主要 5 因子性格検査 (BigFive) の成立

54
第3章
日本の 5 因子研究
チェックリスト法として使用する場合、各因子に所属する形容詞の評定値を合計して
用います。その際、得点の信頼性を改めて計算する必要があります。信頼性は検討され
ていません。
妥当性
千葉大式性格検査と合併して因子分析した結果 (和田, 1996) と、FFPQ と合併して因
子分析した結果 (和田, 1998a) があります。それなりに、関係はありますが、因子負荷量
と相関係数は違います。FFPQ のところでも指摘しましたが、これを併存的妥当性の研
究というのは問題があります。
応用
ビッグファイブ尺度を 38 項目に短縮して、高校生や、潰瘍性大腸炎患者 (和田, 1998b)
に施行して、5 因子構造を確認しています。また、柏木 (1995) は内田クレペリン検査の
指標とビッグファイブ尺度との相関を求め、5 因子の枠組みから解釈しようと試みてい
ます。しかし、得られた相関は非常に低く (0.11∼0.25 の間、ほとんどは 0.2 以下)、5 因
子モデルに基づく解釈の妥当性には疑問があります。
総括
和田のビッグファイブ尺度を測定ツールという観点から評価すると、信頼性不明とい
う点が気になります。また、外向性 (E) と開放性 (O) の相関が高すぎる欠点もあります。
38 項目の短縮版にいたっては、何のデータもありません。
ビッグファイブの研究を振り返ると、主因子法とバリマック回転 (直交) という、半世
紀前のカビの生えた古い手法が中心でした。最新の解析法を使って、どうしてきれいな
構造が出せないのか、不思議に思います。結局、言葉の選択という、根本的なところに
何か欠陥があるように思います。
1992 年はゴウルドバーグがチェックリスト (図 2.6) を発表した年でした。このチェッ
クリストは、直交回転でもきれいな 5 因子構造になります。各次元の合計点の信頼性 (α
係数) を大学生 443 名のデータから求めると、0.72∼0.84 の範囲で、十分な値でした。和
田が 1∼2 年遅く修論に取り組み、この論文を読んでいれば、研究の方向も変わってい
たと思います。
主要 5 因子性格検査 (BigFive) の成立
第一筆者が 5 因子モデルの重要性に気づいたのは、「最新コンピュータ診断性格テス
ト–こころは測れるのか」(日刊工業新聞社, 1993 年) を執筆した頃でした。本と同時に
MINI-124 という性格検査を世に送り出し、一般向け解釈サービスソフトを開発するな
主要 5 因子性格検査 (BigFive) の成立
55
ど、仕事が山積みでした。ビッグファイブ関係の論文をじっくり読む暇がありませんで
した。
ただ、1992 年のゴウルドバーグのチェックリストを見て、「これは使える」と直感し
ました。ゴウルドバーグに手紙を書き、関連論文を送ってもらいました16 。しかし、な
かなか方法が定まりません。
因子分析法は高度な数学的な解析法ですが、要するに、多くの変数を少数のグループ
に分類するだけです。最初に含まれる変数が違うと、結果が異なります。少し変数を追
加すると、結果が変動します。宇宙空間で回すコマのようです。軸がどちらを向くかわ
からないのです。
因子の意味は、どの変数がどの因子に属したかという結果から、事後説明的に推量し
ます。探索的な因子分析ではなく、確証的因子分析でないとだめだ、という意見が出て
くるのも当然です。しかし、目標行列をどう設定すればよいかというと、むずかしい専
門書には何の答えもありません。よほどしっかりした先行研究があれば別ですが、論理
的に推論するといっても、結局は主観的な判断です。柏木・和田・青木 (1993) の例でわ
かるように、事は簡単ではないのです。古典的方法でやることに決心しました。
試作版
1994 年、やっと重い腰を上げました。とりあえず、柏木・和田・青木 (1993) から代表
的な言葉を選び、文章化しました。また、NEO-PI の FFI の翻訳を加えました。知性に
ついての語彙が不足していたので、石田・小笠原・藤永 (1991) から「頭の良い人」に
ついての形容詞を収集し、文章化しました。計 95 項目になりました。ゴウルドバーグ
のチェックリストの各次元の合計得点をマーカーとして加え、因子分析17 を行いました。
同時に、MINI 性格検査 (250 項目) も実施して関係を見ました。被験者は大学生 236 名
(男性 102 名、女性 134 名) でした。
5 因子解では一部のマーカーの因子負荷量が小さかったので、6 因子解を採用しまし
た。6 因子目に分類された 17 項目と 1∼5 因子の因子負荷量の小さな項目を削除し、69
項目としました。マーカーを削除し、再度、因子分析を行うと、きれいな 5 因子構造が
得られました。因子分析は主因子法、因子パーシモニー基準18 による直交回転です。各
