pdf file 489 K - Kawamata Laboratory, Tohoku University - 東北大学

第22回 回路とシステム
軽井沢ワークショップ
The 22nd Workshop on Circuits and Systems
in Karuizawa, April 20-21, 2009
ダクト内の音場を考慮したマルチチャネル ANC システムの構築
Construction of a Multi-channel Active Noise Control
System in Consideration of the Acoustic Field in a Duct
菅原 直志
阿部 正英
川又 政征
東北大学 大学院工学研究科 電子工学専攻
Tadashi SUGAHARA
Masahide ABE
Masayuki KAWAMATA
Depertment of Electronic Engineering, Graduate School of Engineering, Tohoku University
1
はじめに
アクティブノイズコントロール (Active Noise Control: ANC) は,騒音にそれ自身と同振幅,逆位相の
音をスピーカから放出し,波の干渉の原理によって
騒音を低減する技術である.ANC は,遮音や吸音
などによる受動的な騒音制御では不得意である低域
(およそ 500[Hz] 以下) において高い消音効果が得ら
れる.このため,自動車の排気マフラや空調ダクト
などに応用されている [1].
1 次近似可能なダクトの ANC は,単一の消音ス
ピーカ(2 次音源)と誤差マイクロホンのシングル
チャネル ANC で制御できる.しかし,シングルチャ
ネル ANC は単一の音響経路に対してのみしか制御
できないため,十分な消音効果を得られない場合が
ある.例として,誤差マイクロホンの位置で定在波
の節が現れる周波数において消音性能が劣化するこ
とが知られている [2].
本稿では,複数のスピーカとマイクロホンにより,
マルチチャネル ANC システムを構築する.構築する
ANC システムでは,ダクト内の音場に影響を与える
音響フィードバックと定在波を考慮してスピーカとマ
イクロホンを配置する.また,Filtered-x Least Mean
Square (FxLMS) アルゴリズム [3] を実装し,ANC
システムの基本的な動作をシングルチャネル ANC
において検証する.そして,マルチチャネル ANC
システムに Mulitple-Error FxLMS (MEFxLMS) ア
ルゴリズム [3, 4] を実装し,ダクト内の騒音を低減
させる.さらに,Filtered-x Least Maximum Mean
Square (FxLMMS) アルゴリズムを用いて係数更新
の演算量を削減し [5, 6],同様に実験する.最後に,
実験結果からマルチチャネル ANC により,シング
図 1: ダクト内における ANC システム
ルチャネル ANC と比較してダクトの終端における
残留騒音の減衰量を大きくできることを示す.
2
ダクト内における ANC システムのモデル
図 1 は,ダクト内におけるフィードフォワード形
の ANC システムの概略図を示したものである.図
1 に示す ANC システムは,1 個参照マイクロホンと
K 個の 2 次音源,M 個の誤差マイクロホン,ANC
コントローラから構成されている.
本節では,ダクト内におけるシングルチャネル及
びマルチチャネルの ANC システムについて議論し,
ANC システムに実装する適応アルゴリズムを導出
する.
2.1
シングルチャネル ANC システム
図 1 の ANC システムは,対象とする騒音の周波
数 f が以下の条件を満たすとき,ダクト内部を 1 次
元で近似することができる [1].
c
f<
(1)
2D
ここで,c と D はそれぞれ音速とダクトの断面寸法
である.
本節では,1 次元近似したダクトにおいて K =
M = 1 とするシングルチャネルの ANC について議
論する.
− 398 −
となる.ただし,L は W (z) のタップ数であり,x′ (n)
は
J−1
∑
x′ (n) =
sˆj x(n − j)
(7)
j=0
ˆ
により,入力信号 x(n) とタップ数 J の S(z)
のフィ
ルタ係数 sˆj とのたたみこみにより求められる.
2.2
図 2: FxLMS アルゴリズムのブロック図
2.1.1
音響経路のモデル化
図 1 のダクト内の音響経路は,参照マイクロホン
から誤差マイクロホンまでの 1 次経路 P (z) と 2 次音
源から誤差マイクロホンまでの 2 次経路 S(z),2 次
音源から参照マイクロホンまでのフィードバック経
路 F (z) により伝達関数でモデル化できる.
