日本流体力学会年会 2005 AM05-10-008 液柱内温度差マランゴニ対流の振動流に対する全周加熱制御 Control of Oscillatory Thermocapillary Convection in a Half-Zone Liquid Bridge by Circumference Round Heating ○工藤正樹, 東理大院, 千葉県野田市山崎 2641, [email protected] 上野一郎, 東理大, 千葉県野田市山崎 2641, [email protected] 河村洋, 東理大, 千葉県野田市山崎 2641, [email protected] Masaki KUDO, Tokyo University of Science, 2641 Yamazaki, Noda-shi, Chiba 278-8510, Japan Ichiro UENO, Tokyo University of Science, 2641 Yamazaki, Noda-shi, Chiba 278-8510, Japan Hiroshi KAWAMURA, Tokyo University of Science, 2641 Yamazaki, Noda-shi, Chiba 278-8510, Japan A new scheme of active control was tested on nonlinear thermocapillary convection in a half-zone liquid bridge of a high Prandtl number fluid. The control was realized by introducing concentric-circle wire heater in order to change the surface temperature axially. With this control scheme one can control the oscillatory convection without any dependence upon the spatio-temporal distribution of the temperature over the free surface. The comparison of the control effects between the present scheme and the previous active feedback control scheme by our group was conducted by considering time series of the surface temperature variations and the visualized flow field from the top. The control with the present scheme achieved a more significant attenuation of the temperature oscillation in a wide range of Marangoni number. 近年,液体自由表面の温度振動を抑制することにより対流を安 定化するという発想のもと,薄液膜(6)や円筒状容器(7), (8)などの体系 において,高 Pr 流体マランゴニ対流の制御が行なわれるようにな った. Shiomi ら(7), (8)は,円筒状容器内液層に生じる三次元非定常 流の抑制に成功した.彼らは液層表面温度振動の空間的規則性に 従って,対となる温度センサと電気ヒータを配置し,センサが取 得した局所的な表面温度を制御入力として線形制御則に従い制御 出力を求め,対となるヒータが表面を局所的に加熱するフィード バック制御を行った.本研究で対象とする HZ 液柱に制御を行っ た研究には,Petrov ら(9), (10)の例がある.彼ら(9), (10)は,温度センサ により取得した局所的な表面温度を制御入力として,非線形制御 則に従い制御出力を計算し,熱電素子により表面を局所的に加熱 および冷却するフィードバック制御を行っている.これらは振動 流遷移後(ε < 0.1)の非線形性の弱い領域にとどまっていた. 一方,著者らは Shiomi ら(7), (8)と同様の制御手法を用いて,比較 的強い非線形性を有する対流場 (ε < 0.4)での振動流の完全な抑制 に成功した(11).しかしさらに高 ε 状態では,制御中に異なる周方 向波数を有するモード構造が励起され,制御効果が低下すること がわかった.