教育目標のタキソノミー(分類学)

No.0078(解説)
First Uploaded 2008.3.7
Revised Ver. 2.1 2008.3.24
出典情報: http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/pictures/subpages_j/0078(taxonomy).html
教育目標のタキソノミー(分類学)
□
Taxonomy of Educational Objectives
日本の教育分野でタキソノミーと言えば、一般的にはベンジャミン・ブルーム(1956)が
“Taxonomy of educational objectives”のなかで提唱した「教育目標のタキソノミー(分類
学)」を指すことが多い。
□
教育目標の分類(カテゴリー化)と言っても、そのカテゴリーは何を目的としてつくるかに
よってさまざまなバリエーションが生じる。
ブルームの場合、教育目標の分類は授業や教育評価、学力の到達基準(performance
standard)を規定するためであり、これによって授業や教育の方向付け(何を達成するのか)
が明確になった。ブルームは、このタキソノミーを通して「完全習得学習 mastery learning」
へと関心が向かった。教育・授業目標への到達過程を評価する有名な
・
診断的評価 diagnostic evaluation
・
形成的評価 formative evaluation
・
総括的評価 summative evaluation
も、この完全習得学習を実現するための評価機能である。
□
教育目標のタキソノミーは、教育目標=授業目標を以下の3次元で構想している(表参照)。
・
認知的領域 cognitive domain:
組織的原理は精神的操作の複雑化であり、それに従って、目標は知識→理解→
応用→分析→総合→評価というかたちで高次化していく。
・
情意的領域 affective domain:
組織的原理は価値・態度の内化であり、目標は受容(注意)→反応(興味)→
価値づけ(態度)→価値の組織化(人生哲学)→価値または価値複合体による
個性化(ライフスタイル)というかたちで高次化する。
・
精神運動的領域 psychomotor domain:
組織的原理は神経系と筋肉系とのあいだの協応の達成である。この領域の目標
分類は何人かによって提案がなされているが、認知的領域や情意的領域と異な
り、決定的なものはない。表では、デイヴの枠組み、模倣→巧妙化→精密化→
分節化→自然化というかたちで高次化するものを紹介している。
表
教育目標のタキソノミーの全体的構成
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No.0078(解説)
6.0
評価
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
総合
分析
応用
理解
知識
個性化
組織化
価値づけ
反応
受け入れ
自然化
分節化
精密化
巧妙化
模倣
認知的領域
情意的領域
精神運動的領域
(注)
□
梶田(1983/1992)、表 5-1 より(p.128)
しかし,タキソノミーによる目標分類は目標の細分化、要素主義的傾向を招き、いわゆる「目
標つぶしの授業展開」という批判を浴びることとなる。また、文化状況の異なるアメリカの
教育理論を直輸入するのではなく、日本独自の教育的文脈のなかで教育目標のタキソノミー
を考え直していくべきだとする考え方もある。
□
このようななかで梶田(1983/1992)は、仏典(法華経)の「開」
「示」
「悟」
「入」といった
内面化プロセスにもとづく教育目標分類表を提案している(下記)。これを見ると、わが国の
教育では一般的に、「示」ばかりで「開」や「悟」が弱いことなどがわかってくる。
表
開・示・悟・入とタキソノミーの主要次元
タキソノミーの主要次元
主要指導目標
・目を開かせる
・心を耕す
・ポイントをわからせる
・一応できるようにさせる
開
示
悟
・自分なりに納得するところま
でもっていく
入
・生活や人柄の一部となるよう
にさせる
(注)
□
認知的領域
情意的領域
精神運動的領域
1.受け入れ
2.反応
1.
2.
3.
4.
5.
知識
理解
応用
分析
総合
6. 評価
3.価値づけ
1. 模倣
2. 巧妙化
4. 組織化
3. 精密化
4. 分節化
5.個性化
5. 自然化
梶田(1983/1992)、表 5-5 より(p.153)
フィールドワークや参加型授業といったアクティブ・ラーニングは「開」や「悟」を目指す
授業実践であると考えられるが、知識の獲得と活動が密接に連動していなければ、結果表層
的な活動に終わってしまうことが多い。その原因の一つをこの表を利用して考えてみると、
認知的領域の「3.0 応用」
「4.0 分析」
「5.0 総合」に力点が置かれすぎて、認知的領域の下位
次元である「1.0 知識」「2.0 理解」が軽視されている、といったようなことが見えてくる。
【参考文献】
Bloom, B, S. (Ed.) (1956). Taxonomy of educational objectives: The classification of
educational goals. Handbook I: Cognitive domain. London: Longmans.
Dave, R. H. (1969). Developments in educational testing, Vol.1. London: University of London
Press.
梶田叡一 (1992). 教育評価 [第2版]. 有斐閣双書. (初版 1983).
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No.0078(解説)
日本カリキュラム学会 (編) (2001). 現代カリキュラム事典. ぎょうせい.
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