双曲面ハーフミラーを用いた超広視野頭部搭載型 - 竹村研究室

社団法人 電子情報通信学会
THE INSTITUTE OF ELECTRONICS,
INFORMATION AND COMMUNICATION ENGINEERS
信学技報
TECHNICAL REPORT OF IEICE.
双曲面ハーフミラーを用いた超広視野頭部搭載型プロジェクタのための
レンダリング手法
竹田 夏木†
清川
清††,†
竹村
治雄††,†
† 大阪大学大学院 情報科学研究科
〒 565–0871 大阪府吹田市山田丘 1 番 5 号
†† 大阪大学 サイバーメディアセンター
〒 560–0043 大阪府豊中市待兼山町 1 番 32 号
E-mail: †[email protected], ††{kiyo,takemura}@ime.cmc.osaka-u.ac.jp
あらまし
双曲面ハーフミラーを用いた頭部搭載型プロジェクタ(HHMPD, Hyperbolic Head Mounted Projective
Display)は,180 度を越える水平視野を供することが可能であり,一般的な HMD(Head Mounted Display)に比べ,
没入感や状況認識において有利である.一方で, その投影映像の品質には光学系や構造に由来する課題を残している.
本研究では,その課題のうちの, 幾何歪みと輝度の不均一を補正し, 映像の品質を向上するレンダリング手法について
検討した.幾何歪みについては, キューブマッピング様のマルチパスレンダリングの手法を用いて補正し, 輝度差につ
いては, ピクセルごとの減衰率を導いた上で, これを相殺するようレンダリング時に補正する. 幾何歪み補正について
は, 実際に GPU ベースで実装し, 十分な処理速度と画像品質が得られることを確認した.
キーワード
頭部搭載型プロジェクタ, 双曲面ミラー, 幾何歪み補正, 輝度補正
A Rendering Method for a Wide Field-of-view Head Mounted Projective
Display using Hyperbolic Half-silvered Mirrors
Natsuki TAKEDA† , Kiyoshi KIYOKAWA††,† , and Haruo TAKEMURA††,†
† Graduate School of Infomation Science and Technology, Osaka University
1–5, Yamadaoka, Suita, Osaka, 565-0871, Japan
†† Cybermedia Center, Osaka University
1–32, Machikaneyama, Toyonaka, Osaka, 560-0043, Japan
E-mail: †[email protected], ††{kiyo,takemura}@ime.cmc.osaka-u.ac.jp
Abstract Our HMPD design, Hyperbolic HMPD or HHMPD, theoretically achieves more than 180 degrees of
horizontal FOV by utilizing a half-silvered hyperbolic curved mirror. The HHMPD is superior to conventional
HMDs in terms of immersion and situation awareness. On the other hand, observed image quality has a number
of undesirable problems derived from its structure and optical system. In this paper, a set of a rendering methods
to improve the image quality are proposed. The image distortion correction algorithm is a standard multi-pass
rendering technique similar to cube mapping. A hardware accelerated fast rendering algorithm for image distortion
correction has been implemented and it has been confirmed that the projected image quality and rendering speed
are sufficient. Spatial relationships between parameters for the uneven brightness correction algorithm are examined
and necessary equations are derived.
Key words Head Mounted Projective Display, Hyperbolic Mirror, Distortion Correction, Brightness Correction
1. ま え が き
広視野映像は VR (Virtual Reality) 環境において没入感の
向上に寄与するだけでなく,状況認識や探索的タスクにおいて
も有益である [1]. 周辺視野が提供されることで, 頭部運動が軽
減されるとともに探索時間が削減される. 筆者らはこれまでに,
—1—
ez
i
S
hs
e
M
dn
a
l]e
ixp
[e
zi
S
reu
tx
e
T
8
40
2
x
84
20
l]e
xi
p[
42
0
1
x
42
01
]l
e
xi
[p
21
5
x
12
5
l]e
ixp
[
65
2
x
65
2
l]e
xi
p[
55.86
128 x 128 x 2
79.97
64 x 64 x 2
91.02
32 x 32 x 2
73.77
128 x 128 x 2
135.22
64 x 64 x 2
160.00
32 x 32 x 2
77.92
128 x 128 x 2
143.52
64 x 64 x 2
182.32
32 x 32 x 2
77.92
128 x 128 x 2
131.96
64 x 64 x 2
166.64
32 x 32 x 2
0
50
100
150
frames / sec
200
図 1 試作システムの概観
Fig. 1 A stereo Hyperbolic Head Mounted Projective Display in
図 2 メッシュ及びテクスチャのサイズと描画速度の関係
Fig. 2 Rendering speed with different combinations of texture
use.
and mesh sizes.
