい値を取
20
Return Loss [dB]
る。本研究で設計したキャパシタンス型シャントスイ
Fig. 1 Cross-sectional view of piezoelectric capacitive
shunt switch.
Insertion Loss [dB]
ンデンサを形成,電気容量を変化させることで,信号
ることから,本研究ではスイッチング OFF 時の誘電体
必要がなくなり,静電駆動型スイッチに対しプロセス
を簡略化できる。
PZT 薄膜の膜厚を 2.5μm とした場合,
スイッチ OFF 時の電気容量は 2pF となり,スイッチ
ON/OFF の電気容量変化は 276 となり,スイッチング
に十分な電気容量変化が得られると考えられる。
伝送線路とアクチュエータ間の電気容量を C,高周
波信号の角速度をω,伝送線路のインピーダンスを Z0,
コンタクト部の抵抗を Rs,素子のグランドに対するイ
ンダクタンスを L とすると,キャパシタンス型シャン
トスイッチの S パラメータは以下の式で表される[8]。
Isolation [dB]
れにより,伝送線路上に誘電体薄膜を成膜・加工する
0
-10
-10
-20
-20
-30
-30
-40
0
20
40
60
80
Return Loss [dB]
0
としてアクチュエータ部 PZT 薄膜の利用を考えた。こ
-40
100
Frequency [GHz]
(b) DOWN POSITION [Switch OFF]
Fig. 2 Calculated S parameters of piezoelectric capacitive
shunt switch.
3
薄膜間の内部応力制御
板に入射するエネルギーが減少し,薄膜内に空孔が生
PZT 薄膜を RF マグネトロンスパッタリング法によ
り成膜する場合,圧電性を有するペロブスカイト構造
にするため,基板温度を 600~700℃に加熱する必要が
ある。Si 基板と PZT 薄膜の熱膨張係数は,それぞれ
2.6 ppm/℃,6.7 ppm/℃と異なることから,PZT 薄膜に
数百 MPa の熱応力が生じることが報告されている[9]。
この熱応力は結果として,加工後のアクチュエータに
じ,その空孔が消失する際の体積変化により薄膜にお
ける内部応力は引張り残留応力となると考えられる。
次に,PZT薄膜に生じている内部応力について検討
する。Cr薄膜の内部応力σ C r を既知とすると,PZT薄
膜の内部応力σ PZTは,Cr薄膜及びPZT薄膜からなる片
持ち梁における初期たわみの曲率半径Rを求めること
によって下記のように導かれる。
大きな初期たわみが生じ,大たわみ変形による変位特
σ PZT =
性の低下や,スイッチング素子の小型化,アクチュエ
ータと伝送線路のギャップ制御においても大きな問題
となる。一方で,PZT 薄膜がペロブスカイト構造とな
る成膜温度は限られ,PZT 薄膜の熱応力を制御するこ
とは困難である。そこで本研究では,Cr 薄膜の内部応
力が放電ガスである Ar ガスの圧力によって変化する
現象に着目して,
弾性層である Cr 薄膜の応力状態を変
3
bt 3p
EpI p
btCr
, Ep =
,r =
ECr I Cr
12
12
ECr =
(
2(1 + r )E PZT ECr I Cr
E PZT
σ Cr +
k
ECr
R (t Cr + t PZT )
)
((
) (
2
k = 1 / E p A p + (1 / ECr ACr ) + tCr
4 ECr I Cr + t 2p 4 E p I p
((
) (
+ t p t Cr 4 E p I p −
)) ((
4 ECr I Cr × rt Cr − t p
2
t Cr
(3)
))
) (1 + r )tCr )
ここで,ECr,Ep,ICr,Ip,tCr,tp はそれぞれ Cr と PZT
化させることによってアクチュエータに生じる初期た
のヤング率,断面二次モーメント,膜厚を表し,l,b
わみを軽減する方法を提案する。
は片持ち梁の長さ,幅である。
Cr 薄膜の応力測定として,長さ 10mm,幅 2mm,厚
さ 50μm に加工した短冊状ガラス上に Cr 薄膜を成膜し,
内部応力によって誘起される初期たわみの曲率半径か
ら応力を評価した。初期たわみの曲率半径 R は,白色
光 干 渉 を 利 用 し た 光 干 渉 式 表 面 粗 さ 計 (WYKO
NT1100)を用いて測定し,以下の関係式を用いて曲率
半径 R から内部応力σ を算出する。
σ=
EGlass t Glass 2
6t Cr (1 − ν Glass )R
(2)
Table 1 Conditions for sputtering Cr thin film on Glass.
