工業力学 (B コース) 期末テスト 茨城大学 工学部 知能システム工学科 解説・解答例 井上 康介 2013/02/07 17:35∼19:05 実施 1. • 大きさを持ち,変形しない物体を ( 1:剛体 ) とい mv で表されるベクトル量を ( 10:運動量 ) と う.(1:剛体) は大きさを持つため,並進運動だ いい,この量は物体の並進運動の勢いを表す.一 けでなく回転運動も行いうる.(1:剛体) に並進 方,(1:剛体) の (6:慣性モーメント) を I ,角速 運動を起こさせる作用を力といい,回転運動を起 度を ω とするとき,(1:剛体) の回転運動の勢い こさせる作用を ( 2:力のモーメント (トルク) ) は ( 11:Iω ) の式で表され,この量を ( 12:角 という. 運動量 ) と呼ぶ. • xy 平面上の原点に回転軸を持つ (1:剛体) が • 物体が時刻 t において受けている力を f (t) とす あり,この物体上の複数の点において複数の力 るとき,時刻 0 から t までの間の (10:運動量) が作用しているとする.i 番目の力ベクトルを の変化量は積分を用いて ( 13: f dt ) の式で表 (Fxi , Fyi )T ,その着力点を (xi , yi )T ,そのとする され,この量を ( 14:力積 ) と呼ぶ.一方,(1: とき,この物体が回転に関して加速しない条件を 剛体) が時刻 t において受けている回転軸まわり 式にすると ( 3: の (2:力のモーメント) を N (t) とするとき,時 (Fyi xi − Fxi yi ) = 0 ) のよう 刻 0 から t までの間の (12:角運動量) の変化量 になる. • (1:剛体) に加わる重力の合力の作用線は必ず (1: 剛体) 上の定点を通る.この点を ( 4:重心 ) とい う.xy 平面上に置かれた (1:剛体) について,そ T は ( 15: N dt ) の式で表され,この量を ( 16: 角衝撃量 (角力積,力積のモーメント) ) と呼ぶ. • 複数の物体の間で衝突などの相互作用があったと の微小部位の質量を dm,その位置を (x, y) と しても,外部からの力の作用がない場合,それら するとき,(4:重心) の座標は積分を用いて ( 5: の物体の (10:運動量) の総和は一定に保たれる. ( xdm/ dm, T ydm/ dm) ) のように計算 される. この性質を ( 17:運動量保存の法則 (運動量保存 則) ) という.一方,外部からの (2:力のモーメ • 物体の並進運動は,Newton の運動方程式 f = ント) の作用がないとき着目する系の中に存在す ma (ただし f は物体が受ける力の合力,m は物 る物体の (12:角運動量) の総和が一定に保たれ 体の質量,a は物体の (4:重心) の加速度ベクト るという性質は ( 18:角運動量保存の法則 (角運 ル) により記述される.すなわち,質量 m は物体 動量保存則) ) と呼ばれる. の並進運動のさせにくさ,つまり並進運動に関す • 一直線上を並進運動する 2 つの物体が衝突した る慣性である.一方,(1:剛体) の回転運動のさ とき,衝突前の接近速度に対する衝突後の離脱速 せにくさは ( 6:慣性モーメント ) と呼ばれ,(1: 度の割合を ( 19:反発係数 (はね返りの係数) ) と 剛体) 上の微小部位の質量を dm,着目している いう.(19:反発係数) を e で表すとき,e = 1 の 回転軸から微小部位までの距離を r とするとき, 衝突現象は ( 20:完全弾性衝突 ) と呼ばれる. 2 ( 7: r dm ) のように計算される.(1:剛体) • 物体が F の大きさの力を受け,力の方向に距離 s の (6:慣性モーメント) を I ,受けている (2:力 だけ移動したとき,F s で示される量を ( 21:仕 のモーメント) を N ,角加速度を ω˙ とするとき, 事 ) と呼ぶ.高いところに置かれたものや速く動 (1:剛体) の回転運動は ( 8:N = I ω˙ ) の式で記 いているものは潜在的に一定の (21:仕事) をな 述される.この式を ( 9:角運動方程式 (Euler の すことができるが,この量は ( 22:エネルギー ) 運動方程式) ) という. と呼ばれる. • 物体の質量を m,速度ベクトルを v とするとき, • 質量 m,高さ h にある物体は,重力加速度を g 考え方 最初の物体 1 の加速においては,摩擦力が 0 とするとき,( 23:mgh ) の式で示される量の なので受けた力積がそのまま運動量の増加となる.そ (22:エネルギー) を持つ.また,バネ定数 k のバ の運動量は衝突までの間変化しない. ネが自然長から距離 x 変形しているとき,( 24: 衝突については向心衝突の議論がそのまま利用できる 2 kt /2 ) の式で表される量の (22:エネルギー) を が,ここでは衝突前の物体 2,衝突後の物体 1 が静止 持つ.