2.1.2
FxLMS アルゴリズム
マルチチャネル ANC システム
マルチチャネル ANC は,制御対象空間が広い場
合や音圧分布が不均衡な空間など,シングルチャネ
ル ANC において消音が困難となるシステムに用い
られる.
本節では,図 1 において,K > 1, M > 1 とする
(1-K-M ) のマルチチャネル ANC システムについて
議論する.
2.2.1
音響経路のモデル化
(1-K-M ) のマルチチャネル ANC システムのダク
ト内の音響経路は,それぞれ M 個の 1 次経路 Pm (z)
と M ×K 個の 2 次経路 Smk (z),K 個のフィードバッ
ク経路 Fk (z) により伝達関数でモデル化できる.
図 1 において,F (z) と S(z) の特性は ANC シス
テムの性能に大きく影響する.この F (z) と S(z) を
考慮した適応アルゴリズムが図 2 に示す FxLMS ア
2.2.2 MEFxLMS アルゴリズム
ルゴリズムである.図 2 において,Fˆ (z) は
図 2 の FxLMS アルゴリズムのブロック図を (1-Kx(n) = u(n) − f (n) ∗ y(n − 1) + fˆ(n) ∗ y(n − 1) (2)
M ) のマルチチャネル ANC システムに拡張する.こ
ˆ
の関係から,f (n) = f (n) となるように F (z) による のとき,誤差信号 em (n) は,誤差マイクロホンにお
′ (n) により,
音響フィードバックを打ち消すエコーキャンセラとし ける騒音信号 dm (n) と消音信号 ym
′
て動作する.ただし,f (n) と fˆ(n) はそれぞれ F (z)
em (n) = dm (n) − ym
(n)
ˆ
K
と F (z) の単位インパルス応答,∗ はたたみこみであ
∑
{smk (n) ∗ yk (n)} (8)
= dm (n) −
ˆ
る.また,W (z) と S(z)
は,それぞれ騒音制御フィ
k=1
ルタの伝達関数と S(z) を推定したフィルタの伝達関
数である.騒音制御フィルタ W (z) の係数更新式は, となる.ただし,smk (n) は Smk (z) の単位インパル
ス応答である.式 (8) で,smk (n) を Sˆmk (z) の単位
w(n + 1) = w(n) − µ∇ξ(n)
(3) インパルス応答 sˆmk (n) で近似し,yk (n) を入力信号
{
}
x(n) と適応フィルタの係数 wk (n) のたたみこみを用
により,2 乗平均誤差 E e2 (n) を瞬時値で近似し
いて表すと以下のようになる [4].
た e2 (n) を評価関数 ξ(n) とすると,以下の式で表さ
K J−1
∑
∑
em (n) = dm (n) −
sˆmkj
れる [3].
w(n + 1) = w(n) + 2µe(n)x′ (n)
(4)
k=1 j=0
ここで,µ はステップサイズパラメータである.ま
ˆ
た,W (z) の係数ベクトル w(n) と S(z)
によりフィ
′
ルタリングされた入力信号ベクトル x (n) は,
l=0
T
w(n) = [w0 (n), w1 (n), · · · , wL−1 (n)]
(5)
[
]
T
x′ (n) = x′ (n), x′ (n − 1), · · · , x′ (n − L + 1)
(6)
L−1
∑
wkl (n)x(n − j − l) (9)
ただし,J と L はそれぞれ Sˆmk (z) と Wk (z) のタッ
プ数である.ここで,x′mk (n) を
− 399 −
x′km (n) =
J−1
∑
j=0
sˆmkj x(n − j)
(10)
と定義すると,誤差信号ベクトル e(n) は
T
e(n) = [e1 (n), e2 (n), · · · , eM (n)]
= d(n) − X ′T (n)W (n)
(11)
で表すことができる.ここで,式 (11) の X ′ (n) は,


x′T
x′T
1 (n) · · ·
1 (n − L + 1)
 ′T

(n − L + 1)
x2 (n) · · · x′T
2
′
 (12)
X (n) = 
..
