共同研究 F 阪大 H16-015 レーザ MBE 法による機能性酸化物薄膜の作製 Thin film preparation of functional oxides by laser-MBE 古曵 重美 Shigemi Kohiki 九州工業大学工学部物質工学科 Kyushu Institute of Technology, Department of Materials Science FeドープIn2O3における室温スピングラス転移の発見をもとに、FeをドープしたITO (Fe-ITO)における室 温強磁性発現を発想した。今回、PLD法(ArF; 193 nm)を用いたYSZ基板上のFe-ITO薄膜作製に取り組み、 結晶構造解析の立場からは基板温度 600 oC、酸素圧 1 Pa付近が高品質薄膜の作成に適切な条件であるこ とが分かった。 In this study, we prepared thin films of Fe-doped ITO (indium tin oxide) for realization of ferromagnetic-ITO above room temperature. The idea of Fe-doped ITO is based on the fact that Fe-doped In2O3 demonstrated spin-glass transition at room temperature. Thin film preparation of Fe-doped ITO was carried out by PLD method (ArF; 193 nm) on YSZ substrate. The substrate temperature of 600 oC and the oxygen gas pressure of 1 Pa were appropriate for high-quality thin film growth in view point of crystal structure. えれば、強磁性ナノクラスターを分散させた導 電体はさらに興味深い性質を示すことが期待さ れる。 背景と研究目的 背景と研究目的: 近年、(Ga,Mn)AsやTiO2:Co など非磁性体に磁性原子を導入した希薄磁性半 導体の研究が盛んである。TiO2:Coのように透明 な希薄磁性体を開発しようとするとき、錫ドー プ酸化インジウム(ITO)は電子移動度が極めて 高く、透明酸化物であるため、大きな移動度を 有する透明磁性体となる可能性がある。この MITO(Magnetic ITO)開発の過程で、ITOの母体で あるIn2O3に磁性原子として 3 価のhigh spin状態 では遷移金属元素の中で最大の有効磁気モーメ ント(μ=5.9μB)を有するFeをドープすると、室 温でスピングラス転移が生じることをこれまで に報告している1−3)。 FeドープIn2O3の交流磁化率温度依存性におけ る約 300Kのピークは測定周波数の増大に伴い高 温側へ 10Kほどシフトし、Fig. 1 に示すように 三次の非線形磁化率温度依存性では約 300Kに発 散的なピークが現れた。そのピークは明らかな 周波数依存性を示し、FeドープIn2O3は 300Kでス ピングラス転移を発現することが明らかとなっ た。X線回折ではIn2O3結晶相のみが認められ、Fe 関連化合物のピークは検出できなかった。X線 光電子分光より、ドープしたFeはFe2O3の状態に あることがわかった。300Kで測定した磁化の磁 場依存性は強磁性成分の存在を示すS字型挙動 を示した。非磁性の誘電体マトリックス中にラ ンダムに分散した強磁性ナノクラスター間の相 互作用によりスピングラス転移が発現したと考 ■ □ ● ○ ▲ △ 1.0 3 Hz 10 Hz 30 Hz 100 Hz 300 HZ 1000 Hz 2 -5 |χ'(3ω)h | (x10 emu/g) 1.5 0.5 0.0 0 100 200 300 Temperature (K) Fig. 1 Temperature dependence of third harmonic nonlinear susceptibility, measured from f =3 to 1000 Hz 実験: 今回、イットリウム安定化ジルコニア (YSZ)基板上にPLD法(ArF; 193 nm)を用い、基板 温度 600 oCでFeをドープしたITO (Fe-ITO)薄膜 を作製し、その結晶構造をX線回折(RIGAKU; RINT-2000)により評価した。 1 結果、および、考察: モル比In : Fe : Sn = 2 : 0.15 : 0.05 のターゲットを用いて作製した Fe-ITO薄膜は、Cu K・線を用いたX線回折で、 YSZ基板のピークとともにIn2O3結晶相の(200)反 射、(400)反射、(600)反射、(800)反射に基づく ピークをそれぞれ 18 deg., 36 deg., 55 deg., 76 deg.付近に示した。 成膜時の酸素圧に対するFe-ITO薄膜の(600)結 晶軸長をFig. 2に示した。成膜時の酸素圧の増 加で(600)軸長が減少していることがわかる。酸 素過剰(カチオン欠損)で格子定数が急激に減 少すると仮定すると、高品質薄膜の作製には1 Pa 付近の酸素圧が適切であると考えられる。また、 母体であるIn2O3のJCPDSカード (d=1.686Å;(600))と比較すると、FeとSnのドー プによるIn2O3結晶相の軸長の減少が確認できた。 1.70 1.64 20 1.62 0.0001 0.001 60 40 2θ(deg.) 0.01 (800) YSZ(400) (600) (400) YSZ(200) 1.66 (200) 1.68 Intensity(a.u.) Lattice Constant (Å) Fe-ITO (600) 80 0.1 1 10 Oxygen Pressure (Pa) Fig. 2 Lattice constant of ITO:Fe films versus pressure of oxygen gas introduced at PLD deposition. Inset: Typical x-ray diffraction pattern. 今後の課題: 今回はモル比In : Fe : Sn = 2 : 0.15 : 0.05 のターゲットを用い、YSZ基板上に Fe-ITO薄膜を作製した。結晶構造解析の視点か らは、1 Pa付近の酸素圧が高品質Fe-ITO薄膜の 作製に適切であることが分かった。この後超伝 導量子干渉素子(SQUID)帯磁率計を用いて磁気 的な評価を行っていく予定である。磁気特性の 視点からも高品質Fe-ITO薄膜の作製条件を調べ、 磁性と結晶構造の相関を明らかにする。今後、 高品質Fe-ITO薄膜の作製に更に適切なターゲッ トの組成や製膜基板の検討を進めていく必要が ある。 2 論文発表状況・特許状況 [1] 古曵重美, 河原敏男, 大野隆裕, 村杉政一, 田中秀和, 川合知二, PLD 法で作製した鉄ドー プ ITO 薄膜の酸素圧依存性, 第 52 回応用物理学 関係連合講演会, 埼玉 (2005) 31p-YD-8 (口頭 発表). [2] 大野隆裕, 河原敏男, 神吉輝夫, 村杉政一, 田中秀和, 川合知二, 飛田一郎, 古曵重美, YSZ 基板上にエピタキシャル成長した酸化インジウ ム薄膜の酸素圧依存性, 第 52 回応用物理学関係 連合講演会, 埼玉 (2005) 1a-C-8 (口頭発表). 参考文献 1) S.Kohiki et al., 4th Int. Conf. Inorg. Mat., P45 (2004). 2) Y.Murakawa et al., IUMRS-ICAM2003, B9-09-P05 (2003). 3) 村川祐亮他, 第 64 回応用物理学会学術講演 会, 1a-ZL-1 (2003).
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