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第13課
人の寿命と病気
本文(1)の構成
 論点:
——人の寿命が長い原因。
一、生命の長さは、生物の種類によって決まっている。
二、野生動物は寿命が短い。
三、人は寿命が長い。
(1)飼育条件
(2)遺伝素質
①哺乳類に属し、エネルギー消耗度が低い。
②SODの働きが優れる。
③霊長類に属し、寿命は成熟年数の6倍になる。
いかなる生物にも生命の始まりと終わりがある。生
命の誕生はすばらしいドラマだが、その命には限りが
ある。生物であるからには、死を避けることはできな
いのである。生命の長さは、生物の種類によって大体
決まっている。我々人間、ホモ・サピエンスはどうか
というと、哺乳類の中では長生きの部類に属する。記
録によれば、もっとも長く生きた年数は、ハツカネズ
ミが約三年、ウサギ十三年、犬、猫、ライオン三十年、
馬六十年、鯨九十年、ヒト百十年余となっている。
総じて野生動物は、日照り、食糧不足、気温変化、
天敵の攻撃といったような厳しい自然の状況にさらさ
れているので、天寿を全うするのは困難である。した
がって、最長寿記録も、あくまでも記録の上のことで、
動物園や実験室など、動物を飼う条件の整ったところ
で出されたものが多い。
総じて野生動物は、日照り、食糧不足、気温変化、
天敵の攻撃といったような厳しい自然の状況にさら
されているので、天寿を全うするのは困難である。
したがって、最長寿記録も、あくまでも記録の上の
ことで、動物園や実験室など、動物を飼う条件の
整った所で出されたものが多い。
ヒトは、猿の仲間から枝分かれした後、寒さや外敵
から身を守ろうとして、衣服や住居を考案し、調理や
暖房に火を利用するようになった。自らの「飼育条
件」を整えることで、五万年も昔に長生きの「資格」
を手に入れたのである。
それと同時に、ヒトには長生きの遺伝素質も本来
備わっていると考えられる。昔から大型の動物ほど
長生きの傾向があったことはよく知られている。哺
乳類のように体内の発熱反応で体温を一定に保って
いる場合は、大きい方が体重あたりの表面積が小さ
く、エネルギーの消耗度が低くて済むためらしい。
また、ヒトは、SOD即ちスーパーオキシドジスムターゼ
という酵素の働きが抜きん出ている。陸上の動物は、
呼吸で空気中の酸素を取り入れていているが、実は、
この酸素から生じる過激な活性酸素が細胞を痛めつけ、
老化を促進している。この活性酸素を無毒化するのが、
ほかならぬSODというわけなのである。
霊長類の最長寿命は、体が成熟する年数のおよそ六倍
に当たるとされている。ヒトの成熟年齢を十七歳から
二十歳あたりとすれば、理論上は、百二十歳前後まで
生き延びられる計算になる。ヒトという動物には、こ
のように長生きの好条件がそろっていると見てよいで
あろう。
近ごろは、若々しいお年寄りをあちこちで見かける
ようになった。七十歳などといっても、肌の張りや、
つや、背筋の伸び具合などからは想像もできないほど
である。目下、肉体年齢の若返りが進行中なのであろ
う。
昭和初期、日本は短命国の代表であった。当時トッ
プのスウェーデンやニュージーランドとは平均寿命の
差が二十歳以上も開いていた。しかし、昭和六十年代、
男性は七十五歳、女性は八十歳を超えるようになった。
ついに世界の長寿国グループの仲間入りを果たしたの
である。
かつては乳児千人のうち、一歳未満で百六十人以上
も死んでいた。その数が二桁から一桁台へと減り、今
では五人以下にまで激減した。戦後、急に平均寿命が
延びたのは、何といっても栄養改善と、医療や医薬品
の進歩で乳幼児の死亡と結核患者が大幅に減少したた
めである。しかし、ここ数年の延びは、特に中高年の
若返り現象、脳卒中の急減に負うところが少なくない。
かつては乳児千人のうち、一歳未満で百六十人以上
も死んでいた。その数が二桁から一桁台へと減り、今
では五人以下にまで激減した。戦後、急に平均寿命が
延びたのは、何といっても栄養改善と、医療や医薬品
の進歩で乳幼児の死亡と結核患者が大幅に減少したた
めである。しかし、ここ数年の延びは、特に中高年の
若返り現象、脳卒中の急減に負うところが少なくない。
脳卒中は、長い間、高齢者を象徴する病として死因