因子とチェックリストとの相関は 0.47∼0.71 の範囲でした。まずまずの結果です。
プロトタイプ
16
17
18
研究者同志なら手紙 1 つで論文を請求できます。逆に、手紙をもらった場合は送る義務があります。
ギブ・アンド・テイクという世界共通のルールです。
ジョイント因子分析と同じですが、加える変数の数が少ない点が特徴です。
回転基準の名前です。直訳すると「因子倹約基準」です。古典的なバリマックス基準はいくつかの
因子の比重が大きくなりすぎる欠点があります。
第3章
56
日本の 5 因子研究
表 3. 7: BigFive の直交回転結果 (Att 尺度 10 項目は除外)
項目
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
36
E
0.791
0.786
−0.772
0.695
0.673
−0.640
−0.636
−0.628
−0.626
−0.578
0.547
0.431
−0.051
0.021
−0.108
0.055
0.099
0.130
0.060
0.081
0.049
−0.020
−0.125
0.065
−0.004
0.039
−0.099
−0.071
−0.091
−0.100
0.002
0.049
0.001
−0.048
−0.033
−0.084
A
−0.095
−0.165
0.129
−0.127
−0.112
0.224
0.155
0.160
0.119
0.188
−0.045
−0.084
0.548
0.520
0.488
0.484
−0.451
−0.430
0.429
−0.417
−0.407
0.402
0.385
−0.344
−0.106
−0.093
−0.129
0.138
0.064
−0.011
−0.169
−0.063
−0.232
−0.071
0.081
0.232
C
−0.041
−0.053
0.083
0.001
0.018
0.047
0.001
0.059
0.076
−0.045
0.128
0.029
−0.111
−0.108
−0.037
−0.120
0.064
0.056
−0.135
0.055
−0.025
−0.096
−0.120
−0.054
0.680
0.609
0.579
−0.565
0.537
0.511
0.501
−0.486
0.472
−0.428
−0.424
−0.415
N
0.081
0.006
0.007
0.116
0.206
−0.052
−0.110
−0.075
−0.020
−0.022
0.087
0.214
0.064
0.095
0.149
0.042
0.042
0.021
0.102
0.103
0.134
−0.017
−0.034
0.174
0.167
0.035
0.062
0.058
−0.070
−0.051
0.106
0.079
0.056
0.234
0.044
0.116
O
−0.088
−0.016
0.060
−0.065
−0.075
0.046
0.035
0.029
0.082
0.182
−0.110
−0.225
0.043
0.186
0.201
0.129
0.096
0.145
0.148
0.098
0.143
−0.106
0.070
0.152
0.060
0.070
0.106
0.069
−0.110
−0.000
−0.102
0.294
−0.051
0.148
0.331
0.079
主要 5 因子性格検査 (BigFive) の成立
項目
37
38
39
40
41
42
43
44
45
46
47
48
49
50
51
52
53
54
55
56
57
58
59
60
固有値
E
0.210
0.194
−0.175
0.076
0.007
0.160
0.006
0.038
−0.142
0.152
0.076
0.059
−0.108
−0.056
−0.082
−0.148
0.018
−0.101
−0.061
0.101
0.030
−0.135
−0.116
0.156
5.640
A
0.011
−0.037
0.002
−0.033
−0.129
−0.038
−0.162
0.132
0.089
−0.069
0.048
−0.170
0.006
−0.022
−0.069
−0.111
0.011
−0.118
0.082
0.039
0.065
0.061
0.265
−0.011
3.060
57
C
−0.097
−0.023
0.187
−0.059
0.019
−0.106
0.123
−0.059
0.157
−0.200
0.141
0.137
−0.108
−0.158
−0.157
−0.174
0.258
−0.114
−0.157
−0.176
0.220