..
 ..

.
.
 .

x′T
M (n)
x′T
M (n
···
である.ただし,x′m (n)
ξ∞,2 (n) =
=
− L + 1)
は
[
となる.一般に,e(n) の評価は q = 2 として 2 乗誤
差を用いる.従って,式 (17) において p = 2 とす
ると,式 (15) に示す MEFxLMS アルゴリズムの評
価関数となる.また,式 (17) において p = ∞ とす
ると,
x′m (n) = x′1m (n), x′2m (n), · · · , xKm (n)
]T
(13)
である.また,W (n) は適応フィルタの係数ベクト
ル wk (n) を含む行列であり,
[
]T
T
T
(14)
W (n) = wT
1 (n), w 2 (n), · · · , w K (n)
M
∑
e2m (n)
p
p→∞
M
∑
{|em (n)|2 }p
m=1
max |em (n)|2 = e2s (n)
1≤m≤M
Pm (n + 1) = λPm (n) + (1 − λ)e2m (n)
(20)
となる.従って,係数更新式は以下のようになる.
W (n + 1) = W (n) + µX ′T
s (n)es (n)
m=1
として,マルチチャネルに拡張した係数更新式は,
M
∑
W (n + 1) = W (n) + µ
X ′T
(16)
m (n)em (n)
(19)
ここで,λ は忘却係数(0.9 ≤ λ < 1)である.式
(18) より,勾配ベクトル ∇ξ∞ (n) は
∇ξ∞ (n) = −X ′T
s (n)es (n)
(15)
(18)
となる.従って,評価関数は 2 乗誤差 e2m (n) の最大
値 e2s (n) となる.ただし,実際に 2 乗誤差を評価す
るチャネル s は,em (n) のパワー Pm (n) が最大とな
るチャネルとする.以下に Pm (n) の計算式を示す.
となる.従って,式 (3) の ξ(n) を
ξ(n) =
lim
(21)
式 (21) より,係数更新項が単一となるため,単位サ
ンプルあたりの演算量を削減できることが分かる.
m=1
となる.ここで,X ′m (n) は,X ′ (n) の m 行目の列
ベクトルであり,µ はステップサイズパラメータで
ある.
2.2.3
FxLMMS アルゴリズム
p
M
∑
m=1
{|em (n)|q }p
(17)
ダクトの ANC システムの構築
本節では,塩化ビニル製のパイプをダクトとして
用いて構築した ANC システムについて概説する.
3.1
式 (16) より,スピーカとマイクロホンの数が増加す
るにつれて,MEFxLMS アルゴリズムの単位サンプ
ルあたりの計算量は急激に増加する.従って,Wk (z)
と Sˆmk (z),Fˆk (z) のタップ数は,サンプリング周波
数により制約を受ける.この問題を解決するために提
案されたのが,FxLMMS アルゴリズムである [5,6].
FxLMMS アルゴリズムは,Minimax 法に基づき,係
数更新時に 2 乗誤差が最も大きいチャネルについて
のみ評価する.これにより,単位サンプル当りの演
算量の増加を抑制できる.
評価関数 ξ(n) は,e(n) の q 次モーメントの p 乗ノ
ルムを用いて,以下のように表すことができる [6].
ξp,q (n) = ||e(n)||qp =
3
ANC システムの概要
ANC システムの構成図と仕様を図 3 と表 1 にそ
れぞれ示す.
図 3 の ANC システムは,ダクトと ANC コン
トローラ,騒音源スピーカ (SP0 ),2 次音源スピー
カ (SP1 , SP2 ) ,参照マイクロホン (MIC0 ),誤差
マイクロホン (MIC1 , MIC2 ),観測用マクロホン
(MIC3 ) から構成されている.ANC のコントロー
ラには,TI 社製 DSP ボード TMS320C6713DSK と
平塚エンジニアリング社製の A/D・D/A 変換ボー
ド DSK6713IF-A,アナログインターフェースボー
ド MSPAMP800 を用いた.また,マイクロホンと
スピーカには HOSIDEN 社製コンデンサマイクロホ
ン KUC2123 と VISATON 社製フルレンジスピーカ
FSR-5 を用いた.騒音源には,ファンクションジェ
ネレータで発生させた白色ガウス雑音を用いた.
