123号6月発行 - 金沢市教育委員会

平成25年1月
日発行
第123号
平成 26 年 6 月 23 日発行
自分のフィールドを持っていますか?
金沢市立花園小学校 教頭
※
教頭 田口 裕人
フィールド
生物学や地球科学などで、研究室以外の観察などを行う現場のこと。学問の領域、という意味合いもある。
以前、
「理科の学習」の編集会議のときに、石川県理科協会の三村正治先生の話に感心した覚えがあります。
それは、三村先生が散歩をしていて、田の水草がたくさん繁茂している様子を見かけられそうです。その水草
を取ってきて、自宅で実際に育ててみたところ、その成長について新たな知見を得たといった話でした。いつ
までも好奇心を持って日々を過ごしておられる姿に、私もそのようにありたいと感じました。
もう一つ。私が以前キゴ山天体観察センターに勤務していたときの話です。「金星の太陽面通過」がありま
した。「金星の太陽面通過」とは、太陽の前を金星が通過する珍しい現象です。それが、明治7年にあったと
きの様子を金沢出身の清水誠氏が撮影し、日本で初めての「天体写真」とも言われているという逸話がありま
す。清水誠氏は、マッチ工業を興し、「マッチの祖」として有名な方です。卯辰山に顕彰碑があり、泉小学校
(旧 野町小学校)近くの寺に墓があります。このことが新聞に紹介されると、理科部会のOBである米田昭
二郎先生から、清水誠氏とマッチについて書かれた文献がキゴ山に送られてきました。米田先生がご自分で調
査し、まとめられた文献です。科学的な記事に関心を持ち新聞をチェックされていたことや、自信を持って清
水氏のことなどを調べておられたのだろうと感じ、豊かな研究生活を送られたのだろうと思いました。
<皆さんは自分のフィールドを持っていますか?>
お二人の先生とも、
「フィールドを持っているなあ。
」と感じます。
理科の教師として、3~6年の理科の内容等について理解をし、教材研究を進め、授業力を上げていこうと
いう心構えは皆さん、すべてが持っておられることと思います。でも、そのとき、教科書の範囲だけで学びが
とどまっていないでしょうか?
教科書以外の植物や生き物について、ご自分で調査されたことはありますか?育ててみたことはあります
か?新しい素材や道具について、どれだけ関心を持っていますか?金沢出身の清水誠氏、木村栄氏、高峰譲吉
氏などについて、関心を持って書物をたずねたりしていますか?
私たちは子どもたちに「科学者になろう」と、研究の手法を要求しがちです。では、私たちはどうでしょう
か?自分を「科学者」にしていけたらいいなあと思っています。どこかに調査・観察のフィールドを持てたら、
何かの分野(フィールド)では詳しいという自信を持てたら、きっと自信を持って子どもたちに何かを語れる
だろうなと思います。
一方で、こうも考えます。私たちは、理科の分野すべてにおいてオーソリティである必要はないということ
です。子どもたちが問いかけてきたとき、すべてに対して明確な答えを示さなくても、子どもたちがそれを調
べたくなるような意識付けをしてやればいいでしょう。そのときに、自分のフィールドを持っていると、「こ
うしたらいいのではないか」というという方向付けがしやすいのではないでしょうか?
