研究室 > 准主任研究員研究室 > 中 川 RNA 生物学研究室 分子生物学/細胞生物学/発生生物学 准主任研究員研究室 准主任研究員研究室 進化的に「新しい」mRNA 型ノンコーディング RNAたち 我々は神経細胞の特定の細胞タイプで発 現する遺伝子をスクリーニングする過程で、 転写産物が細胞核に局在するという非常に RNA Biology Laboratory ユニークな性質を示す mRNA 型のノンコー 中川RNA生物学研究室 ディング RNA 遺伝子を同定し、その特異的 なドット状の(胡麻斑状の =Gomafu)細胞 内局在にちなんで Gomafu と名付けた。通 常、タンパク質をコードする mRNA は、5’ 末端のキャップ構造の付加やイントロン配列 の除去などの転写後プロセシング反応が引き 金となって、速やかに細胞質へと輸送される ことが知られている。ところが Gomafu の キーワード ノンコーディング RNA、細胞核、核内コンパートメント、核スペックル、パラスペッ クル、エピジェネティクス、レトロトランスポゾン、進化、スプライシング 研 究ユニット 研 究ユニット [email protected] 転写産物は、それら mRNA と同様のプロセ シングを受けるにもかかわらず、成熟転写産 古典的なセントラルドグマの考え方によれば、ゲノム DNA に刻まれた遺 伝情報を最終的に遂行するのは機能分子であるタンパク質であり、RNA は 准主任研究員 中川 真一 博士 (理学) Shinichi Nakagawa (Ph.D.) 単なる情報の仲介役であると考えられてきた。ところが近年になってタンパ ク質に翻訳されない「ノンコーディング RNA」が高等真核生物のゲノムから 物が核内に繋留され、不溶性の構造物を形成 していた。核内には特定の機能を持ったタン パク質が集積した核内ドメインが存在するこ とが知られているが、Gomafu の局在は核 大量に転写されていること、それらが様々なレベルで遺伝子発現を調節する 略歴 小体や核スペックル、パラスペックルやカ 機能分子として働いている事などが明らかにされ、ノンコーディング RNA 1998 京都大学大学院理学研究科生物物理学専攻 博士課程修了 ハール体などの既知の核内ドメインマーカー こそが生物の複雑さや多様性を生み出す原動力になっているのではないかと いう魅力的な考え方も提唱されている。当研究室では大量に存在するノン というユニークな性質を持つ一群の遺伝子に注目し、その生理的な機能を実 2000 京都大学大学院生命科学研究科 助手 2002 理化学研究所 発生再生科学総合研究センター 研究員 2005 同 独立主幹研究員 2010 同 中川 RNA 生物学研究室 准主任研究員(現職) とは重ならず、新規の核内構造体を形成して いるものと考えられた。Gomafu の発現は 図1 胎生 9.5日目マウス胚におけるGomafu の分布 神経系で特異的に発現していることが分かる。 胎生期の神経系の幅広い領域で最終分裂を終 研究領域 研究領域 コーディング RNA の中でも細胞の核内に蓄積して安定な構造体を形成する 1998 英国 ケンブリッジ大学解剖学教室 HFSP 長期奨学生 えた神経細胞で始まり、成体マウスの脳にお とにこれら「核内構造性ノンコーディング RNA」は進化の過程で最近になっ 現が持続してみられた。一方、脳以外の組織 なりつつある。これらのことから、Gomafu 構造性ノンコーディング RNA は現在のとこ て地球上に現れた高等真核生物でのみその存在が確認されており、その物理 においてはほとんど発現が見られず、神経系 は神経系が正しく機能するために必要な何ら ろ哺乳類でのみその存在が確認されており、 化学的な性質を詳細に調べることによって、進化的に「新しい」生物におけ においてもグリア細胞では全く発現が見られ かの核内プロセスを制御していると考えら 進化の過程で高等真核生物が獲得した特殊な る巧妙な核内制御機構が明らかにされることが期待される。 なかった。さらに詳細に Gomafu の生理機 れる。Gomafu の他にも核内で安定な構造 核内プロセスを制御しているものと思われ 能を明らかにするために、我々は Gomafu 体を形成する mRNA 型のノンコーディング る。 を欠失するノックアウトマウスを作製し、そ RNA と し て Malat1、MEN ε / β な ど が 知 の表現型の解析を進めている。その結果、 られているが、当研究室ではこれらの遺伝子 Gomafu ノックアウトマウスの外見は正常 に関してもノックアウトマウスを作製し、そ なものの、行動異常を示すことが明らかと の表現型の解析を進めている。これらの核内 部門 いても一部の神経細胞において非常に強い発 部門 験生物学的な手法を用いて解明することを目指している。また、興味深いこ 主要論文 1. S. Nakagawa, T. Naganuma, G. Shioi, T. Hirose, Paraspeckles are subpopulation-specific nuclear bodies that are not essential in mice, J. Cell Biol. 2011, 93, 31. 2. S. Nakagawa, KV. Prasanth, eXIST with matrix-associated proteins, Trends Cell Biol. 2011, 21, 321. 3. H. Tsuiji, et al. Competition between a noncoding exon and introns: Gomafu contains tandem UACUAAC repeats and associates with splicing factor-1, Genes Cells 2011, 16, 479. 4. Y. Hasegawa, et al. The matrix protein hnRNP U is required for chromosomal localization 最 先 端 研 究 開 発 支 援 プロ グ ラム 最 先 端 研 究 開 発 支 援 プロ グ ラム of Xist RNA, Dev. Cell 2010, 19, 469. 5. M. Sone, et al. The mRNA-like noncoding RNA Gomafu constitutes a novel nuclear domain in a subset of neurons, J. Cell Sci. 2007, 120, 2498. 主要メンバー P 石田 賢太郎、石塚 明、ユエン ヤン・ジョアンナ・イプ、長谷川 優子 T 屋中 香織 O 梨木 千絵子 五十音順。2012 年 1月1日現在 図2 3 種類の核内高分子 mRNA 型ノンコーディングRNA の分布を蛍光 in situ hybridization で可視化したもの 緑が RNAの分布で紫が DAPIによる核染色。左から成体マウス大脳皮質の錐体ニューロンにおけるGomafuの発現、マウス繊維芽細胞におけるMalat1および MENの分布。Malat1およ び MENε/βはそれぞれ核スペックル、パラスペックルと呼ばれる核内ドメインに局在している。 R スタッフ研究員 074 独立行政法人理化学研究所 基幹研究所 2011-2012 P ポスドク J 学生・研究生 T テクニカルスタッフ O アシスタント、客員、その他 分 野を越え 組 織を越え 国を越えて 075
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