−0.062
−0.119
0.111
3.908
N
0.702
0.668
−0.648
0.637
0.613
0.584
0.578
0.571
−0.556
0.549
0.535
0.457
0.045
0.056
0.054
−0.024
0.012
−0.010
0.051
−0.121
0.285
−0.035
0.036
0.207
4.782
O
−0.073
−0.104
0.078
−0.107
0.111
0.067
0.161
−0.081
−0.005
0.014
−0.226
0.045
0.633
0.567
0.552
0.540
−0.524
0.513
0.471
0.468
−0.452
0.428
0.406
−0.379
3.746
69 項目の試作版でも使えると思いましたが、もう一度、全体を作り直すことにしまし
た。 ゴウルドバーグのチェックリストは、内省力のある大学生が正直に回答した場合に
のみ、妥当性があります。予備分析では受検態度を考慮していませんでした。建前で回
答したり、内省力のない被験者は省くべきでした。
ゴウルドバーグの形容詞も参考にして、新たに項目を執筆しました。MINI 性格検査
でチェックリストと大きな相関があった項目も加えました。結局、300 項目の暫定版質問
紙を作り、ゴウルドバーグのチェックリスト、MINI 性格検査の 3 つを大学生 496 名に実
施しました。MINI 性格検査で受検態度に問題があった被験者 (約 11%) を削除し、443
名 (男性 232 名、女性 211 名) を分析の対象としました。
最初に暫定版質問紙とゴウルドバーグのチェックリストの各次元の合計点との相関を
求め、大きさの順に各次元 30 項目、合計 150 項目を選びました。次に、各次元と相関の
第3章
58
日本の 5 因子研究
高い項目をグループ指定して、グループ主軸法19 による分析を行い、60 項目を選択しま
した。最終的に、主因子法と因子パーシモニー基準による直交回転を行いました。表 3.
7 に結果を示しておきます。
妥当性尺度の追加
MINI 性格検査の建前尺度 (Att) から、弁別力のある 10 項目を追加しました。こうし
て、主要 5 因子性格検査 (決定版, 以下 BigFive と略) は 70 項目になりました。また、全
国標準化のデータから頻度の低い回答方向を調べて、頻度尺度 (F) を作成し、でたらめ
な応答を検出できるようにしました。
標準化
1997 年、全国を 7 ブロックに分け、23 都道府県、46 区市町村の住民票から、二段階
無作為抽出法により、15 歳から 80 歳までの男女 4100 名を抽出しました。四国、沖縄な
ど一部の地域は電話帳からの無作為抽出です。郵送法で回答を依頼すると、1176 名の回
答がありました。有効な回答は、1166 名 (男性 575 名、女性 591 名) でした。
年齢の範囲は広く、12 歳から 88 歳の間に散らばっていました。世代の分け方は MMPI-
1、MINI、MINI-124 に準拠し、青年期 (12∼22 歳、男性 123 名、女性 131 名)、成人前
期 (23∼39 歳、男性 130 名、女性 183 名)、成人中期 (40∼59 歳、男性 159 名、女性 155
名)、成人後期 (60 歳以上、男性 163 名、女性 122 名) に分割し、男女込みで正規化 T-得
点20 という方法で標準化しました。
因子構造
表 3. 7 で明らかなように、非常にきれいな単純構造です。例えば、1∼12 項目を見る
と、(0.6 0.1 0.1 0.1 0.1) というパタンに近いことがわかります。質問項目は 1 つの因子
にだけ強い関係があります。また、5 因子で全分散の 82.73%も説明しています。
信頼性
BigFive を、1 週間間隔で大学生 227 名 (男性 102 名、女性 125 名) に 2 度実施しまし
た。尺度の素点を元にして相関を求めると、0.85 から 0.95 の範囲でした。表 3. 8 に示
しておきます。再検査信頼性はかなり高く、測定値は安定していると考えられます。
妥当性
チェックリストとの関係 BigFive を作成する際に、尺度得点とゴウルドバーグのチェッ
クリストの相関を男女別に求めました。0.51 から 0.77 の範囲でした。表 3. 8 の妥当
性の項に示しておきます。チェックリストの各次元の合計点の信頼性係数 (α 係数) は、
E(0.84)、A(0.78)、C(0.76)、N(0.72)、O(0.72) と比較的高い値でした。
19
20
1 つのグループにつき、1 つの因子をもとめる方法です。因子軸に相関があるので、一種の斜交解
です。
強制的になだらかな釣り鐘状の得点分布になるように変換する方法です。
主要 5 因子性格検査 (BigFive) の成立
