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目次
1
通信の階層
3
2
伝送媒体
5
3
パルス振幅変調
8
4
PAM 信号のスペクト ル
11
A 付録:離散時間 Fourier 変換
14
5
Sinc 関数と理想的な PAM
16
5.1 Sinc 関数のスペクトル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
5.2 Sinc 関数を用いた PAM . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16
6
標本化
18
7
標本化定理
20
8
標本化定理と理想的な PAM 伝送
21
9
無歪み伝送の条件
22
9.1 Nyquist パルス . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 24
10 搬送波帯域伝送と搬送波変調
25
10.1 振幅変調 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26
10.2 周波数変調 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 26
10.3 位相変調 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 27
11 搬送波変調のスペクト ル
29
12 多重アクセス・多重化・複信
31
12.1 FDMA . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 32
12.2 TDMA . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 33
12.3 CDMA . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 34
13 多重経路伝搬: 干渉とフェージング
36
13.1 フェージング . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 36
1
13.2 符号間干渉 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 37
14 雑音
14.1 電子回路における雑音の種類
14.1.1 熱雑音 . . . . . . . . .
14.1.2 ショット雑音 . . . . .
14.1.3 1/f 雑音 . . . . . . . .
14.2 白色 Gauss 雑音 . . . . . . . .
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B 付録:確率
B.1 確率分布と期待値 . . . . . . . . . . . .
B.1.1 確率変数と確率分布 . . . . . .
B.1.2 期待値 . . . . . . . . . . . . . .
B.1.3 二つの確率変数: 相関と独立性 .
B.1.4 離散確率変数 . . . . . . . . . .
B.2 実数値 Gauss 確率変数 . . . . . . . . .
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38
38
38
40
42
43
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.
44
44
44
44
45
46
47
15 確率過程と電力スペクト ル
49
15.1 定常確率過程 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49
15.2 電力スペクトルと自己相関 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 49
15.3 白色 Gauss 雑音の電力スペクトル . . . . . . . . . . . . . . 50
16 線形フィルタの応答と電力スペクト ル密度
51
16.1 定常性 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51
16.2 出力の電力スペクトル密度 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 51
17 雑音がある場合の受信のモデルと誤り確率
52
17.1 通信モデル . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 52
17.2 判定誤り確率 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 54
18 整合受信器: SNR を最大にする受信器
56
18.1 ID 受信器: NRZ 伝送に対する最適受信 . . . . . . . . . . . 57
2
1
通信の階層
「通信」という操作には多くの要素が含まれている. 例えば , 図 1-1 に
示すような通信ネットワーク上の通信器 A をユーザ 1 が用い, 通信器 B
をユーザ 2 が用いて互いに通信を行なう場合を考えよう. まず , ユーザは
WEB 等の通信ツールを起動し , 通信ツールは与えられたユーザデータを
適切な文字コード を用いて適切な形に構成してから通信開始の命令をシ
ステムに出し , システムは要求される水準の通信を行なうために必要とさ
れる, あるいは使用できる通信資源 (時間や帯域幅) を定めてから要求を
満たす通信経路の設定をネットワーク命令し , ネットワーク側は通信器間
の複数の伝送路を組み合わせて要求された通信経路を確立する. そして,
各伝送路は与えられた物理的な伝送媒体を通して信号を送ることにより
データの伝送を実現する.
B
通信経路
ユ ー ザ1
A
伝送路
D
ユ ー ザ2
通信器
C
図 1-1: 通信ネットワーク
これらの機能は表 1-1 に示される 7 つの階層に分けられる.
表 1-1: OSI 参照モデル
レベル
7
6
5
4
3
2
1
階層 (layer)
機能
応用 (application)
ユーザの通信ツール
表示 (presentation)
データ圧縮, 暗号化, フォーマット化
対話 (session)
対話の維持に関する制御
端末間伝送 (transport) ユーザ端末の間の通信の制御
経路制御 (network)
ネットワーク中の経路設定
伝送路 (data link)
物理的媒体上のデータ伝送
物理 (physical)
通信媒体とそれを制御する電子機器
3
上記の通信ネットワーク上の通信はネットワークを構成する通信器の
各層の機能を経由して, 図 1-2 に示すように行なわれる.
ユ ー ザ2
ユ ー ザ1
中継器
送受信端末
応用層
(application layer)
( 通信器 A)
送受信端末
( 通信器 B)
( 通信器 C)
応用層
応用層
表示層
(presentation layer)
表示層
表示層
対話層
(session layer)
対話層
対話層
端末間 伝送層
端末間 伝送層
経路制御層
経路制御層
伝送路層
伝送路層
端末間 伝送層
(transport layer)
デー タの
流れ
経路制御層
(network layer)
パ ケット
伝送路層
(data link layer)
フ レ ー ム
物理層
(physical layer)
ビ ット列
物理層
物理層
伝送媒体
伝送媒体
図 1-2: OSI 参照モデル
なお, LAN (local area network) や無線 LAN の様に一つの伝送路上に
複数の通信器が接続される場合には , 経路制御と伝送路伝送の機能区分が
できないので , 両層は新たに論理伝送制御 (LLC: logical link control) 層
とメデ ィア接続制御 (MAC: media access control) 層とに分けられる.
一般に WLAN と知られている無線 LAN では LLC, MAC, 物理の各層
を IEEE 802.11 標準に従って制御している.
この授業は下から 1 層と 2 層, そして 3 層の一部を対象とする.
4
2
伝送媒体
通信は大きく分けると , 通信ケーブルを用いる有線通信と電波 (電磁波)
や超音波 (水中通信) を用いる無線通信とに分かれる. 通信ケーブルは図
2-1 に示すように , 金属ケーブルとしては平衡ケーブル (balanced cable)
と同軸ケーブル (coaxicial calbe), 導波管 (wave guide), そして非金属ケー
ブルとして光ファイバーケーブル (optical fiber calbe) などがある.
導体
絶縁 体
心線
導体
被覆
( 光フ ァ イ バ ー )
被覆
ピ ッチ
(a) 平衡ケー ブ ル
( 2心ツイ ストペ ア 線 )
(b) 同軸ケー ブ ル
(d) 光ケー ブ ル
(c)導波管
図 2-1: 伝送ケーブル
通信に用いられる電磁波の主な周波数帯域を図 2-2 に示す. UHF より
300
近赤外
30
EHF
3 GHz
UHF
300
40 GHz
ミ リ 波
SHF
極超短波
27 GHz
レ ー ダー
PCM通信
移 動体通信
無線LAN
マ イ クロ 波
18 GHz
12 GHz
8 GHz
VHF
超短波
TV・ FM
4 GHz
HF
短波
( PLC検討中 )
2 GHz
3 MHz
MF
300
30
75 GHz
サブ ミ リ 波
300
30
110 GHz
遠赤外
3 THz
30
光フ ァ イ バ ー 通信
中波
1 GHz
W
V
Ka
K
Ku
X
C
S
L
( VDSL・ ADSL )
LF
VLF
長波
3 KHz
図 2-2: 主な周波数帯域
周波数の低い帯域には歴史的に様々な用途に帯域が割り当てられている
ため, 高速なデータ通信には UHF 以上の周波数が用いられる. 一般にマ
5
1000
市外平衡ケー ブ ル
(d=0.65mm)
標準同軸ケー ブ ル
100
38mm 海底同軸ケー ブ ル
H O
2
光フ ァ イ バ
O2
10
減衰定数
( dB/km )
1
ミ リ 波導波管
(d=51mm)
O2
電波の 吸 収減衰
H O
2
0.1
0.01
10 M
100 M
1G
10 G
100 G
1T
10 T
100 T
周波数
( Hz )
図 2-3: 減衰係数
イクロ波と呼ばれる 1GHz 以上の電波は指向性が強く, 高い周波数では指
向性と (次に述べる) 減衰特性が重要である.
信号を 1km 伝送した時の電力の減衰割合を dB で表示したものを減衰
係数 (attenuation factor) とよぶ. 送信電力を PT , 1km 隔てた地点での受
信電力を PR とすれば , 減衰係数 α(dB/km) は次のように与えられる.
α = 10 log10
PT
PR
(2.1)
有線・無線伝送における減衰係数を図 2-3 に示す. 数 Km に渡って無理
なく使用できるのは , 標準同軸ケーブルで 10MHz 以下, 平衡ケーブル (電
話加入者線) で (図には見えないが ) 数百 KHz 以下である. これに対して ,
光ファイバーはかなり減衰の少ない媒体であることが分かる.
電波は空間中を進行するとともに空間中に拡散していくため, その減衰
は拡散減衰と吸収減衰に分けられる. 拡散減衰は拡散様子でことなり, 吸
収減衰は図 2-3 に示すように数 10GHz から大きくなる. ただし , 電波の場
合, 受信電力は減衰だけではなく, 送受信アンテナの指向性 (あるいはア
ンテナ利得) によっても大きく変わる.
水中における無線通信には音波が用いられる. 実際, 図 2-4 に示すよう
に , 海洋等における開発・測定に重要な役割を果たす. ただし , 大気中の
電磁波と比較して, 水中での音波の減衰は大きく, 通信距離は目安として
表 2-2 に示すようになる. 水中の音速は約 1.5Km/sec なので , 5KHz の水
6
1P
水上プ ラ ットホ ー ム
母船
水中調査船
屈折
反射
テレ メ トリ システム
水中調査船
図 2-4: 水中データ伝送
中音波は 10GHz の電波と同じ波長 (約 30cm) を持つ. 従って, 水中通信は
マイクロ波通信と様々な類似性を持ち, 例えば , 送信器と受信器の相対的
な運動による Doppler 周波数偏移や信号波の反射・回折などは両者に共
通点がある. 逆に , 水中の音波の速度は温度や圧力, 塩分濃度等の影響を
受けやすく, 浅いところでは屈折と水面反射を繰り返す多重反射が起きや
すい. (13 節参照.)
[ 問題 2-1 ] 平衡ケーブルの原理を述べよ. ピッチは何で決まるか .
[ 問題 2-2 ] 同軸ケーブルの減衰係数を決めるパラメータを述べよ.
[ 問題 2-3 ] 音波が屈折と水面反射を繰り返すのは , 水面付近で垂直方向
に音速がどの様に変化しているときか .
表 2-2: 周波数と水中における伝達距離
周波数
50KHz 前後
10KHz 前後
1KHz 前後
用途
短距離 (1Km 程度)
中距離 (10Km 程度)
長距離 (数百 Km)
7
3
パルス振幅変調
始めに図 3-1 に示すケーブル伝送の例を考える. この例では伝送ビット
は一定の時間 T (sec) 毎に ±A(V) の電圧値として電線に送られ , 受信側で
は観測値 vo の正負に従ってビット ”0”/”1” を判定する.
ビ ット / 電圧 変換
0
+ A (V)
1
- A (V)
電圧
ビ ット判定
v0
v0 > 0
v0 < 0
0
1
図 3-1: 簡単なケーブル伝送
ビット列”10110”が送られたと仮定して, 電線に加えられる代表的な信
号波形の例を図 3-2 に示す. 図 3-2(a) は途中の信号値が 0V の値に留まら
ないので non-return-to-zero 伝送あるいは NRZ 伝送とよばれ , 図 3-2(b)
はビットの間で信号値が 0V へ戻るので return-to-zero 伝送あるいは RZ
伝送とよばれる. 両者を表 3-3 で比較する.
表 3-3: NRZ 伝送と RZ 伝送の比較
NRZ 伝送 RZ 伝送
タイミング・クロック 必要
不要
伝送速度 (bit/sec)
大きい
小さい
NRZ 伝送の場合には信号波形とビットを対応させるためにタイミング・
クロックが必要であるのに対し , RZ 伝送では区切りが明らかなのでそれ
は不要である. 一方, RZ 伝送は一ビットの間隔 T (以下シンボル間隔とよ
ぶ) を NRZ 伝送より大きくする必要がある.
この様に , ビットを電圧値に変えて電線を通して伝送するにしても幾つ
かの方法があり, どの方法が相応しいかは何が必要とされるかによって変
わる. NRZ 伝送と RZ 伝送を特徴付けているのは各々で用いられている
基本パルス波形である. (図 3-2 参照.) 基本パルス波形を p(t) と表すこと
にすれば , NRZ 伝送と RZ 伝送ではビット列に対応する離散時間信号 xn ,
n = · · · 0, 1, · · · , から信号波形が以下のように表されている.
∞
xn p(t − nT )
s(t) =
n=−∞
8
(3.1)
t
A
0
t
A
0
T
t
0
T
2T
3T
4T
5T
T
t
0
基 本波形
-A
T
2T
3T
4T
5T
基 本波形
-A
(a) NRZ伝送
(a) RZ伝送
図 3-2: ビット列”10110”に対する伝送信号の例
PAM
ビ ット列 ビ ット / 値 . . . x1 x2 x3 . . .
変換
s (t )
p(t )
通信路
図 3-3: PAM 伝送
式 (3.1) で表される離散時間信号から連続時間信号への変換をパルス振幅
変調あるいは PAM (pulse amplitude modulation) とよび , p(t) を PAM
パルス波形とよぶ.
[例 3-1] 離散時間信号 {xn } = +A −A −A −2A +A −A に対して図 3-4(a)
に示す三角波を用いて生成された PAM 信号は図 3-4(b) のようになる.
A
A
t
t
0
T
2T
T
0
2T
3T
4T
5T
6T
-A
-2 A
(b) PAM波形
(a) PAMパ ル ス波形
図 3-4: 三角波による PAM 伝送
[ 問題 3-1 ] RZ 伝送のシンボル間隔 T は NRZ 伝送の場合より大きい必
要がある. それは何故か .
9
[ 問題 3-2 ] 例 3-1 の PAM パルス波形を以下のものに換えて PAM 信号
を生成せよ.
p(t) =







