政府の規模と経済成長 - 経済社会総合研究所

ESRI Discussion Paper Series No.103
政府の規模と経済成長
−
先進国パネル分析に見る負の相関の再検証 −
by
茂呂 賢吾
May 2004
内閣府経済社会総合研究所
Economic and Social Research Institute
Cabinet Office
Tokyo, Japan
ESRIディスカッション・ペーパー・シリーズは、内閣府経済社会総合研究所の研
究者および外部研究者によって行われた研究成果をとりまとめたものです。学界、研究
機関等の関係する方々から幅広くコメントを頂き、今後の研究に役立てることを意図し
て発表しております。
論文は、すべて研究者個人の責任で執筆されており、内閣府経済社会総合研究所の見
解を示すものではありません。
政府の規模と経済成長†
―
先進国パネル分析に見る負の相関の再検証 −
by
茂呂賢吾‡
2004 年 5 月
†
内閣府経済社会総合研究所でのセミナー(
2004 年 4 月 28 日)において、コメントを下さった土居丈朗慶應
義塾大学助教授(討論者)、香西泰所長をはじめ出席の方々に感謝する。
本ノートの作成に当たり、大守隆氏、小田克起氏、堀雅博氏ら同僚諸氏から多くの助言を頂いた。また、デ
ータを提供頂いた内閣府・景気分析担当統括官部局に感謝する。本ノートの内容・意見は執筆者の個人的
見解であり、内閣府ないし経済社会総合研究所の見解を示すものではない。あり得べき誤りは全て執筆者に
帰属する。
‡
内閣府、連絡先 E-mail: [email protected]。
1
(要
旨)
1. 問題意識
「適正水準を超える政府の存在は経済の活力を損なう」
と考える論者は少なくない。
しかし、政府の規模が経済活力(ないし経済成長率)に与える影響については、そ
のメカニズムについてコンセンサス形成が進んでいないばかりでなく、影響の度合
いや影響の有無そのものについて異論も見られる。
本研究ノートでは、
「政府規模と経済成長の相関分析」を 1980 年代以降の国別マ
クロ・データで再検証した。その際、単に相関を見るだけでなく、(1)政府の規模
と経済成長の関係はどの程度頑健(robust)なのか、また、(2)政府支出の内容(消
費、投資、移転等)によって、経済成長との関係は異なるか、といった問題意識を
加えて分析を行った。
2. 分析手法
本ノートでは、OECD 諸国を対象とするパネルデータ(1981 年以降 2002 年迄)
での回帰分析を行う。その際、推計結果の頑健性を確認するため、a)対象国の選定
如何によって結果がどの程度違ってくるか、b)各国の制度的特性の相違、あるいは
計測誤差の可能性等を考慮しても結果は変わらないか、c)相関が逆の因果関係(経
済パフォーマンスから政府規模へ)によって生じている可能性はないか、更に、d)
経済成長を規定する政府規模変数以外の制御変数を加えても、政府規模と経済成長
の関係は安定的か、といった観点での検討を行った点に特徴がある。
3. 分析結果の主なポイント
分析の結果、1)政府の規模と経済成長には統計的に有意な負の関係がみられ、そ
の関係は対象国の選択を変えても成立する、2)各国の制度的特性の相違、あるいは
計測誤差の可能性等を考慮しても、また、景気循環局面の違いがもたらす逆因果(経
済パフォーマンスから政府規模へ)の可能性を考慮しても、両者の負の関係は否定
できない、3)経済成長を規定する政府規模変数以外の制御変数を加えても、政府の
規模と経済成長の負の関係は安定的である、等の点が明らかになった。また、政府
支出の性質如何で経済成長との関係は異なっており、政府消費等の影響は、社会保
2
障支出や利払費等の移転支出以上にマイナスの影響が大きい結果となった。
4. むすび
本ノートの結果は、(先進諸国において)大きな政府が経済成長にマイナスの影
響を与えている可能性を示唆している。そうした可能性を完全には否定できない以
上、小さな政府の選択はリスク回避の意味で正当化できるだろう。今後、政策イン
プリケーションをより豊富なものにしていくためには、本ノートのようなマクロ的
な分析だけでなく、制度設計等ミクロ的な分析が重要になろう。
JEL Classification: E62; H50; O40
Key words: 政府の規模、政府支出、経済成長
Abstract
Although empirical studies of the impact of government size on economic performance
do exist, those findings mixed, and have been questioned on a number of grounds. This paper
seeks not only to find empirical evidence of the relationship between government total outlays
and economic growth for OECD countries using panel data methods, but also to examine how
robust these correlations are and whether the economic impact varies according to the
composition of public expenditure.
Our study takes into account country-specific factors, the possibilities of measurement
errors, and reverse-causality problems. It also includes other independent variables that may
explain economic growth. However, the negative relationship between government size and
economic performance can clearly be observed. In addition, it is shown that government
consumption is likely to have a larger negative impact on economic growth than do
government transfers such as social security expenditures and interest payments.
JEL Classification: E62; H50; O40
Key words: Government size; Public expenditures; Economic growth
3
1.はじめに
財政再建や社会保障制度改革がわが国(経済)にとって喫緊の課題であることに
異論はないだろう。それらの改革を緊急課題と捉える理由の詳細は論者によって
区々だが、多くの論者が「適正水準を超えた政府の存在は経済の活力を損なう」
可能
性が高いと考えている。経済財政諮問会議による『
経済財政運営と構造改革に関する基
本方針2003(骨太2003)』
が、「例えば潜在的国民負担率で見て、その目途を50%程度と
しつつ、政府の規模の上昇を抑制する」ことを掲げている背景にはこうした考え方も
ある。
しかし、政府の規模や国民負担率が経済活力(ないし経済成長率)に与える影響
については、そのメカニズムについてコンセンサス形成が進んでいないばかりでな
く、影響の度合いや影響の有無そのものについても異論が見られる。この分野(政
府の規模と経済パフォーマンスの関係)には多くの先行研究があるが、その結果や
解釈は一様でない。例えば、内閣府の平成 15 年度版『経済財政白書』は、OEC
D諸国を対象としたクロス・セクション分析を行い、政府の規模と経済成長率の間
に緩やかな負の相関があることを示している。更に、時系列の要素も考慮したパネ
ル分析の手法を用いれば、両者間により明瞭な負の相関が見られるとする研究もあ
る(古川・高川・植村[2000]、上村[2001])
。一方、こうした負の相関の観察だけで
政府の規模が経済パフォーマンスに悪影響を与える、とみなすのは単純かつ過剰反
応であるとの指摘もある(宮島[1992]、田中・安田総合研究所[1997])
。
Atkinson(1995)は、1950/60 年代から 80 年代迄を対象とする社会保障関連支出
と経済活力の関係の実証分析を包括的にサーベイした結果、それらの関係について
は因果関係も含め結論的なことは言えず、今後は各国の制度体系の詳細な分析など
「ブラック・ボックス」の中を覗く必要があると論じた1。更に Atkinson は、分析
結果が一様でない要因として、対象国のカバレッジの違い(高度成長期の日本を含
めるか)、政府支出の指標の違い(社会保障以外の移転支出を含めるか)
、追加的な
説明変数(経済のキャッチ・アップ効果を捉える変数等の採否)の違いなどを指摘
している。
1
