新しい地域インフラ - Nomura Research Institute

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新しい地域インフラ「コミュニティイントラネット」
高野裕康
地域コミュニティにおける情報ネットワークのあり方とその可能性を探るために、
NRI 野村総合研究所は横浜市泉区にある新興ベッドタウンの緑園都市で、住民と共に
コミュニティイントラネット「緑えんネット」を構築し、1998年8月から2000年3月
にわたって社会実験を行ってきた。その結果、行政にも企業にも解決することが困難
であるさまざまな問題に、解決の糸口を見出すことができた。
■社会実験の目的と内容
のぼった。なお、実験終了後の
■種々の活性化策を実施
この社会実験は、コミュニティ
2000年4月以降は地元の住民団体
この社会実験を進めるなか、シ
イントラネットが住民の生活やコ
が運営母体となり、維持・運用を
ステム構築以外の場面でさまざま
ミュニケーションに与える影響を
継続している。
な困難が発生したが、以下のよう
探り、新しい地域インフラのあり
方を探ることを主な目的としてい
た。このため、「緑えんネット」
では、地域専用のサーバーを設置
な対応で解決を図った。
■標準的なハード、ソフトで
システムを構築
システムの構築に当たっては、
①当初は会員集めが大変だっ
た。そこで、各種のイベント
を実施し、さらに地元の小中
し、地域住民がネットワークを利
実験終了後も地域住民による維
学校と連携して、会員を増や
用して横のコミュニケーションを
持・運用が容易に行えるように、
した。
図れるようにした。
運用コストが安く、しかも特別な
②インターネット接続の経験者
住民向けサービスとしては、住
技術がなくても保守できる標準的
が少なく、説明などの負荷が
民の自己紹介、電子掲示板、地域
なハードウェア、ソフトウェアを
大きかった。そこで、住民ボ
情報、個人・団体のページなどの
選定した。
ランティアにお願いし、負荷
情報サービスに加え、電子メール
すなわち、サーバーは「ウィン
サービスも用意した。また1999年
ドウズNT」とフリーウェアを中
③「緑えんネット」を活性化さ
4月には、地元小中学校との接続
心にパソコンで構築し、通信環境
せるために、さまざまな工夫
も実現した(図1)。
としては通常のインターネットへ
を図った。学校との接続、メ
最終的な参加者数は、対象地域
の接続環境を採用した。また、ID
ーリングリストの設定による
の約4000世帯の10%強に当たる
とパスワードによるセキュリティ
定期的な情報発信、ホームペ
430世帯で、会員数は約1000人に
対策も採用した。
ージ上でのイベントの開催な
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知的資産創造/2000年9月号
を分散した。
あいネット協議会」)によって行
図1 コミュニティイントラネットの利用イメージ
われた。これにより、学校内外で
の活発なコミュニケーションが初
住民宅
商店
めて実現できた。
このような、異なる社会組織が
小中学校
それぞれ自ら管理するネットワー
クシステム(イントラネット)を
確立し、それらを相互に橋渡しす
住民宅
住民宅
る仕組みによって行政と地域の交
流を促す方法は、社会問題解決の
住民参加研究会
地域専用
サーバー
1つのモデルとして注目されるの
ではないだろうか。
遠隔地
(勤め先など)
(3)実生活との結びつき
どによって、「緑えんネット」
を行える関係をつくることができ
地域によって隣人とのコミュニ
への関心を引きつけた。
た。また、趣味や特技などの個人
ケーションの度合いは異なるが、
④実験終了後の運営主体を明確
情報を追加的に開示して、より深
昨今では一般的に付き合いが少な
にする必要があった。このた
いコミュニケーションへと進む住
くなる傾向にあるのは事実であ
め、早期から研究会を設置し、
民も現れた。このように、地域住
る。
地元への移管についても検討
民同士がコミュニケーションを継
今回の社会実験で、実生活にお
した。
続することで、高度な問題が解決
ける新しい出会いの創造や、地域
可能な地域コミュニティに成長し
への関心の高まり、地域と教育の
ていく可能性が感じられた。
つながりの緊密化などが実現でき
■地域コミュニティでの活発な
コミュニケーションを実現
(1)心を許すコミュニケーショ
ンへのランクアップ
たことは間違いない。この実験結
(2)行政と地域コミュニティの
協働
めに活かしていきたい。
地域コミュニティでの問題解決
小中学校との接続は、学校と地
にとって最も重要なことは、住民
域住民が、それぞれ参加者の管理
相互の良好なコミュニケーション
に責任を持って個別のコミュニケ
環境を醸成することである。
ーションシステムを構築したうえ
「緑えんネット」では、地域住民
で、双方を橋渡しする仕組み(教
の約10%が ID、パスワードを持
育委員会と住民による共同の交流
ち、お互いにコミュニケーション
管理組織「緑園都市スクールふれ
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果を地域コミュニティの向上のた
『システム・マンスリー』
2000年9月号より転載
高野裕康(たかのひろやす)
社会システムコンサルティング一部 IT
グループ・グループマネージャー
新しい地域インフラ「コミュニティイントラネット」
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