のトップを占めていた。しかしながら、1980年代に、
がん、心臓病と入れ替わって、三位に落ちてしまった
その主たる原因は、高血圧の早期発見と治療の普及と
考えられている。また、栄養改善、殊に動物性蛋白質
をとるようになったことも関係があるであろう。
脳卒中というのは、頭の中の細い血管が詰まったり、
破れたりして起こる。蛋白質を十分にとらないと、栄
養不足から血管の老化が進んで、もろくなり、血圧が
高くなった時など故障を起こす恐れがある。豊かに
なった食生活も脳卒中の発生を抑えてきたと見てよい
のではないだろうか。
人は三十歳を過ぎたころ、何となく体力の衰えを感
じ始める。駅の階段を駆け上がった時、息が切れたり、
夜ふかしの疲れが翌朝までとれなかったりというよう
に調子の悪いことが起こってくる。こんな時、単なる
運動不足だろうと軽く考えて、老化の坂を転がり始め
たことにはなかなか気づかないものである。老化とは
臓器の予備力が弱っていくことであるが、人によって
差がある。いつまでも若いつもりで、無理や不摂生を
重ねていると、とんでもない結果になりかねない。
成人病というのは、病状が出た時は、もうどうにも
ならないといったケースが多い。手遅れになるのが怖
ければ、定期的に健康診断を受け、早期発見に努める
ほかない。いわゆる「三大成人病」とされるがんも、
心臓病も、脳卒中も、二十年から三十年という長い潜
伏期間がある。病気が静かに進行していって、本人は
全然自覚症状がないということも多いのである。
がんを例にとって考えてみよう。実は、我々の人体を
構成している六十兆個の細胞すべてには、「がん遺伝
子」が潜んでいるらしい。正常な状態では、細胞同士の
結合や分裂の調整をしているのだが、発がん物質の刺激
を受けると、その機能が目を覚ます。徐々に勢力を持ち
始めて暴れ出し、ついにはがん細胞に変わってしまうこ
ともあるという。しかし、大豆粒ほどの大きさに成長す
るまで二十年はかかると見られる。
このような恐ろしい働きをする発がん物質とはどんな
ものか。その種類は数千に上ると言われている。しかも、
その数は、減少するどころか、かえって増加する一方で
ある。天然の食品、車の排気ガス、農薬などにも含まれ
ているので、どんなに注意を払ったところで、体内に侵
入してくる。現在のような生活をしている限り、発がん
物質と無関係ではいられない。
特に最近はたばこの害がやかましく言われるように
なったが、その中のタールという物質も「犯人」で
ある。煙が直接触れる気管や肺、喉頭のほか、食道、
胃、肝臓、骨、更には、血液にのって膀胱にまで行
き、がんを発生させるのである。
一方、幸いにも、発がん作用を抑える有益な成分も、
ちゃんと存在している。検査によってそれらは野菜
の中に含まれていることが分かっている。ホウレン
草、ピーマン、人参、カボチャなどの色の濃い野菜
(緑黄色野菜)に含まれているビタミンAやカロチン、
淡色の野菜にも含まれているビタミンCなどがそれで
ある。更に、野菜繊維は、便通をよくし、腸の中の
悪いものを吸収して、体外に排出してくれる。長期
にわたって追跡調査を実施してきた国立ガンセン
ターの報告によると、緑黄色野菜を欠かさずとって
いる人々の死亡率は低いということである。
一方、幸いにも、発がん作用を抑える有益な成分も、
ちゃんと存在している。検査によってそれらは野菜
の中に含まれていることが分かっている。ホウレン
草、ピーマン、人参、カボチャなどの色の濃い野菜
(緑黄色野菜)に含まれているビタミンAやカロチン、
淡色の野菜にも含まれているビタミンCなどがそれで
ある。
更に、野菜繊維は、便通をよくし、腸の中の悪いもの
を吸収して、体外に排出してくれる。長期にわたって
追跡調査を実施してきた国立ガンセンターの報告によ
ると、緑黄色野菜を欠かさずとっている人々の死亡率
は低いということである。
近年、がんに関する研究は急速な進歩を遂げた。がん
の原因を統計で探ってきた学者たちの貴重な研究が実
りつつあると言えよう。
要は、偏食をせず、いろいろな食品をバランスよく
とり、十分な休養をとることである。強力な免疫力の
保持に努めることも重要であろう。
とにかく、むやみに病気を恐れることはない。これ
から先は、予防次第で、だれもが百二十年近い幸福な
人生を生きることも夢でなくなる時代が来るかもしれ
ないのである。