Atkinson (1995) は、9つの実証分析についてサーベイを行い、うち4つの研究は社会保障関連支出と経
済成長率に負の関係、3つは正の関係が推計され、残り2つについてはどちらとも言えない結果であると報告
している。
4
こうした議論の対立は、宮島も指摘する通り、国別マクロ・データに見られる相
関のみに基づいて政府の規模と経済成長を関係づける試みの限界を示している。と
はいえ、もし、経験則として政府の規模と経済パフォーマンスとの間に何らの相関
もなければ、議論の余地すら乏しい。一方、負の相関が明瞭に見られるのであれば、
その因果関係に不確実性があっても、小さな政府の選択がリスク最小化の意味で正
当化されよう。
本研究ノートでは、こうした考えに立ち、
「政府規模と経済成長の相関分析」を
1980 年代以降の国別マクロ・データで再検証する。その際、単に相関を見るだけ
でなく、(1)政府の規模と経済成長の関係はどの程度頑健(robust)なのか、また、
(2)政府支出の内容(消費、投資、移転等)によって、経済成長との関係は異なる
か、といった問題意識を加えて分析を行っている点が本ノートの特色である。
推計結果の頑健さについては、a)対象国の選定如何によって結果がどの程度違っ
てくるか、b)各国の制度的特性の相違、あるいは計測誤差の可能性等を考慮しても
結果は変わらないか、c)相関が逆の因果関係(経済パフォーマンスから政府規模へ)
によって生じている可能性はないか、更に、d)経済成長を規定する政府規模変数以
外の制御変数を加えても、政府規模と経済成長の関係は安定的か、といった観点で
検討している。また、政府支出の性質と経済成長の関係の分析は、その議論により
「ブラック・ボックス」の中身を少しでも明らかにできないか、という試みである。
本ノートの分析により、政府の支出規模と経済成長率の間には、幾つかの先行研
究も示す通り、統計学的に有意な負の相関関係が観察されること、また、その相関
関係は様々な角度から検討しても否定し難いほど頑健であることがわかった。また、
後段の支出性質別分析からは、政府支出の性質によって、経済成長との関係は有意
に異なり得ることが示された。本ノートの結果は、観察された関係の因果までを明
らかにするものではないが、(先進諸国において)大きな政府が経済成長力にマイ
ナスの影響を与えている可能性を示している。そうした可能性が残される以上、小
さな政府(国民負担率抑制等)の選択はリスク回避の意味で正当化されるだろう。
本稿の構成は以下のとおりである。まず、次節では政府の規模を表す指標につい
て簡単に整理する。3.は政府の規模と経済成長の関係分析についての簡単なサー
ベイである。4.では、政府の規模と経済成長の相関(単回帰)分析を行い、先行
研究の結果を再確認する。5.と6.では、推計結果の頑健性を幾つかの観点から
5
検討する。7.は性質別の政府支出と経済成長の関係分析、8.は本研究ノートの
まとめとなっている。
2. 政府の規模指標について(政府総支出 vs. 潜在的国民負担率)
本ノートでは、政府活動分野の大きさを示す指標として政府総支出を用いる。政
府規模の指標としては、この他に、
『骨太 2003』でも言及されている「潜在的国民
負担(率)」(租税負担と社会保障負担に財政赤字を加えたもの)が考えられる。両
者の関係は図1に示す通りであり、概念上の若干の相違を無視すれば、要は政府の
大きさを歳出、歳入どちらの面から把握するかの問題である。
そもそもの「国民負担率」という用語には2、
「国民が強制的に徴収される経済的
な負担の割合」という含意があり、強制的な負担の増加は国民が自由に処分できる
所得の割合を引き下げて経済活力を損なうという議論に繋がる素地がある。一方、
潜在的国民負担率は、国民的負担率に、将来の負担に繋がる財政赤字を加えること
で定義される。しかし、潜在的国民負担を字句どおりに捉えるなら、
「将来にとっ
ての潜在的な国民負担は、各時点で発生した財政赤字ではなく、過去から現在まで
に発生した財政赤字の累積額−換言すれば、政府純債務残高の大きさ−によってこ
そ代表される」との指摘(小塩[2001, p.58])もなされている。
本ノートでは、国民負担概念にかかるそうした議論には深入りせず、政府の規模
と経済成長の関係についてより直截な議論を行うため、政府の支出規模(政府総支
出)を用いて以下の分析を行う。支出面からのアプローチによって、政府の規模と
経済成長の関係のみならず、政府支出の性質(消費支出・投資支出・移転支出など)
毎に経済成長との関係の分析ができたことは、本ノートのメリットの一つである。
3. 政府の規模と経済成長の関係
政府の規模と経済成長の関係は、理論的にも実証的にも一様でない。理論的には、
政府の規模が大きくなると、(1)公的部門では競争原理が働きにくいため、民間に
2
国民負担率の概念については、経済企画庁総合計画局(1996)、田中・安田総合研究所(1997)、内閣府
6
比べ活動が非効率になりやすい、(2)公的部門の支出は民間の支出と比較して、ニ
ーズへの対応や節減努力 に甘くなりやすい 、(3) 歪みのある 課税(Distortionary
taxation)等が民間の経済活動に悪影響を及ぼし、資本蓄積や労働供給等に対しマイ
ナスの影響を与える、更に(4)所得再分配の拡大に伴う経済的なロス(モラル・ハ
ザードや既得権益の拡大)が無視できない、などを理由に経済全体の効率性・生産
性を低下させるとする見解がある一方、その対極(特に経済発展の理論等)には、
政府の適切な介入政策が経済成長のエンジンになるという見方3、より一般的には
外部性の是正等を通じて民間経済活動を活発化させるとの見方もある。また、その
中間で、政府の規模と経済成長について明確な関係はないとする論者は、(1)経済
成長は技術進歩や人的資本を含む資本蓄積等で規定されるものであり、政府規模が
直接的に経済成長を左右するとは考え難い、(2)政府規模が資本蓄積や労働供給に
与える影響は理論の前提如何で変わり得る、といった点を強調している。
一方、実証分析についても、本稿導入部で触れた通り、先行研究の結論に相当程
度の幅が見られる(Atkinson[1995]ほか)
。そもそも政府活動の中に経済成長の促進
要因、阻害要因の両方があるとすれば、そのどちらが大きいかによって政府の規模
と経済成長の正負の関係が決定されると考えられるだろう。例えば、インフラ整備
を始めとする公共財供給による民間の生産活動の改善(Aschauer[1989])、所得再分
配機能等による民間経済主体の流動性制約の緩和などは政府活動が経済成長を促
進する要因として考えられるし、逆に、費用対効果の低い投資など非生産的な政府
支出による資源配分のミスアロケーション、税制による超過負担の存在、振幅の大
きい税財政政策に伴う異時点間の資源配分の非効率性(土居[2000])などは、政府
活動が経済成長を阻害する要因として考えることができる。
また、政府の規模(国民負担率)と経済パフォーマンスには弱い負の関係が観察
されるものの、それをもって政府の規模の上昇と経済活力の低下を直結して議論す
べきでないという宮島(1992)の主張は、結果のみならず、その解釈においても一
様でないことを示している。
(2003)などの議論を参照。
3
Ram (1986)は、発展途上国を中心とする実証分析を通じ、政府の支出規模と経済成長には正の相関があ
り、その傾向は特に低所得の国で顕著であると論じている。
7
4. 政府の規模と経済成長の相関
本節では、まず、政府の規模と経済成長の関係に関する単回帰から出発する。単
回帰が我々の目的(政府の規模が経済成長に与える影響の特定)に十分でないこと
は明らかだが、巷間の議論、また先行研究の多くが単回帰に基づいて行われている。
ここでは、先行研究の追試という観点で単回帰を行い、更に単回帰について得られ
る結果が特定の分析対象国に依存するものではないことを確認しておく。本稿で用
いるデータセットの対象国は、OECD, “National Accounts”から、政府総支出4(名目
GDP比)
と経済成長率のデータが 10 年以上にわたり利用可能な 20 カ国とした5。
4.1
単回帰による分析(先行研究との比較)
表1では、OECD諸国を対象とする先行研究の結果(近年、日本で行われたも
の)をまとめた。いずれも政府規模と経済成長率の間に統計学的に有意な負の相関
があることを報告している。特に、パネルデータを用い、国別の特性をコントロー
ルした固定効果モデルで著しく大きいマイナスの係数(国民負担率、ないし潜在的
国民負担率が1%と高まると経済成長率が年率で 0.3%も低下する!!!)が得られて
いることは注目に値しよう。
こうした先行研究の結果を再確認するため、まず以下の定式化(1)での単回帰を
試みた。先行研究との違いは説明変数として(潜在的)国民負担率ではなく、政府
総支出対GDP比を採用していることである。なお、本稿ではデータセットをパネ
ルの形(以下、i は国、t は年次を指す)で扱っており、推定期間は原則 1981 年か
ら 2002 年迄(但し国毎に異なる欠損値を含む)としている。
GR(Y ) i ,t = α i + β 1 ( Exp / Y ) i ,t + ε i , t
