72 プラスチック積層板の衝撃貫通特性の評価

プラスチック積層板の衝撃貫通特性の評価
指導教員
教授
助手
1.
88038
笠野 英秋
長谷川 脩
崎山
貴文
4.貫通特性の評価法
緒言
プラスチックは、日用品、工業用部品など多くのと
ころで使用されている。透明で耐衝撃性があり、また
走行中に巻き上がる小石が衝突してもひび割れないと
いう理由で、新幹線の窓の外側にポリカーボネート
(PC)を使用している車両もある。一方、ポリメタクリ
ル酸メチル(PMMA)は、透明プラスチックの中で最も
傷が付きにくく、透明度が最も高い特徴がある。しか
し、ポリカーボネート(PC)のように耐衝撃性には優れ
ていない。そこで本研究では、ポリカーボネート(PC)
とポリメタクリル酸メチル(PMMA)の両方の長所をい
かすために積層板にし、特にその衝撃貫通特性を評価
するとともに、ポリカーボネート(PC)単平板の衝撃貫
通特性と比較することを目的とする。
4.1
解析モデルによる評価
衝撃速度を Vi、残存速度を VR、貫通限界速度を Vb、
鋼球の質量を M、破片の質量をm、α =
M とする。
M +m
・ 単平板の場合
エネルギー保存則より
1
1
MVi 2 = ( M + m)VR 2 + EP
2
2
Vi=Vb のとき VR=0となり
1
MVb 2 = EP
2
2.試験片
本研究で使用するポリカーボネート(PC)試験平板
は縦 100×横 100 の正方形で、厚さは 0.5 と 1.0(mm)
である。また、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)平板
は縦 100×横 100 の正方形で厚さは 0.5(mm)であり、
これらを単平板あるいは積層板とに使用する。一方、
熱を加えて接着した、縦 100×横 100 の正方形で厚さ
2.0(mm)の積層板についても同様の試験を行う。
3. 実験装置及び試験方法
衝撃試験では、直径 5.0mm、質量 0.51g の鋼球が高
圧窒素ガス式衝撃試験機より発射され、レーザー速度
検出器を通り、試験片に衝突する。また、貫通破壊に
おける鋼球と破片の挙動を、超高速度カメラで撮影す
る。
レーザー速度検出器
ゆえに
(V i
VR = α
2
− Vb2 )
・ 積層板の場合
VR 2 = α 2 Vi 2 2 − Vb 2 2
VR1 = α 1 Vi12 − Vb12
VR1=Vi2 と仮定すると

Vb22
V R 2 = α 1α 2 V i1 2 −  V b 1 2 +
2

α
1

{
VR 3 = α 1α 2α 3 Vi1 − Vb1 +
2
2
Vb 2 2
α 12




Vb3 2 
+

(α 1α 2 )2 
4.2 確率統計的評価
バレル
試験片
チャンバ
フラッシュ装置
超高速度カメラ
画像表示モニター
画像処理用コンピューター
操作盤
図 1 高圧窒素ガス式衝撃試験機および
計測システムの概略図
窒素ガス
実験データを用いて、確率統計的に貫通限界速度を
予測することができる。貫通した衝撃速度の中で最も
小さい3つの衝撃速度と、非貫通だった衝撃速度の中
で最も大きい3つの衝撃速度の、合わせて 6 つの衝撃
速度の算術平均 V 50 をとして、次式で計算できる。
1 6
V 50 = ∑ Vi
6 i =1
5.衝撃試験の結果
残存速度(m/s)
300
PC(0.5)/PMMA(0.5)
PC(0.5)/PMMA(0.5) (非貫通)
PC(0.5)
PC(0.5) (非貫通)
200
100
0
100
200
300
衝撃速度(m/s)
図2
残存速度(m/s)
PC(1.0)/PMMA(0.5)
PC(1.0)/PMMA(0.5) (非貫通)
PC(1.0)
PC(1.0) (非貫通)
200
100
0
100
200
300
衝撃速度(m/s)
図7
PC(1.0)
衝撃速度 177.2(m/s)
図8
PC(0.5)/PMMA(0.5)
衝撃速度 105.9(m/s)
衝撃速度と残存速度の関係
300
残存速度(m/s)
PMMA(0.2)/PC(1.6)/PMMA(0.2)
衝撃速度 299.7(m/s)
衝撃速度と残存速度の関係
300
図3
図6
PMMA(0.2)/PC(1.6)/PMMA(0.2)
PMMA(0.2)/PC(1.6)/PMMA(0.2) (非貫通)
PC(1.5)
PC(1.5) (非貫通)
図5と図6を比較すると、破片の飛散量が明らかに
多くなっている。図8を見ると、PMMA の破片が鋼
球に付着したまま PC に衝突したのが分かる。
200
6.結論
100
0
100
200
300
1.積層板において、解析モデルで予測した貫通限界
速度と、確率統計的に予測した貫通限界速度は一
致しなかった。
衝撃速度(m/s)
図4
衝撃速度と残存速度の関係
図2,3,4ともに、ほとんどの衝撃速度で PC 単
平板よりも、それに PMMA を積層したものの方が、
残存速度が速くなっている。
2.PC 単平板よりも、それに PMMMA を積層した試
験片の方が、貫通限界速度が低下した。その原因
は、最初に破断したPMMAの破片がPCに衝突
し、小さな傷を付けたからからだと考えられる。
3.産アルティアに提供して頂いた試験片は、PC と
PMMA を接着する時に、熱を加えたのが原因で
熱分解が進行し、力学的性質が低下したと考えら
れる。
謝辞
本研究にあたり多大なご指導を頂きました笠野教授、
長谷川先生に厚く御礼申し上げます。
図5
PC(0.5)/PMMA(0.5)
衝撃速度 298.8(m/s)