Parameters
Substrate temperature
Gas composition
Gas pressure
Distance between Target
and Substrate
RF power
Sputtering time
Conditions
Room temperature
Ar:10sccm
0.5Pa to 1.2Pa
4cm
70W
22min
ここで,EGlassはガラス基板のヤング率,νGlassはポアソ
を表している.ガラス基板のヤング率を70GPa,ポア
ソン比を0.3とし,Table 1の条件でCr薄膜成膜時のAr
ガス圧と内部応力の関係をFig. 3に示す。これより,
Arガス圧が増加するにつれてCr薄膜の内部応力が圧
縮残留応力から引張り残留応力へと変化し,Arガス圧
が0.6Pa付近において薄膜内の内部応力がほぼ0となる
ことが分かる。Arガス圧が低い場合,Arガスの平均自
由行程が長くなるため,スパッタ粒子及びArガスが基
板に入射するエネルギーが増加し,薄膜内の結晶間に
スパッタ粒子及びArガスが入り込み薄膜が膨張する
ことから,薄膜における内部応力は,圧縮残留応力と
なると考えられる。逆に,Arガス圧が高い場合,Arガ
スの平均自由行程が短くなるため,スパッタ粒子が基
Tensile residual stress [MPa]
ン比,tcr,tGlassはそれぞれCr薄膜及びガラス基板の厚み
1000
500
0
-500
0
0.5
1
1.5
Pressure [Pa]
Fig. 3 Tensile residual stress of the sputtered Cr thin film
as a function of Ar Gas pressure
長さ 500μm,幅 150μm の Cr/PZT ユニモルフ型片持
した時,コネクタの他端に厚さ方向へ 100MPa まで圧
ち梁を作製し,初期たわみの曲率半径,及び Cr 薄膜の
力を印加した場合のそれぞれの最大変位量を比較した
内部応力を測定することによって,PZT 薄膜の内部応
ところ,ジグザグ形状コネクタの剛性は,片持ち梁型
力を求めた。Cr 薄膜及び PZT 薄膜のヤング率を
コネクタに対し 60%の剛性となった。この結果から本
248GPa,63GPa [10,11]として式(3)を用いると,PZT 薄
研究では,ジグザグ形状コネクタを用いた。
膜には 130MPa~230MPa の引張り残留応力が生じて
片持ち梁型アクチュエータは大きな変位量が得られ
おり,
初期たわみをなくすためには Cr 薄膜の内部応力
るが,内部応力の影響を受けやすく,接触力が弱いと
を 340MPa~590MPa とすればよいことが分かった。す
いう特徴がある。一方で,4 端支持梁型アクチュエー
なわち,Fig. 3 に示した Cr 薄膜の内部応力と Ar ガス
タでは,4 本の L 字型片持ち梁と接触部を剛性の小さ
圧の関係から,弾性層である Cr 薄膜を成膜する際,
いジグザグ形状コネクタにより連結した構造となって
Ar ガス圧を 0.8Pa~1Pa 程度とすると,アクチュエー
いる。片持ち梁型アクチュエータに対しアクチュエー
タの初期たわみが軽減できると考えられる。
タの拘束力が増加するため変位量は減少するが,接触
力が大きくなる。
4.2 アクチュエータの作製方法
アクチュエータの作製プロセスを順に示す。駆動源
となる PZT 薄膜は,(100)Si 基板上に成膜した密着層
Ti(膜厚 10nm)及び下部電極となる Pt(膜厚 60nm)
上に,RF マグネトロンスパッタリング法により膜厚
2.5μm となるように成膜した。ターゲットとしては,
MPB(Morphotropic Phase Boundary)付近の Zr/Ti 比を持
つ PZT を得るために(Pb(Zr0.53, Ti0.47)O3)0.8+(PbO)0.2 の焼
結体を用いた。成膜した PZT 薄膜の XRD パターンを
Fig. 6 に示す。図より形成した PZT 薄膜はペロブスカ
イト構造の多結晶薄膜であることが分かった。
さらに,
リフトオフプロセスを用いて PZT 上に Cr(膜厚 800nm)
を下部電極の形にパターニングした。Cr 薄膜の成膜は
RF マグネトロンスパッタリング法により行い,
初期た
わみを軽減するため,常温にて Ar ガス圧 1Pa の下,
Fig. 4 Schematic illustrations of the actuators.
RF 出力 70W として成膜を行った。同様にリフトオフ
プロセスを用いて基板下部に Cr をメタルマスクとし
4
アクチュエータの作製
4.1 アクチュエータ構造
片持ち梁型アクチュエータ及び 4 端支持梁型アクチ
てパターニングした後,保護膜として S1813 レジスト
を用いて PZT 及び Ti/Pt のパターニングをそれぞれフ
ッ硝酸と CF4 ガスを用いたエッチングにより行った。
最後に Si 基板下部から DeepRIE による垂直性エッチ
ュエータの概略図を Fig. 4 に示す。片持ち梁型アクチ
ングによりすることで,アクチュエータ部を Si 基板か
ュエータでは,接触部において面接触させるため,駆
らリリースした。
動部である片持ち梁と接触部を剛性の低いジグザグ形
状コネクタにより連結した構造を提案する。
コネクタ部の剛性を評価するため,有限要素法解析
ソフト(MSC MARC)を用いて変位量の解析を行った。
コネクタ部として,単純片持ち梁とジグザグ形状コネ
クタの2種類を比較した。
それぞれの解析モデルを Fig.
5 に示す。Table 2 の材料定数を用い,一端を固定端と
(a) Cantilever type
(b) Zigzag type
Fig. 5 Fabrication process of the piezoelectric actuator.