水平視野角 180[度] を越える広視野映像を提供する双曲面ハー
フミラーを用いた頭部搭載型ディスプレイ (HHMPD, Head
Mounted Projective Display) を提案し [2], これを用いた VR
ウォークスルーシステムを作成した [3]. HHMPD はその特性
上, 幾何歪みや輝度の不均一を補正するレンダリングアルゴリ
ズムを必要とする. 本稿では, 幾何歪み及び輝度の不均一を補正
するレンダリングアルゴリズムを紹介するとともに, 幾何歪み
補正については実際に実装し, その画像品質と処理速度を示す.
( 2 ) ポリゴンメッシュを全方位画像と平面透視投影画像の
関係式 [4] を用いて適切に変形させる.
( 3 ) 正面・左右・床の 4 方向のシーンを,水平画角・垂直
画角 90 度を対象としてフレームバッファに描画する
( 4 )( 3 )で描いたシーンをテクスチャとして用い, ( 2 )
にて変形させたポリゴンメッシュ上に描画する.
ポリゴンメッシュは各頂点のみを変換式にしたがって 正確に
マッピングし, メッシュを構成する各三角形内はそれぞれの 3
2. HHMPD 試作機
頂点からのバイリニア補間を施し描画する. これにより計算コ
図 1 に,提案手法の検討と実装に用いた試作システムを示す.
双曲面ハーフミラーの形状は式 (1) で与えられ, ミラーパラメ
理の軽減につながる. また, この補間処理により本来のマッピ
ング位置との誤差が生じるが, これはメッシュを十分に密にす
タとして, a, b を持つ.
x2 + y 2
z2
− 2 = −1
2
a
b
ストの高い頂点の変換処理を削減することになり, 計算機の処
ることで許容範囲に抑えられることを, 3. 2 節にて示している.
(1)
試作機ではミラーパラメタ a, b は共に 50[mm] とし,メタア
クリル透明インゴット材を用いて製作した.反射面は AL+SiO
コーティングとし,反射率は 52[%] である.プロジェクタとし
ては,LED 照明を用いた軽量小型の東芝 TDP-FF1AJ を用い
た(解像度 SVGA,投影画角 31.0[度] × 22.2[度]).ミラー及
びプロジェクタは左眼・右眼用として 2 つずつ用い,ステレオ
視を可能にしている.また,再帰反射スクリーンとしては 3M
スコッチライトハイゲイン反射シート 7610 を用いた.本試作シ
ステムの構成では,水平視野角 146.2[度], 垂直視野角 89.8[度]
を得ることができる.
3. 幾何歪み補正レンダリングアルゴリズム
加えて,
( 1 )において 4 方向のシーンを描画する際, その対象
をテクスチャにバインドされたフレームバッファオブジェクト
(FBO) とすることでもまた処理の高速化を図っている.
3. 2 システム稼動環境
本システムの稼働環境について述べる. 描画に使用した PC
のスペックは, CPU: Core2Duo 3.0 GHz, RAM: 2 GB, GPU:
NVIDIA GTX 260 である. また, OpenGL を用いて実装した.
以下の評価に際しては, 33069 ポリゴンのシーンを SVGA (800
× 600) 解像度でステレオ描画した場合を示している.
3. 3 処 理 速 度
処理速度 (frames/sec, fps) について, テクスチャサイズ及び
そのポリゴン分割数との関係を図 2 に示した. 処理速度に関し
て,いずれの条件においても 50[fps] を越える十分な値を示し
ている.
HHMPD 試作機を用いて,実際に広視野で仮想空間を投影
するレンダリングアルゴリズムを検討し, 実際に実装した. 具
体的には,キューブマッピングに似た次のようなマルチパスレ
ンダリングの手法を採用した.