1
2
0,
t < −T,
π
1 + cos T t , −T ≤ t ≤ T,
0,
T < t,
10
4
PAM 信号のスペクト ル
関数 f (t) に対してその Fourier 変換は
F (jω) = F [f (t)] =
∞
−∞
f (t)e−jωt dt
(4.1)
逆 Fourier 変換は
1
2π
f (t) = F −1 [F (jω)] =
∞
−∞
F (jω)ejωt dω
(4.2)
で与えられる. Fourier 変換 F (jω) は関数 f (t) に含まれる周波数成分を表
し , Parseval のエネルギ等式
∞
−∞
|f (t)|2 dt =
1
2π
∞
−∞
|F (jω)|2 dω
(4.3)
から分かるように , Fourier 変換 F (jω) の絶対値の 2 乗が周波数軸上での
エネルギ密度を与える. 以後は Fourier 変換 F (jω) を f (t) の周波数スペク
ト ルあるいは単にスペクト ルとよぶことにする.
PAM 信号のスペクトルは以下のように計算できる.
S(jω) = F [s(t)]
=
=
∞
∞
xn p(t − nT )e−jωt dt
−∞ n=−∞
∞
xn e−jωnT
n=−∞
∞
−∞
p(t)e−jωt dt
(4.4)
最後の式は離散時間信号 {xn } の離散時間 Fourier 変換 X(jω) = FDT [{xn }]
と p(t) の Fourier 変換 P (jω) = F[p(t)] の積で表される. (A 節参照.)
S(jω) = FDT [{xn }] · F [ p(t) ]
= X(jω)P (jω)
(4.5)
離散時間信号 {xn } のシンボル間間隔が T なので離散時間 Fourier 変換
は周期 2π/T の周期関数となる. 従って, 式 (4.5) で表されるスペクトル
の広がりは基本的に P (jω) で決まることになる.
[例 4-1] 次式で与えられる方形波 p(t) のスペクトルを求める.
prect (t) =

T


 0, t < − 2 ,
1, − T2 ≤ t ≤ T2 ,
T
<t
2


 0,
11
Fourier 変換により,
T /2
Prect (jω) =
−T /2
e−jωt dt
1
ejωT /2 − e−jωT /2
jω
sin ωT /2
= T
ωT /2
ωT
= T sinc
2
=
ここで , 次のように与えられた関数 sincx
sinc x =
sin x
x
(4.6)
を標本化関数あるいは sinc 関数とよぶ.
以下, 図 4-1 にあげた例についてそのスペクトルを示す.
(1) 方形波 (rectangular)
Prect (jω) = T sinc
ωT
2
(4.7)
(2) 三角波 (triangular)
Ptri (jω) = T
1
sinc
ωT
2
(a) 方形波
(4.8)
1
1
t
t
- T
2
2
T
2
-T
- T
2
T
2
T
(b) 三角波
図 4-1: 簡単なパルス波形の例
12
t
-T
(c) 持ち 上げ コサイ ン
T
(b)
(c)
(a)
(a)
(b)
(c)
ω
-
4π
T
-
2π
T
2π
T
4π
T
図 4-2: 三つのパルス波形のスペクトル
(3) 持ち上げコサイン波形 (raised-cosine) は次のように表される.

 1 1 + cos πt , −T ≤ t ≤ T,
T
pRC (t) =  2
0,
その他.
(4.9)
これに対して, スペクトルは
PRC (jω) =
π2T
sinc ωT .
π 2 − (ωT )2
(4.10)
図 4-2 にスペクトルを示す.
[例 4-2] 持ち上げコサイン波形を用いて以下の長さ 50 の離散時間信号を
パルス振幅変調する.
{xn } = +1 +1 +1 +1 −1 −1 −1 −1 +1 +1 +1 +1 −1 +1 +1 −1 −1
−1 −1 −1 +1 −1 −1 +1 +1 +1 −1 −1 +1 −1 −1 +1 −1 −1
+1 +1 +1 −1 −1 −1 −1 +1 +1 −1 +1 −1 +1 +1 +1 +1
その時の PAM 信号 s(t) のスペクトルは図 4-3 に示すようになる.
[ 問題 4-1 ] スペクトル (4.8) と (4.10) を計算せよ.
[ 問題 4-2 ] 次の極限を求め, スペクトル (4.10) の概形を描け .
π2
sinc x
x→0 π 2 − x2
(1) lim
π2
sinc x
x→π π 2 − x2
(2) lim
13
S ( j ω)
2
P( j ω)
2
X( j ω)
2
ω
2π
T
2π
T
π
T
2π
T
π
T
0
2π
T
2π
T
2π
T
図 4-3: 持ち上げコサインを用いた PAM 信号のスペクトル
A
付録:離散時間 Fourier 変換
シンボル間間隔 T の離散時間信号 {xn } = · · · x1 x2 · · · に対して, その
離散時間 Fourier 変換は次のように与えられる.
∞
X(jω) = FDT [{xn }] =
xn e−jωnT
(A.1)
n=−∞
全ての指数関数 ejωnT は共通の周期 2π/T を持つので , X(jω) は周期関数
X jω +
2π
T
= X(jω),
for
= 0, ±1, ±2, · · · ,
(A.2)
である.
逆変換は次のように与えられる.
−1
FDT
[X(jω)] =
T
2π
π/T
−π/T
X(jω)ejωnT dω
実際, (A.1) を (A.1) へ代入すれば ,
T
2π
π/T
∞
−π/T =−∞
∞
=
x
=−∞
x e−jω T ejωnT dω
T
2π
π/T
−π/T
= xn
14
ejω(n− )T dω
(A.3)
を得る. (問題 A-1 参照.)
[ 問題 A-1 ] 次の式を証明せよ.
T
2π
T /π
−T /π
ejω T dω =
15
1,
0,
= 0,
= 0.
5
Sinc 関数と理想的な PAM
Sinc 関数を用いた PAM がどの様な性質を持つかを考える.
5.1
Sinc 関数のスペクト ル
任意の α に対して次の関数を考える.
1[−α,α] (ω) =
1, −α ≤ ω ≤ α,
0, その他,
(5.1)
積分
1 α jωt
1
α
e dω =
sin αt = sinc αt
(5.2)
2π −α
πt
π
に注意すれば , 次の Fourier 変換の組が得られる.