− 400 −
Magnitude (dB)
40
MIC1 (0.35 m)
MIC1 (0.5 m)
20
0
−20
−40
0
500
1000
1500
Frequency (Hz)
2000
図 4: MIC1 の位置における音圧分布の測定
表 2: シングルチャネル ANC システムの測定条件
図 3: ダクトの ANC システムの構成図
表 1: ANC システムの仕様
項目
値
ダクト長
断面の直径
2 次音源 SP1 - 終端
2 次音源 SP2 - 終端
騒音源 SP0 - 参照マイクロホン MIC0
ホーンの長さ
ホーンの開口径
4.0 m
0.05 m
0.92 m
0.68 m
0.1 m
0.4 m
0.16 m
A/D, D/A 変換器の分解能
サンプリング周波数
アンチエイリアスフィルタ及び
ポストフィルタの遮断周波数
16 ビット
6,000 Hz
2,000 Hz
3.2
音響機器の配置
本システムでは,ANC の動作を阻害する音響フ
ィードバックと定在波を考慮して 2 次音源及び誤差
マイクロホンを配置する.
2 次音源 SP1 及び SP2 は,ダクトに対してそれぞ
れ入射角を 45 度で接続する.この 2 次経路の接続法
とエコーキャンセラと併用して音響フィードバック
の影響を低減させる [7, 8].
図 4 は,騒音源から出力された白色雑音を終端か
ら 0.35 m 及び 0.5 m の位置において観測したとき
のパワースペクトルである.図 4 により,終端から
0.35 m の位置において,約 400 Hz の音圧レベルが
急激に低下していることが確認できる.これは,ダ
クト内にダクト長 L と音速 c に依存する以下の周波
数 fn の定在波が生ずるためである.
fn =
2n − 1
c
4L
(n = 1, 2, 3, ...)
(22)
パラメータ
値
W (z) のタップ数
ˆ
S(z)
のタップ数
ˆ
F (z) のタップ数
入力信号の性質
512
350
350
白色ガウス雑音
平均 0 V,標準偏差 0.4 V
1 × 10−6
ステップサイズ µ
誤差マイクロホンの位置で周波数 fn の定在波が節と
なる場合,誤差信号を十分に検知できずに残留騒音
の減衰量が小さくなってしまう [2].従って,図 4 の
0.35 m の位置のような定在波の節を避けて誤差マイ
クロホンを配置する必要がある.本システムでは,音
圧分布の測定に基づき,MIC1 と MIC2 をそれぞれ
ダクトの終端から 0.5 m と 0.13 m の位置に配置し
た.
また,ダクトの終端に円錐ホーンを接続し,音響
インピーダンスのマッチングをとることにより定在
波を低減させる [8, 9].
3.3
ANC システムの動作検証
本節では,構築した図 3 のシステムにシングルチャ
ネル ANC を実装して ANC システムとしての動作
を検証する.
3.3.1
測定条件
表 2 は,ANC システムの測定条件である.表 2 に
おいて,W (z) は適応フィルタであり,フィルタ係数
ˆ
の初期値はすべて 0 である.また,S(z)
と Fˆ (z) は,
それぞれオフラインで推定する 2 次経路とフィード
バック経路である.ただし,2 次音源は SP2 とし,誤
差マイクロホンは MIC1 または MIC2 とする.
表 2 に基づき,(MIC0 -SP2 -MIC1 ) 及び (MIC0 SP2 -MIC2 ) のシングルチャネル ANC システムに,
それぞれ FxLMS アルゴリズムを実装してダクト内
の騒音を低減させる.