これを克服するために,従来対象としていた非制御 時に支配的なモード構造だけでなく,制御により励起される新た なモード構造にも対応できる複数モード制御を構築した(12).この 制御法を適用した結果,単一モード制御に比べて,高い抑制効果 を得ることができた.また,単一モード制御では励起するモード 構造を,複数モード制御では抑制できることを示した.しかし, 考慮できなかった高次のモードの出現によって,完全な抑制は達 成できなかった.センサと制御用ヒータを増やすことで,この問 題を解決できると予想されるが,液柱のサイズによる空間の制限 があるため,その実現は難しい. そこで本研究では,モードに依存しない制御手法の構築を目的 とし, 従来の局所加熱ではなく周方向に一周加熱することとした. これに関して本報では,制御下の表面温度の挙動,および対流場 の変化を調べることを目的とする.特に抑制性能,モード構造の 変化に注目する. 1.緒言 微小重力環境下において,自由表面を有する液体では,表面上 に温度差または濃度差が存在する場合,表面張力差を駆動力とす るマランゴニ対流が顕在化する.特に温度差により表面張力差が 生じるものを温度差マランゴニ対流と呼ぶ.材料科学分野におい て,半導体単結晶育成法の一つ,フローティングゾーン法(Floating Zone 法,以下 FZ 法)の研究が行われている.この凝固過程にお いて,融液柱の気液界面に生ずる三次元非定常マランゴニ対流が 原因となり,そのため均質な単結晶を精製できないことが知られ ている(1).マランゴニ対流の様々な遷移条件や流れの構造につい て調査し,最終的には対流の制御手法の確立が求められる. FZ 法に関する基礎研究として,FZ の半分の領域を模擬したハ ーフゾーン法(Half-zone 法,以下 HZ 法)が広く用いられている. HZ 法は,液柱の一方の端面を高温に保ち,他方を低温に保つこ とで,液柱内にマランゴニ対流を生起させる方法である.液柱に 付加した温度勾配を増大させ,ある臨界点を越えると,その対流 場は二次元定常流から三次元非定常振動流へ遷移する(2), (3).マラ ンゴニ対流の強さを表わす無次元数であるマランゴニ数を以下の ように定義する. Ma = σT ∆T ⋅ H σT ∆T ⋅ H ν = ⋅ = Reσ iPr ρνκ ρν 2 κ (1) ここでσT:表面張力温度係数,∆T:液柱端面間温度差,ρ:密度, ν:動粘性係数, κ:温度拡散係数,Reσ:温度差マランゴニレイ ノルズ数,Pr:プラントル数である.二次元定常流から三次元非 定常振動流へ遷移する時のマランゴニ数を臨界マランゴニ数Macr と呼び,過臨界状態を表わすパラメータを次のように定義する. ε= Ma − Ma cr Ma cr (2) 三次元振動流においては,液柱の縦横比(アスペクト比)に応じ て,周方向に波数を有する様々な対流構造が観察される.これを モード構造と呼ぶ(3), (4).高 Pr 流体を用いた実験では,対流場と温 度場の振動は強くカップリングしており,振動流への遷移と同時 に,液柱温度にも振動が生じる(5). 2.実験 1 日本流体力学会年会 2005 AM05-10-008 れる程度に挿入し,ヒータは,液柱表面から約 0.5 mm 離して, 上下ロッドに対して同心位置に配置し,幾つかの高さを変えてそ の影響を調べた.モードの周方向温度分布を考慮し,図 1 のよう に二本のセンサを配置した.温度振動の周方向波数は対流構造の 持つ周方向波数と同一であり,モード 2 では π / 2 rad の整数倍で 温度振動が 0 となる.本研究では,二つの制御用ヒータの間隔を π / 4 rad 離して配置した. 2.1 実験装置 本研究における実験装置(液柱形成部,制御入出力部,可視化 部)を図 1 に示す。試験流体として,動粘度が 2 および 5 cSt の シリコーンオイル(信越化学工業(株)製 KF-96L-2 cSt (Pr=28) 及び KF-96L-5cSt (Pr = 68) (at 25 ℃) )を用いた.同一直径 5 mm を有する上下ロッドの間に液柱形成する.液柱の体積は,上下ロ ッド直径と液柱高さにより決まる真円柱とほぼ同様にした.液柱 の高さH と液柱半径R の比で決定されるアスペクト比Γ = H/ R は 1.0 で一定とした.このアスペクト比では,液柱内振動流は周方向 波数 n が 2 のモード構造(以下,モード2と呼ぶ)を呈する(3), (4). 