α
−1


sinc αt
1[−α,α] (ω) =
 F
π
(5.3)
α


F
sinc αt = 1[−α,α] (ω)

π
式 (5.1) は α[rad/sec] より低い周波数をそのまま通過させ, それ以上を
完全に遮断する理想的な低域通過特性である. 従って, sinc 関数は理想的
な低域通過フィルタのインパルス応答である.
[ 問題 5-1 ] 以下の等式を証明せよ.
α
(sinc αt) ∗ (sinc αt) = sinc αt
π
5.2
Sinc 関数を用いた PAM
パルス波形
p(t) = sinc
を用いた PAM
∞
xn sinc
s(t) =
n=−∞
πt
T
(5.4)
π(t − nT )
T
(5.5)
を考える. この PAM 信号のスペクトルは以下のように計算される.
πt
S(jω) = X(jω) · F sinc
T
π
T X(jω), − T ≤ ω ≤ Tπ ,
=
(5.6)
0,
その他.
16
このように , sinc 関数を用いた PAM のスペクトルは離散時間信号のス
ペクトル X(jω) の丁度一周期分になる. この意味については後でもう一
度考えることにする.
17
6
標本化
連続時間関数 r(t) に対して, その一定間隔 T [sec] 毎の値 yn = r(nT ) を
観測することを標本化 (sampling) といい, yn を標本値, そして T [sec] を
標本化間隔, 1/T [1/sec] を標本化レート という. (図 6-1 参照.) 標本化は連
続時間信号 r(t) を離散時間信号 rn に変換する方法である.
y n = r ( nT )
r(t )
t = nT
図 6-1: 標本化 (器)
標本値列 {yn } のスペクトル (離散時間 Fourier 変換)
∞
yn e−jωnT
Y (jω) = FDT [{yn }] =
(6.1)
n=−∞
を求めたい. しかし , 直接に計算するのは難しいので , 次の逆変換に注目
する.
T π/T
−1
Y (jω)ejωnT dω
(6.2)
yn = FDT
[Y (jω)] =
2π −π/T
信号 r(t) のスペクトルを R(jω) とすれば ,
r(t) =
1
2π
∞
−∞
R(jω)ejωt dω
(6.3)
従って,
1
2π
1
=
2π
yn =
=
1
2π
=
T
2π
∞
−∞
∞
R(jω)ejωnT dω
π/T +2πk/T
k=−∞ −π/T +2πk/T
∞
π/T
R(jω)ejωnT dω
R jω + j
k=−∞ −π/T
∞
π/T
−π/T
1
T
(6.4)
2πk j(ω+2πk/T )nT
e
dω
T
R jω + j
k=−∞
18
2πk jωnT
e
dω
T
(6.5)
Y (jω )
折り 返し歪
R (jω )
ω
π
- 3
T
π
T
π
T
0
3π
T
図 6-2: 折り返し和と折り返し歪み
以上より, 求めるスペクトルは次のようになる.
Y (jω) =
1
T
∞
R jω + j
k=−∞
2πk
T
(6.6)
標本値列のスペクトル Y (jω) は元の信号のスペクトル R(jω) を 2π/T ず
つずらしながら加算することによって得られる. (図 6-2 参照.) このよう
な操作を折り返し 和 (aliasing sum) という.1
この結果, (当然ながら )Y (jω) は周期 2π/T の周期関数になる. また, 折
り返し和の結果, [−π/T, π/T ] の範囲に制限しても一般に Y (jω) と R(jω)
の形は異なる. このように , 標本化によって生ずるスペクトルの歪みを折
り返し 歪という.
[ 問題 6-1 ] 任意の角周波数 Ω の正弦波 sin Ωt を標本化レート 1 で標本化
したとき, どのような信号が得られるか . また, そのスペクトルの概形を
描け .
[ 問題 6-2 ] 式 (6.1) に式 (6.4) を代入して式 (6.6) を導出できるか .
1
R(jω) が原点について対称でない限り, この操作は厳密には折り返しではない.
19
7
標本化定理
信号 r(t) のスペクトルを R(jω) とする. 条件
R(jω) = 0
for ω ∈ [−B, B]
(7.1)
が成立する時, 信号 r(t) は [−B, B] に帯域制限されているという.
信号 r(t) が [−π/T, π/T ] に帯域制限されているなら ,
Y (jω) =
1
R(jω)
T
for ω ∈ [−π/T, π/T ]
(7.2)
従って,
1
2π
1
=
2π
T
=
2π
r(t) =
π/T
−π/T
π/T
−π/T
R(jω)ejωt dω
T Y (jω)ejωt dω
∞
π/T
−π/T n=−∞
∞
=
yn
n=−∞
∞
=
T
2π
yn sinc
n=−∞
yn e−jωnT ejωt dω
π/T
−π/T
ejω(t−nT ) dω
π(t − nT )
T
(7.3)
これより以下の定理が得られる. (下図参照.)
PAM
y n = r ( nT )
r(t )
sinc π t
T
r(t )
t = nT
図 7-1: 標本化定理
定理 7-1 [標本化定理 (sampling theorem)] 信号 r(t) が [−π/T, π/T ] に
帯域制限されているなら , r(t) はレート 1/T の標本値列 {yn } に対する理
想的な PAM として表される.
20
標本化定理
PAM
yn
r(t )
sinc π t
T
t = nT
PAM
r(t )
yn
sinc π t
T
r(t )
t = nT
理想的なPAM 伝送
図 8-1: 標本化定理と理想的な PAM
8
標本化定理と理想的な PAM 伝送
帯域制限された信号 r(t) は標本値列 {yn } から理想的な PAM によって
復元でき, この操作は何回でも繰り返すことができる. そこで前節の図 7-1
を二つ重ねたのが図 8-1 である. これより, 理想的な PAM が標本化定理
とどのような関係にあるかが分かる.
さて, 与えられた入力 s(t) をそのまま出力 r(t) = s(t) として送り出す
通信路を理想的な通信路とよぶことにする.
基本パルス波形 sinc(πt/T ) を用いた理想的な PAM 信号を理想的な通信
路を通して伝送した場合, 標本化定理の裏返しとして, 次のことが分かる.
• 通信路を通して伝送される PAM 信号は帯域 [−π/T, π/T ] に制限さ
れている.
• 受信器は標本化器でよい.
逆にいえば , 帯域 [−π/T, π/T ] において理想的な通信路があればシンボル
間間隔 T の離散時間信号 {xn } を伝送することができる.
しかし , sinc 関数を用いた理想的な PAM は現実には不可能であるし , 実
際の通信路には雑音がある. 以下の節ではもう少し現実的な条件におけ
る PAM 伝送について考えていく.
[ 問題 8-1 ] Sinc 関数を用いた理想的な PAM はなぜ実現不可能なのか .
21
9
無歪み伝送の条件
この節ではより実際的な PAM 伝送の問題を考えよう. 図 9-1 に示すよ
うに , 通信路は理想的, つまり r(t) = s(t), であり, PAM パルス波形 p(t)
を用いて PAM 信号 s(t) を生成し , 受信器は標本化器で構成されているも
のとする.
PAM
xn
s(t )
p( t )
理想的通信路
yn
r(t )
r(t ) = s(t )
t = nT
図 9-1: 理想的な通信路上での PAM 伝送
この時, 以下のような無歪伝送の条件を考える.
yn = αxn
for all n
(9.1)
ここで , α は非零の定数である. この条件は以下に示すように , p(t) のス
ペクトルに対する条件式として表すことができる.
まず , 標本値列 {yn } のスペクトルは標本化器入力 r(t) のスペクトル
R(jω) の折り返し和で表現され , そして, r(t) = s(t) であることから ,
Y (jω) = FDT [{yn }]
1 ∞
2π
=
S jω + j
T =−∞
T
(9.2)
ただし , S(jω) は s(t) のスペクトルである. データ {xn } のスペクトルを
X(jω), p(t) のスペクトルを P (jω) とすれば , S(jω) = X(jω)P (jω) であ
るから ,
Y (jω) =
1
T
∞
X(jω)P jω + j
=−∞
= X(jω) ·
1
T
2π
T
∞
P jω + j
=−∞
2π
T
ここで X(jω) が周期 2π/T の周期関数であることを用いた.
22
(9.3)
1
P ( j ω)
0.5
ω
-2
π
T
-
π
π
2π
T
T
T
図 9-2: Nyquist の条件を満足するスペクトル
無歪伝送の条件式 (9.1) は Y (jω) = αX(jω) と書けるから , 次の条件が
得られる.
∞
2π
= αT
(=定数)
(9.4)
P jω +
T
=−∞
この条件式を Nyquist の条件という.
図 9-1 より,
yn = s(nT )
∞
=
xk p(nT − T )
(9.5)
=−∞
という関係式が得られるから , 条件 (9.1) は
p( T ) =
α, for
0, for
= 0,
= 0,
(9.6)
と等価である. 二つの条件式 (9.4) と (9.6) は等価である.
第 4 節の方形波と三角波, 持ち上げコサインは明らかに条件 (9.6) を満
たすので無歪伝送が可能な PAM パルス波形である. しかし , どれもかな
り広いスペクトルの広がりを持つ. 無線通信のように狭いスペクトルの
信号が必要とされる場合には Nyquist パルス波形が用いられる.
[ 問題 9-1 ] 二つの条件式 (9.4) と (9.6) が等価であることを直接に示せ.
23
9.1
Nyquist パルス
帯域が [−2π/T, 2π/T ] に制限2されたスペクトル
for ω ∈ − 2π
, 2π
T
T
P (jω) = 0
(9.7)
が条件 (9.4) を満足するとすれば , 簡単な関係式
P (jω) + P jω −
2π
T
= 定数,
for 0 ≤ ω ≤
2π
T
(9.8)
を得る. これは図 9-2 に示すように , P (jω) の [−2π/T, 0] の部分をひっく
り返すと [0, 2π/T ] の部分にちょうど 填まることを表している.
このようなスペクトルとして次の持ち上げコサイン・スペクト ル波形が
ある.