これらを総称して ( 25:位置エネルギー ) 状態であるため,運動量保存則の式は非常にシンプル と呼ぶ.一方,質量 m の物体が速さ v で運動し となり,簡単に衝突後の物体 2 の速度は求まり,そこ 2 ているとき,この物体は ( 26:mv /2 ) の式で示 される (22:エネルギー) を持つ.これを ( 27: 運動エネルギー ) と呼ぶ. から反発係数はすぐに計算できる. 衝突後の物体 2 は運動と逆方向に動摩擦力を受ける が,その力は一定であるため,等加速度運動で減速す • 高いところにある物体が落下することを考える と,落下の過程で (25:位置エネルギー) が失わ る.加速度 a,初速度 v の場合,v 2 = 2as の式で停止 までの距離 s が求まる. れ,一方で速さが増加するに伴って (27:運動エ ネルギー) は増加する.この際,空気抵抗などを 解答例 無視できるとすれば,物体が持つ (25:位置エネ (1) 物体 1 と平面の間に摩擦はないため,2 [s] の間 ルギー) と (27:運動エネルギー) の和は一定に保 に受けた力積が 2 [s] 後の運動量となり,その運 たれる.この性質を ( 28:力学的エネルギー保存 動量は衝突直前まで変化しない.その際の速度を の法則 (力学的エネルギー保存則) ) と呼ぶ. 右向きに v1 [m/s] とすると, • なめらかでない平面に P の力で押し付けられて いる物体に,平面に沿った力を加えることを考え る.力を徐々に強くしていくと,あるとき物体は 平面にそって滑り始める.この際の力を F とす m1 v1 = 5 · 2 = 10 よって v1 = 10/m1 = 1 [m/s]. (2) 衝突前の物体 2 の速度および衝突後の物体 1,2 るとき,値 F/P を ( 29:静摩擦係数 ) という.ま の速度をそれぞれ右向きに v2 ,v1 ,v2 とすると, た,滑り運動を始めた物体に対して作用する,運 衝突前の物体 2, 衝突後の物体 1 は静止している 動を妨げる力のことを ( 30:動摩擦力 ) という. ため,v2 = v1 = 0 である. したがって,運動量保存則から 2. 問題 Fig.1 に示すように,水平面上に質量 m1 = 10 [kg] の物体 1 と質量 m2 = 20 [kg] の物体 2 が静止し た状態で置かれているとする.ある瞬間から 2 [s] の 間,物体 1 に図上右向きの大きさ 5 [N] の力 F をか けたところ,物体 1 は右向きに滑りだした.その後物 体 1 は物体 2 と衝突し,停止したとする.ただし,物 体 1 と床面との動摩擦係数は μ1 = 0,物体 2 と床面 との動摩擦係数は μ2 = 0.05 とする.このとき,以下 の問いに答えよ. m1 m1 v1 = m2 v2 = 10 よって v2 = 10/m2 = 0.5 [m/s].反発係数 e は 定義から,e = (v2 − v1 )/(v1 − v2 ) = 0.5. (3) 衝突後の物体 2 において,鉛直方向には運動し ていないので,物体 2 が受ける重力と地面か らの垂直抗力はつりあっている.したがって物 体 2 にかかる動摩擦力 F は左向きに μm2 g = 0.05 · 20 · 10 = 10 [N].よって物体 2 の加速度は 左向きに a = F /m2 = 0.5 [m/s2 ]. F m2 Fig.1 (1) 衝突直前の物体 1 の速度を求めよ. (2) 衝突直後の物体 2 の速度および反発係数 e を求 めよ. (3) 衝突後,物体 2 が停止するまでの距離を求めよ. 初速は (2) から v2 = 0.5 [m/s] であるから,停止 までの時間を T [s] とすると,T = v2 /a = 1 [s]. よってその間の移動距離は 1 2 aT = 0.25 [m]. 2 3. Fig.2 に示すように,天井からまっすぐに吊るされた ワイヤを質量 m = 15 [kg],半径 r = 0.5 [m] の円柱 T に巻きつけて手で支え,時刻 t = 0 [s] において手を 離したところ,円柱は回転しながら下りた. mg (1) 円柱に関する運動方程式,角運動方程式,および h ワイヤと円柱表面がすべらない条件を用いて,円 Fig.3 柱が初期位置から h = 30 [m] 下がった瞬間にお ける円柱の角速度を求めよ. (2) (1) とは別の方法でこれを求める.高さ h だけ下 りた瞬間において円柱が持っている運動エネル ギーを求め,これを用いてその瞬間の円柱の角速 である. また,ワイヤと円柱がすべらないため, a = −rω˙ (3.3) 度を求めよ. が成り立つ. 