3. 1 アルゴリズムの概要
( 1 ) 正面・左右・床の 4 方向について,それぞれ水平画角・
垂直画角 90 度の領域の直角三角形からなるポリゴンメッシュ
3. 4 幾何歪み補正の映像品質
バイリニア補間を用いての歪み補正の精度について, テクス
チャサイズ及びそのポリゴン分割数との関係を図 3 に示した.
ポリゴンサイズを 8 × 8[pixel] 以下の直角二等辺三角形に抑え
ることで誤差を 1[pixel] 以下に抑えられることがわかる.また,
テクスチャサイズ 512 × 512[pixel] , 分割数 32 × 32 × 2 の
下でのレンダリング結果と, それを再帰反射スクリーンに投影
を作成する.
—2—
4. 輝度補正レンダリングアルゴリズム
6
l]e
ixp
[r
ror 4
eg
inp
apm2
xa
M
本節では, 輝度の不均一を解決するアルゴリズムについて, 基
本的なアイディアと, その導出過程について述べる.
4. 1 アルゴリズムの概要
0
0
10
20
30
40
Edge length of a triangle of mesh [pixel]
本節では HHMPD を用いて実装することを前提として導い
た輝度補正アルゴリズムについて述べる. 本手法では, レンダ
図 3 バイリニア補間における, 最大補正誤差とメッシュを構成する三
リング時にピクセルシェーダにて, 各ピクセルの輝度を適切に
角形の一辺の長さの関係
Fig. 3 Maximum mapping error in bilinear interpolation in rela-
調整する. 以下にその具体的な手順を示す.
tion to the edge length of a triangle in mesh.
( 1 ) レンダリング画像のピクセル座標 (xp , yp ) から重み係
数を与える輝度補正関数 WB (xp , yp ) を用いて, 各座標の補正
係数を与える行列を得る.
( 2 ) 描画するピクセルに対応した重み係数 pb を (1) で求
めた行列より取得する.
( 3 ) レンダリング時にピクセルシェーダ上で, 各画素値に
対して pb を掛け合わせる.
( 4 ) HHMPD と再帰反射スクリーンの相対位置が変化す
るたびに, ( 1 ) を再度実行する.
4. 2 輝度補正関数の導出
輝度の不均一が発生する要因として次のものが挙げられる.
光路長の不均一 光源から射出された光が目に届くまでの経路
は, 射出するその角度により異なる. これにより, 空気中や光学
系の伝達による減衰量に差異が生じる.
光学系による反射・透過の指向性 光はハーフミラーや再帰反
射スクリーンなどに様々な角度で入射し, 数度の透過・反射を
(a) 幾何歪み補正を施した画像
経て目に至る. 入射後の光の進行方向は, 入射する角度により
異なる. そのため, 投影した光は光学系ごとの反射特性・透過特
性に従い, 光が広がるため投影対象のピクセル以外に, 周囲のピ
クセルにも影響を及ぼす. 特に再帰反射スクリーンは, 入射方
向だけではなく, 光の波長もまた指向性に影響を及ぼすことが
知られている [6].
平面への投影を想定したプロジェクタの使用 一般に利用され
るプロジェクタは, 水平面に設置し, 鉛直に立てられたスクリー
ンに投影したとき輝度の均一な映像が得られるように補正され
ている. 対して, HHMPD では再帰反射スクリーンの形状は必
ずしも最適な条件に一致しない. そのため, プロジェクタ内部
でなされる補正は結果的に不適切な影響を及ぼす.
プロジェクタの投影領域の重なり 本 HHMPD ではステレオ
視を実現するために, 2 つのプロジェクタを用いている. 一方の
プロジェクタから発した光が再帰反射スクリーンに反射し, 他
方の光学系の内部焦点に向かってハーフミラーに入射すること
(b) HHMPD を介した撮影映像
で観察画像にクロストークが発生する.
これより, 前節 4. 1 にて用いた, 輝度補正関数 WB (xp , yp ) は,
図 4 投影前後での幾何歪み補正画像
Fig. 4 Pre-distorted rendered image and its undistorted projection result observed through the HHMPD.