P (jω) = 


0 ≤ |ω| ≤ π(1−ρ)
T
π(1+ρ)
, π(1−ρ)
≤
|ω|
≤
T
T
π(1+ρ)
≤ |ω|
T
T,
T
2
T
1 − sin 2ρ
ω−
0,
π
T
(9.9)
ここで , ρ はロールオフ率とよばれる. なお, この波形は単に Nyquist パ
ルス波形とよばれることもある. 対応する時間波形は次のようになる.
p(t) =
cos
1−
πρt
T
2ρt 2
T
sinc
πt
T
(9.10)
図 9-3 に時間波形と対応するスペクトルを示す.
[ 問題 9-2 ] この式 (9.9) より式 (9.10) を計算せよ.
[ 問題 9-3 ] Nyquist パルス波形に対して極限 limt→T /(2ρ) p(t) を求めよ.
2
基本帯域 [−π/T, π/T ] ではないことに注意.
24
ρ = 1.0
0.5
0.0
ρ = 1.0
0.0 0.5
ω
t
-
π
π
T
T
(b)
(a)
図 9-3: Nyquist パルス波形とそのスペクトル
10
搬送波帯域伝送と搬送波変調
理想的な PAM 伝送ではデータ信号のスペクトルと送信信号のスペクト
ルが一致するが , 通常の PAM 伝送のスペクトルはデータ信号のスペクト
ルより広がる. しかし , 現実問題としては , 両者のスペクトルは大体にお
いて同じ 周波数帯域を占めると考えて良い. このような伝送を基底帯域
伝送 (baseband transmission) という. これに対して , 無線通信では信
号を電波として空間中に放出するために積極的に周波数変換をしてから
伝送する. 周波数変換は一般に搬送波を用いて行なわれるため, このよう
な伝送を搬送波帯域伝送 (carrierband transmission) という.
搬送波帯域伝送には搬送波 cos ωo t の振幅 (amplitude) と , 周波数 (frequency), 位相 (phase) の三つにデータをのせる可能性がある. (sin ωo t で
もよい.)
s(t)
アナログ
デジタル
= A(t) cos (ωo + B(t) ) t + C(t)
振幅
⇒ AM
⇒ ASK
周波数
FM
FSK
25
位相
(PM)
PSK
(10.1)
10.1
振幅変調
中波・短波ラジオに用いられている変調方式であり, アナログ変調の場
合 AM (amplitude modulation), デジタル変調の場合 ASK (amplitude
shift-keying) という. ど ちらの場合も変調は基本的に同じ く図 10-1 に示
すような形で行なわれる. なお, 信号 x(t) の振幅がレベルシフトのシフト
x (t)
s ( t ) = A ( t ) cos ωo t
A ( t ) = A o+ x ( t )
レベル
シフ ト
r (t)
受信フ ィ ル タ
包絡線検出
y (t)
レベル
シフ ト
x^ ( t )
cos ωo t
搬送波
t
t
t
t
t
図 10-1: 振幅変調と復調
量より大きくなると A(t) がマイナスの値を取り, 過変調という現象が生
ずる.
復調器における包絡線検出は図 10-2 に示すような幾つかのやり方で行
なわれる.
r (t)
( )2
ローパス
フィルタ
y (t)
y (t)
r (t)
(a) 乗算と 平方を 用い る
(b) 整流器 を 用い る
図 10-2: 包絡線検出
10.2
周波数変調
FM ラジオに用いられている方法であり, アナログ変調の場合 FM (frequency modulation), デジタル変調の場合 FSK (frequency shift-keying)
という. 変調は外部信号によって発信周波数を制御できる VCO (voltagecontrolled ascillator) を用いて簡単に行なえる. (図 10-3 参照.)
26
s ( t ) = cos [ ωo + B ( t ) ] t
x (t)
t
t
VCO
cos ωo t 搬送波
図 10-3: 周波数変調
復調もダ イナミックレンジと線形性をあまり求めないのなら図 10-4 に
示すような簡単な回路で復調が行なえる. ただし , ωo = 1/(CR) である.
r (t)
C
y (t)
レベル
シフ ト
包絡線検出
R
| F ( jω ) |
t
t
t
t
ω
ωo
図 10-4: 簡単な FM 復調器
線形性が重要な場合には PLL (phase locked loop) を用いた復調器が用
いられる.
r (t)
周波数比較 器
電圧 制御器
レベル
シフ ト
y (t)
PLL (phase locked loop)
VCO
図 10-5: PLL を用いた FM 復調器
10.3
位相変調
位相変調は主にデジタル・データ伝送に用いられ , そこでは PSK (phase
shift-keying) とよばれる. 位相変調は発振器の位相を直接に制御するより
27
は , 三角関数の展開式
s(t) =
√
2 cos [ωo t + C(t)]
√
√
= cos [C(t)] · 2 cos ωo t − sin [C(t)] · 2 sin ωo t
(10.2)
√
√
を利用して行う. 最後の式は互いに直交する 2 sin ωo t と 2 cos ωo t で表
されているので ,3 直交表現 (quadrature representation) とよばれる.
図 10-6 に変調と復調のブロック図を示す.
2 cos ω o t
2 cos ω o t
ロ ー パ ス
フ ィ ル タ
cos C ( t )
C (t )
2 sin ω o t
s (t )
sin C ( t )
r (t )
C (t )
2 sin ω o t
ロ ー パ ス
フ ィ ル タ
(a) 直交変調
a( t )
b( t )
(b) 直交復調
図 10-6: 位相変調を実現する直交変調・復調
[ 問題 10-1 ] 図 10-6(b) において a(t) = cos C(t), b(t) = sin C(t) となる
ためにはローパスフィルタの遮断周波数をどの様に定めれば良いか .
3
√
2 は電力を 1 に正規化するため.
28
11
搬送波変調のスペクト ル
図 11-2(a) と (b) に示す変調器と復調器をモデルとして , 搬送波変調信
号のスペクトルを計算してみよう.
2 cos ω o t
2 cos ω o t
s (t )
x (t )
z (t ) ロ ー パ ス
r (t )
(a) 変調
フ ィ ル タ
y( t )
(b) 復調
図 11-1: 簡単な変調・復調
図 11-1(a) より,
√
s(t) = x(t) 2 cos ωo t
(11.1)
従って, X(jω) = F [x(t)] とおけば , スペクトルは次のように計算できる.
√
S(jω) = F x(t) 2 cos ωo t
√
ejωo t + e−jωo t
=
2F x(t)
2
√
√
2 ∞
2 ∞
jωo t
−jωt
=
x(t)e
·e
dt +
x(t)e−jωo t · e−jωt dt
2 −∞
2 −∞
1
1
= √ X(jω − jωo ) + √ X(jω + jωo )
(11.2)
2
2
通信路が理想的なとき, つまり r(t) = s(t) の時, 変調信号を受信した図
11-1(b) の復調器が
√
√
z(t) = y(t) 2 cos ωo t = s(t) 2 cos ωo t
(11.3)
より, スペクトルの上では以下のようになる.
Z(jω) = F [z(t)]
√
= F s(t) 2 cos ωo t
1
1
= √ S(jω − jωo ) + √ S(jω + jωo )
2
2
1
1
=
X(jω − 2jωo ) + X(jω) + X(jω + 2jωo )
2
2
29
(11.4)
X ( jω)
ω
0
S ( jω)
ω
- ωo
ωo
0
Z ( jω)
ω
-2 ωo
- ωo
0
ωo
2 ωo
図 11-2: 簡単な変調・復調とスペクトル
従って, 周波数 ±2ωo を中心としたのスペクトル X(jω ± 2jωo ) を遮断す
るローパスフィルタを用いれば , 復元した信号のスペクトルは X(jω) と
なり, y(t) = x(t) となることが分かる. 以上のスペクトルの関係を図 11-2
に示す.
[ 問題 11-1 ] 図 11-3 に一般的な直交変調と復調のブロック図を示す. 上
と同様にして, s(t) と z(t) のスペクトルを計算せよ. yr (t) = xr (t) かつ
yi (t) = xi (t) となるためにはローパスフィルタの遮断周波数をどの様に定
めれば良いか .
2 cos ω o t
2 cos ω o t
zr ( t )
xr ( t )
2 sin ω o t
s (t )
r (t )
(a) 変調
yr ( t )
ロ ー パ ス
フ ィ ル タ
yi ( t )
2 sin ω o t
zi ( t )
xi ( t )
ロ ー パ ス
フ ィ ル タ
(b) 復調
図 11-3: 一般的な直交変調・復調
30
12
多重アクセス・多重化・複信
通信において, 通信路 (通信媒体) の維持費は無視できない要素である.
高速な通信路である程高価な維持費が必要となるので , ビット当たりのコ
ストを下げるためには出来るだけ多くのユーザで (あるいは目的に ) 同時
に利用することが望ましい. 単一の通信路を複数のユーザ (もしくは通信)
で共同で使用することを多重アクセス (multiaccess) という. (図 12-1 参
照.)
干 渉
ユ ー ザ
ユ ー ザ
ユ ー ザ
1
送受信器
1
送受信器
2
送受信器
3
送受信器
1’
送受信器
2’
送受信器
3’
2
通信路 ( 媒体 )
3
ユ ー ザ
1’
ユ ー ザ
2’
ユ ー ザ
3’
図 12-1: 多重アクセス
多重アクセスは各々のユーザを何らかの方法で区別することによって
