北海道大学 (会社名:MSゴシック 22ポイント)

設計機能工学講座 材料機能学分野
1.
分野概要
スタッフ
所属学生
担当科目
2.
教授 :野口 徹、 専門分野:機械材料学、鋳造工学、破損解析学
助教授:中村 孝、 専門分野:材料強度学、疲労強度学、高分子の環境強度
助手 :堀川紀孝、 専門分野:機械材料学、鋳造工学
技官 :藤田 実
D3:1名、D2:1名、M2:3名、M1:4名、UG:5名
大学院:材料安全工学特論、材料機能学特論
学部 :材料工学、新素材工学、設計演習、ラボラトリーセミナー、物理工学コロキウム
分野の目標
社会の安全とより高度な福祉、より良い環境と省エネルギと省資源、未知の空間あるいは極限環境への挑戦、これらを
実現するためには、より高機能で合理的に設計・製造された機械、装置、構造物が必要です。そして、これに適応するた
めの構造材料が要求され、その機能が最大限に発揮される必要があります。本研究室では、材料の微視的組織への深い理
解、素材製造過程まで含めた「テーラードマテリアル」の考え方、常に新たな視点による材料評価法と設計への応用法の
提案、に基づき、材料研究の立場から社会に貢献することを目標としています。具体的には(1)機械の超長寿命化を支
える材料強度評価法の開発(2)極限環境で用いられる材料の開発と特性評価、
(3)省エネルギ、省資源、高機能を支
える材料複合化技術の展開、(4)新たな材料試験技術の開発(5)実機における破損解析とその設計への応用手法、を
柱とした研究を行っています。
研究紹介
3.1
高強度金属材料における超高サイクル疲労破壊機構の解明
機械構造物の破損の 7~8 割以上は、材料に繰返し荷重が加わった結果と
して破壊する疲労現象が原因とされており、疲労に対する対策は機械技術者
にとって最も切実な課題のひとつです。通常、鉄鋼材料の S-N 曲線には、106
~107 程度の繰返し数で水平部、すなわち疲労限度が現れます。一般の機械で
はこの疲労限度を基準とした設計が行われています。しかし、高強度鋼や表
面硬化鋼、Ti 合金などの高強度金属材料において 107~108 以上の長寿命域で
も S-N 曲線に水平部が現れず、疲労限度が認められない超高サイクル疲労と
呼ばれる現象が現れます.図1に本研究室で得られた Ti-6Al-4V の疲労試験
結果を示します。S-N 曲線は 107 以降で急激に下方に折れ曲がっています。こ
れは、107 程度の実験で得られた疲労強度データが、より長寿命域における設
計に使用できないことを意味します。
超高サイクル疲労破壊は、材料の内部を起点として生じるという、従来の
常識とは異なる特性を示します。また、低い応力でも生じ、破壊までの繰返
し数が極めて大きいといった特徴をもっています。現在、2000MPa 級の高強
度鋼、Ti 合金などを対象として、107~109 程度の領域までの疲労特性を明ら
かにすること、材料内部の環境を模擬した真空中の疲労試験を行なうこと、
破面解析により内部き裂の伝播過程を明確にすること、などによって超高サ
イクル疲労破壊の機構解明と評価法の確立を目指しています。
3.2 高分子材料の宇宙環境における劣化機構の解明と劣化防止法の開発
高分子材料は成形性や柔軟性に優れ軽量であるため、様々な用途で利用さ
れており、宇宙空間においても重要な材料として位置付けられています.現
在、国際宇宙ステーション(ISS)等の宇宙構造物では熱制御材や太陽電池パネ
ルの構成材などに利用されています。しかし、宇宙空間は紫外線や電子線の
降り注ぐ過酷な環境であり、高分子材料を長期間使用した場合の特性変化が
必ずしも明確ではありません。図2は原子状酸素を照射した PEEK(ポリエー
テルエーテルケトン)の表面の原子間力顕微鏡像です。ISS の軌道高度では、
紫外線によって解離した原子状酸素との衝突によって高分子材料表面がこの
ような損傷を受けます。
本研究室では、宇宙環境応用工学分野 藤田修教授のグループとの共同研
究として、2001 年から宇宙開発事業団(NASDA:現宇宙航空研究開発機構 JAXA)
が統括する宇宙実験プロジェクトへ参画しています。ここでは、ISS のロシ
Maximum stress σmax (MPa)
3.