4
…(1)
政府総支出=
最終消費支出(除.固定資本減耗、現物社会移転)
+総固定資本形成
+社会保障関連支出(現物社会移転及び現物社会移転以外の社会給付)
+その他支出(利払い費(財産所得支払)、資本移転等)
1980 年までデータを遡るため、政府総支出は「商品・非商品販売」を含まない額とした(なお、日本の 2002 年
度における「商品・非商品販売」
の GDP 比は 1.1%である)。
5
オーストラリア(Al),オーストリア(Ar),ベルギー(Be),カナダ(Ca),チェコ(Cz),デンマーク(De),フランス(Fr),ドイツ
(Ge),ギリシャ(Gr),アイルランド(Ir),イタリア(It),日本(Jp),韓国(Ko),ルクセンブルク(Lu),オランダ(Ne),ニュージー
8
ここで、 GR (Y ) i ,t
( Exp / Y ) i ,t
αi
β1
ε i,t
:実質経済成長率(年率%)
:政府総支出対GDP比
:定数項(プーリング推計では i が共通)
:政府支出規模と経済成長を関係づける係数
:誤差項
まず、図2の上段は本ノートの利用データで描いた政府総支出と経済成長率の散
布図である。国毎に分布の位置に相当の違いが見られるものの、全体として右下が
りの関係があることは明らかだろう。表2の<1>がプーリング推計(OLS, 各国共
通の切片を想定)の結果である。政府の支出規模の係数 β1 は▲0.128 であり、政府
の規模と経済成長率の負の相関は統計学的にも有意であることが確認できる。説明
変数として国民負担率でなく政府総支出を用いている点、及び対象国、推計期間に
違いはあるものの、古川他(2000)や上村(2001)のプーリング推計と同様の結果
が得られている。
プーリング推計の最大の問題は、図2上段の散布図でも明らかに読み取れる国家
間の格差が推計に考慮されていない点である。高成長国と低成長国というように、
成長率に明らかな国家間格差(それはここでの推定モデルには含められていない変
数で規定される)があり、かつそれが説明変数と相関していれば、 β1 の推定値に
はバイアスが生じる。パネルデータに国別の切片を適用する固定効果(Fixed
Effects)モデルには、このバイアスを軽減する効果が期待できる。
表2の<2>が固定効果モデルによる推定結果である。β1 の推定値が有意にマイナ
スである点はプーリング推計の結果と同様だが、その大きさは▲0.198 と(絶対値
で)相当程度拡大している。固定効果モデルにするとより大きなマイナスの係数に
なるという先行研究の結果が再確認されたわけである。図2の下段には、国別に推
計された固定効果(Fixed Effects)を調整した散布図が描いてある6。固定効果モデ
ルの最大の利点は、各国特有の制度要因などの国々の特性を固定効果が吸収するた
め、被説明変数(経済成長率)と説明変数(政府の支出規模)の間の純粋な関係が
推計できる点である。固定効果調整後の散布図は、各国の特性を考慮すると政府の
規模と経済成長の負の関係はより明瞭になることを示している7。
ランド(Nz),ポルトガル(Pt),スウェーデン(Swe),イギリス(UK),アメリカ(US)の 20 カ国。
6
図2下段は、固定効果モデルでパラメータ推定を行った上で、各国の固定効果、すなわち定数項ダミーを
調整し、一本の線が浮かび出るようにプロットした散布図である(古川他[2000]を参考にした)。
7
概念的に言うならば、図2上段における緩やかな右下がりの関係(直線)が、各国別の固定効果を考慮する
9
なお、固定効果とプーリング推計の選択という観点に立ち、定数項が共通であるこ
と(プーリング推計に対応)を帰無仮説としたF検定を行うと、固定効果モデルが選択
(帰無仮説が棄却)される。すなわち、OECD諸国に標本を限定しても各国の成
長率にはバラつきがあり、分析に当たってはそれを考慮すべきであることが分かる。
4.2
対象国の限定
政府の規模と経済成長率に負の相関関係があるとする分析結果は対象国の選定
に依存するかもしれない。負の関係を主張する内閣府(2003)の散布図(図3)を
見ると、政府の規模が小さくかつ平均成長率が極めて高いアイルランドの観測値が
図の左上に、逆に政府の規模が大きくかつ平均成長率が極めて低いチェコが図の右
下に、それぞれ突出して位置している。これらを対象国から除けば、政府の規模と
経済成長の負の関係は消失してしまうのではないかというのは当然の疑念である。
また、Atkinson (1995)は、先行研究の結果が一様でない理由の一つとして対象国の
カバレッジの違いを挙げている。
通常、実証分析では、サンプル数は多ければ多いほど望ましい。また、一見異常
値と見えるデータであっても、実はそのデータが重要な情報を有していることもあ
り、異常値かどうかを判断するのは非常に難しい。したがって、内閣府の分析のよ
うに、データが利用可能なOECD諸国全てを分析対象にすることは理にかなって
いる。しかし、本研究ノートでは、上記の疑念にも答えるため、データの入手でき
た OECD加盟国の全てを対象にした分析に加え、対象国を高所得国に限定し、か
つデータをプロットして異常値(と考えられる国)を除いた分析も行うことにする。
こうすることで、分析結果の頑健性を確かめることがここでの目的である。
図4は、対象国を高所得国に限定した場合の推計結果である。ここでは、推定期
間の直前に当たる 1980 年時点の 1 人当たり実質GDPに注目し、分析対象をその
上位 15カ国に限定している(境界は約1万4千米ドル、表3を参照)
。この基準
で対象国から外れたのは、チェコ、ギリシャ、アイルランド、韓国、ポルトガルの
5カ国である。図4の下に注記した推定結果が示す通り、この操作によりマイナス
の傾きはプーリングの▲0.128 が▲0.065 に、固定効果の▲0.198 が▲0.175 に、それ
ことにより、傾きのより急な直線として国別の切片の数に相当する本数だけ示されることになる。
10
ぞれ若干低下する。しかし、政府の支出規模にかかる係数が統計学的に有意にマイ
ナスである点は変わらない。
ところで、図4下段を見ると、この限定データにおいてすら、データのバラつきの中心と
はかけ離れて左上方(政府の支出規模が小さく成長率は高い位置)
に分布するデータの
一群があることがわかる。このデータは小国ルクセンブルクのそれであったので、推定結
果の頑健性を確認するため、以下の対象国限定回帰では、敢えてそれ(
ルクセンブルク)
まで除いた推定式を採用することにした。結果は図4’及び表2の<3>、<4>が示す通り、
マイナスの関係はこれを除いても大きくは変化しないことが確認できる。つまり、1980 年
以降の先進国で観察される「政府の規模と経済成長のマイナスの相関」は対象国の
選択如何で消失するような弱い関係ではないことがわかった。
ところで、高所得限定の分析では、対象国が同質化するためか、固定効果とプー
リングの比較(F検定)でプーリングでの推計値が選択される結果になる。したが
って、政府の規模が経済成長率に与える影響の係数としては、プーリングの▲0.056
が採択される。すなわち、政府の支出規模の1%ポイントの上昇は実質経済成長率
(年率)で 0.06%前後の(有意な)低下に対応することになる。この結果は、
「(潜
在的)国民負担率が1%ポイント高まると年率成長率が 0.3%も低下する」という
結果になっていた先行研究に比べれば、かなり受け入れやすいだろう。
5. 推計結果の頑健性 I:バイアス及び逆因果への配慮
前節4.では、政府の規模と経済成長の関係に関する単回帰を通じ、先行研究の
再検証を試みた。また、観測されるマイナスの相関は対象国をより限定しても変わ
らない安定的な結果であることが確認できた。本節では、観察されたマイナスの相
関がどの程度頑健な(robust)ものなのか更に検討を進めよう。
5.1
各国特有の制度要因、計測誤差への対応
政府の規模が経済活動に与える影響を正当に評価するには、各国毎の制度的な相
違等への配慮が不可欠である。しかし、それを数値的に捉えることは容易でない。
例えば、北欧諸国について「大きい政府だが政府の質が極めて高いため、経済パフ
ォーマンスは良好」という議論がある。この場合の「質」は制度設計等に由来する
11
ものと考えられるが、数値化は難しい。しかし、仮にこの「質」論が正しいとすれ
ば、「政府の大きさ」を政府総支出だけで捉えた分析では、各国特有の制度要因へ
の配慮が欠落し、
「説明変数の欠落」
(omitted variable)を含む推定に繋がってしま
う。そうした場合、通常の最小2乗法による推定値はバイアスを有する可能性が高
い(omitted variable と説明変数に相関がある時バイアスを生じる)
。また、説明変
数に計測誤差がある場合にも、説明変数と誤差項に相関が生じ、最小2乗法の推定
パラメータに偏りが生まれる。
前節で説明した通り、本研究ノートの実証分析は基本的にパネルデータの推計手
法に基づいている。パネル推定の長所の一つは、説明変数の欠落や推計誤差があっ
ても、それを推定期間中一定とみなし得るのであれば、固定効果項によりその要素
を吸収できるため、問題を相当程度軽減できる点である。しかし、問題の要素が経