成立する. 代表的な方法には , 周波数 (スペクトル ) で区別する FDMA と
時間 (タイミング ) で区別する TDMA, そして信号の独立性によって区別
する CDMA がある. これらの方法による信号の分離が不完全であると
ユーザの信号の間での干渉が生ずる. これを多重アクセス干渉 (multiaccess
interference) もしくは MAI という.
複数の異なるデータをまとめて一つの通信路を通して送ることを多重
化 (multiplexing) という. (図 12-2 参照) 多重アクセスと多重化は良く似
た概念である.
デー タ
1
デー タ
2
デー タ 1
多重変換 器
通信路
(multiplexer)
デー タ
分離変換 器
デー タ 2
(demultiplexer)
3
デー タ 3
図 12-2: 多重化
同じユーザ対 A-B に対して順方向 A→B と逆方向 A←B の伝送を同時
に実現することを複信 (dupulexing) という. (図 12-3 参照.) 複信の中で
31
順方向
送受信器
1
ユ ー ザ
逆 方向
送受信器
送受信器
1’
送受信器
2’
通信路 ( 媒体 )
2
ユ ー ザ
図 12-3: 複信
も, 順方向と逆方向の通信が同時に実現される時に全二重 (full duplexing),
二方向の通信が交互に実現される時に半二重 (half duplexing) と区別する
こともある.
例えば , 順方向と逆方向を時間で区別 (time-dupulexing) し , 複数のユー
ザ間の通信を CDMA で行なう場合は TD-CDMA あるいは CDMA/TD と
いい, 複信を周波数上で実現する場合には FD-CDMA あるいは CDMA/FD
などという.
以下, 多重アクセスに話題を限って代表的な手法を紹介する.
12.1
FDMA
周波数でユーザ信号を区別する多重アクセスを周波数分割多重アクセ
ス (frequency-division MA), もしくは FDMA という. 基本的には図 12-4
に示すように , 異なるユーザには異なる搬送波周波数を割り当て受信側で
は分別フィルタ (帯域フィルタ) によって分離する.
受信器
フ ィ ル タ1
f1
送信器 1
フ ィ ル タ2
f2
送信器 2
フ ィ ル タ 1 の 帯域
ユ ー ザ 1 の スペ クトル
f1
ガー ド
フ ィ ル タ 2 の 帯域
ユ ー ザ 2 の スペ クトル
f2
周波数
ユ ー ザ 1か ら 2 へ の 干 渉
図 12-4: 周波数分割多重アクセス (FDMA)
この場合, あるユーザ信号のスペクトルが別のユーザのための帯域フィ
ルタの通過帯域にまで広がると MAI が生ずる. これを防ぐ ためにユー
32
ザの帯域の間に置かれるガード 帯域は周波数の利用効率と MAI のバラ
ンスを考えて設定しなければならない. FDMA はシンプルであるが , こ
のバランスが大きな問題となる. 最近は , 異なる搬送波周波数を信号の
直交性で区別する直交周波数分割多重化 (orthogonal frequency-division
multiplexing) あるいは OFDM とよばれる方法も使われる.
12.2
TDMA
異なるユーザ信号に異なる時間帯を割り当てて区別する方法を時間分
割多重アクセス (time-division MA) あるいは TDMA という. この場合,
時間軸はフレームに分割され , フレームは更にスロット に分割され , 異な
るユーザにはフレーム中の異なるフレームが割り当てられる. 通常, 送
信器/受信器のど ちらかが制御局になってフレームの始まりを示すタイミ
ング信号を出し , 各々のユーザはタイミング信号から自分のスロット位置
を求めデータを送信する. スロットの区別は高い精度で行なえるので , ス
ロットの間に余分な区間 (ガード 区間) は通常必要なく, 高い周波数利用
効率が得られる. ただし , ユーザ数が増すに連れてスロット割当が難しく
なるのが欠点である.
時間 (スロット ) を前もって決めておくのではなく, 各々のユーザは通信路
が空いていれば信号を伝送できる Random MA も広い意味では TDMA
の一つと考えられる. この様なやり方は , 潜在的ユーザは多いが実際に通
信するユーザは少ない場合に有効である. Random MA では , 当然, 信号
の衝突が起きる可能性があるので , 信号の衝突時をど の様に検出するか ,
あるいは防ぐかによって, Ether ネットで用いられる CSMA/CD (carrier-
送信器
ユ ー ザ
f
送信器
1
ユ ー ザ2
1
f
送信器
ユ ー ザ 1 の デー タ
2
タイ ミ ン グ信号
1
2
ユ ー ザ 2 の デー タ
1
2
時間
スロ ット
フ レ ー ム
図 12-5:
33
sense MA with collision detection), WLAN (wireless local area network)
で用いられる CSMA/CA (carrier-sense MA with collision avoidance), 低
軌道通信衛星を中心としたネットワークのために提案された ALOHA な
どがある. Random MA は簡単であるが , 信号を送信するユーザが増える
に従い衝突が増して利用効率が下がるという欠点がある.
12.3
CDMA
各々に割り当てられた PAM パルス波形の間の直交性, もし くは近似
的な直交性, を利用して異なるユーザの信号を分離して多重アクセスを
可能にする方法を符号分割多重アクセスあるいは CDMA (code-division
multiaccess) という. 図 12-6 には理想的な状況における CDMA 伝送シス
テムを示す. 受信器が受けとる信号 y(t) は各々のユーザから送られた信
号の和であり, 各々のユーザの信号を分離するために , 各々のユーザが用
いた PAM パルス波形との相関を計算する. 例えば , ユーザ 1 の PAM パ
ルス波形との相関は以下のようになる.
y(t)p1 (t) dt = a
[p1 (t)]2 dt + b
p2 (t)p1 (t) dt
= aE1 + I2→1
(12.1)
ここで , E1 はユーザ 1 の PAM パルス波形のエネルギであり, I2→1 はユー
ザ 2 からユーザ 1 への干渉エネルギである. もし , I2→1 = 0 となるように
pi (t) を設計しておけばユーザ 1 とユーザ 2 の信号を完全に分離すること
ができる. これが CDMA の原理である.
このようなユーザ分離は帯域の拡大によって可能になる. 図 12-7(a) に
4 人のユーザを分離するパルス波形の組の例, 図 12-7(b) に 8 人のユーザ
y ( t ) = a p1 ( t ) + b p2 ( t )
送信器
f
PAM
p1 ( t )
a
ユ ー ザ 1 の 信号
受信器
1
p1 ( t ) と
の 相関
p2 ( t ) と
の 相関
a p21 ( t )dt
+
b p2 ( t ) p1 ( t )dt
ユ ー ザ 1か ら ユ ー ザ 2へ の 干 渉
b
PAM
p2 ( t )
f
送信器
2
図 12-6: 符号分割多重アクセス伝送システム
34
1
1
t
0
T
t
0
T
0
T
0
T
0
T
0
T
0
T
0
T
0
T
1
t
1
1
t
0
T
t
t
1
t
1
1
t
0
T
t
1
t
1
1
t
0
T
t
1
(b) 8次の Walsh系列か ら 構成した パ ル ス波形
(a) 4次の Walsh系列か ら 構成した パ ル ス波形
図 12-7: 直交するパルス波形の例
を分離するパルス波形の組の例を示す. PAM パルス波形の長さが同じ
T [sec] であれば , ユーザ数が多いほど 波形の変化する最小幅が狭くなり,
スペクトルがより大きく広がることになる. (問題 12-1 参照.) このように
スペクトルの広い PAM パルス波形を用いることから , CDMA をスペク
ト ル拡散方式 (spread spectrum) ともいう.
[ 問題 12-1 ] pα (t) を長さ α の方形波
hα (t) =
1, t ∈ [0, α],
0, その他
とする. 図 12-7(a) の 4 番目のパルス波形 p4 (t) について以下の問いに応
えよ.
(1) p4 (t) を長さ T /4 の方形波 hT /4 (t) を用いた PAM 信号として表せ.
(2) p4 (t) のスペクトルの 2 乗振幅 |P4 (jω)| を図示せよ.
(3) 任意の離散時間信号 {xn } を , hT (t) を用いパルス振幅変調した場合
のスペクトルと p4 (t) を用いてパルス振幅変調した場合のスペクトル
とを比較せよ. 特に , スペクトルの広がりの違いについて考察せよ.
35
13
多重経路伝搬: 干渉とフェージング
無線/有線に限らず , 信号が物理的媒体の中を伝送される時, 信号が複数
の経路を通して受信されることがある. この現象を多重経路 (multipath)
という. 例として図 13-1 に無線通信で生ずる多重経路の様子を示す. 基
地局からの信号を車で移動しながら受信する場合, 基地局が見通せれば直
接に信号を受信できるが , 後方に建物があればそこからの反射信号を , そ
して遠方に山などがあればそこからの (微弱ではあるが ) 遅れを伴った信
号も同時に受信することがある. 信号を時間的にずれた複数の経路を通
して受信した結果, 搬送波のレベルでの干渉はフェージングを , 信号のシ
ンボルのレベルでの干渉は符号間干渉を生ずる.
山
間 接経路
t
建物
遅れ 大
直接経路
遅れ 小
送信器
受信器
t
図 13-1: 多重経路伝搬
13.1
フェージング
搬送波が互いに干渉するとフェージングが生ずる. 簡単のために , 搬送
波として正弦波 s(t) = cos ωo t のみが送信された時を考える. 直接経路を
基準として, 遅れのある経路の振幅を α, 遅延時間を τ とすれば , 受信信号