上部ロッドに熱伝導率の高く透明な人工サファイアを用い,その 周りにヒータを巻きつけて加熱ロッドとした.これにより上部端 面からの観察を可能にした.下部ロッドにアルミニウムを用い冷 却ロッドとした.上下ロッドに取り付けた熱電対により付加した 温度差を測定しつつ,ロッド間に温度差を与えてマランゴニ対流 を発生させた.本実験は室温環境下(およそ 20 ℃)で行なった. Top Rod 2.2 制御手法 全周加熱制御では,これまでのフィードバック方式(11)(12)ではな く,一定の制御出力(熱量)を与えることとした点が,本研究の 特色である. Q (φ , t ) = Const . ここでφ は周方向の位置 (rad),t は時間 (s)である.また,制御効 果の比較のために,局所加熱制御(11)も用いて実験した.文献(11) と同様に,センサ 1 −ヒータ 1,センサ 2−ヒータ 2 という二つ のセンサ・ヒータ対を構成した.各センサ−ヒータは周方向にπ / センサ 1−センサ 2 はπ / 4 rad 離して配置した. 2 rad 離して配置し, 加熱方式は非反転出力とした. CCD Camera Heater 2.3 制御対象 はじめに,制御対象とする対流場について説明する.本実験で 臨界マランゴニ数 Macr ≈ 2.6 はアスペクト比 Γ=1.0の液柱において, × 104(常温環境下 20 ℃)で三次元非定常流へと遷移する(11)(12). 過臨界パラメータが 0 < ε < 0.4 の条件では脈動振動流が,さらに ε ≥ 0.4 の条件では回転振動流が観察される(13).上部ロッド端面側 から見て液柱中心にある,トレーサ粒子の入り込まない領域(粒 子不在領域)が,モード 1 では偏心した円形,モード 2 は楕円形, n ≥ 3 のモードは n 角形を呈する.図 3 に本研究で対象とする, モード 2 の振動流(ε ≈ 0.4,回転振動流)の可視化画像を示す. 図 3 は回転振動流が時計回りに回転する様子を示す.粒子不在領 域を観察することで,対流場の変化がよくわかるので,これに注 目する. (For the top rod) Ring Heater (For the control) Sensor 1 Sensor 2 (3) Liquid Bridge Bottom Rod Fig. 1 Experimental apparatus 対流場の可視化を行なうために,密度が試験流体に近い微粒子(ポリ スチレン粒子,公称直径17 µm)を用いてCCD カメラにより観測を行な った.例としてε < 0 状態下の液柱を,上端面及び側方から観察した写真 を図2 に示す.連続光光源により液柱全体を照明するため,得られる画 像はそれぞれ高さ方向および半径方向すべての領域を可視化したものに なる. 0s 0.25 s 0.5 s Fig. 3 Time series of snapshots of n = 2 traveling wave type flow captured from the top (ε ≈ 0.4) 3.実験結果 3.1.全周加熱制御 これまで行ってきた局所加熱制御(11)(12)では,ε > 0.4 では振動流 を二次元定常流へと抑制することはできなかったが,全周加熱制 御ではこれを実現することができた. まず全周加熱制御下での対流場の変化を図 4 に示す.図 4 (a)は 非制御時の対流場を示し,図 4 (b)は制御開始直後,図 4 (c)は制御 開始後充分時間を経た対流場を示す.このε では,非制御時に回 転振動流が現れる(図 4 (a)).粒子不在領域は,制御開始後すぐに 周方向の振動が治まり,楕円形から円形に変化するのが見られる( 図 4 (b)).これは回転振動流が二次元定常流に抑制されたことを示 す.その後,粒子不在領域は半径方向に広がり,十分時間が経つ Fig. 2 Steady flow state at ε < 0 (left: top view, right: side view) 表面温度計測には定電流型冷線温度計を用いた.サンプリング 周波数 50 Hz で自由表面温度を取得した.センサは対流場に影響 を及ぼさないよう,微細な白金線(受感部線径 2.5 µm,長さ約 300 µm)のプローブを用いた.先端形状は曲率を持たせ,受感部のみ を挿入し, センサ挿入によるメニスカスを極力抑える構造とした. 制御用ヒータは, 線径 200 µm のニクロム線を直径 6 mm のリング 状に加工し作成した.センサは液柱高さ 0.25 H において液柱に触 2 日本流体力学会年会 2005 AM05-10-008 とこの大きさは一定となる(図 4 (c)).