− 401 −
表 3: 各マイクロホンにおける騒音の減衰量 (dB)
システム構成
MIC1
MIC2
MIC3
パラメータ
値
MIC0 -SP2 -MIC1
MIC0 -SP2 -MIC2
9.33
9.21
8.44
9.60
8.51
9.42
W1 (z), W2 (z) のタップ数
Sˆ11 (z), Sˆ12 (z) のタップ数
Sˆ21 (z), Sˆ22 (z) のタップ数
Fˆ1 (z), Fˆ2 (z) のタップ数
入力信号の性質
512
350
350
350
白色ガウス雑音
平均 0 V,
標準偏差 0.4 V
1 × 10−6
0.999
30
ANC OFF
MIC0−SP2−MIC1
20
Residual noise (dB)
表 4: マルチチャネル ANC システムの測定条件
MIC0−SP2−MIC2
10
ステップサイズ µ
忘却係数 λ (FxLMMS)
0
−10
表 5: 各マイクロホンにおける騒音の減衰量 (dB)
−20
−30
−40
0
500
1000
1500
Frequency (Hz)
2000
評価関数
MIC1
MIC2
MIC3
MEFxLMS (||e(n)||2 )
FxLMMS (||e(n)||∞ )
9.11
11.1
10.0
12.6
9.91
12.7
図 5: MIC3 における残留騒音のパワースペクトル
3.3.2
測定結果
表 3 は,各マイクロホンおける騒音の減衰量であ
る.ただし,減衰量は適応アルゴリズムの動作開始
から 1,400 秒後に測定したものである.また,図 5 は
MIC3 における残留騒音のパワースペクトルである.
表 3 より,ダクト内の騒音の減衰量はそれぞれ消
音点となる誤差マイクロホンで最大となることが確
認できる.また,図 5 より,消音帯域は約 300 Hz か
ら 1,400 Hz となり,図 5 の消音前に測定したパワー
スペクトルでピークをもつ周波数で減衰量が大きい
ことが確認できる.
以上により,構築した図 3 のシステムが ANC シ
ステムとして動作することを確認できた.
4
マルチチャネル ANC の実装
本節では,3 節で動作を検証した図 3 のシステムを
マルチチャネル ANC システムとして動作させ,ダク
ト内の騒音を低減させる.実装結果に基づき,シン
グルチャネル ANC と比較したマルチチャネル ANC
の有用性について議論する.
4.1
測定条件
表 4 は,ANC システムの測定条件である.表 4 にお
いて,W1 (z) 及び W2 (z) は適応フィルタであり,フィ
ルタ係数の初期値はすべて 0 である.また,Sˆ11 (z)
から Sˆ22 (z) 及び Fˆ1 (z),Fˆ2 (z) は,それぞれオフライ
ンで推定する 2 次経路とフィードバック経路である.
表 4 に基づき,(1-2-2) のマルチチャネル ANC シス
テムに,MEFxLMS アルゴリズムおよび FxLMMS
アルゴリズムを実装する.
4.2
測定結果
表 5 は,各マイクロホンにおける騒音の減衰量で
ある.ただし,減衰量は各適応アルゴリズムの動作
開始から 1,400 秒後に測定したものである.また,図
6 は MIC3 における残留騒音のパワースペクトルで
ある.
表 5 より,ダクト内の騒音は MIC1 の位置に比べて
MIC2 の位置で減衰量が大きく,MIC3 における減衰
量は MIC2 と同程度となることが確認できる.また,
図 6 より,消音帯域はともに約 250 Hz から 1,400 Hz
となることが確認できる.
本 稿 で 実 装 し た FxLMMS ア ル ゴ リ ズ ム は ,
MEFxLMS アルゴリズムに比べて単位サンプルあた
りの演算量を半減できる.また,表 5 より FxLMMS
アルゴリズムを実装したシステムでは,残留騒音の
減衰量が大きくなることが確認できる.これにより,
演算量の少ない FxLMMS アルゴリズムがダクトの
ANC システムにおいて有用であることが分かる.