は次のようになる.
r(t) = cos ωo t + α cos[ωo (t − τ )]
= (1 + α cos ωo τ ) cos ωo t + α sin ωo τ · sin ωo t
=
(1 + α cos ωo τ )2 + α2 sin2 ωo τ cos(ωo t − θ)
(13.1)
ここで , 位相差 θ は次の式によって定まる.
tan θ =
α sin ωo τ
1 + α cos ωo τ
36
(13.2)
2
フ ェー ジン グの 山
1
フ ェー ジン グの 谷
τ
0
図 13-2: フェージング
この振幅を図 13-2 に示す. ただし , α = 0.9 とした. 図から明らかなよ
うに , 遅延時間 τ が変動すると振幅が大きく変動し , ある特定の τ におい
て振幅が極めて小さくなる場合がある. 周囲の状況によって τ が変動する
と受信信号の振幅も変動することになる. この振幅変動をフェージングと
いう. 雑音の多い無線通信ではフェージングによって信号が失われること
がある.
13.2
符号間干渉
多重経路における遅延時間が PAM のシンボル間隔 T に対して無視でき
ないくらいに大きくなると , PAM パルス波形の間に干渉が生ずる. 図 13-3
にその例を示す. 図 13-3(a) に元の PAM 信号波形と遅延波形が重なる様
子を示し , 図 13-3(b) に遅延波の干渉によって波形歪みが生じた結果を示
す. このような PAM パルス波形の間の干渉を符号間干渉 (inter-symbol
interference) あるいは ISI という. ISI が生ずると受信信号から正しくデー
タを復元するのが難しくなる.
遅れ
元の 波形
間 接波 ( 遅延 波 )
時間
時間
(b) 受信波形
(a) 元の 波形に 遅延 波が 重なっ た 様子
図 13-3: 符号間干渉の例
37
14
雑音
通信路における干渉は受信側におけるデータ検出を難くするが , 信号に
雑音が混入していると更にそれは難し くなる. 信頼性のあるデータ検出
のため, 通信路の雑音を除去する様々な工夫がこらされている. このため,
微弱な受信信号を扱う通信において, 最も問題となるのが受信器の回路自
身が発生する雑音であることが多い.
14.1
電子回路における雑音の種類
電子回路における雑音の主な原因には
• 熱雑音 (thermal noise)
• ショット 雑音 (shot noise)
• 1/f 雑音 (1/f noise)
の三つがある. 最初の二つは雑音に含まれる周波数成分の電力が周波数 f
に無関係になり, 最後のものが電力が 1/f α に比例する非白色雑音を総称
する. 1/f に比例するものをピンク雑音 (pink noise), 1/f 2 に比例するも
のを赤色雑音 (red noise) などという.
14.1.1
熱雑音
熱雑音は発見者の名前をとって Johnson 雑音ともいい, 電流 (価電粒
子) が抵抗などの固体中を流れる時に発生する. 価電粒子が固体中を移動
する時, 粒子は固体原子に弾かれるために最短距離では通過することがで
きない. 固体中をどれほど の道のりをかけて通過するかは個々の価電粒
子毎に異なる. このため, 単位時間あたりに通過する価電粒子数は図 14-1
に示すようにバラつくことになり, 電流は固体の抵抗 R, 印加電圧 V から
定まる平均値 Io = V /R を中心として
i(t) = Io + w(t)
(14.1)
のように変動する確率過程として表される. この変動成分 w(t) が熱雑音で
ある. 古典的な物理モデルで考えると , 価電粒子の統計的振舞いは液体中
の微小粒子の Brown 運動 (Brownian motion) と基本的に同じであり,
w(t) の積分値は一次元の Brown 運動に他ならない. 価電粒子の衝突頻度
38
加え ら れ た 電圧
固体原子
i
t
荷電粒子
i ( t ) = Io + w ( t )
観 測さ れ る 電流
Io
t
図 14-1: 熱雑音生成モデル
は固体原子の見かけ上の大きさに大きく依存する. したがって, 温度が高
いほど 熱振動のために固体原子の見かけが大きくなり, 熱雑音も大きく
なる.
抵抗に一定電圧がかけられていれば熱雑音は電流の形で , 抵抗中に電流
が流されれば電圧の形で現れる. Nyquist の解析によれば , 抵抗 R(ohm)
で発生する熱雑音の二乗平均電圧 (root-mean-square voltage)4は近似的に
Vn =
√
4κT BR
rms V
(14.2)
と与えられる. ここで , κ = 1.38 × 10−23 (joules/◦ K) は Boltzmann 定
数, T は絶対温度 (◦ K), そして B (Hz) は測定器の帯域幅である.
測定器
雑音源
Rl
R
Vl
観 測さ れ る 抵抗
内部抵抗
図 14-2: 雑音電力の観測
4
信号 v(t) に対して ,
limt→∞
1
t
t
0
|v(s)|2 ds の値を指す.
39
図 14-2 に , 抵抗 R で発生した雑音を雑音のない抵抗 R で受けて観測す
るときの等価回路を示す. 抵抗 R は雑音のない抵抗と雑音電圧源として
表されている. この時, 抵抗 R で受ける電力は
V2
P =
=
R
R
R+R
√
4κT BR
2
R
(watts)
(14.3)
ここで , 受信電力を最大にするために R = R とすれば , 雑音の電力密度
は任意の周波数 f (Hz) において
N (f ) =
P
= κT
B
(watts/Hz)
(14.4)
で与えられる. ただし , 量子効果を考慮して計算した正確な電力密度は
N (f ) =
h
¯f
exp
¯f
h
κT
−1
(14.5)
であることが知られている. ここで , h
¯ = 6.625 × 10−34 (J-s) は Planck
定数である. ただし , 室温 (T = 290 ◦ K) では , 5 × 1012 Hz (= 5 THz5 ) 以
下の周波数で式 (14.4) と式 (14.5) は同じと見て差し支えない.
14.1.2
ショット 雑音
異なるタイプの半導体ど うしが接合されているとき, 接合部には電位
障壁が形成され , それを通過する電荷 (キャリア) が雑音を生成する. 例
として図 14-3 に逆バイアスのかかった半導体の pn 接合 (pn junction)
を示す. 接合部の周辺には多数キャリア (dominant carrier) が接合部
を通して相互に広がるすることによって多数キャリアの存在しない空乏
層 (depletion layer) が形成される. このとき, 空乏層に残されたド ナー
(donor) やアクセプタ (acceptor) が電位障壁を生成する. 接合部に逆バ
イアスがかけられていると , 注入された過剰少数キャリア (excess minor
carrier) は電位障壁と逆バイアスに阻まれるが , 中には少数ながら拡散
(diffusion) によって接合部を通過するものがある. この拡散によって運
ばれるキャリアが pn 接合ダ イオード の飽和電流 (saturation current)
を形成する.
拡散はキャリアが Brown 運動によって移動する現象であるため, その
運動は確率的であり, 単位時間に空乏層を通過して電流を形成する価電粒
5
Tera の略. 以降, 1 × 1015 = 1P (peta), 1 × 1018 = 1E (exa). 3THz 以上が赤外線.
40
V
p
n
空乏層
少数キャ リ ア
拡散
ア クセプ タ
Fermiレ ベ ル
qV
Fermiレ ベ ル
多数キャ リ ア
拡散
ドナー
少数キャ リ ア
図 14-3: PN 接合におけるショット雑音生成モデル
子の数は Poisson 分布 (Poisson distribution) に従う. この確率的なバ
ラツキがショット 雑音 (shot noise) を形成する.6
ショット雑音はその生成原理から電流雑音源であり, 測定される二乗平
均電流 (root-mean-square current) は
Ishot =
2qIDC B
rms A
(14.6)
で与えられる. ここで , q = 1.6 × 10−19 C は単位電荷量, IDC は平均電流,
B(Hz) は観測器の周波数帯域幅である. 現象の粒子性が無視できるよう
な比較的低い周波数では , ショット雑音 (電流) の電力密度は
i2shot (f ) = 2qIDC
A2 /Hz
(14.7)
で与えられる.
上の式から明らかなように , 極端に高い周波数でない限り, ショット雑音
は白色雑音と考えられる. また, 通過するキャリアの数は Poisson 分布する
のであるが , 平均キャリア数が非常に多い場合には Poisson 分布は Gauss
分布で良く近似される. したがって, 極端に小さな電流, あるいは極端に
6
“Shot” の名称は最初に解析を行なった Schottky の解析モデルから付けられている.
41
(dB)
熱雑音と ショ ット雑音
雑音
PSD
全体の 雑音
1/f 雑音
log f
fc
図 14-4: 1/f 雑音と白色雑音
高い周波数で考えない限り, ショット雑音は次の節で述べる白色 Gauss 雑
音であると考えて良い. なお, 順バイアスの場合には少数キャリアと多数
キャリアの双方がショット雑音の発生に関わるので , 逆バイアスの場合よ
り大きなショット雑音が生ずる.
14.1.3
1/f 雑音
低い周波数での不安定な変動の形で現れる雑音を 1/f 雑音 (1/f noise)
という. 真空管ではフリッカ雑音 (flicker noise), 抵抗では過剰雑音, ス
イッチやリレーでは接触雑音 (contact noise) などとよばれているが , ど
れもその発生機構は良く分かっていない. 半導体の場合には素材の不完全