前報[7]の片持ち梁型アクチュエータでは,自由端にお
Table 2 Material properties for FEM simulation.
いて数百μm の初期たわみを生じていたことから,内
Material
部応力制御を行った本研究の圧電アクチュエータは,
Young’s modulus
Poisson’s ratio
初期たわみが大きく軽減できたといえる。
[GPa]
Cr
248
0.3
PZT
63
0.32
アクチュエータの特性評価及び考察
5
製作したアクチュエータの共振周波数及び変位特性
をレーザードップラー振動計により評価した。印加電
10
(111)Pt
(002)PZT
圧は,抗電界以上の電界により分極処理を行った分極
(111)PZT
10 3
(110)PZT
10 4
(001)PZT
Intensity [C.P.S.]
10 5
方向を考慮して,下部電極である Pt 膜に 0V,上部電
極である Cr 膜に負の電圧を印加した。
アクチュエータ
の電極間に Peak to peak で 0.1V の交流電圧を印加し,
2
周波数を 200Hz から 10kHz まで変化させた場合の周波
10 1
10 0
数応答を Fig. 8 に示す。片持ち梁型アクチュエータで
20
30
40
50
2θ [deg]
Fig. 6 XRD pattern of PZT films on Si substrates.
は 6.3 kHz,4 端支持梁型アクチュエータでは 5.6kHz
に 1 次共振点が見られる。
次に,駆動電圧と最大変位量の関係を測定するため
に共振周波数から十分離れた周波数 1kHz の電圧を電
極間に印加した。駆動電圧を Peak to peak で 0V から
25V まで変化させた時の駆動電圧と接触部における変
位量の関係を Fig. 9 に示す。
電極間に 5V 印加した時,
片持ち梁型アクチュエータでは 2.6μm,4 端支持梁型
アクチュエータでは 1.3μm の変位量が得られた。これ
らの変位量は伝送線路とアクチュエータ間のギャップ
として十分な値であり,本研究で作製したアクチュエ
ータは共に 5V 以下の低電圧でスイッチングか可能で
あると考えられる。4 端支持梁型アクチュエータは,
片持ち梁型アクチュエータに対して変位特性が 1/2 と
なるが,接触部が伝送線路と面接触しやすく,スイッ
チング寿命やスイッチング特性の向上が期待できる。
Fig. 7 SEM photographs of the fabricated actuators.
作製したアクチュエータの SEM 画像を Fig. 7 に示す。
Deflection [ μm]
30
(a) 6.3kHz
20
(b) 5.6kHz
10
光干渉式表面粗さ計(WYKO NT1100)を用いてアクチ
ュエータの接触部における初期たわみ量を測定した結
果,700μm×150μm の片持ち梁型アクチュエータでは
4μm,
4 端支持梁型アクチュエータでは 6μm であった。
0
2
4
6
8
Applied Frequency [kHz]
Fig. 8 Frequency response at 0.1Vpp
(a) cantilever type, (b) 4 edges supported beam type
10
形成の基盤技術開発)の一部として実施された研究の
成果である。
Deflection [μm]
20
(a)
15
参考文献
10
[1]
(b)
5
0
5
10
15
20
25
Applied Voltage [V]
Fig.9 Deflection as a function of applied voltage 1kHz.
(a) cantilever type, (b) 4 edges supported beam type
6
結 言
本研究では,RF マグネトロンスパッタリング法を用
いて Si 基板上に成膜した圧電 PZT 薄膜を駆動源とす
る RF-MEMS スイッチ用低電圧駆動マイクロアクチュ
エータの試作・評価を行った。ユニモルフ構造を有す
る圧電アクチュエータにおいて問題となっていた多層
膜間の内部応力を,
弾性層である Cr 薄膜の成膜条件を
最適化することで制御し,アクチュエータの初期たわ
みを軽減できた。また,アクチュエータ構造としてコ
ンタクト面制御および変位量増加のためのジグザグ構
造を有する片持ち梁型構造及び 4 端支持梁型構造を提
案,試作し,その動特性評価を行った。その結果,電
極間に 5V 印加した場合,片持ち梁型アクチュエータ
では 2.6μm,4 端支持梁型アクチュエータでは 1.3μm
の変位量が得られ,5V 以下の低電圧にてスイッチング
可能な RF-MEMS スイッチ用アクチュエータを作製す
ることができた。
実用化に向けては,電極材料によるアクチュエータ
寿命の変化などについて検討するなどのスイッチ寿命
の評価が今後の課題となる。
謝 辞
本研究の一部は,日本学術振興会科学技術研究費・
基盤研究(A)(2)一般(No.15201033),
および,
21 世紀 COE
プログラム「動的機能機械システムの数理モデルと設
計論」による基礎研究の成果を元に,独立行政法人 科
学技術振興機構(文部科学省所管)から指定を受けた
京都市地域結集型共同研究事業(ナノメディシン拠点
A.E. Fathy, A. Rosen, and H. S.Owen, Silicon Based
Reconfigurable
Antennas
Concepts,
Analysis,
Implementation, and Feasibility, IEEE Trans on Microwave
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