59
略号
表 3. 8: 再検査信頼性と妥当性
再検査信頼性
妥当性
尺度名
男性
女性
男性
女性
F
Att
E
A
C
N
O
頻度
建前
外向性
協調性
勤勉性
情緒安定性
知性
0.797
0.927
0.946
0.868
0.853
0.883
0.908
0.783
0.900
0.953
0.865
0.899
0.932
0.876
–
–
0.774
0.572
0.664
0.523
0.572
–
–
0.765
0.558
0.576
0.587
0.510
√
√
妥当性係数の理論的上限値を求めると、E: 0.77 × 0.84 = 0.92、A: 0.56 × 0.78 =
√
√
√
0.67、C: 0.60 × 0.76 = 0.68、N: 0.55 × 0.72 = 0.63、O: 0.72 × 0.54 = 0.62 となりま
す。基準関連妥当性としては十分な大きさです。
仲間評定との関係 BigFive を大学生 212 名 (男性 111 名、女性 101 名) に実施しまし
た。その際、ゴウルドバーグのチェックリストも配布し、自分の性格を友人に評価して
もらうように依頼し、一週間後に提出してもらいました。
ゴウルドバーグのチェックリストの各次元の合計点の信頼性係数 (α 係数) は、E(0.83)、
A(0.82)、C(0.82)、N(0.73)、O(0.64) と O を除けば比較的高い値でした。
チェックリストとの相関は、E(0.44)、A(0.37)、C(0.33)、N(0.25)、O(0.21) となりま
した。E、A、C は中程度の相関と解釈できます。外向性、協調性、勤勉性は、観察しや
すいためかと思われます。ところが、N、O は低い相関しか得られませんでした。情緒
的安定性や知性は、観察しづらいからと思われます。
√
√
妥当性係数の理論的上限値を求めると、E: 0.83 × 0.44 = 0.60、A: 0.82 × 0.37 =
√
√
√
0.55、C: 0.82 × 0.33 = 0.52、N: 0.73 × 0.15 = 0.33、O: 0.64 × 0.21 = 0.37 となりま
す。仲間評定では、E、A、C の 3 尺度の妥当性はまずまずだが、N と O はやや不十分
でした。親友ではない、普通の友人同志が評価をしたわけですから、この程度の値はや
むを得ません。
MINI との関係 MINI の基準関連妥当性は 0.8 程度と高いため、併存的妥当性を調べ
ることにしました。被験者は大学生 267 名 (男性 153 名、女性 114 名) でした。
F は MINI の F と 0.260、Sc と 0.233、PAR と 0.206 の相関があります。有意ですが、
相関が低いため、MINI の F とは質的に違うと思われます。
Att は MINI の Att と 0.493 の相関があります。Si と −0.476、SOC と −0.454 など、
社交性と関係があり、MINI の臨床尺度とも負の相関があります。MINI の Att は 40 項
第3章
60
日本の 5 因子研究
目で、建前で答えた場合と正直に答えた場合の弁別率は 75%です。
E は MINI の Si(社会的内向) と −0.46、ASS(交際嫌い) と −0.42、SOC(社会的内向)
と −0.36、Del(非行) と 0.41 の相関がありました。E は一般的な外向性尺度と解釈でき
ます。
A は MINI の F(頻度) と −0.26 の相関があるだけです。MINI に類似の尺度がないた
めです。ただ、相関の方向は A の内容と一致しています。
C は MINI の尺度と相関がありません。MINI に類似の尺度がないためです。
N は MINI の Pt(不安、心労) と −0.44、TEN(緊張状態) と −0.39、Stress(ストレス症
状) と −0.38 の相関があります。中程度の相関ですが、すべて情緒的安定性に関係して
います。N は仲間評定では相関が低かったのですが、これで内容が確認されたと思われ
ます。
O も MINI に類似の尺度はありません。ただ、D(抑うつ傾向) と −0.30、Att(建前) と
0.30 の相関があり、相関の方向は O の内容と一致しています。
応用
自己主張との関係 牧田 (1999) の研究があります。3 種類の自己主張尺度と BigFive
を、大学生 141 名 (男性 61 名、女性 80 名) に実施したものです。自己主張尺度は仲間
評定、BigFive は自己評定です。男性では、レイ (1981) の尺度は知性 (O) と 0.27、バス
(1986/1991) の尺度は外向性 (E) と 0.27 の相関がありました。女性では、レイの尺度は
外向性 (E) と 0.37、情緒安定性と 0.26 の相関がありました。また、バスの尺度は外向性