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<教科書を飛びだそう>
教科書を飛び出し、自分の興味・関心に沿って、自分のフィールドを持ちましょう。何かをはじめるのに、
老いも若いもないと思います。理科部会のOBの方々のように、興味・関心を持って取り組む姿を求めたいも
のです。そしてそれは、きっと理科の授業に役に立つと思います。また、自分の生活も豊かにしてくれること
でしょう。
///6月の小教研から///
中学年部会
7月授業の事前研
1.単元名
3年「風やゴムで動かそう」
及び授業者
2.本単元についての
補足説明
小坂小学校 中野 岳央 先生
この単元は学習指導要領で「エネルギー」のエネルギーの見方の領域にある。本
単元では、風やゴムの働きについて興味・関心を持って追究する活動を通して、風
やゴムの力を働かせたときの現象の違いを比較する能力を育てるとともに、それ
らについての理解を図り、風やゴムの働きについての見方や考え方ができるよう
にすることがねらいである。
3.単元展開
第一次…つかむ
(2時間)
第二次…風で動かそう
(5時間)
第三次…ゴムで動かそう
(4時間)
第四次…風とヨット
(1時間)
4.授業者の重点項目の捉え
①
単元を見通した、思考を育てる表現活動の設定
本単元を、エネルギーの制御を意識した単元構成とした。単元導入において風の力を制御して動かすこ
とができるヨットを紹介し、風の力を制御できることに関心を持たせる。
②
実感を伴った理解を促す活動と、そのための評価方法の工夫
導入前の課外時に風やゴムを利用したおもちゃを紹介し、遊ぶ経験をさせ、風やゴムに興味・関心を持
たせたい。
また、制御を扱う学習場面で、既習の実験結果を根拠にして、制御の方法を予想させる。予想をもとに、
ねらった場所に近づけるかグループで実験を行う。児童は点数結果から「自分たちの予想が正しかったの
か」と自己評価する。その自己評価が、次の予想や実験につながっていくと考えた。
5.本時の授業場面
第二次 風で動かそう(5時間)
物を動かすはたらきの制御
6.教材解説
緑小学校
主幹教諭
輪田
靖欣
先生
7月の研究授業の単元「風やゴムで動かそう」に関わった物づくりについて2つ教えていただいた。一つ
はCDとゴム風船を使ったホバークラフトで、もう一つはペットボ
トルとゴム風船を使った空気砲である。
(1)ホバークラフト作り
①
ストローにゴム風船を取り付ける。
②
ペットボトルキャップ2つ用意する。1つにストローの太
さぐらいの穴と、もうひとつに1mm 程度の穴を開ける。
2つのキャップを中に空洞ができるようにはり合わせる。
③
ストローを②のキャップに取り付ける。
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④
キャップを CD に取り付ける。
(2)空気砲作り
①
ゴム風船の口から1/3を切る。残りの2/3を使用する。
②
ペットボトルの底を切り取って外す。
③
ペットボトルを切り取った部分に①のゴム風船を取り付ける。
完成した道具は子どもでなくとも、その場にいた大人たちも楽しく遊ぶことができました。輪田先生には、
楽しい物づくりを教えていただきありがとうございました。
7.協議内容
授業者は、風やゴムには物を動かす力があることだけでなく、その働きを『制御』できることを実感させ
ることもねらいとし単元を構成した。これらのねらいを達成するために、得られた結果を整理し、数値を根
拠に考察させる。また距離をプロットすることにより、結果を分かりやすく整理、風やゴムの強さと動く距
離との関係を導き出し、法則性をつかませたいと考えていた。参加者からは、以下のような意見が述べられ
た。
○ ヨットを導入に持って来た理由は何か。
→実生活の中で風を利用した物。子どももイメージしやすく、『制御』についてもイメージしやすいと
考えた。
○ 『制御』はむずかしい。実際は車で学習を進めるのに、ヨットから車にいき、またヨットに戻ることに
違和感がある。
○ 『制御』は子どもにはどのように表現させるのか。
→「調整」
、
「コントロール」
、
「ちょうど良く止める」
→3年生の「比較」を扱うには、
『制御』は結果を比べてこそできるので、良い。
○ 制御することにどれだけの価値があるのか。力の制御をさせたいがために、突然、止めようは機械的に
なってしまうのではないか。
○ ヨットを入れるなら二次の最後にいれるべきではないか。
○ 「止める」ということを機械的ではなく、必要感を持たせるために、同心円を使い、真ん中に止めるゲ
ーム(カーリング)のようなものを考えてみてはどうか。
○ ヨットの『制御』というのは風のあたる向きも関係するのではないか。
○ ヨットは、帆の形、帆の向きを変化させて風の当たる角度を変えて進ませるので、条件がそろえにくい。
○ 本時について、力を受ける側・送る側のどちらの要因も入っているのが、混乱するのではないか。
○ 風の強さ以外のアイディアが出てくると考えているのは◎、しかし、条件が制御しきれない。結局のと
ころ、要因があいまいになってしまい、結論があやふやになってしまう。
