日本臨床免疫学会会誌(VoL31No.4) 260 シンポジウム4−5 高lgE症候群の分子基盤 東京医科歯科大学・大学院医歯学総合研究科・免疫アレルギー学分野 峯岸克行,齋藤雅子,烏山 一 高IgE症候群はJob症候群とも称され,肺炎や皮膚膿瘍など細菌による易感染性を示す一方で,血清IgE 高値やアトピー性皮膚炎などアレルギー病態をも呈する,非常にユニークな原発性免疫不全症である・症例の 多くは家族歴のない弧発型であるが,常染色体優性あるいは劣性の遺伝様式を示す家族例も報告されている. 私たちは,臨床症状の違いから,高IgE症候群を1型と2型に大別することを提唱している.1型は,骨・歯 牙・軟部組織の異常も伴う多臓器疾患であるが,2型で認められる異常は免疫系に限定している.弧発型と常 染色体優性型の多くは1型で,常染色体劣性型は2型の症状を示す.1966年に最初の症例が報告されて以 来,責任遺伝子の解明に向けて数多くの研究がなされたが,高IgE症候群の原因は長い間謎のままであった. 私たちは,高IgE症候群患者の末梢血免疫細胞の解析結果をもとに,ついに高IgE症候群の責任遺伝子を つきとめた.すなわち,1型高IgE症候群ではSTAT3(signaltransducerandactivatoroftranscription3)遺伝 子のヘテロ(ドミソナント・ネガティブ)変異が認められ,2型高IgE症候群ではJakキナーゼのひとつであ るTyk2(tyrosine kinase2)をコードする遺伝子のホモ変異が見つかった.多種のサイトカインのシグナル伝 達にJak/sTAT経路が使用されていることに呼応して,いずれの患者においても,IL−6,IL−10,IL−23を含む 多数のサイトカインのシグナル障害があることが判明した.これに一致して,高IgE症候群患者ではTh17の 分化・機能障害が認められた. 以上のように,Jak/STAT遺伝子変異による,多岐にわたるサイトカイン・シグナル伝達障害が高IgE症 候群の本態であることが明らかとなった.
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