(3)環境小学校整備 ①「環境小学校」整備の背景 地球温暖化やヒートアイランド現象をはじめとして、地球上には環境破壊につなが る様々な問題が生じており、環境問題に対して緊急に対処しなければならないという 認識が高まっている。一人ひとりが人間と環境とのかかわりについて理解を深めなが ら、豊かな自然等の価値についての認識を高め、環境を大切にする心を持つとともに、 環境に配慮した生活や責任ある行動をとること、また、環境問題を引き起こしている 社会経済の背景やしくみを理解することにより、社会経済の構造を環境に配慮した持 続可能なものへと変革していく努力を行うことが求められている。 このような状況のもと、環境問題や環境保全に主体的にかかわることができる能力 や意識を兼ね揃えた人材を育成するための環境教育の重要性はますます高まってい るといえる。 国では、平成 15 年7月に、国民一人ひとりの環境保全に対する意識や意欲を高め、 持続可能な社会づくりにつなげていくことを主旨に、環境教育推進法(環境の保全の ための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律)が成立した。国連の「持続可能 な開発のための教育の 10 年」に対応する必要性等から、環境、文部科学、国土交通、 農林水産、経済産業の5省が共管する法律として制定されたものである。 平成 23 年6月には全面改正され、環境教育等促進法(環境教育等による環境保全 の取組の促進に関する法律)と改められた。法の目的として協働による取り組みの推 進が追加され、基本理念として生命を尊ぶことや循環型社会の形成等が追加された。 具体的には、より幅広く実践的な人材づくりへと発展させることをめざし、学校教育 における環境教育の充実や、環境行政への民間団体の参加と協働を推進するための規 定が整備された。さらに、地方自治体による環境教育・協働取組推進行動計画の作成 や地域協議会の設置など、具体的な施策に関する規定が盛り込まれた。 一方、環境教育を推進する場としての学校において、環境配慮型の学校づくりを推 進する取り組みが進められている。 文部科学省のエコスクール事業では、環境負荷の低減や自然との共生を考慮した学 校施設の整備を通じて、環境教育の教材として活用することをめざしている。これに より、学校が児童生徒だけでなく地域にとっての環境・エネルギー教育の発信拠点に なるとともに、地域における地球温暖化対策の推進・啓発の先導的な役割を果たすこ 61 とが期待されている。 また、環境省のエコフロー事業(学校エコ改修と環境教育事業)では、文部科学省、 農林水産省、経済産業省と連携しながら、環境に配慮した学校施設のモデル的整備を 推進している。ヒートアイランドの抑制・温暖化防止の対策事業として、既存の学校 校舎をエコ改修するにあたり、その改修の過程や改修された校舎を、児童のみならず、 地域住人や地域の建築技術者など、社会人に対しての環境教育の教材としても活用し ていくことをめざしているところである。 ②「環境小学校」整備の目的 本市においては、市内の学校園舎の老朽化等が進行しており、順次、耐震改修、大 規模改修等を進めているところである。多様化する環境問題や環境保全に対して主体 的に取り組んでいく必要性が高まっているなか、今後の学校園舎の改修等を機会とし て、環境負荷の少ない施設の整備や環境教育を取り入れた学校運営など、各学区にお ける特色ある取り組みを推進することが求められている。 本市では、W・M・ヴォーリズが設立した近江兄弟社学園や、明治期の白雲館や至 誠館等の小学校建築、島小学校における郷土教育など、地域住民が主体となって子ど ものための教育の場をつくり、地域に根ざした特色ある教育を進めてきた歴史がある。 「環境小学校」は、本まちづくり構想の将来都市像「自然の恵みを活かして持続可 能なライフスタイルを実現するまち」実現のためのリーディングプロジェクトとして、 豊かな自然資源や地域が育んできた歴史・伝統をより積極的に活用しながら、これか らの社会を支え、社会に貢献できる人材の育成を推進するとともに、地域における環 境のまちづくりの拠点として、本市の環境政策を先導するものである。 62 ③「環境小学校」整備のあり方 近江八幡では、琵琶湖の豊かな恵みを受けて漁業が発達し、市域の日野川、白鳥川、 蛇砂川等の河川の流れを取込んで農林畜産業が営まれてきた。