性のために生ずるのではないかといわれており, その電力密度は非常に低
い周波数 f ≈ 0 を除いて
n(f ) =
a
fb
watts/Hz
(14.8)
と表される. b = 1 の場合をピンク雑音, b = 2 の場合を赤色雑音というの
は既に述べた通りである.
電子回路において 1/f 雑音が卓越してくる周波数 fc (図 14-4 ) は IC 類の
素材に大きく影響される. Si バイポーラトランジスタの場合は数 10KHz で
あるが , GaAs FET トランジスタでは一般に更に大きい. ある GaAs FET
トランジスタの場合には fc が 100MHz 位になることもある. 受信器にお
ける 1/f 雑音は他の雑音と同様に増幅器の初段で抑えることが必要なの
で , 目的に応じて初段のトランジスタの材質を選ぶ必要がある.
42
14.2
白色 Gauss 雑音
ショット雑音や熱雑音を理想化したモデルが白色 Gauss 雑音である.
定義 14-1 [白色 Gauss 雑音] w(t) はその積分
t
∆
B(t) =
0
w(τ ) dτ
(14.9)
が (1 次元の)Brown 運動である時, つまり, 以下の性質を満たす時に白色
Gauss 雑音 (white Gaussian noise) とよばれる.
1. 増分 B(t) − B(s) は平均 0, 分散 (No /2)|t − s| の Gauss 分布 (Gaussian distribution) を持ち, その確率密度関数 (probability density function) は次のように表される.
1
p(x) =
πNo |t − s|
exp −
x2
No |t − s|
(14.10)
2. [s1 , t1 ] ∩ [s2 , t2 ] = ∅ なら , 増分 B(t1 ) − B(s1 ) と増分 B(t2 ) − B(s2 )
は独立 (無関係) である.
補題 14-1 WGN w(t) は次の性質を持つ.
(14.11)
E [w(t)] = 0
No
δ(t − s)
(14.12)
E [w(t)w(s)] =
2
上の補題から増分 B(t) − B(s) の平均と分散を計算するのはたやすい.
実際, t > s に対して,
X = B(t) − B(s) =
t
s
w(τ ) dτ
の期待値 (平均) は明らかに 0 であるし , 分散は以下のように計算される.
Var[X] = E[X 2 ]
t
= E
s
t
= E
=
s
t
s
dτ1
dτ1
No
dτ2
2
No
=
(t − s)
2
43
t
s
t
s
dτ2 E[w(τ1 )w(τ2 )
dτ2
No
δ(τ1 − τ2 )
2
B
B.1
付録:確率
確率分布と期待値
本文では実数値信号のみを考えているが , 特に断らない限り, この付録
の議論は複素数の場合にも成立する.
B.1.1
確率変数と確率分布
確率変数 (random variable)X に対して,
∆
FX (a) = Pr {X ≤ a}
(B.1)
を X の分布関数 (cumulative distribution function) とよび , cdf と略
記する.7 分布関数が
FX (a) =
fX (x) dx
(B.2)
x≤a
と書ける時, fX (x) を X の確率密度関数 (probability density function)
あるいは pdf とよぶ. 確率変数 X の値が集合 A に含まれる確率は cdf お
よび pdf を用いて
Pr {X ∈ A} =
x∈A
dFX (x) =
x∈A
fX (x) dx
(B.3)
と表される.
B.1.2
期待値
任意の関数 g(x) に対して, 積分
∆
E [ g(X) ] =
∞
−∞
g(x)fX (x) dx
(B.4)
を「 X の確率に関する g(X) の期待値 (expectation) とよぶ. 特に ,
∆
E [X]
=
Var [X]
=
∆
∞
−∞
∞
−∞
xfX (x) dx
(B.5)
| x − E[X ]|2 fX (x) dx
(B.6)
7
複素数値の確率変数の場合の不等号は a ≤ b ⇔
する.
44
[a] ≤ [b] and
[a] ≤
[b] と約束
を各々X の平均 (mean) および分散 (variance) とよぶ. 期待値 E[X] を
X の集合平均 (ensemble average) あるいは確率平均 (stochastic average) とよぶことがある.
[例 B-1] 平均 a, 分散 σ 2 の実数値の Gauss 確率変数 (Gaussian random
variable)X の確率密度関数は
p(x) = √
(x−a)2
1
e− 2σ2
2πσ 2
(B.7)
で与えられる.
[例 B-2] 確率密度関数
ae−ax ,
0,
p(x) =
0 ≤ x,
x<0
(B.8)
で表される確率分布は指数分布 (exponential distribution) とよばれ
る. 指数分布の平均は a−1 , 分散は a−2 である.
B.1.3
二つの確率変数: 相関と独立性
二つの確率変数 X と Y に対して
∆
FXY (a, b) = Pr { X ≤ a and Y ≤ b }
(B.9)
から決まる関数 FXY (x, y) を (X, Y ) の分布関数 といい, 等式
FXY (a, b) =
x≤a, y≤b
fXY (x, y) dxdy
(B.10)
が成立するような関数 fXY (x, y) を (X, Y ) の確率密度関数という. 積分
Cov [X, Y ]
∆
=
=
∗
E [(X − E[X])(Y − E[Y ]) ]
∞
∞
−∞
−∞
(x − E[X])(y − E[Y ])∗ fXY (x, y) dxdy (B.11)
は (X, Y ) の共分散 (covanriance) とよばれる. 関係式 Var [X] = Cov [X, X]
および Cov [X, Y ] = E [X, Y ] − E [X] E [Y ] は明らかである.
補題 B-1 任意の確率変数 X, Y に対して
Cov[X, Y ] ≤
Var[X] ·
が成立する.
45
Var[Y ]
正規化した共分散
Cov[X, Y ]
∆
ρ(X, Y ) =
Var[X] ·
Var[Y ]
(B.12)
を X と Y の相関係数 (correlation coefficient) という. 補題より相関係
数は 0 ≤ ρ(X, Y ) ≤ 1 を満たす.
確率変数 X と Y が fXY (x, y) = fX (x)fY (y) を満たす時に X と Y は独
立 (independent) であるといい, 相関係数が Cov[X, Y ] = 0 である時に
X と Y は無相関 (uncorrelated) であるという. 相関係数は二つの確率
変数の間の関連の強さを表すものと考えられるが , 独立性とは必ずしも同
じではない.
補題 B-2 確率変数 X と Y について関係
⇒
X と Y は独立 ⇐ X と Y は無相関
(B.13)
が成立する.
B.1.4
離散確率変数
可算個の値 ai , i = 1, 2, · · · , をとる確率変数 X を離散確率変数 (discrete
random variable) といい, その各点における確率を
∆
pX, i = Pr { X = ai }
(B.14)
で表わす. この pX = {pX,i } を X の確率分布関数 (probability mass
function) といい, 簡単に X の pmf と書く. 通常の確率変数の場合と同
様に考えれば , X の分布関数は
FX (x) =
pX,i
(B.15)
i; ai ≤x
と書くことができ, その確率密度関数は形式的に
fX (x) =
pX,i δ(x − ai )
(B.16)
all i
で与えられる. この時, X の期待値と分散は次のように与えられる.
E[ X ] =
ai pX, i
(B.17)
|ai − E[X]|2 pX, i
(B.18)
all i
Var [ X ] =
all i
46
[例 B-3] 与えられた正の整数 n と , 0 ≤ p ≤ 1 である正数 p と q = 1 − p に
対して ,
n k n−k
pX, k =
p q
(B.19)
k
で与えられる確率分布を二項分布 (binomial distribution) という. こ
の分布のをもつ確率変数の平均と分散は各々np と npq である.
[例 B-4] 確率分布関数
λk
(B.20)
k!
で定まる確率分布を Poisson 分布 (Poisson distribution) という. Poisson 分布の平均と分散はともに λ である.
pX, k = e−λ
B.2
実数値 Gauss 確率変数
(実数値)Gauss 確率変数 (Gaussian random variable) X は各点 x に
おいて pdf (B.7) を持つ確率変数である. 平均が a で分散が σ 2 の Gauss
分布 (Gaussian distribution) を N (a, σ 2 ) と表す. 正規分布 (normal
distribution) ともよばれる.
同様にして, N 個の実数値確率変数からなる N 次元 Gauss 確率ベクト
∆
ル (Gaussian random vector) X = (X1 X2 · · · XN ) の pdf は
p(x) =
1
(2π)N/2 |V |1/2
1
exp − (x − a)V −1 (x − a)T
2
(B.21)
と表される.8 ここで , a は X の平均ベクトル
∆
a = E[ X ] = ( E[X1 ], E[X2 ], · · · , E[XN ] )
(B.22)
∆
V は X の共分散行列 V = E (X − E[X])T (X − E[X]) (covariance
matrix) であり以下のように与えられる.