4.3
ANC システムのマルチチャネル化の効果
本節では,表 3 と表 5 及び図 5 と図 6 を比較し,
ANC システムのマルチチャネル化の効果について議
− 402 −
30
ANC OFF
2
MEFxLMS (||e(n)|| )
Residual noise (dB)
20
FxLMMS
10
参考文献
2
2
(||e(n)||∞)
[1] 西村正治, 宇佐川毅, 伊勢史郎, “アクティブノイ
ズコントロール,” コロナ社, 2006.
0
[2] 山田正史, 伊月宣之, 木内洋介, “指向性を持つ音
源・マイクロホンによるダクト内 1 次元音場の能
動制御について,” 日本音響学会誌 59 巻 3 号, pp.
113–120, 2003.
−10
−20
−30
−40
0
500
1000
1500
Frequency (Hz)
2000
図 6: MIC3 における残留騒音のパワースペクトル
論する.
まず,表 3 と表 5 に示す各マイクロホンにおける
騒音の減衰量を比較する.前述のとおり,シングル
チャネル ANC では消音点となる誤差マイクロホン
で減衰量が最大となる.これに対し,マルチチャネ
ル ANC では,MIC1 の位置に比べ MIC2 の位置で減
衰量が大きくなる.これは,ダクト内における消音
前の騒音レベルが位置により異なるためである.実
験では,MIC2 における消音前の騒音レベルが MIC1
の位置に比べて約 1.6 dB 大きいことを確認してい
る.この傾向は,誤差信号のパワーの大きいチャネ
ルを優先して消音する FxLMMS アルゴリズムを実
装したシステムにおいて顕著に現れている.
次に,図 5 と図 6 に示す MIC3 における残留騒音の
パワースペクトルを比較する.マルチチャネル ANC
はシングルチャネル ANC で騒音の低減効果が小さ
い帯域について他の 2 次経路情報を用いて性能を改
善できる [6].このため,図 6 によりシングルチャネ
ル ANC で低減効果の小さい約 300 Hz から 600 Hz
及び 700 Hz から 1,000 Hz において改善できている
ことが確認できる.
5
むすび
[3] S. M. Kuo and D. R. Morgan, “Active Noise
Control System,” John Wiley & Sons, 1996.
[4] S. J. Elliott, I. M. Stothers and P. A. Nelson,
“A multiple error LMS algorithm and its application to the active control of sound and vibration,” IEEE Trasactions on Acoustics, Speech
and Signal Processing, vol. 35, no. 10, 1987.
[5] A. Gonzalez, A. Albiol and S. J. Elliott, “Minimization of the maximum error signal in active
control,” IEEE Trasactions on Speech and Audio Processing, vol. 6, no. 3, 1998.
[6] E. Esmailzadeh, A. R. Ohadi and A. Alasty,
“Multi-channel adaptive feedforward control of
noise in an acoustic duct,” Journal of Dynamic
Systems, Measurement, and Control, vol. 126,
pp. 406–415, 2004.
[7] S. M. Kuo and J. Tsai, “Arrangements of the
secondary source on the performance of active
noise control systems,” Proceedings of IEEE
International Symposium on Circuits and Systems, pp. 2431–2434, 1993.
[8] 菅原直志, 阿部正英, 川又政征, “システム構成の
自由度を向上させたダクトの ANC システムの構
築,” 平成 20 年度電気関係学会東北支部連合大会
講演予稿集, p. 76, 2008.
本稿では,塩化ビニル製パイプを用いて構築した
ダクトのマルチチャネル ANC システムについて議
論した.構築した ANC システムでは,スピーカと [9] L. Burian and P. Fuchs, “A simple active noise
マイクロホンの向きや位置を調整して音響フィード
control in acoustic duct,” Proceedings of the Euバックと定在波の影響を低減させた.さらに,DSP
ropean Conference on Circuit Theory and Deへ適応アルゴリズムを実装し,ダクト内の騒音を低
sign, pp. 265–268, 2005.
減させた.実験の結果,シングルチャネル ANC に
おいて残留騒音の減衰量が小さい帯域の消音性能を
マルチチャネル ANC より改善できることを示した.
− 403 −