(E) と 0.33、独自に作成した尺度は知性 (O) と 0.38 の相関がありました。
自己主張は外向性や知性と関係がありました。女性では情緒安定性とも関係がありま
す。この研究の特徴は仲間評定です。そのため、BigFive の基準関連妥当性の研究にも
なっています。
高齢者の主観的幸福感 第二筆者、村上千恵子 (1999) の研究です。富山県に住む高齢者
の幸福感が、どのような要因に影響されるのかを調査したものです。(財)富山県老人
クラブ連合会の協力を得て、富山県 9 市 18 町 8 村の高齢者 700 名に調査用紙を配布し
ました。調査内容は、主観的幸福感21 、家族の情緒的・手段的援助、生活の自立度など
の質問紙と BigFive でした。有効回答者は 422 名 (男性 272 名、女性 150 名) で、回収率
は 60.3%でした。平均年齢は男性 73.3 歳 (標準偏差 4.4)、女性 70.5 歳 (標準偏差 4.6) で
した。
重回帰分析22 の結果、男性の場合は、情緒安定性 (N)、協調性 (A)、反抗的な心理状態
21
22
ロートン (1975) の P.G.C.モラール尺度を採用しました。
複数の独立した変数から 1 つの基準となる変数を説明する統計法。ここでは調査項目や性格の得点
主要 5 因子性格検査 (BigFive) の成立
61
(F) の性格要因が主観的幸福感に影響していました。つまり、情緒が安定し、協調的だ
が、少し反抗的な人の主観的幸福感は高かったのです。その他の要因では、生活実感、
主観的健康観、家族の情緒的・手段的援助が関係していました。重相関係数23 は 0.68、
説明率は 0.682 = 0.46(46%) でした。
女性の場合は、情緒安定性 (N)、知性 (O)、用心深く控えめな心理状態 (F) の性格要
因が主観的幸福感に影響していました。つまり、情緒が安定し、知性が高く、用心深く
控えめな人の主観的幸福感は高かったのです。その他の要因では、主観的健康観、生活
実感、家族の情緒的・手段的援助が関係していました。重相関係数は 0.69、説明率は
0.692 = 0.48(48%) でした。
情緒安定性性格や主観的健康観が幸福感に影響する点は、従来の研究とも共通してい
ました。しかし、富山県高齢者は、男女とも外向性とは関係が見られませんでした。
東京都 (直井、1990) の高齢女性が世帯収入の影響を受けていたのに対して、富山県
高齢者では男女とも世帯収入の影響は見られません。富山県は持ち家率が全国一位で、
農業従事者が多いこと、世帯収入が少ない場合でも、生活の豊かさを実感できる条件が
整っていると推定されました。子供との同居は、東京都と同様に幸福感に影響していま
せんでした。
重相関係数は調査データとしては大きい方です。BigFive の妥当性の高さが実感でき
た研究でした。
総括
主要 5 因子性格検査 (BigFive) は、ビッグファイブ仮説に忠実に作成し、非常にきれ
いな 5 因子構造をしています。正直で洞察力のある大学生の自己評定との相関は高く、
仲間評定でも中程度の相関がありました。基準関連妥当性はかなり高く、MINI との併
存的妥当性も確認されました。信頼性も十分な水準です。質問項目は 70 と少なく、5∼
10 分で実施できます。
BigFive のコンピュータソフト24 を作成しました。ディスプレイに質問を提示し、個別
に実施できるし、マークカードと質問用小冊子を配布し、多人数の一括処理も可能です。
手元にコンピュータがなくても、解釈サービスを利用することもできます。また、YG
性格検査やエゴグラムのように、手で採点できるカーボン版25 も作りました。
23
24
25
から主観的幸福感の得点を推定する式を計算しています。
重回帰式で推定した値と実際の値との相関係数。
Windows 95/98/NT 用。定価は 50,000 円。詳しくは、
(株)学芸図書、TEL 03-3291-3023 まで。デ
モ版は第一筆者のホームページ http://yamakawo.edu.toyama-u.ac.jp/murakami/からダウンロー
ドしてください。
30 組セット、定価 6,000 円。(株)学芸図書、TEL 0.-3291-3023 まで。
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第3章
日本の 5 因子研究
よい心理テストの条件は、妥当性、信頼性、効率性が高いことです (村上, 1993)。
BigFive は、この条件にぴったり当てはまります。コンパクトで、非常に切れ味のよい
テストです。よい測定ツールがなければ、正確な評価はできません。データの蓄積もで
きません。BigFive はベストのツールです。今後、急速に普及すると確信しています。