これは制御によって,周方 向速度が抑制されるだけでなく,表面の軸方向の流速も,抑制さ れたことを示す.後に対流が抑制されるメカニズムを考察する. Control on (a) uncontrolled (b) at the start of control (c) after time elapsed Fig.4 Variation of flow structure under the control (Q = 0.35W, ε ≈ 0.8) 続いて,制御下における液柱自由表面の局所的な温度の時系列 データを図 5 に示す.ここでθ は無次元化した表面温度変動の計 測値 θ (φ ,t)=T ’ / ∆T である.T ’ は液柱高さ 1 / 4 H における,あ る位置の表面温度に対して,非制御時の時間平均値を差し引いた ものである. 図中では 5 s で制御を開始した. 制御開始前は約 1 Hz の振動が見られ,開始後は温度の平均値が上昇するとともに振動 が減衰するのがわかる.充分時間が経つと振動は消滅する.π / 4 rad 離れたもう一つのセンサでも同様な結果が得られており,温 度振動の抑制も液柱自由表面の全域に及ぶことがわかる. Fig.6 Time history of Fourier components of local surface temperature oscillation under control (Q = 0.35W, ε ≈ 0.8) 振幅を示す. ε ≈ 1.9 までの結果を示したが, これ以上の高 ε 環境下では, 表面張力による液柱の保持が容易でなく,実験が困難となるためである. さて,いずれの ε の結果も同様の傾向を示すが,加熱量 Q を0 W から 増加させるにつれて抑制効果が向上し(すなわち γ が小さくなる),そ の後,抑制効果が最大 ( γ ≈ 0 )となる.この時,対流の可視化によって, 振動流は二次元定常流に制御されるのが観察される.加熱量Q をさらに 増大させると,抑制効果が減少することがわかる.この時対流の可視化 によって,モード1の回転振動流が励起されるのが観察される.これら の傾向は,局所加熱制御と良く似ているが,励起されたモード1の振動 形態が異なる.また,振動流を完全に抑制するのに必要な加熱量を見る と,およそ100 ∼500 mW であり,これは局所加熱制御で振動流を抑制 するのに必要な加熱量の10 倍以上である. 0.08 0.06 0.04 θ 0.02 0 ε=0.1 ε=1.0 ε=1.9 0.8 5 10 15 20 Time[s] 25 30 γ -0.04 0 1 Control on -0.02 Fig.5 Time series of local temperature signal θ without / with the control (Q = 0.35W, ε ≈ 0.8) 0.6 0.4 0.2 この時の温度振動の変化を短時間フーリエ解析によって調べる.図 6 は,温度振動の周波数変化の時系列を示している.図では赤色から青色 に変化するにつれて,波の強度が小さくなる.制御開始前は,基本波約 1 Hz と複数の高調波が観察される.制御開始直後から,多少の周波数の 上昇を伴いながら,次数の大きい高調波から消滅してゆくのがわかる. これまでの研究において,非制御時でのモード2 の振動流の周波数を調 べられており,脈動振動流は回転振動流に比べて,周波数が高いことが わかっている(14).よって,図は回転振動流が二次元定常流へ直接変化し たのではなく,脈動振動流を経て徐々に変化したことを示している. 次に全周加熱制御において,ヒータの位置を液柱高さ1 / 2H に定めて 実験を行い,加熱量Q と抑制効果γ の関係を調べた.図7 に全周加熱制 御における加熱量と抑制効果を示す.抑制効果を評価するパラメータで ある抑制比を以下のように定義する. γ= θcontrolled θuncontrolled 0 0 0.5 Q[W] 1 Fig. 7 Control performance γ with respect to heater output Q at different ε 次に局所加熱制御と全周加熱制御において,ε とγ の関係を調べたもの を図8 に示す.全周加熱制御に関しては,Pr の異なるシリコーンオイル を用いた結果も示す.図8 から,局所加熱制御に比べて,全周加熱制御 は非常に高いε まで振動流を完全に抑制できるのがわかる.