電源回路の実用設計

第2部 ディスクリート・デバイス応用回路の設計
第5章
定電圧回路,定電流回路,
トラッキング電源,電子負荷など
電源回路の実用設計
渡辺 明禎
Akiyoshi Watanabe
3 端子レギュレータなどの専用 IC を使えば,手軽
に定電圧化された電源が得られるようになりました.
幅に異なります.特に 4.7 V 以下のツェナー・ダイオ
ードは,ツェナー電流に応じてツェナー電圧が大きく
しかし,電源の仕様は非常に広範囲で,電圧,安定性,
異なります.したがって,設計にあたり入出力の条件
リプルなど,さまざまな仕様に対応するためには,電
源回路を理解して,適切な設計を行う必要があります.
を明確にする必要があります.
この設計例では,入力電圧は 10 ∼ 16 V まで変動し,
この章では,基本的な回路を紹介し,その設計方法を
説明します.
出力電流は 0 ∼ 10 mA まで変動するものとします.
■ 6V 1
0mA の定電圧電源
ツェナー・ダイオードによる定電圧回路
ツェナー・ダイオードとして RD6.2EB1(NEC エレ
クトロニクス)を使うことにします.RD ×× E シリ
ーズはツェナー電圧 2.0 ∼ 120 V までのラインナップ
があり,最大許容電力 0.5 W のシリーズです.
■ シンプルな定電圧回路
● 直列抵抗 RS の決定
最も簡単な定電圧回路は図 5 − 1 に示すツェナー・
ダイオード(定電圧ダイオード)を使ったものです.し
RS の電圧降下 VRS は入力電圧 Vin = 10 ∼ 16 V から
VZ = 6.2 V を差し引いた 3.8 ∼ 9.8 V となります.負荷
電流の最大値は 10 mA なので,無負荷時のツェナー
電流 IZ は 2 mA を加えて 12 mA とします.したがって,
RS =(Vin(min)− VRS )/IZ ……………………(5 − 1)
=(10 − 6.2)/(12 × 10 − 3)≒ 317 Ω
かし,その動作を把握していないと,とても定電圧回
路とは呼べないものになってしまいます.
定電圧素子としてツェナー・ダイオードを使った場
合,その特性に注意する必要があります.図 5 − 2 に
示すように,降伏領域特性はツェナー電圧によって大
〈図 5 − 1〉ツェナー・ダイオードによる定電圧回路と出力特性
Vin
RS
330Ω
IL
Vout ≒VZ
入力電圧
Vin
IZ
ZD
RD6.2EB1
(a)回路図
▲
(NEC エレクトロ
ニクス)
ツェナー電流
IZ
I L =0mA I L =10mA
10V
11.5mA
1.5mA
16V
29.7mA
19.7mA
RS =330Ω
(b)ツェナー電流
出力電圧 [V]
Vout
7
6
5
Vin =10V
4
Vin =16V
3
2
1
0
0
10
20
30
40
負荷電流 [mA]
IL
50
(c)実測出力特性
Keywords
ツェナー・ダイオード,定電圧ダイオード,定電圧回路,定電流ダイオード,CRD,電流ブースタ,電圧ブースタ,リプル電圧,
過電流保護回路,カレント・リミッタ,フォールド・バック型,フの字形保護回路,ダーリントン接続,ツイン・トランジスタ,
CVCC 電源,定電圧定電流電源,電流検出抵抗,カレント・ホギング,トラッキング・レギュレータ,アクティブ・リプル・フィル
タ,電子負荷.