→まとめるときに整理しづらい。どうしてもやるのであれば、班ごとに何を変えるのかをしっかりとお
さえなければいけない
最後に上野校長先生からは、
「中野先生が考えるヨットは、帆掛け舟(風下の方向にしか進まない)に近
いのではないか。ヨットは帆の向きを変えながら進む。中野先生は『制御』にこだわった授業づくりをして
いる。このこだわりというのが大事。こだわりを通して、みんなが深まった勉強ができる。帆の大きさにあ
えてこだわるということで、他の要因も色々と加わり、学習指導要領とのずれも生ずるかもしれない。しか
し、このような冒険があえて許されるのが小教研。色々失敗しても、挑戦を認めてくれる人がいる。そして
この授業を通して、子ども達にいったいどんな力をつけたいのかを教師自身がしっかりと認識していれば、
大きくぶれることはないと思う。
」という温かいご助言をいただいた。
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高学年部会
7月授業の事前研
1.単元名
6年「人間が生きていくために必要な物 ~食べ物(養分)編~」
及び授業者
安原小学校 岩崎 誠 先生
2.本単元についての
補足説明
本単元では、人間が生きていくために必要な物(空気・水・食べ物)の『食べ物(養
分)』についての学習である。食べ物が生成,運搬,消化,吸収,排出,分解のメ
カニズムを実験を通して理解すると同時に、姿・形を変えながら食べ物が自然界
を循環する中で、人間は様々な生物と関わりながら生きていることを自覚できる
単元である。
3.単元展開
第1次…単元を通した学習問題作り
(1時間)
第2次…ジャガイモの光合成
(4時間)
第3次…食物の消化
(3時間)
第4次…食物連鎖
(2時間)
4.授業者の重点項目の捉え
①
単元を通した、思考を育てる表現活動の設定
「空気」
「水」
「食べ物」をキーワードとしてマッピングを行うことで、児童のメタ認知を促してきた。
本単元ではこの模式図を作成しながら、生成や消化などのメカニズム、食べ物の循環等を書き足していき
たい。
②
実感を伴った理解を促す活動と、そのための評価方法の工夫
本単元における実感を伴った理解を促す活動は2つある。一つは植物体における食べ物の生成(デンプ
ンの生成)実験。もう一つは体内におけるデンプンの消化実験である。これらの実験が理解につながった
かを確かめるために、友達への説明に用いたノートを活用したい。友達に説明することで自分の考えをさ
らに更新し、深めていくであろう。また実感を伴った実験だけの理解に留まらず、みんなで学習すること
の意義や思考の深まりなども促していきたい。
5.本時の授業場面
第3次 食物の消化(2時間)
デンプンは口の中でどうなるのか
6.教材解説
南小立野小学校
教諭
中川
岳
先生
中川先生の教材解説会では、実技研修の前に「最近思っていること」
「評価についての悩み」といった話
がありました。
(1)最近思っていること
ノートをきちんと書こうとする子が増えたのは、小保方女史の件があったからではないか。確かにあの
件以来、実験ノートの重要性が各メディアでも大きく取り上げられている。必ず日付を入れること、実験
データに後から追加や修正を行わないこと等、不正防止という観点から、小学生にも理解可能な内容でし
た。事の真相はまだ不明だが、理科で大事にしなければならないことを再考させる話題である。
また、日々の授業の悩みとして、児童の発言の中の『養分』
『栄養』
『肥料』等の似た意味の言葉の混同や、
『気温が暖かくなる』等の誤
表記がある。言葉にもっと敏感にさせたい。自作教材学習に挑戦し
たいけれど、『学力向上』という要求にも応えなければならない等、
ベテランの先生でも毎日の授業では試行錯誤されているのだと感じ
た。
(2)評価についての悩み
評価について、
「理科がめざす姿がはっきりすれば、評価が明確に
なる」や「教科書を教えるのではなく、教科書で教える。教科書は理科的用語の習得や確認に使用すれば
よい」
、
「授業の内容的なめあてとメインの学習活動を明確にすれば、評価が明確になる」との信念をお持
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ちでした。
「子どもが持っている自然についての素朴な見方や考え方」が変容し「科学的な見方や考え方」
に変化するためには、
「各学年で育成する問題解決の能力」をしっかりと身につけさせることが必要です。
「問題解決の能力が育てば、自ずと結果を整理し考察する仕方が進化するはずだ」と話してくれました。
理科学習の基本的な流れに沿って授業を組み立てる中で、
「この活動と課題だと、子どもの食いつきが
よく、見通しも持てそうだ。
」
、
「こんな発展で実感を伴った知識を定着させよう」等といった仕掛けを考
えることが大事だとのことでした。また言葉遣いが悪かったり私語が多かったりするが、やる気があって
勉強の内容には関心がありそうな児童の「関心・意欲・態度」の評価をどうするか、といった評価の悩み
もある。
(3)実技研修
唾液がデンプンを「別の物」に変化させる場面を取り上げ、唾液