以上から全 周加熱制御は,非常に高いε まで振動流を抑制できるが,大きな加熱量 を必要とし,一方,局所加熱制御は,低いε での抑制に限られるが,少 ない加熱量で済み,効率が良い制御法と言える. (4) 3.2 加熱位置と制御効果 次に両制御法においてヒータの高さ位置を変えて,制御効果を比較し ここでθ uncontrolled は非制御時の温度振幅を示し,θ controlled は制御下での温度 3 0.6 Local heating(Pr=68) Round heating(Pr=28) Round heating(Pr=68) 0.5 γ 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 0.5 1 ε 1.5 2 Fig.8 Control performance γ over a range of ε た.上から見て,上部ロッド近傍7 / 8 H(丸),液柱高さ1 / 2 H(三角), 下部ロッド近傍1 / 8 H(四角)の3 箇所で試した.図9 は全周加熱制御 の結果を示し,図 10 は局所加熱制御の結果を示す. まず全周加熱制御 において上部ロッド近傍で制御を行った場合,振動を抑制することがで きなかった.対流の可視化によって,制御下で脈動振動流が回転振動流 に変化するなど,対流が不安定になるのが確認された.続いて液柱高さ 1.5 Top Middle Bottom γ 1 0.5 0 0 0.2 0.4 0.6 Q[W] 0.8 1 Fig.9 Control performance γ with respect to heater output Q at different heights in the round heating case (ε ≈ 0.8) 日本流体力学会年会 2005 AM05-10-008 1 / 2 H で制御を行った場合には,振動流を二次元定常流に抑制すること ができた.さらに加熱量を増大させると,Q > 0.6W にて抑制効果が低下 するのがわかるが,これはモード1 を励起し増幅したためである.最後 に下部ロッド近傍で制御を行った場合,液柱高さ1 / 2 H での制御に比べ て大きな加熱量を必要とするが,振動流を二次元定常流へと抑制するこ とができた.この場合,モード1 の励起は起こりにくかった. 続いて局所加熱制御の場合,上部ロッド近傍で制御を行った場合,振 動流を抑制することができなかった.対流の可視化によって,制御下で は全周加熱制御と同様に,対流が不安定になるのが確認された.続いて 液柱高さ1 / 2 H で制御を行った場合には, 振動を非制御時の約 20 %まで 抑制することができた.対流の可視化によって,回転振動流が強度の弱 い脈動振動へと抑制されるのが確認できた.最後に下部ロッド近傍で制 御を行った場合,上部ロッド近傍での制御と同様に,振動流を抑制でき なかった.可視化観察においては,対流の変化は見られなかった。これ らの結果は全周加熱制御と良く似ており,振動流の抑制に関して共通の メカニズムが存在するものと考えられる. 3.3 振動流抑制のメカニズム 液柱高さ1 / 2 H で全周加熱制御を行い,非制御時の対流場と,完全な 抑制が達成された場合の対流場を図11 と図12 に示す.液柱の中心軸を 通り,軸に平行な断面 (液柱側面) を可視化するために,スリット光を照 射した.はじめに可視化写真の説明を行う.細い点線で囲まれた領域は 液柱を示し,点線の楕円は,渦中心のある領域を示している.次に太線 の矢印は,自由表面での軸方向下向きの流れが,下部ロッドに当たるこ とで生まれる流れ(リターンフロー)を示し,矢印に挟まれた領域が, 粒子不在領域である.まず非制御時の対流場を観察すると,図示したよ うに左右の自由表面付近に渦が1 つ見られる.左右で渦の高さが異なる のは,これらの渦が互い違いに軸方向に振動するためである.また,自 由表面での軸方向下向きの流れが強いので,リターンフローは液柱中心 軸付近に到達し,粒子不在領域の幅は狭い. 一方,完全な抑制が達成された際には,リターンフローが弱まり,そ の範囲は液柱中心軸付近に及ばなくなるのがわかる.これは液柱高さ1 / 2 H を加熱することで,軸方向の温度こう配が広範囲に緩やかになり, その結果,軸方向下向きの流れが弱まったと考えられる.自由表面での 軸方向流速を減少させることは,Ma を相対的に低めたことになるので, 振動流が抑制されたと考えられる.また,自由表面近くの流跡線を見る と,液柱高さ1 / 2 H を挟んで上下2 つの定常渦が確認できる.