950
R=0.1
f=120Hz
900
850
800
750
700
650
○ Surface originated
● Interior originated
△ Unbroken
600
4
5
6
7
8
9
10 10 10 10 10 10
Number of cycles to failure Nf
図1
図2
Ti-6Al-4V 合金の S-N 曲線
原子状酸素による PEEK 表面の損傷
アサービスモジュールの外壁に、引張応力を加えた PEEK を取付け、宇宙環境に長期間(1~3年間)曝露する実験を行っ
ています。一部のサンプルはすでに分析が始まっています.また、同種の試料に原子状酸素、紫外線、電子線を照射する
地上対照実験を行ない、地上対照試験片と宇宙曝露試験片の解析を通じ、損傷特性と損傷機構の研究を進めています.こ
れらを明らかにすることによって、宇宙空間で高分子材料を使用する場合の強度評価基準の確立を目指しています。
3.3 鋳造を応用した異種部材接合法の開発
鋳型内に設置した心材(被接合部材)の周りに金属溶湯を流し込み、鋳造成
形と同時に異種金属部材と接合した複合化鋳造品を製造する手法を「複合化鋳
造」と呼んでいます。この方法は鋳ぐるみとして古くから用いられており、鋳
造による成形性、形状設計の自由度と、接合複合化による高機能化を同時に達
成させることができ、さらに製造工程を大幅に合理化できることから、多くの
需要、工業的な要望があります。しかしこれまでは、接合の機構や必要条件が
十分に把握されていなかったために、経験的な判断と試行錯誤により設計、製
造がなされていました。本研究室ではこれを、信頼できる生産手法として確立
するため、接合界面での溶湯の冷却凝固挙動に着目し、差分法による伝熱-凝
固解析の手法を用いて、接合の機構と良好な接合を得るための形状寸法条件の
解析を行っています。これまでに、鋳鉄と各種の鋼、アルミニウム合金と鋼お
よび Ti 合金、鋳鉄と超硬合金の組み合わせについて、心材と溶湯の温度、濡
れ接触、相互拡散、溶融等からなる接合の機構と過程を明らかにしました。現
在はさらに、形状寸法条件(心材の寸法と、溶湯/心材体積比の組合せ)、鋳造
方案、注湯温度などの条件から接合状態を的確に予測する手法を検討し、また
実製品への応用へ向けた様々な試みを行っています。
3.4 薄肉球状黒鉛鋳鉄の製造と強度評価
鋳鉄材料は複雑形状を簡単かつ大量に成形できることから、多くの機械製品
に用いられています.特に球状黒鉛鋳鉄は炭素鋼に匹敵する強度をもち、機械
構造用材料として利用されています.しかし、肉厚を薄くすると鋳造時にチル
化による脆化や湯周り不良などの問題が生じやすいため、薄肉の構造物への適
用は難しいとされています.本研究室では鋳造品メーカーや室蘭工大との共同
研究により、溶湯を減圧中で脱ガス処理する LPD 法を用いて薄肉の球状黒鉛鋳
鉄鋳造品を製造し、その強度特性の評価を行っています.現在、従来の限界の
半分以下である厚さ 2mm の球状黒鉛鋳鉄の薄肉製品を実現しました.引張試験
により 2mm でも数%の伸びを期待できること確かめ、さらに伸びを向上させる
試みを続けています.さらに、薄肉製品の場合、従来の標準試験片による強度
評価が難しいため、薄肉に適した強度評価法の確立を目指しています.
図3
シミュレーションによる
複合化鋳造の最適化
図4 厚さ 2mm(右)と 4mm(中)の球状黒鉛
鋳鉄製試験片.左端はノート(約 5mm)
3.5 超磁歪材料の磁気機械特性
超磁歪材料とは磁場をかけることにより大きく変形する材料で、電圧により変形するピエゾ素子よりも応答速度・変位量
などの点で優れており、アクチュエーターやセンサ素子としての利用が期待されています.最近、Terfenol-D 型超磁歪
材料は、粉末冶金法を用いた製造法の開発により製造コストが大幅に低下し、注目を集めています.実用化には、製造過
程で生じる気孔を含む粉末冶金材としての磁気機械特性を明らかにする必要があります.本研究室では、磁気特性の測定、
剛性試験および疲労試験により、超磁歪材料の磁気機械連成特性および強度特性を詳しく調べています.さらに材料特性
に対する初期応力、気孔率等の効果を整理し、強度評価および性能評価手法を開発することで実用化に貢献します.
3.6 破損事故への破損解析法の応用研究
機械構造物では、運転使用中、あるいは製作製造の過程で、何らかの破損が生じる場合があり、時として重大な事故に
つながります。当研究室ではこれまで、警察、裁判所、労働基準局など公的機関からの調査鑑定依頼を始め、企業からの
依頼によるものを含めて 100 件以上の原因調査を行っています。破損・破壊は構造物・部材の設計、製作加工、運転管理
のいずれか、あるいは複数に過誤があったために生じ、その原因究明には機械工学的、力学的な手法と、金属学・材料工
学の両方の手法が要求され、また破面の判断等には多くの経験が必要です。当研究室ではこの手法を工学的に確立するこ
とを目指し、また事例の解析を通して安全に寄与するための研究を行っています。
4.
主な研究設備
引張圧縮試験機(ミネベア製 TCM1000、98kN)
、高応答小型デジタルサーボ疲労試験機(制御部:日本ムーグ J124X031、
1000kgf ~300Hz)、高真空疲労試験機(真空機器部:日本真空 YTP150M、10-6Pa)、磁気機械特性試験機(独自開発、200kA/m)
問合せ先:
野口
徹
E-mail:[email protected]、Tel. 011-706-6420、Fax. 011-706-7889