時的に変動する場合、もう一段の対処が必要になる。
説明変数と誤差項の相関(これは説明変数の欠落や計測誤差等により生じ得る)
へのより一般的な対処は、操作変数法(IV)の活用である。しかし操作変数法を有
効に行うには、説明変数と相関が高く、かつ、元の式の撹乱項とは相関の無い適切
な操作変数を探すという実際には非常に困難な作業が伴う。特に、説明変数が多い
場合、推定式に含まれない適切な操作変数を見つけることは一層困難である。実際、
本ノートでも、操作変数法を試みているが、特に説明変数が多い推計式で決定係数
が下がるなど、操作変数法の難しさが示唆される結果が多かった。
こうしたことから、本稿では、パネル回帰(固定効果)の結果を中心に報告し、
操作変数法の結果は必要に応じ紹介する形に止めている8。表2の<5>、<6>が、全
サンプルの推定結果(同表<1>、<2>)に操作変数法を適用した結果である。操作
変数としては、政府総支出の1∼3期ラグを用いている。プーリング推定では、操
作変数法を適用しても推定係数に大きな変化は見られない。一方、固定効果モデル
では、マイナスの係数は約半分に縮小するため、固定効果の有無による係数の差は
ほぼ消えて、いずれも▲0.1 程度となった。ただ、政府総支出と経済成長率の間の
マイナスの関係はいずれにせよこれまで同様、有意に計測されている。表2の<7>、
8
我々が用いた「説明変数のラグ値」は必ずしも満足すべき操作変数ではないが、少なくともそれらを用いた
操作変数法の結果を見る限り、誤った手法の選択(言い換えれば、最小2乗推定のバイアス)によって「政府
規模と経済成長率の負の相関」が生じているとは考え難い。
12
<8>では、対象国限定の<3>、<4>に操作変数法を適用した結果を報告している。こ
の場合も政府規模と成長率のマイナスの関係は保たれる(但し、固定効果型の IV
では有意性は失われる)
。その意味で、計測誤差等に由来するバイアスが負の相関
を生み出していると考える必要はないだろう。
5.2
逆因果の可能性
政府の規模と経済成長のマイナスの相関に基づいて大きな政府の影響を論ずる
場合、観察された関係が、実は、政府の規模が経済成長率を規定した結果ではなく、
経済成長率が政府の規模を規定するという逆因果の結果生じている可能性につい
て配慮しておく必要がある。
例えば、政府投資と経済成長率に負の相関が観察されたとしても、それは、政府
投資が経済対策として、経済成長率の低下した景気低迷期に発動された事実を反映
しているに過ぎないかもしれない。また政府規模を表す変数が GDP 比率で定義さ
れている結果、成長率の高まる好況期には政府規模変数は相対的に小さくなってい
るかもしれない9。
確かに、回帰分析の結果だけから因果関係を確定することは難しい。その意味で、
本ノートの分析結果も逆因果の可能性から逃れることはできない。しかし、逆因果
の可能性を小さくすることが全く不可能かと言えば、そうではないだろう。本ノー
トでは、景気循環局面の違いがもたらす上記の逆因果を排除するため、被説明変数
(経済成長率)に3期前方移動平均を施して被説明変数とする推計も試みた(表2
<9>∼<12>)10。その結果を見ると、全サンプルの回帰、対象国限定の回帰、のい
ずれにおいても有意なマイナス符号が得られている。つまり、景気循環がもたらす
かもしれない逆因果の可能性を排除しても、やはり政府規模と経済成長率の間には
β1 で▲0.04 前後のマイナスの関係が確認できたわけである。
9
この他、経済発展と高齢化の相関を踏まえると、ある程度経済的に成熟した国では成長率が低くなる一方、
そうした国では高齢化率が概して高いため、社会保障等による国民負担率(政府規模)が必然的に高くなると
いう議論もある。ただ、本ノートの分析は、高い発展段階にある先進国限定で行っているため、こうした発展段
階の相違による影響は比較的小さいと考えられる。
10
なお、前述の操作変数法は、政府規模も経済成長率に依存する面があるという内生性の問題に対処する
方法としても有効である。
13
6. 推計結果の頑健性 II:説明変数の追加
政府の規模と経済成長の関係を分析した先行研究の多くは、前節4.と同様、成
長率を政府の規模変数(ないし国民負担率変数)に単回帰する分析に基づいて議論
を進めている。しかしながら、経済成長率を政府の規模だけで規定するモデルに違
和感を持つ人は多いだろう。また、既に論じた通り、経済成長率を規定する主要説
明変数を除外した式を通常の最小2乗法で推定すると、説明変数の欠落(過少定式
化)に起因するバイアスが生じる可能性が高い。
こうした問題が我々の結果(経済成長率と政府の規模の負の相関)を歪めている
可能性に配慮するため、以下では、経済成長の理論・実証分析を参考に、政府支出
規模変数以外に、幾つかの説明変数を追加した重回帰モデルの推定を試み、そうし
た変数の追加が政府の規模と成長率に関する我々の結果(安定的な負の相関)に変
化をもたらさないか確認してみることにした。
6.1
重回帰モデルに含めた追加説明変数
追加したのは以下の5変数である。
(1) 1人当たりの実質所得水準、(2) 高等教育修了比率
(3) 購買力平価、(4) 経済の開放度、(5) 高齢化率
それぞれの追加変数に係る考え方、及び、期待される係数は以下の通り。
(1)の 1 人当たり実質所得水準は、発展段階の低い後発国ほど高成長するという
成長論における収斂(Convergence)仮説を念頭に置いた変数である。収斂が生じ
ていれば、期待される係数の符号はマイナスになる。本ノートでは、一年前の一人
当たり実質 GDP 水準の対数値を説明変数に加えた。
(2)の高等教育修了比率は、いわゆる「人的資本」の代理変数であり、期待され
る係数符号はプラスである。ここでは、教育と経済成長に関するバローとリーのデ
ータセット(Barro-Lee education data set, 2000)から、25 歳以上人口に占める高等
教育(大学等)修了者の割合を用いた。ただし、同データは5年毎の掲載であるた
め、本ノートでは中間年について線形補完を行っている。
(3)の購買力平価(変化率)は、各国の貨幣の購買力の変化を表す変数として採
用した。本ノートでは、GDPベースの購買力平価(米ドルを自国通貨で除した値)
14
の変化率を用いている。期待される符号は、貿易への影響を考えればマイナスだが、
通貨価値の上昇が各国の競争力の高まりを反映すると考えればプラスである。
(4)の経済の開放度については、貿易等、外国経済との取引を考慮した経済成長
論の議論を念頭に置いている。経済の開放度(Openness)が高まれば、国内だけで
なく海外との競争が生じる。本ノートでは、Penn World Table(Summers-Heston data
set)を参考に、財・サービス輸出入の合計がGDPに占める比率を変数とした。
期待される係数符号はプラスである。
(5)の高齢化率は、そもそも高齢化と経済成長率に負の関係があるのかという素
朴な疑問に加え、それを含めない定式化で生じるバイアスの可能性に配慮する変数
である。政府の支出規模と高齢化の進展には密接な関係がある。仮に高齢化が経済
成長率と負の相関を有する場合、高齢化変数を含まない定式化では、政府の規模と
経済成長率の関係がマイナス方向へのバイアスを伴って推定される可能性がある。
6.2
重回帰モデルの定式化
以上の考察を踏まえ、拡張モデルは、次の定式化となった。
GR(Y ) i ,t or AveGR(Y ) i ,(t , t +1, t + 2) = α i + β 1 ( Exp / Y ) i ,t + β 2 ln(Y / L) i ,t −1
+ β 3 ( Edu ) i ,t + β 4 ( PPP ) i ,t + β 5 (Open) i ,t
+ β 6 ( Age) i ,t + ε i ,t
…(2)
変数名は以下の通り。
GR(Y ) i ,t
( Exp / Y ) i ,t
ln(Y / L) i ,t −1
( Edu ) i ,t
( PPP ) i ,t
(Open) i ,t
( Age) i ,t
ε i,t
:実質経済成長率
:政府総支出GDP比
:1人当たり実質GDP(1期前)
:高等教育修了比率(25 歳以上人口比)
:購買力平価(変化率:米ドル/自国通貨)
:経済の開放度(GDPに占める輸出入の割合)
:高齢化率(65 歳以上人口の総人口に占める割合)
:誤差項
表 4 には、上記5変数を追加した重回帰の推計結果がまとめてある。追加変数に
ついて期待される符号の係数が得られたかはさておき、我々の関心は、経済成長を
15
規定しそうな(本来の)説明変数を追加した場合に、政府の規模と経済成長の負の
関係にどのような変化が生じるかという点にある。表4の<1>∼<12>では、表2の
全てのパターンについて上記5変数を追加した推定結果を報告している。ここでの
結果を見る限り、説明変数の追加によって、政府の規模と成長率の間に見出された
(有意な)負の相関に変調をきたした事例は見当たらない。したがって、政府規模
と成長率のマイナスの相関が、説明変数の欠落(過少定式化)に起因するバイアス