これは, ヒータにより加熱された表面が,その高さで相対的に温かくなることで, マランゴニ効果により半径方向自由表面向きの流速が生じ,下側の渦が 形成されたと考えられる. 1.5 Vortex center γ 1 Top Middle Bottom 0.5 Ring heater 0 0 0.01 0.02 0.03 Q[W] 0.04 0.05 Fig.10 Control performance γ with respect to heater output Q at different heights in the local heating case (ε ≈ 0.8) 4 Fig.11 Flow field illuminated by a sheet light without the control (Q = 0W, 1 / 2 H, ε ≈ 0.8) 日本流体力学会年会 2005 AM05-10-008 が異なるのがわかる. Vortex center 0s 0.35s 0.7s Fig.14 Flow visualization of controlled mode1 (Q = 0.7W, ε ≈ 0.8) Ring heater 次に,全周加熱制御により励起されたモード1 の対流構造を液柱側面 から観察する.図15 を見ると,図12 で示した軸方向に2 つの渦の存在 を確認でき,これらの渦が同調して軸方向に振動する,複雑な構造を有 するのがわかった.続いて,両制御で励起されたモード1 の ε に対する 周波数の変化を調べる(図 16). まず全周加熱制御で励起されたモー ド1(回転振動流)について見ると,低 ε では約0.6 Hz で,これ以降 ε の増加とともに緩やかに周波数が増加する.この値は,局所加熱制御で 励起されたモード 1(脈動振動流)よりも低い.これは非制御時のモー ド2 における,脈動振動流と回転振動流の周波数の関係(11)と同じである. Fig.12 Flow field with the control using the ring heater located at middle (Q = 0.3W, 1 / 2 H, ε ≈ 0.8) 続いて上部ロッド付近で制御を行った場合,可視化観測によって,表 面の軸方向流速の増加が確認された.これは上部ロッド付近の表面温度 が制御前に比べて高くなることで,軸方向の温度こう配がより大きくな り,表面における軸方向の流速が増加するためと考えられる. これは相 対的に Ma を高めることに相当するから,振動流の抑制ができなかった と考えられる. 最後に下部ロッド付近で制御を行った場合,可視化観測によって,表 面の軸方向流速の減少が確認された. これは, 図13 でリターンフローが, 中心付近に及ばないことからも判断できる.軸方向流速の減少は,下部 ロッド付近の表面温度が制御前に比べて高くなることで,軸方向の温度 こう配が小さくなったためと考えられる.これは相対的に Ma を低める ことに相当するから,振動流の抑制ができると考えられる. これらより,全周方向加熱制御は,液柱表面の軸方向の温度こう配を 変えることで対流を制御する手法と捉えられる. 一方, 局所加熱制御は, 出力する加熱量は微少で,温度振動を直接打ち消す手法であるが,軸方 向の温度こう配にも影響を与えているものと考えられる. Vortex center Ring heater Vortex center Fig.15 Flow field with the control using the ring heater located at middle (Q = 0.7W, 1 / 2 H, ε ≈ 0.8) 1.6 Mode2 uncontrolled Mode1 excited by the local heating Mode1 excited by the round heating Frequency[Hz] 1.4 Ring heater Fig.13 Flow field with the control using the ring heater located at bottom (Q = 0.7W, 1 / 8 H, ε ≈ 0.8) 1.2 1 0.8 0.6 3.4 モード1の励起について これまでに,全周加熱制御においても,過大な熱量を加えることで, 制御前に支配的なモード2 とは異なるモード1 が励起されることがわか った.図14 に全周加熱制御で励起されたモード1 について,液柱上面か ら撮影した時系列写真を示す.図14 はモード1 を呈する粒子不在領域が 反時計回りに回転する様子を示している.