2003 年 4 月号
167
RD2.0E
100m RD2.2E
RD2.4E
10m RD2.7E
RD3.0E
1m
RD5.1E
RD5.6E
RD9.1E
100μ
10μ
1μ
RD3.3E
100n RD3.6E
RD3.9E
10n RD4.3E
RD4.7E
1n
0
1
RD6.2E
RD6.8E
RD7.5E
RD8.2E
2
3
4
5
6
VZ [V]
ツェナー電圧 100m
ツェナー電流 [A]
IZ
ツェナー電流 [A]
IZ
〈図 5 − 2〉定電圧ダイオード RD シリーズの降伏領域特性[NEC エレクトロニクス㈱]
RD10E
RD11E RD12E
RD13E
10m
1m
100μ
10μ
1μ
100n
10n
7
8
1n
9
0
7
(a)ツェナー電圧2.1∼9.1Vの品種
なので 330 Ωとします.
ツェナー・ダイオードには RD3.3EB1 を使います.
13
14
15
〈図 5 − 3〉トランジスタによる電流ブースタ付き定電圧回路
2SD1133(日立)
Vout =VZ −VBE
Vin
C2
RB
負荷で入力電圧が最大の 16 V のときですから,その
値は,
■ 3.3V の定電圧電源
9
10 11 12
VZ [V]
ツェナー電圧 (b)ツェナー電圧10∼13Vの品種
次にこの抵抗値でツェナー・ダイオードの定格を越
えないか検証します.IZ がもっとも大きくなるのは無
680Ω
C1
1μ
VBE
RD6.8
EB1
0.1μ
VZ
(a)回路図
6.8
出力電圧 [V]
Vout
IZ(max)=(Vin(max)− VZ )/RS ………………(5 − 2)
=(16 − 6.2)
/330 ≒ 29.7 mA
となります.したがって,負荷電流 I L が 0 ∼ 10 mA
の場合,IZ は 29.7 m ∼ 19.7 mA となります.ほかのケ
ースも含めて図 5 − 1
(b)にまとめました.このように
IZ = 1.5 ∼ 29.7 mA となります.
図5−2
(a)の RD6.2EB1 の特性から VZ は 0.1 V くら
(c)に示す実測
い変動することがわかります.図 5 − 1
特性でもその程度の電圧変動でした.
8
6.7
6.6
6.5
6.4
6.3
Vin =16V
6.2
6.1
Vin =10V
0
10
20
30
40
負荷電流 [mA]
IL
50
60
(b)実測出力特性
6 V の場合と同じように計算した結果を表 5 − 1 に示
します. R S は 330 Ωとしました.ツェナー電流は
10.3 m ∼ 38.5 mA となります.これを図 5 − 2
(a)で確
界があることを説明しました.そこで,トランジスタ
による電流ブースタを追加することにより,これらの
認すると, V Z = 3 ∼ 3.6 V まで変動します.これで
OK という用途はそれほどないでしょう.
欠点を改善できます.
では,どこに問題があるのでしょうか.これはツェ
■ 出力6V,5
0mA の定電圧回路
ナー電圧がツェナー電流に応じて大幅に変化するとい
う認識がなかったためです.特にツェナー電圧 5 V 以
回路は図 5 − 3
(a)です.Vin は 10 ∼ 16 V とします.
● ツェナー・ダイオードの決定
下のダイオードでは変動が顕著です.
このような単純な回路で 5 V 以下の定電圧回路を構
この場合 V out は V Z − V BE で, V BE はほぼ一定で
0.65 V なので,ツェナー電圧は 6 + 0.65 = 6.65 V とな
成した場合,ツェナー電流の変化が少ないような条件
でしか使用できません.入力電圧の変動や負荷電流の
ります.そこで RD6.8EB1 を使います.
● トランジスタの決定
変動が小さい用途で使用してください.
電流ブースタ付き
ツェナー・ダイオード定電圧回路
トランジスタには最大 50 mA の負荷電流が流れる
ので,最大コレクタ損失 PC は,
PC =(Vin(max)− Vout )Iout(max) ……………(5 − 3)
ツェナー・ダイオードだけの回路は,負荷電流の変
=(16 − 6)
× 0.05 = 0.5 W
となります.この程度なら TO − 220 型パッケージの
動が大きいとか,負荷電流が大きい場合に性能的な限
パワー・トランジスタを放熱器なしで使うことができ
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2003 年 4 月号