から生じていると考える材料は見出せなかったことになる。
7. 経済性質別の政府支出と経済成長
ここまでの分析により、政府の規模と経済成長には統計的に有意な負の相関が明
確に存在し、しかもその相関は相当程度に頑健な関係であることが確認できた。と
は言え、これだけの結果で、政府の規模が経済成長率に悪影響を及ぼすメカニズム
が特定できたわけではなく、より踏み込んだ分析が必要である。本節では、本ノー
トを締め括り、今後の検討の方向性を探る第一歩として、政府支出の性質如何が経
済成長に与える影響を探っておこう。
7.1
支出の4分割と定式化
政府支出の規模に注目してきたここまでの分析は、支出の性質を無視し、もっぱ
ら支出の GDP に対する相対的規模のみに関心を払うものであった。しかし、一括
りに政府支出とは言っても、多様な性質のものが含まれており、それらが一律に成
長率に対して同様の影響を与えると考える必然性はどこにもない。同額の政府支出
でも、生産的支出と無駄な支出では、民間経済に与える影響は全く異なる。政府支
出の「質の改善」には重要な意味があるはずである。
以下では、性質別分析の第一歩として、政府総支出を(1)政府最終消費支出(除.
固定資本減耗、現物社会移転)、(2)政府総固定資本形成、(3)社会保障関連支出(現
物社会移転及び現物社会移転以外の社会給付)
、(4)利払い費(財産所得支払)に分
割して分析を行ってみた。推定モデルの定式化は以下の通りである。
GR(Y ) i ,t = α i + β 7 (Con / Y ) i ,t + β 8 ( Inv / Y ) i ,t + β 9 ( Soc / Y ) i ,t + β10 ( Int / Y ) i ,t
16
+ β 2 ln(Y / L) i ,t −1 + β 3 ( Edu ) i ,t + β 4 ( PPP ) i ,t + β 5 (Open) i ,t + β 6 ( Age) i ,t + ε i ,t
…(3)
基本変数は前節6.の(2)式と同様であるが、以前からの政府総支出対GDP比を
以下の4変数に分解している。
(Con / Y ) i ,t :政府消費支出(固定資本減耗、現物社会移転除く)GDP比
( Inv / Y ) i ,t :政府総固定資本形成GDP比
( Soc / Y ) i ,t :社会保障関連支出(現物社会移転及び現物社会移転以外の社
会給付)GDP比
( Int / Y ) i ,t :利払費(財産所得支払)GDP比
7.2
推計結果
表5が、性質別に4分割した政府支出と経済成長率の関係に注目した推定結果で
ある。まず、政府消費については、F 検定で選択される固定効果モデルについて、
マイナス方向に大きく、かつ有意な係数が得られている(表5の<2>、<4>、<6>、
<8>)。特に、対象国を高所得国に限定した場合(表5の<6>、<8>)では、性質別
政府支出のうち政府消費のマイナス効果が最も大きくかつ有意という結果となっ
た。
一方、政府投資については、表5の全推計式においてマイナスの係数が得られた
が、統計的に有意でない結果が見られる。F 検定で選択される固定効果モデルでは、
対象国を限定し、かつ景気変動要因等の影響を除くために前方3期移動平均を施し
た場合11(表5の<8>)を除き、係数がゼロであることを棄却できない結果となっ
ている。政府投資と経済パフォーマンスの関係については、主要先進国を対象にす
る限り結論的なことは言えないものの、両者が正の関係にある可能性は低いようだ。
次に、社会保障関連支出を見ると、係数の符号は全てマイナスになっている。た
だし、対象国を高所得国に限定した場合、係数はマイナスの符号であるものの、そ
の係数は政府消費のそれに比べて小さく有意でないケースも散見される。従って、
移転的性格を有する社会保障支出でもマイナス効果の可能性は否定できないが、政
府自身が支出する政府消費や政府投資よりもマイナス効果が小さいのかもしれな
い。ところで、追加変数として含められた高齢化率の係数は、表5の全推定式にお
いて統計的にゼロであることを棄却できない結果となっている。この結果を文字通
11
表5では、景気変動要因等の影響を除くため、実質経済成長率のみならず政府支出関連及び購買力平
17
り解釈すれば、高齢化それ自体が経済パフォーマンスに悪影響を与えるとは言えな
いが、高齢化と密接に関連する社会保障関連支出については、経済成長と負の関係
が存在する可能性が高いということになる12。高齢化要因以上に社会保障給付を増
大させないことが重要と言えよう。
最後に、(これも移転支出である)利払費についてもマイナスの係数が確認でき
る。移転支出については、本来、経済成長率との関係は弱いとの予想も成り立ち得
るが、他方、利払費の多寡は累積財政赤字の大小とも密接に関連する面があり、債
務残高の累増という財政規律の問題が経済成長率に悪影響を及ぼした結果と解釈
することも可能である13。ただし有意でない結果も散見され、政府消費等に比べる
と移転的支出のマイナスの影響は小さい場合が多い。
8. 結論
本稿では、政府の支出規模と経済成長の関係について、様々な角度から検討した。
結論をまとめれば以下のようになろう。
1) 政府の規模と経済成長には統計的に有意な負の関係がみられ、その関係は
対象国の選択を変えても成立する。
2) 各国の制度的特性の相違、あるいは計測誤差の可能性等を考慮しても、ま
た、景気循環局面の違いがもたらす逆因果(経済パフォーマンスから政府
規模へ)の可能性を考慮しても、両者の負の関係は否定できない。
3) 経済成長を規定する政府規模変数以外の制御変数を加えても、政府の規模
と経済成長の負の関係は安定的である。
4) 政府支出の性質によって経済成長との関係は異なる。なかでも政府消費の
マイナス効果が大きくかつ有意である。また、社会保障関連支出や利払費
価、経済の開放度についても前方3期移動平均を施した。
12
高齢化率と社会保障関連支出が多重共線関係にある可能性を考慮して、高齢化率を説明変数から落とし
た推計も行ったが、社会保障関連支出の係数に大きな変化は生じなかった。
13
財政規律と成長の関係については、政府総支出から利払費を除いた支出(「一般歳出」に近い概念)、あ
るいはより直截には財政赤字相当額を除いた支出(「国民負担」
に近い概念)と経済成長の関係を分析する
ことも興味深い。利払費を除いた支出を説明変数として表4と同様の重回帰分析を行ったところ、表4の結果
とあまり大きな違いは生じなかったが、財政赤字相当額を除いた支出を説明変数とした推定では、係数はマ
イナスであるものの、有意でなくなる推定も散見される結果となった。財政赤字と景気変動の逆因果の問題に
18
等の移転支出についても経済成長率と負の関係を持つ結果が多く得られた
が、そのマイナス効果は政府消費等に比べると小さい場合が多い。
本ノートの推計結果は、政府の規模と経済成長率のマイナスの相関が相当程度に
頑健な関係であることを示している。その意味で、内閣府(2003)や古川他(2000)
、
上村(2001)の分析結果を補強する材料になっている。
高齢化の進展等により、今後先進諸国では政府の支出規模の増大圧力が一層高ま
ることが予想されるが、それらが経済成長にマイナスの影響を及ぼすリスクを回避
する予防的意味で、社会保障関連支出を含む政府の規模の拡大を極力抑制していく
ことが必要だろう。
なお、本ノートでは政府の支出規模と経済成長率というマクロの関係を分析した
が、この分析結果をもたらしている要因については更に詳細なミクロ的な分析が不
可欠である。同額の政府支出であってもその支出の仕方、支給プログラムによって
経済的なインプリケーションは当然異なる。また、政府の規模を抑制するにしても
どの程度の規模が最適規模なのか、といった疑問に答えるには本ノートの分析では
十分ではない。最適規模は各国それぞれの経済社会システムの在り方によっても異
なるだろう。本ノートは、各国特有の要因を固定効果として処理するに止まってい
るが、政策インプリケーションをより豊富なものとするためには、制度設計、ある
いは制度成立の歴史に係る分析が重要になる。今後の課題としたい。
留意する必要があるが、財政規律の問題が経済成長に悪影響を与えている可能性が高いことが窺われる。
19
データ出典
実質経済成長率, 政府総支出及びその内訳, 1人当たり実質GDP
:OECD, “National Accounts”. 内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算」
高等教育修了比率(25 歳以上人口に占める高等教育(大学等)修了者の割合)
:Barro-Lee education data set (2000)
購買力平価
:OECD, “Purchasing Power Parities for GDP”
経済の開放度(GDPに占める輸出入の割合)
:OECD, “National Accounts”
高齢化率(65 歳以上人口の総人口に占める割合)
:OECD, “Labour Force Statistics”
参考文献
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23, 177-200.