V
8


= 



Var[X1 ]
Cov[X1 , X2 ]
..
.
Cov[X2 , X1 ] · · · Cov[XN , X1 ]
Var[X2 ]
· · · Cov[XN , X2 ]
..
...
.
Cov[X1 , XN ] Cov[X2 , XN ] · · ·
Var[XN ]
xT は x の転置 (transpose).
47







(B.23)
このような pdf を持つ確率ベクトル X のクラスを N (a, V ) と書く.
Gauss 確率変数の無相関性と独立性は同じである.
補題 B-3 二つの Gauss 確率変数 X と Y に対して,
X と Y が独立 ⇔ X と Y が無相関
である.
48
(B.24)
15
15.1
確率過程と電力スペクト ル
定常確率過程
確率的な振舞いをする信号 X(t) を確率過程 (random process あるい
は stochastic process) とよぶ.
定義 15-1 X(t) が広義定常確率過程 (wide-sense stationary random
process), あるいは単に定常確率過程 (stationary random process) で
あるというのは ,
1. E [X(t)] = α (constant),
2. E [X(t)X ∗ (s)] = ρ(t − s),
for all t,
for all t and s,
が成立することである. ρ(t) は自己相関関数 (auto-correlation function) とよばれる.8
上の定義から , 白色 Gauss 雑音は定常確率過程である.
15.2
電力スペクト ルと自己相関
定常確率過程 X(t) は無限に続く信号のモデルなので通常の意味での
スペクトルを持たない. そこで , 次のような電力スペクト ル密度 (power
spectral density, あるいは PSD) を導入する.
∆
1
E
t→∞ 2t
t
PX (jω) = lim
−t
X(τ )e−jωτ dτ
2
(15.1)
X(t) が定常で自己相関 ρX (t) を持つなら ,
1
E
2t
t
−t
1
2t
1
=
2t
1
=
2t
=
=
t
−t
X(τ )e−jωτ dτ
t
−t
t
−t
t
−t
dτ1
dτ1
dξ
t
−t
t
2
dτ2 E [X(τ1 )X ∗ (τ2 )] e−jω(τ1 −τ2 )
dτ2 ρX (τ1
−t
min t+ξ,t
max −t,ξ−t
− τ2 )e−jω(τ1 −τ2 )
ρX (ξ)e−jωξ
2t − |ξ|
ρX (ξ)e−jωξ dξ
2t
49
(15.2)
最後の積分は容易に分かるように , t → ∞ の時に , 積分
に収束する. 従って, 次の関係式を得る.
∞
−∞
ρX (ξ)e−jωξ dξ
補題 15-1 自己相関関数 ρX (t) を持つ定常確率過程の PSD は以下のよう
に与えられる.
PX (jω) = F [ ρX (t) ] =
15.3
∞
−∞
ρX (ξ)e−jωξ dξ
(15.3)
白色 Gauss 雑音の電力スペクト ル
白色 Gauss 雑音は定常であり, その自己相関関数は
ρW (t) =
No
δ(t)
2
で与えられるので , その PSD は次のように計算される.
PW (jω) = F
No
No
δ(t)
2
2
(15.4)
このことから , No /2 を (或いは No を ) 両側 (或いは片側) 電力スペクトル
密度という.
50
16
線形フィルタの応答と電力スペクト ル密度
インパルス応答 g(t) を持つ線形フィルタに定常確率過程 X(t) を入力す
ると出力 Y (t) もやはり定常確率過程になる.
16.1
定常性
実際, E[X(t)] = αX ならば ,
∞
E [Y (t)] =
−∞
g(τ ) E [X(t − τ )] dτ = αX
∞
−∞
g(τ ) dτ.
(16.1)
そして, X(t) の自己相関を ρX (τ ) とおけば , Y (t) の自己相関は
ρY (η) = E [Y (t)Y ∗ (t − η)]
∞
= E
=
=
∞
−∞
∞
−∞
−∞
g(τ )X(t − τ ) dτ
dτ1
dτ1
∞
−∞
∞
−∞
∞
−∞
g ∗ (τ )X ∗ (t − η − τ ) dτ
∗
dτ2 g(τ1 )g (τ2 )ρX (η + τ2 − τ1 )
dξ g(τ1 )g ∗ (τ1 − ξ)ρX (η − ξ)
(16.2)
と時間差 η だけの関数となる. 従って, Y (t) も定常確率過程である.
16.2
出力の電力スペクト ル密度
∆
式 (16.2) において g¯(t) = g ∗ (−t) とおけば , Y (t) の自己相関は二重の
畳込み
ρY (η) = g ∗ g¯ ∗ ρX (η)
(16.3)
で与えられる. ここで , g(t) の Fourier 変換を G(jω) とすれば出力の電力
スペクトル密度 PY (jω) は恒等式 (15.3) より
PY (jω) = |G(jω)|2 PX (jω)
で与えられる. ただし , F[¯
g (t)] = G∗ (jω) を用いた.
51
(16.4)
xn
PAM
s (t)
p ( t)
w ( t ) WGN 受信フ ィ ル タ
y (t)
r (t)
h ( t)
^
yn
xn
判定
t = nT
t = nT + to
図 17-1: PAM 伝送と通信モデル
17
17.1
雑音がある場合の受信のモデルと誤り確率
通信モデル
通信のモデルを図 17-1 に示す. 送信器はパルス波形 p(t) を用いて以下
の PAM 信号を送る.
s(t) =
xn p(t − nT )
(17.1)
n
通信路では雑音以下のように白色 Gauss 雑音が加算される.
r(t) = s(t) + w(t)
(17.2)
この通信路出力 r(t) は受信フィルタ (receive filter)h(t) で受けられ , そ
の出力
∞
y(t) =
r(τ )h(t − τ ) dτ
(17.3)
−∞
を標本化して得られる離散時間信号
yn = y(to + n∆)
(17.4)
用いて {xn } に関する判定が行なわれる. この時, 性能は受信フィルタと
判定方法の選び方によって定まる.
問題を簡単にするために以下のような仮定をおく.
1. Pr{x0 = +1} = Pr{x0 = −1} =
1
2
2. 時刻 n = 0 において x0 = ±1 だけを伝送 (単発伝送).
二つ目の仮定は以下のようにも言い替えることができる.
2. p(t − nT ), n = · · · , 0, 1, · · · , は互いに干渉しない.
52
仮定 (2) より, 受信信号は
r(t) = x0 ·p(t) + w(t)
(17.5)
従って, 受信フィルタの出力は
y(t) = x0
∞
−∞
p(τ )h(t − τ ) dτ +
∞
−∞
w(τ )h(t − τ ) dτ.
(17.6)
従って,
∞
y0 =
−∞
r(τ )h(to − τ ) dτ
= x0 a + v
(17.7)
と書ける. ここで , a は
∞
∆
a=
−∞
p(τ )h(to − τ ) dτ
(17.8)
w(τ )h(to − τ ) dτ
(17.9)
で与えられる信号振幅, v は
∞
∆
v=
−∞
で与えられる雑音成分である. WGN の議論から , v は平均 0, 分散
σ2 =
N0
2
∞
−∞
|h(τ )|2 dτ
(17.10)
の Gauss 確率変数である. その確率密度関数 (pdf) は
pv (b) = √
|b|2
1
exp − 2
2σ
2πσ 2
(17.11)
で与えられる.
これからの議論では
a=
∞
−∞
p(τ )h(to − τ ) dτ > 0
と仮定する.
送信信号が x0 = ±1 なので , 判定を
xˆ0 =
+1, if ay0 > 0
−1, if ay0 ≤ 0
(17.12)
のように行なうことにする.9
9
ay0 = 0 の場合は , 判定を行なっても無意味なので , ±1 のど ちらに判定しても良い.
53
17.2
判定誤り確率
この時の判定誤り確率は次のように計算される.
Pe = Pr {xˆ0 = xn 0}
= Pr {xˆ0 = +1, x0 = −1} + Pr {xˆ0 = −1, x0 = +1}
= Pr ay0 > 0 x0 = −1 · Pr {x0 = −1}
+ Pr ay0 ≤ 0 x0 = +1 · Pr {x0 = +1}
1
1
=
Pr ay0 > 0 x0 = −1 + Pr ay0 ≤ 0 x0 = +1
2
2
で与えられる. 条件 x0 = α の下では y0 = αa + v なので ,
ay0 = α·a2 + a·v
(17.13)
と書ける. 従って, a > 0 の仮定の下では , 判定誤り確率は
Pe =
1
1
Pr {v > a} + Pr {v ≤ −a}
2
2
(17.14)
と書くことができる.
式 (17.14) 中の v は平均 0, 分散 σ 2 の Gauss 確率変数なので ,
Pr {v > a} = Pr {v ≤ −a}
∞
u2
1
√
=
e− 2σ2 du
a
2πσ 2
a
= Q
σ
(17.15)
で与えられる. ここで ,
∆
Q(x) =
∞
x
1
2
√ e−u /2 du
2π
(17.16)
Gauss Q 関数とよばれる.
以上より, 誤り確率は
Pe = Q
a
σ
=Q
2Γ(q, to )
(17.17)
で与えられることが分かる. ここで ,
a2
Γ(h, to ) =
=
2σ 2
∆
∞
−∞
p(τ )h(to − τ ) dτ
No
54
∞
2
−∞ [h(τ )]
dτ
2
(17.18)
は信号対雑音電力比 (signal-to-noise power ratio) または SN 比 (SNR)
とよばれる.
式 (17.17) と (17.18) から明らかなように , 判定誤り確率は受信フィルタ
h(t) の選び方に依存する. 関数 Q(x) は単調減少なので , 判定誤り確率を
最小にするためには , SN 比を最大にする h(t) を選べば良い.
55
18
整合受信器: SNR を最大にする受信器
前節の結果より, 誤り確率を最小にするためには SNR
∞
−∞
a2
Γ(h, to ) =
=
2σ 2
∆
p(τ )h(to − τ ) dτ
No
∞
2
−∞ [h(τ )]
2
dτ
を最大にするように h(t) と to を定めれば 良い. この最適化問題は次の
Schwarz の不等式を用いて解くことができる.
補題 18-1 [Schwarz の不等式] 二つの二乗可積分な関数 f (x), g(x) に
対して 10 , 次の不等式が成立する.
∞
−∞
2
f (x)g(x) dx ≤
∞
−∞
|f (x)|2 dx ·
∞
−∞
|g(x)|2 dx
ただし , 等号は f (x) = αg ∗ (x) の時に限る. (α は定数.)
補題より,
1
No
1
=
No
∞
Γ(h, to ) ≤
−∞
∞
−∞
[p(to − τ )]2 dτ
∆
p2 (τ ) dτ = γmax
(18.1)
最適なフィルタは適当な定数 α に対して
hmax (t) = α · p(to − t)
(18.2)
で与えられる. この受信フィルタを整合フィルタ (matched filter) とい
い, これに基づく受信器を整合受信器 (matched receiver) という. 図
18-1(a) にその構造を示す. 以上の議論で判定遅れ to は任意であったが ,
実際には , 受信フィルタが実現可能であるような範囲でできるだけ小さく
選ぶ.
整合受信器では , 誤り確率は
Pe = Q
SNR は
γmax =
10
1
No
(18.3)
2γmax
∞
−∞
p2 (τ ) dτ =
複素関数でも良い.
56
Eb
No
(18.4)
整合フ ィ ル タ
y (t)
r (t)
h max ( t )
x^n
yn
判定
t = nT + to
(a) 整合フ ィ ル タを 用い た 整合受信器
相関 器
r (t)
p ( t -nT ) r ( t ) dt
yn
xn
判定
(b) 相関 器 を 用い た 整合受信器
図 18-1: 整合受信器
で与えられる. ここで , Eb = p2 (τ )dτ はビットエネルギーである. Q 関
数は x → ∞ に対して漸近的に
1 1 − x2
x2
Q(x) ≈ √
e 2 ∝ exp
2
2π x
(18.5)
Eb
であるから , 整合受信器の判定誤り率は SNR と共に大体において e− No で
小さくなることが分かる.
なお, hmax (t) に対して, 整合フィルタの出力は
y(t) =
∞
−∞
p(to + τ − t)r(τ ) dτ
(18.6)
p(τ − nT )r(τ ) dτ
(18.7)
となるので , 判定器入力は
yn =
∞
−∞
∞
となることが分かる. 一般に , f (t) と g(t) の内積 −∞
f (t)g(t) dt を f (t)
と g(t) の相関積分 (あるいは単に相関) とよぶ. 従って, 整合受信器は図
18-1(b) のようにも実現できる.
18.1
ID 受信器: NRZ 伝送に対する最適受信
方形波を PAM 波形として用いた NRZ 伝送における最適なシステムで
は図 18-1(b) の相関は単に区間 (nT , (n + 1)T ] における積分になる. 従っ
57
xn
t = nT
PAM
s (t)
p ( t)
w ( t ) WGN
r (t)
t
相関 器
(integrate-and-dump)
(n+1) T
nT
r ( t ) dt
^
yn
xn
判定
図 18-2: ID 受信器
て, 受信器は図 18-2 に示すような形となる. この場合, 積分が終ってから
判定を行なうので判定遅れは to = T となる. 区間 (nT , (n + 1)T ] におけ
る積分は積分器を t = nT 毎に初期化することによって実現できるので ,
この受信器を integrate-and-dum 受信器もしくは ID 受信器とよぶ. こ
の形態の伝送は単距離のケーブル伝送でよく用いられる.
58