だけではなく消化薬を用いて実験を行った。
「別の物」が「糖」であ
ることを見せたいのなら「尿糖試験紙」を用いることや、タンパク
質の消化を調べる際には「尿タンパク試験紙」を用いればよい。消
化薬を用いての実験は初めてという方も多く、ヨウ素液の色が変化
しないことに、大きな歓声が上がっていた。
中川先生には短い時間ではありましたが、とても多くのことを教
わり、大変勉強になりました。ありがとうございます。
7.協議内容
指導案検討では、活発な意見交換が行われました。
授業者の岩崎先生は本単元で「人は関わりの中で生きている」こと
を教えたい。「人と食べ物」「人と空気」「人と水」等の学習を通して、
「これらの関わりは非常に巧みな循環の上に成り立っていることを詳
らかにしたい。
」という願いを持っていた。また関連単元を通して「食
べ物」「空気」「水」をキーワードとしたマッピングを行うことで、子
ども自身がキーワードに対してのメタ認知を促していきたいとのこと
でした。
岩崎先生は、
「ジャガイモがデンプンを生成した」という既習を踏ま
え、本時ではジャガイモのデンプンを用いて消化の実験を行いたいとのことでした。本時までに、ジャガイ
モの茎の切り口に尿糖試験紙を当て、
『デンプンが糖に変わる』ということが既習になっていれば、本時で
も『デンプンが糖に変化したのではないか』『尿糖試験紙を用いれば確かめられる』という見通しを持って
学習を進められるとの考えからジャガイモを使用する。参加者からは、以下のような意見が述べられました。
○ ジャガイモは噛んでいると甘くなるのか。
○ ご飯を噛んでいると甘くなったという生活経験を基に考えさせることで、デンプンが糖に変化したので
はないかという予想も立つので、ご飯を使った方がよいのではないか。
○ 口の中でジャガイモを咀嚼しているモデル実験として、
「ジャガイモ,唾液をしみこませた脱脂綿,お
湯,ヨウ素液を入れたチャック付きポリ袋を手で揉む」という実験方法が指導案に記載されていたが、
歯で細かくする方に目がいき、唾液と混ざるという方に意識が向かないのではないか。
○ ヨウ素液は、デンプンの変化を確認するための試薬であり、実験前後で使用するのが望ましいのではな
いか。
○ デンプンが糖にならないと、小腸に吸収されないことを視覚化するためには、羊の腸を用いるとよい。
デンプンを水に溶いた物とブドウ糖水溶液をそれぞれ羊の腸に流し込み、それぞれを温水につけると、
ブドウ糖水溶液の方にだけシュリーレン現象が見られる。ちなみに羊の腸はインターネットで購入可能。
7月の小教研ではどのような授業が見られるかとても楽しみですね。岩崎先生の授業を皆さんで見に行き
ましょう。
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7月の小教研は
今年度1回目の研究授業です。
7月3日(木)14:15~
会場:中学年部会
高学年部会
小坂小学校
中野 岳央
安原小学校
岩崎
誠
先生
3年「風やゴムで動かそう」
先生
6年「動物の体のはたらき」
次回は研究授業です。多数の参観、そして整理会参加で、自分の授業を見る目を養うとともにご苦労なさ
れた授業者に是非一声かけてあげましょう。多数の参加をお待ちしています。
8月小教研日程変更のお知らせ
8月13日(水)に変更になりました。
教材研究、指導案検討、「金沢市の地質パネル」製作を行います
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お知らせ
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「化石を含む大理石」について
第1回小教研の全体会で話があった、ラブロ片町の手すりにあった「アンモナイトなどの化石を含む大理
石板」25枚の活用については、次のように決まりました。
①
子ども科学財団の施設での展示
②
科学教室三科学教室の学校での展示
③
富樫プラザでの貸出
詳しくは、後日お知らせしますが、各小学校の掲示用資料や指導者用資料も配付する予定です。
「自由研究の手引き」について
夏休みが近づいてきました。これも第1回小教研で話のあった「自由研究の手引き」の、参考例の紹介な
どを準備しています。後日連絡しますので、ぜひご活用下さい。
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理科コミュニティー
///
投稿をお待ちしております。
投稿先 : SA@SCHOOL で富樫小 濱高までお送りください。
編集後記
実物の力は絶大です。今回の教材解説会では、中学年部会・高学年部会ともに実物や実技が登場しています。
理科ならではの風景ではないでしょうか。また、そんな実物さがしに苦労しているのも理科教師ならではの悩
みなのではないでしょうか。ここに来れば実物に出会える。小教研理科部会はそんな場の一つではないでしょ
うか。みなさん、ぜひ部会に参加しましょう。次回は、いよいよ研究授業です。
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(編集委員:濱高)