Atkinson, A.B. (1995). The welfare state and economic performance. National Tax Journal,
48(2), 171-9.
Barro, R. J. and Lee, J. (2000). International data on educational attainment: Updates and
implications. Harvard University CID Working Paper no. 42.
Ram, R. (1986). Government size and economic growth: A new framework and some
evidence from cross-section and time series data. American Economic Review,
76(1), 191-203.
上村 敏之(2001)「財政負担の経済分析」関西学院大学出版会
小塩 隆士(2001)「社会保障の経済学(第 2 版)
」日本評論社
経済企画庁(1996)「財政・社会保障問題についての参考資料」経済企画庁総合計
画局
20
田中 滋, 安田総合研究所(1997)
「国民負担率問題を考える―国民負担率論議への
問題提起―」財団法人安田火災記念財団
土居 丈朗(2000)「裁量的財政政策の非効率性と財政赤字」財政金融研究所『21
世紀初頭の財政政策のあり方に関する研究会報告書』, 38-61.
内閣府(2003)「平成 15 年度年次経済財政報告」
古川 尚史, 高川 泉, 植村 修一(2000)国民負担率と経済成長−OECD 諸国のパ
ネル・データを用いた実証分析−. 日本銀行調査統計局ワーキング・ペ
ーパー No.00-6.
宮島 洋(1992)
「高齢化時代の社会経済学」岩波書店
21
図1
潜在的国民負担と政府総支出
(概念図)
国民負担,
潜在的国民負担
利払費
15.2兆円
財政赤字
39.8兆円
潜在的
国民負担
170.9兆円
政府総支出
その他
23.2兆円
一般政府
総固定
資本形成
22.9兆円
税負担
79.2兆円
国民
負担
131.2兆
円
政府最終
消費支出
(除く減耗)
74.1兆円
社会保障
負担
51.9兆円
(金利収入等)
18.7兆円
現物社会移転以
外の社会給付
(年金、失業給
付等)
54.1兆円
(国民所得:362.8兆円)
(名目GDP:497.6兆円)
その他収入
(注)数字は日本の2002年度の値。全てSNAベース。
潜在的国民負担の財政赤字は国・地方の貯蓄投資差額。
政府総支出のその他には「商品・非商品販売」を含む。
22
政府総支出
189.6兆円
図2 政府総支出と経済成長率の散布図
政府総支出と経済成長率
実質GDP成長率(%)
14.0%
12.0%
10.0%
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
10%
-2.0% 0%
-4.0%
-6.0%
-8.0%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
政府総支出GDP比(%)
Al
Ar
Be
Ca
Cz
De
Fr
Ge
Gr
Ir
It
Jp
Ko
Lu
Ne
Nz
Pt
Swe
UK
US
推計式 (
実質GDP成長率)
=α + β(
政府総支出対GDP比)
各国共通の切片
β
-0.128*
(-10.39)
adjR2
0.229
s.e.
0.022
-プーリング推計(備考)
1.OECD "National Accounts", 内閣府「国民経済計算年報」より作成。
2.推計期間は1981年から2002年(欠損値あり)。
3.( )内はt値。adjR2は自由度修正済決定係数。s.e.は推計式の標準誤差。
4.*は、係数が5%水準で有意であることを示す。
政府総支出と経済成長率
実質GDP成長率(%)
14.0%
12.0%
10.0%
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
-2.0%-50%
-40%
-4.0%
-6.0%
-8.0%
-30%
-20%
-10%
0%
10%
Al
Ar
Be
Ca
Cz
De
Fr
Ge
Gr
Ir
It
Jp
Ko
Lu
Ne
Nz
Pt
Swe
UK
US
20%
固定効果調整済 政府総支出GDP比(%)
(=政府総支出GDP比+各国別切片/β)
推計式 (実質GDP成長率)=αi + β(
政府総支出対GDP比)
各国個別の切片
adjR2
0.381
β
-0.198*
(-5.97)
s.e.
0.020
-固定効果推計(備考)
1.OECD "National Accounts", 内閣府「国民経済計算年報」より作成。
2.推計期間は1981年から2002年(欠損値あり)。
3.( )内はt値。adjR2は自由度修正済決定係数。s.e.は推計式の標準誤差。
4.*は、係数が5%水準で有意であることを示す。
5.**は、プーリングと固定効果が1%水準で有意に異なることを示す。
23
F値
5.651**
図3 OECD諸国における潜在的国民負担率と経済成長率の関係
国民負担率が高い国ほど経済成長率は低い
実質GDP増加率(%)
6.0
y = -0.0932x + 6.7345
R2 = 0.3461
4.0
2.0
0.0
20.0
日本
25.0
30.0
35.0
40.0
45.0
50.0
55.0
60.0
潜在的国民負担率(GDP比,%)
(備考)OECD「National Accounts」により作成
1971年から2001年までの平均値
(出典)内閣府「平成15年度年次経済財政報告」。第3-3-6図。
24
アメリカ
イギリス
フランス
ドイツ
イタリア
日本
オーストリア
ベルギー
デンマーク
オランダ
スペイン
ポルトガル
スウェーデン
フィンランド
アイルランド
ギリシャ
ルクセンブルク
チェコ
スロバキア
図 4 高 所 得 国 (1980年 時 点 上 位 15カ国 )限 定 の 散 布 図と回 帰 結 果
政府総支出 と経済成長率
実質GDP成長率(%)
10.0%
(対象国:1人当実質GDP上位15カ国(1980年時点))
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
-2.0%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
-4.0%
政府総支出GDP比(%)
Al
Ar
Be
Ca
De
Fr
Ge
It
Jp
Lu
Ne
Nz
Swe
UK
US
推計式 (実質 GDP成長率)= α + β(政府総支出対 GDP比 )
各国共通の切片
β
-0.065 *
(-4.81)
adjR2
0.074
s.e.