この回転方向は定まっておら ず,回転方向が入れ替わることがある.局所加熱制御の場合は,励起さ れたモード1 は必ず脈動振動流を呈するので,両制御法では振動の形態 0 0.5 1 ε 1.5 Fig.16 The critical frequencies with respect to a range of ε 次に,各ε において,振動流を二次元定常流へと抑制するために必要な加 熱量とモード1を励起するのに必要な加熱量をプロットしたものを図17 5 日本流体力学会年会 2005 AM05-10-008 に示す.両者とも ε の増加に対して緩やかに増加することがわかる.ま た両者のε に対する増分を見ると,ほぼ同じであることがわかる. 1 Q[W] 0.8 Mode2 suppressed Mode1 excited 0.6 0.4 0.2 0 0 0.5 1 ε 1.5 2 Fig.17 Control heater output to suppress mode2 oscillation and to excite mode1 oscillation over a range of ε 4. 結言 HZ 液柱内マランゴニ対流における非線形対流場に対し,全周 加熱制御を適用した.その結果,広範囲のマランゴニ数領域で, 極めて高い抑制効果を得ることができた.また,局所加熱制御と の比較を行い,制御に対する対流場の応答に関して,同様の傾向 が見られた.さらに,制御下の対流場を可視化観察することで, 振動流が抑制されるメカニズムを考察した. 5. 文献 (1) Eyer, A., Leiste, H., and Nitsche, R., J. Crystal Growth., 71, (1985), 173-182 (2) Preisser, F., Schwabe, D. and Scharmann, A., J. Fluid Mech., 126, (1983), 545 567 (3)河村洋,小野嘉久,上野一郎, 機論(B),67−658,(2001),1466-1473 (4) Velten, R., Schwabe, D. and Scharmann, A., Phys. Fluids A3, (1991), 267-279. (5) Wanschura, M., Shevtsova, V. M., Kuhlmann, H. C. and Rath, H. J., Phys. Fluids, 7, (1995), 912-925 (6) Benz, S., Hintz, P., Riley, R. J. and Neitzel, G. P., J. Fluid Mech., 359, (1998), 165- 180 (7) Shiomi, J., Amberg, G. and Alfredsson, H., Phys. Rev E., 64, (2001), 031205-1 (8) Shiomi, J. and Amberg, G., Phys. Fluids, 14, (2002), 3039 - 3045 (9) Petrov, V., Schatz, M. F., Muehlner, K. A., Vanhook, S. J., McComick, W. D., Swift, J. B. and Swinney, H. L., Phys. Rev Lett.,77, (1996), 3779 - 3782 (10) Petrov, V., Muehlner, K. A., Vanhook, S. J. and Swinney, H. L., Phys. Rev E., 58, (1998), 427- 433 (11) Shiomi, J., Kudo, M., Ueno, I., Kawamura, H. and Amberg, G., J. Fluid Mech., 496, (2003), 193-211 (12) 工藤正樹,塩見淳一郎,上野一郎, Gustav Amberg, 河村洋,機論(B), 71−706, (2005), 1617-1624 (13) Ueno, I., Tanaka, S. and Kawamura, H., Phys. Fluids, 15, (2003), 408- 416 (14) Leypoldt, J. and Kuhlmann, H. C. and Rath, H. J., J. Fluid Mech., 414, (2000), 285 - 314 a 6
© Copyright 2024 ExpyDoc