式 (3.3) から ω˙ = −a/r であり,これを式 (3.2) に代入して −T r = h 1 2 a mr · − 2 r となり,整理すると T = Fig.2 1 ma. 2 これを式 (3.1) に代入して, 考え方 (1) については中間試験前にやった Newton- a= 2 g 3 Euler 法を素直にやれば加速度が求まる.あとは等加 を得る. 速度運動の式を用いる. h [m] 下がった時点での速度を下向きに v [m/s] (2) については,力学的エネルギー保存則から,高さ とすると,等加速度運動の式から h だけ下りた時点で喪失した位置エネルギーが獲得し た運動エネルギーに等しい.ここで,運動エネルギー v 2 = 2ah = 4 gh = 400 3 は並進運動に関するものと回転運動に関するもの和に よって v = 20 [m/s].この瞬間の角速度を図上 なっていることに注意する. 反時計回りに ω [rad/s] とすると,ワイヤの拘束 から,ω = −v/r = −40 [rad/s]. 解答例 (2) h [m] 下がった時点での速度を下向きに v [m/s], (1) Fig.3 に示すように,円柱が受ける力は重心にか かる下向きの重力 mg と円柱左端にかかる上向 きのワイヤ張力 T である.よって円柱の下向き 2 の加速度を a [m/s ] とすると運動方程式は ma = mg − T (3.1) となる. 円柱が受ける重心まわりの力のモーメントはワイ 角速度を図上反時計回りに ω [rad/s] とすると き,この時点での運動エネルギー EK は EK = 1 1 mv 2 + Iω 2 2 2 であり,ここに慣性モーメント I = mr 2 /2 およ びワイヤの拘束条件 v = −rω を代入して, EK = 1 2 2 1 mr2 2 3 mr ω + · ω = mr2 ω 2 . 2 2 2 4 ヤ張力 T によるものだけである.円柱なので角 力学的エネルギー保存則から,降下の過程で喪失 運動量を I とすると I = mr 2 /2.よって,角加 した重力による位置エネルギー mgh はこの時点 速度を図上反時計回りに ω˙ [rad/s2 ] とすると,角 での運動エネルギーに等しい.よって 運動方程式は −T r = 1 2 mr ω˙ 2 mgh = (3.2) 3 2 2 mr ω . 4 これを解いて,ω 2 = 1600 より ω = −40 [rad/s]. 4. Fig.4 に示すように,傾角 θ [rad] の斜面上に置かれ た質量 m = 5 [kg] の物体に,斜面に沿った力 F を 加え続ける事により,物体を斜面上方に向けて一定ス ピード v = 72 [km/h] で動かし続けることを考える. sin θ = 0.6,cos θ = 0.8 とし,物体と斜面の間の動摩 擦係数を μ = 0.75 とするとき,力 F の大きさおよび 物体に加わる動力を求めよ. 運動の速さは 72 [km/h] = 20[m/s] なので,動力は 60 · 20 = 1200 [W]. ※ 図上では垂直抗力 P の作用線を重心に通すように 描いたが,引く力 F と摩擦力 F の作用線が一致し ないことによるモーメントを受けているので,モーメ ントの釣り合いを考えれば,実際には P の作用線は やや斜面にそって下方向にずれている.実は垂直抗力 F は底面上の圧力分布として作用していて,その合力が 中心から下方向にシフトしているということである. θ 同様に,実際には摩擦力も底面上におけるせん断力の 分布となっていて,一点に作用するものではない. Fig.4 考え方 物体が受けている力は Fig.5 に示す通りで • 採点結果は 1 週間後程度以降に E2 棟 8 階 801 号室 ある. 物体に加減速させないためには,物体にかかるこれら の力がつりあっていなければならない.すなわち,力 F の大きさは,重力の斜面にそって下方向成分である mg sin θ および摩擦力の大きさ F の和に拮抗する必 要がある. 動力は,運動の速さと力の運動方向成分の積として求 まる. 解答例 連絡事項 Fig.5 に示す通り,物体が受ける力は斜面上 方に引く力 F ,鉛直方向下向きの重力 mg ,斜面に垂 直な垂直抗力 P ,斜面にそって下向きの動摩擦力 F であり,物体は加減速しないので,これらの力はつり あっている. P F’ F mg Fig.5 斜面に垂直な方向についてのつりあい条件は mg cos θ = P . (4.4) したがって動摩擦力の大きさは F = μP = μmg sin θ. よって斜面に平行な方向についてのつりあい条件 から, F = mg sin θ + F = mg(sin θ + μ cos θ) = 50(0.6 + 0.75 · 0.8) = 60 [N]. で渡すことができるようにします. • 配点や全体的な結果等の情報は web を通じて連絡し ます. 以上
© Copyright 2024 ExpyDoc