また、市南東部には湧 水池が多くあり、豊かな水流を生活に取り入れるなど、自然を取り組み、自然を守り ながら活用してきた。特に農業では「いもち送り」に表されているように、自然にあ る物を活用して田んぼの害虫駆除を行うなど、農薬を使わない自然に優しい工夫がさ れてきた。また、近年では、里山や鎮守の森を保全する活動など、自然と共生する市 民主体の取り組みが進められている。 本市がめざす「自然の恵みを活かした持続可能なライフスタイルを実現するまち」 の実現のためには、子どもだけではなく、すべての市民が、省エネルギーや二酸化炭 素削減など、地球規模の視点をもって環境負荷の低減に取り組むとともに、身の回り の自然環境や生態系から自然のしくみや環境問題を学び、暮らしに活用していく視点 も重要である。とりわけ、子どもが日々、生活を送る学校現場においては、持続可能 な環境負荷の少ないまちづくりを推進する場として、今ある自然を学校教育の場に取 り込むことにより、生徒が体感して学ぶ楽しさを知り、その延長線上に近江八幡市で 育った子ども達が環境問題や自然のしくみを体得することができる。また、子どもが 体験することによって、親の世代も家庭内でのコミュニケーション等を通じて環境問 題への取り組みを学ぶことができ、自身のライフスタイルの転換の契機となることも 期待できる。 近江八幡市内の小学校区は、概ね昭和 20~30 年代の昭和の大合併期以前の旧町 域・村域を基本としており、古くからの地域での結びつきを基盤とした単位であると 考えられる。環境小学校は、こうした小学校区を単位として、地域の自然環境との結 びつきを大切にしながら、子ども達の育成を通じて環境にやさしい持続可能なまちづ くりを地域全体が実践し、学ぶことのできる拠点として、学校建築等のハード面と環 境教育等のソフトの両面から、本市の今後の環境政策を先導するプロジェクトである。 今後の整備のあり方について、以下に示す。 なお、環境小学校づくりについては構想・計画段階から市民や子ども、専門家が参 画・協働するなど、取り組みのプロセスについても重視し、地域が主体となった推進 体制の形成やリーダーの育成を図るなど、整備後の環境小学校の運営に円滑につなげ るようなしかけづくりを進める。 63 ⅰ)学校建築物の環境性能の向上 学校園舎の改築・改修等により、かえって以前よりエネルギー消費や二酸化炭素 排出量が増加するケースが少なくない。「環境小学校」においては、建築物の断熱 性の向上や、通風や自然光のコントロール、照明の高効率化、木材の積極的な利用 など、環境負荷低減の技術や手法を総合的に導入することによって、建築物そのも のの環境性能を飛躍的に高め、従来対比でエネルギー消費や二酸化炭素排出量を大 きく減少させることをめざす。 そのためには、まずは現行のエネルギー消費や二酸化炭素排出量を測定したうえ で、どの程度の削減幅とするのか、全市的な環境政策にどの程度寄与するか、とい った点を踏まえながら、当該建築物の特性や立地条件に適した、削減効果の高い技 術・手法を検討していくことが重要である。 ⅱ)再生可能エネルギーの導入・活用 建築物の環境性能を高めたうえで、太陽光・風力発電等の地域特性に応じた再生 可能エネルギーを積極的に導入することにより、学校におけるエネルギー供給の自 立性を高め、環境負荷の極めて少ない学校空間を整備する。また売電等により余剰 エネルギーから収入を得るしくみを確立し、地域づくり等に活用可能なファンドを 積み立てるなど、経済的な自立性も高める。 「環境小学校」は、環境先進都市としての本市のシンボル・アピール拠点でもあ り、ここでの取り組みが、市民や企業等にも広がるなど、波及効果を生む拠点とし て位置づける。 ⅲ)自然体験空間の整備 河川や水路を利用したビオトープ池の設置や、農業体験が可能な農園の整備など、 水の流れやそれを活かしたなりわいづくりの体験機能を取り入れることによって、 環境保全の大切さと、暮らしや経済との関わりあいを学ぶことのできる場を整備す る。また、校庭周辺部の緑化・芝生化、周辺の自然環境・景観と調和した建築デザ インの導入など、近江八幡の豊かな自然環境を活用した自然体験型の学校空間を整 備することによって、子どもたちが身の周りの自然環境を大切にし、自らの生活に 活かす意識や知恵を高めるような機会を増やす。 