0.018
-プーリング推計(備考)
1.OECD "National Accounts", 内閣府「国民経済計算年報」より作成。
2.推計期間は1981年から2002年(欠損値あり)。
3.( )内はt値。adjR2は自由度修正済決定係数。s.e.は推計式の標準誤差 。
4.*は、係数が5%水準で有意であることを示す。
政府総支出と経済成長率
実質GDP成長率(%)
10.0%
Al
Ar
Be
Ca
De
Fr
Ge
It
Jp
Lu
Ne
Nz
Swe
UK
US
(対象国:1人当実質GDP上位15カ国(1980年時点 ))
8.0%
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
-35%
-2.0%
-30%
-25%
-20%
-15%
-10%
-5%
0%
-4.0%
固定効果調整済 政府総支出GDP比(%)
(=政府総支出GDP比+各国別切片/β)
推計式
(実質GDP成 長 率)=α i + β (政府総支出対GDP比)
各国個別の切片
β
-0.175 *
(-4.92)
adjR2
0.160
s.e.
0.017
-固定効果推計(備考)
1.OECD "National Accounts", 内閣府「国民経済計算年報」より作成。
2.推計期間は1981年から2002年(欠損値あり)。
3.( )内はt値。adjR2は自由度修正済決定係数。s.e.は推計式の標準誤差 。
4.*は、係数が5%水準で有意であることを示す。
5.**は、プーリングと固定効果が1%水準で有意に異なることを示す。
25
F値
3.050 **
図 4’ 高 所 得 国 限 定 の 散 布 図 と回 帰 結 果 II:ル クセンブル クを除 い た場 合
政 府 総 支 出 と経 済 成 長 率
実 質 G D P 成 長 率 (%)
8.0%
Al
Ar
Be
Ca
De
Fr
Ge
It
Jp
Ne
Nz
Swe
UK
US
(対 象 国 :1人 当 実 質 G D P 上 位 15カ国 (1980年 時 点 ), Exc.L u)
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
-2.0%
-4.0%
政 府 総 支 出 GDP比 (%)
推 計 式 (実 質 G D P 成 長 率 )= α + β (政 府 総 支 出 対 G D P比 )
β
-0.056 *
(-4.46)
各 国 共 通 の切 片
adjR2
0.067
s.e.
0.017
-プー リング推 計 (備 考 )
1.O E C D "National Accounts", 内 閣 府 「国 民 経 済 計 算 年 報 」より作 成 。
2.推 計 期 間 は 1981年 か ら2002 年 (欠 損 値 あり)。
3.( )内 は t値 。adjR 2は 自 由 度 修 正 済 決 定 係 数 。s.e.は 推 計 式 の 標 準 誤 差 。
4.*は 、係 数 が 5% 水 準 で 有 意 であることを示 す 。
政 府 総 支 出 と経 済 成 長 率
実 質 G D P 成 長 率 (%)
8.0%
Al
Ar
Be
Ca
De
Fr
Ge
It
Jp
Ne
Nz
Swe
UK
US
(対 象 国 :1人 当 実 質 G D P 上 位 15カ国 (1980年 時 点 ), Exc.Lu)
6.0%
4.0%
2.0%
0.0%
-25%
-2.0%
-20%
-15%
-10%
-5%
0%
-4.0%
固 定 効 果 調 整 済 政 府 総 支 出 GDP比 (%)
(=政 府 総 支 出 GDP比 +各 国 別 切 片 /β )
推計式
(実 質 G D P 成 長 率 )= α i + β (政 府 総 支 出 対 G D P 比 )
各 国 個 別 の切 片
β
-0.166 *
(-4.80)
adjR2
0.101
s.e.
0.017
-固 定 効 果 推 計 (備 考 )
1.O E C D "National Accounts", 内 閣 府 「国 民 経 済 計 算 年 報 」より作 成 。
2.推 計 期 間 は 1981年 か ら2002 年 (欠 損 値 あり)。
3.( )内 は t値 。adjR 2は 自 由 度 修 正 済 決 定 係 数 。s.e.は 推 計 式 の 標 準 誤 差 。
4.*は 、係 数 が 5% 水 準 で 有 意 であることを示 す 。
5.**は 、プ ー リングと固 定 効 果 が 1% 水 準 で 有 意 に 異 なることを示 す 。
26
F値
1.773
表1
OECD諸国を対象とした先行研究
係数
説明変数
内閣府(2003)
-0.093
潜在的国民負担率
古川他(2000)
-0.143
(-16.62)
上村(2001)
推計手法
推計期間
対象国
(1971-01年の平均値)
-
OECD19カ国
潜在的国民負担率
プーリング
1960-96
OECD13カ国
-0.274
(-20.48)
〃
固定効果
-0.063
(-3.28)
国民負担率
プーリング
1983-94
OECD22カ国
-0.372
(-4.78)
〃
固定効果
クロスセクション
(備考)被説明変数は全て実質GDP成長率。説明変数は全てGDP比。
( )内はt値。また、説明変数は全て上記の変数だけの単回帰。
27
表2 単回帰に見る政府支出規模と経済成長率とその頑健性
推計式 (実質GDP成長率)=αi + ß(政府総支出対GDP比)+εi,t
対象国
<1>
全対象国
推計方法
β
OLS(プーリング)
-0.128 *
adjR2
s.e.
サンプル数
F-値
0.229
0.022
361
-
0.381
0.020
361
5.652 **
0.067
0.017
267
-
0.101
0.017
267
1.773
0.247
0.022
325
-
0.390
0.020
325
-
0.074
0.016
246
-
0.052
0.016
246
-
0.277
0.017
358
-
0.481
0.015
358
8.390 **
0.063
0.012
265
-
0.063
0.012
265
-
(-10.39)
LSDV(固定効果)
<2>
-0.198 *
(-5.97)
<3>
対象国限定
OLS(プーリング)
-0.056 *
(-4.46)
LSDV(固定効果)
<4>
-0.166 *
(-4.80)
<5>
全対象国
IV(プーリング)
-0.121 *
(-9.10)
IV(固定効果)
<6>
-0.103 *
(-5.97)
<7>
対象国限定
IV(プーリング)
-0.043 *
(-3.20)
IV(固定効果)
<8>
-0.057
(-1.15)
被説明変数:前方3期移動平均
<9>
全対象国
OLS(プーリング)
-0.113 *
(-11.72)
LSDV(固定効果)
<10>
-0.063 *
(-5.97)
被説明変数:前方3期移動平均
<11>
対象国限定
OLS(プーリング)
-0.040 *
(-4.34)
<12>
#
GLS(変量効果)
-0.038 *
(-3.01)
(備考)
1.OECD "National Accounts", 内閣府「国民経済計算年報」より作成。
2.推計期間は1981年から2002年(欠損値あり)。
3.( )内はt値。adjR2は自由度修正済決定係数。s.e.は推計式の標準誤差。
4.*は、係数が5%水準で有意であることを示す。
5.**は、OLS(プーリング)とLSDV(固定効果)が1%水準で有意に異なることを示す。
6.IV(操作変数)として、政府総支出の1∼3期ラグを用いた。
7.「対象国限定」:1人当実質GDP上位15カ国(1980年購買力平価換算), ただしルクセンブルク除く。
#<12>については、Hausman Testの結果、変量効果(Random Effect)推計を選択。
28
表3 1980年時点一人当たり実質GDP
(1995年価格、米ドル購買力平価換算)
1980年
16,272
17,154
16,890
18,649
12,571
17,811
16,611
16,132
12,355
10,557
15,823
15,029
4,127
18,375
17,096
14,305
9,017
17,544
14,526
20,955
Al
オーストラリア
Ar
オーストリア
Be
ベルギー
Ca
カナダ
Cz
チェコ
De
デンマーク
Fr
フランス
Ge
ドイツ
Gr
ギリシャ
Ir
アイルランド
It
イタリア
Jp
日本
Ko
韓国
Lu
ルクセンブルク
Ne
オランダ
Nz
ニュージーランド
Pt
ポルトガル
Swe
スウェーデン
UK
イギリス
US
アメリカ
* 上位15カ国。
ただし、チェコはデータの制約から1990年の値。
OECD, National Accounts
29
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
*
表4 拡張(重回帰)モデルに見る政府支出規模と経済成長
