歯科矯正学講座 当講座では、不正咬合の予防と治療に役立てることを目標に、各種の機能(力・運動)と形態 (歯牙・顎骨・頭蓋骨)との関わりについて研究しています。主な研究分野は以下の通りです。 顎顔面歯列に加わる力と組織の応答に関する研究 三次元コンピューター・シミュレーションを用いた研究 口腔機能に関連した顎運動,気道,習癖に関する研究 加齢と歯列との関連についての研究 筋電図を利用した電気生理学的研究 先天性疾患の歯科矯正治療に関する研究 咀嚼状態の違いが顎骨形態に及ぼす影響について 骨は力学的環境に合わせて形成や吸収を行い、その強度を維持するために形態の調整が行われていること が知られています。そのため、不正咬合や異常機能などによる長期の咀嚼障害は成長期の顎骨に 影響を与えると考えられます。 そこで、咀嚼状態の違いが顎骨形態に及ぼす影響について研究しています。 成長期家兎の片側の臼歯を削合し、実 験的片側咀嚼を作り出す 海綿骨領域を設定し、顎骨内部の 解析を行う CT画像を立体構築し、顎骨外部形 態の計測を行う 咀嚼状態の違いが骨梁構造に与える影 響について分析を行う 咀嚼状態の左右差が下顎骨形態および内部構造に影響を及ぼすことが示されました。 担当:小泉 儀明 歯の急速移動が歯周組織に与える影響について 本格矯正の治療期間は一般的に2~3年といわれ、特に抜歯症例の空隙閉鎖に多くの時間を費やします。 これまでにも様々な方法で歯の移動の迅速化が試みられてきましたが、近年、仮骨延長法を歯根膜に応用し た歯根膜仮骨延長法が報告されました。そこで、その安全性や効率を知るために歯根膜仮骨延長法による 歯の急速移動が歯周組織に及ぼす影響について研究しています。 成犬の下顎前臼歯に急速牽引装置を装着 して、歯の急速移動を行う 歯の移動前後のデンタル X 線写真から歯の移動 様式を観察する 口腔内で移動距離の計測を行う 組織切片を作製して急速移動後の歯周組織 の反応を観察する 歯根膜仮骨延長法を歯の急速移動に応用する際の牽引速度を変化させることにより、牽引側歯根膜の初 期応答が異なることが示唆されました。 今後さらにそれぞれの牽引速度における急速牽引後の歯髄の状態や、歯周組織修復の過程を観察し、歯 根膜仮骨延長法の適切な応用法や安全性を検証していく予定です。 担当:下島 隆志 牽引方向が前歯の後方移動に与える影響について 抜歯による矯正治療が必要な患者さんの中には、前歯の後方移動にインプラントを固定源に利 用する治療が行われるようになりました。しかし、この新しい治療法は歯の移動が牽引方向で異な るため、コントロールが困難で様々な問題が生じることがあります。コンピューターシミュレーションを 使用し、牽引方向が上顎 6 前歯の後方移動に与える影響を研究しています。 上顎骨と歯、そしてワイヤーなどの形をコンピュー ター上で再現しているところ 後方移動による変位量を比較しているところ 後方移動を想定し、前歯を牽引する方向を設 定する 6 前歯及び歯槽骨における応力分布から解析 を行っているところ インプラントを利用して上顎 6 前歯の後方移動を行うと、牽引方向により歯の移動動態が変わることが判明し た。 この解析を応用して、症例に応じたより良い牽引方向の決定に役立てていく予定です。 担当:東郷 聡司 気道の形態と不正咬合との関連 顎顔面の形態は、呼吸の様相と深い関連があることが知られている。気道の形態は、呼吸の様 相を調べるための重要な手がかりであるが、この全体像を立体的に把握することはほとんど不可能 であった。計測機器の精度が高くなったことに伴い、従来は不可能であった気道の形態をより詳細 に調べることができるようになった。 CT を撮影し、気道が頭蓋と顔面とどのような位 置関係になっているかを調べているところ 気道だけを取り出し、その形・大きさを計測してい るところ 気道部分のみを抽出するために、適切な設定を 調整しているところ 取り出してきた気道を症例別に分け、詳細に検 討するために範囲を限定していく 気道を個別に計測することで、顎顔面の形態、不正咬合、気道の形態の 3 者の関係が明らかになる。 担当:菊地 悠 20歳代からの20年間における歯列の変化 長期にわたって、機能を営むと咬合の変化が生じ、歯・歯列弓上にも加齢変化があらわれることが知られて います。しかし、3次元計測を用いて、縦断的な加齢変化を検討した報告はほとんどありません。 そこで、矯正治療後の長期安定性獲得のための因子を検討するため3次元計測を行い、加齢に伴う歯列 の変化量を検討しています。 平行模型を三次元模型形状測定装置を 用いて三次元形状を入力した。 得られた 3D歯列画像を3D点群処理ソフト ウエア上で展開して合成し、ブラインドエリアの ない3D 歯列画像を作成した。 3D歯列画像に計測点を設定し、計測を行う。 上図は、歯列弓幅径・長径、歯槽弓幅径・ 長径の計側を行っている。 その他、Angulation, Inclination, Overjet, Overbite, 咬合高径, Irregularity indexの計測を行った。 20 歳代~40歳代までの20年間で下顎歯列の縮小、上顎切歯の唇側傾斜などの加齢変化がみられ、矯 正治療で咬合を付与する際、また長期的な保定において考慮すべき事柄が示されました。 担当:田井 愛子 下顎前方誘導時の口腔周囲筋の生理的変化 下顎の後方位による上顎前突症では、下顎骨を前方に誘導する治療法がとられています。そこで本研究で は実験的下顎前方位維持装置の装着時における顎二腹筋および咀嚼筋の生理的変化を筋電計と筋組織 酸素濃度計測器を用いて研究しています。 下顎を前方に維持するために用いられるHerbst Herbst applianceを被験者に7時間装着してもらう appliance 開口負荷をかけて筋電と筋血流量を計測しているところ 下顎前方誘導における筋の伸展 度の評価をするために2種類のスプ リントを用いてMRIを撮影する 組織血流量と筋電図から下顎前方位における筋への生理 的変化を調査する 下顎前方位を維持する口腔内装置使用における筋活動への短期的な影響は少ないことが示されました。 担当:向井 美弥
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