ⅳ)社会に貢献できる人材を育む環境教育の推進 里山・鎮守の森(杜)における生態系や、湿地や水路等の水際の環境、地域の農 64 業・漁業等のなりわいなど、地域の多様な資源を題材にして教育の現場に活かす体 験型の学習や、再生可能エネルギー生産の現場を活かしたエネルギー教育、われわ れを取り巻く自然や生物、生態系のしくみを学び、生活の豊かさや新たなものづく りに活かす環境教育・ものづくり教育など、独自の環境教育カリキュラムを充実す ることによって、社会的な問題に対する意識が高く、主体性をもってこれからの社 会づくりに貢献できる、自立した人材を育成する。 また、エネルギー使用量、二酸化炭素排出量の「見える化」等の取り組みを通じ て、環境配慮型のライフスタイルを子どもが体得し、学校以外での日々の日常生活 にも実践できるようなしかけを導入する。また、子どもだけでなく、親世代や地域 の方々にも参加を呼びかけることによって、多世代が学び、またその効果が地域全 体に波及・伝播できるようなしくみを導入する。 ⅴ)地域づくりの拠点としての活用 子どもだけではなく、地域の大人や社会人も手軽に往訪して学ぶことのできるよ うに、市内の医療機関や市立看護専門学校等と連携した健康づくり教育を実施する など、多世代が学び、交流することのできる学習拠点(市民大学)としての活用を 図る。 また、夏季休暇時等においては、都市部の子どもたちを受け入れ、本市での自然 体験や環境学習等を体験してもらうとともに、本市の子どもたちとの交流等を推進 することによって、平時からの交流・連携体制づくりを推進する。 小学校は、災害時における地域の防災拠点であるとともに、他地域での災害時に おける一時的な避難場所として、被災した児童・生徒を受け入れて就学機会を提供 する。また、防災協定を締結する自治体の学校と連携して防災教育を実施するなど、 学校間交流を推進する。 65 環境小学校の導入機能 テーマ 導入機能の例 建 築 物 の 環 エネルギー効率 ○ 建築物の断熱性の向上 ○ 通風・自然換気・夜間換気、自然光のコントロー 境 性 能 の 向 の向上 ル等の導入 上 ○ 照明の高効率化、昼光・人感センサーの設置 ○ アースチューブによる換気での地熱利用 など 環境負荷の少な ○ 教室やオープンスペース、廊下等での木材の積極 的な利用 い素材の活用 ○ 滋賀県産の木材や森林保全を目的とした間伐材 等の積極的な使用 など 再 生 可 能 エ 再生可能エネル ○ 太陽光・風力発電等の再生可能エネルギーの導入 ネ ル ギ ー の ギーの導入 ○ 蓄電・蓄熱システムの導入 導入・活用 ○ 雨水ピット、タンクの設置による雨水利用や浄化 槽処理水の再利用 など エネルギー生産 ○ 売電収入による地域づくりファンドの積み立て の事業化 など 自然体験空 ○ 水路を利用したビオトープ池等の設置 間の整備 ○ 校庭周辺部の緑化、芝生化 ○ 親子で農業体験が可能な農園の整備 ○ 周辺の自然環境・景観と調和した建築デザインの 導入 など 社 会 に 貢 献 特色ある環境教 ○ 地元の環境団体や企業等との連携による、地域の 多様な資源を活かした体験型の学習の導入 で き る 人 材 育カリキュラム ○ 自然や生物、生態系から学ぶことを基本とした環 を 育 む 環 境 の導入 境教育・ものづくり教育の推進 教育の推進 ○ 水辺空間の生態系や自然浄化システムを学ぶ場 である環境学習室の設置 など 環境学習を通じ ○ エネルギー使用量、二酸化炭素排出量等の「見え る化」の推進 たライフスタイ ○ 親世代の環境学習の推進 など ルの転換 地 域 づ く り 多世代交流の推 ○ 地域の大人や社会人も手軽に往訪して学ぶこと のできるような講座の開催 など の拠点とし 進 ての活用 都市部との交流 ○ 都市部の子どもたちの受け入れ、本市での自然体 験や環境学習等の体験など、平時からの交流・連 携体制づくり など 防災機能の導入 ○ 他地域での災害時における一時的な避難場所の 提供、被災した児童・生徒の受け入れ ○ 防災協定を締結する自治体の学校との学校間交 流の推進 など 66
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