<全対象国>
<対象国限定>
被説明変数:
<1>
<2>
<3>
<4>
<5>
<6>
<7>
<8>
<9>
<10>
<11>
<12>
実質経済成長率(#:前方3期移動平均)
OLS
LSDV
IV
IV
OLS#
LSDV#
OLS
LSDV
IV
IV
OLS#
LSDV#
説明変数:
政府総支出(GDP比)
経済発展度合(Ln(1人当実質GDP).-1)
高等教育修了比率
※
購買力平価(変化率:US$/自国通貨)
経済の開放度(輸出入GDP比)
高齢化率(65歳以上人口比率)
国別固定効果
F-値(国別固定効果)
-0.132 *
-0.179 *
-0.126 *
-0.175 *
-0.093 *
-0.058 *
-0.088 *
-0.191 *
-0.042 *
-0.285 *
-0.047 *
-0.080 *
(-7.73)
(-4.62)
(-6.54)
(-2.64)
(-7.52)
(-2.29)
(-4.60)
(-4.44)
(-2.01)
(-3.66)
(-3.51)
(-2.93)
-0.012
-0.037 *
0.010 *
-0.130 *
-0.018 *
-0.055 *
-0.010
-0.060 *
0.005 *
-0.198 *
-0.021 *
-0.071 *
(-1.87)
(-2.74)
(11.1)
(-4.29)
(-3.69)
(-6.24)
(-1.01)
(-2.86)
(4.31)
(-3.77)
(-2.88)
(-5.41)
-0.010
0.017
-0.038 *
0.304 *
0.002
0.056
0.005
0.049
-0.001
0.360 *
0.012
0.113 *
(-0.64)
(0.27)
(-2.78)
(2.88)
(0.13)
(1.31)
(0.33)
(1.47)
(-0.07)
(3.16)
(1.28)
(2.78)
0.126 *
0.173 *
0.030
0.252 *
0.113 *
0.110 *
0.037
0.126 *
0.059
0.485 *
0.089 *
0.174 *
(3.24)
(3.43)
(0.57)
(2.43)
(4.00)
(3.37)
(0.69)
(2.05)
(0.73)
(3.35)
(2.39)
(4.49)
0.023 *
0.049 *
0.022 *
0.032
0.019 *
0.049 *
0.013 *
0.056 *
0.006
-0.002
0.007 *
0.027 *
(6.30)
(2.85)
(5.84)
(1.21)
(7.15)
(4.38)
(3.08)
(2.66)
(1.24)
(-0.07)
(2.25)
(2.05)
-0.021
-0.112
-0.151 *
0.037
-0.063
-0.063
0.023
-0.033
-0.044
0.190
-0.021
-0.177
(-0.36)
(-0.70)
(-2.80)
(0.17)
(-1.51)
(-0.60)
(0.43)
(-0.21)
(-0.89)
(0.80)
(-0.56)
(-1.83)
○
7.782 **
-
○
3.366 **
-
○
3.345 **
-
○
-
-
自由度修正済決定係数
0.359
0.436
0.351
0.407
0.473
推計式の標準誤差
0.020
0.019
0.021
0.020
0.015
サンプル数
315
315
286
286
313
(備考)
1.OECD "National Accounts", 内閣府「国民経済計算年報」より作成。
2.推計期間は1981年から2002年(欠損値あり)。
3.(
)
内はt値。
4.*は、係数が5%水準で有意であることを示す。
5.**は、OLS(プーリング)とLSDV(固定効果)が1%水準で有意に異なることを示す。
6.IV(操作変数)
として、政府総支出は1∼3期ラグ、他の変数は1期ラグを用いた。
※高等教育修了比率=25歳以上人口に占める高等教育(大学等)修了者の割合(Barro-Lee education dataset(2000))
0.623
0.012
313
0.086
0.017
242
0.191
0.016
242
0.065
0.016
224
○
0.110
0.016
224
0.131
0.012
241
○
7.730 **
0.368
0.010
241
表5 政府支出の性質別項目と経済成長率
全対象国
対象国限定
被説明変数:
<1>
<2>
<3>
<4>
<5>
<6>
<7>
<8>
実質経済成長率(#:前方3期移動平均)
OLS
LSDV
OLS#
LSDV#
OLS
LSDV
OLS#
LSDV#
説明変数:
政府消費(GDP比)
-0.052
-0.312 *
-0.026
-0.248 *
-0.032
-0.823 *
-0.007
-0.549 *
-減耗、現物社会移転除く-
(-1.52)
(-2.52)
(-0.97)
(-2.62)
(-1.00)
(-4.62)
(-0.33)
(-4.40)
政府投資(GDP比)
社会保障関連支出(GDP比)
利払費(GDP比)
経済発展度合(Ln(1人当実質GDP).-1)
高等教育修了比率※
購買力平価(変化率:US$/自国通貨)
経済の開放度(輸出入GDP比)
高齢化率(65歳以上人口比率)
国別固定効果
F-値(国別固定効果)
-0.415 *
-0.355
-0.307 *
-0.087
-0.279 *
-0.341
-0.180
-0.413 *
(-3.05)
(-1.55)
(-2.91)
(-0.51)
(-2.05)
(-1.26)
(-1.85)
(-2.15)
-0.227 *
-0.386 *
-0.210 *
-0.232 *
-0.126 *
-0.188
-0.116 *
-0.095
(-7.38)
(-3.83)
(-8.78)
(-3.20)
(-3.84)
(-1.91)
(-5.06)
(-1.50)
-0.123 *
-0.144
-0.123 *
-0.160 *
-0.135 *
0.005
-0.123 *
-0.094
(-2.70)
(-1.58)
(-3.50)
(-2.39)
(-2.60)
(0.05)
(-3.35)
(-1.32)
0.001
-0.060 *
-0.001
-0.090 *
-0.010
-0.089 *
(0.17)
0.006
-0.050 *
(0.79)
(-2.76)
(-5.33)
(-0.08)
(-4.09)
(-1.42)
(-6.81)
-0.051 *
0.028
-0.040 *
0.026
-0.024
0.046
-0.013
0.053
(-2.79)
(0.41)
(-2.79)
(0.55)
(-1.33)
(0.68)
(-0.96)
(1.19)
0.149 *
0.232 *
0.141 *
0.273 *
0.093
0.132 *
0.106 *
0.160 *
(3.63)
(4.81)
(3.90)
(6.45)
(1.62)
(2.05)
(2.07)
(2.89)
0.022 *
0.275 *
0.021 *
0.070 *
0.012 *
0.055 *
0.011 *
0.038 *
(6.33)
(5.61)
(8.21)
(5.74)
(2.49)
(2.45)
(3.29)
(2.40)
-0.053
0.007
-0.074
-0.095
-0.041
0.127
-0.050
0.001
(-1.01)
(0.04)
(-1.89)
(-0.93)
(-0.78)
(0.86)
(-1.37)
(0.00)
-
○
6.755 **
-
○
10.468 **
-
○
4.909 **
-
自由度修正済決定係数
0.157
0.374
0.386
0.615
0.096
0.259
推計式の標準誤差
0.019
0.017
0.013
0.010
0.016
0.014
サンプル数
275
275
264
264
222
222
(備考)
1.OECD "National Accounts", 内閣府「国民経済計算年報」より作成。
2.推計期間は1981年から2002年(欠損値あり)。
3.(
)
内はt値。
4.*は、係数が5%水準で有意であることを示す。
5.**は、OLS(プーリング)とLSDV(固定効果)が1%水準で有意に異なることを示す。
6.現物社会移転についてのデータの制約上カナダが対象国から除かれている。
7.「
対象国限定」: 1人当実質GDP上位15カ国(1980年購買力平価換算),ただしルクセンブルク除く。
8.景気変動要因等を除くため、<3>,<4>,<7>,<8>については政府支出関連及び購買力平価、経済の開放度も前方3期移動平均を施した。
※高等教育修了比率=25歳以上人口に占める高等教育(大学等)修了者の割合(Barro-Lee education dataset(2000))
0.202
0.011
214
○
10.669 **
0.492
0.009
214