各光学系間・光学系内の伝達による減衰, 双方性の反射特性に
よる投影光の広がりを算出することで得られる. ただし, 本研
究ではハーフミラー上の反射は広がりを持たない理想的なもの
であると仮定する. また, 観察眼の大きさを持たない点である
した映像を双曲面ハーフミラー越しに撮影した様子を図 4 に示
す.これより, ミラーによる歪みが概ね正しく補正されている
ことが確認できる.
と仮定する. これにより, 本来対応しない方位からの寄与を無
視することができる. これらの条件の下で導かれる輝度補正関
数は式 (2) で表される.
—3—
y
外焦点
光源
L pm
再帰性反射スクリーン
一次ミラー
Lmh
Lhw
反射面
Hi
φr
θi
θr
Lh
Lhe
出射光
Ho
z
φi
ハーフミラー
入射光
図 6 HHMPD の光路の全体図
x
Fig. 6 Ray diagram for a HHMPD
図 5 光の方位をあらわすパラメータ
Fig. 5 Parameters of a ray direction.
WB (xp , yp ) = T RAll (θp , ϕp )DAll (θp , ϕp )
の反射分布関数は適切な定数 CRM (0 <
= CRM <
= 1) を用いて,
関数 RM を式 (4) で表せる.
{
(2)
T RAll は光学系での反射・透過による減衰率を示し, DAll は光
CRM
RM (ωi , ωr ) =
(入射角と反射角が等しい)
(4)
(その他)
0
の伝達による減衰率を示す. これらは光源から投影される光の
方位角 θp , 仰角 ϕp を用いて表される関数である. また投影角パ
b ) ハーフミラー上での反射
ラメータ θp , ϕp は, 投影座標 (xp , yp ) にて表現可能である. こ
ハーフミラーの反射特性についての BRDF RH (ωi , ωr ) は適
れらについての導出を以下で述べる.
反射・透過が起こる光学部品を, 光の通る軌跡の順に挙げる.
•
一次ミラー (Mirror)
•
ハーフミラー (Half Mirror)
•
再帰反射スクリーン (Retroreflective Mirror)
切な定数 CRH (0 <
= CRH <
= 1) を用いて, 一次ミラーと同様に
以下の式 (5) で表せる.
{
CRH
RH (ωi , ωr ) =
反射・透過する割合や後に出射される方向は反射面と光の入射
(入射角と反射角が等しい)
(5)
(その他)
0
c ) 再帰反射スクリーン上での反射
光の角度により定まり, その指向性の表現として双方向反射散
再帰反射スクリーンの反射特性については, Lafortune のモ
乱分布関数 (Bidirectional Reflectance Distribution Function,
デル [5] が有効であることが知られている. Lafortune モデルは
BRDF), 双方向透過分布関数 (Bidirectional Transmittance
次式で表される.
Distribution Function, BTDF) が用いられる. それぞれの
 
光学部品の名前の頭文字を用いて, 一次ミラーの BTDF を

 
S(ωi , ωr ) =  
 ωry  
TM (ωi , ωr ), ハーフミラーの BRDF を, RH (ωi , ωr ) などと表
ωrx
T 

Cx
 n

 
  ωiy  
Cy
ωrz
ωix
Cz
ωiz
す. ただし, ωi , ωr はそれぞれ入射方向, 反射・透過方向を表す
ベクトルである.
光学部品上の反射面に対する, 入射光の方向を角度パラメー
タ θi , ϕi , またその後に出力される光の方向については角度パラ
しかし, 先の仮定により, 適切な定数 CRR (0 <
= CRR <
= 1) を用
いて, 再帰反射スクリーンの BRDF を RR (ωi , ωr ) を式 (6) で
表せる.
メータ θr , ϕr を用いて図 5 のように表す. また, 入射光方向を
表す ωi , 反射光方向を表す ωr を 3 次元の直交座標系にベクト
RR (ωi , ωr ) =
{
0
(ωi =
| ωr )
CRR
(ωi = ωr )
(6)
ル分解した成分 ωix , ωiy , ωiz , ωrx , ωry , ωrz を考える. これらの
ベクトルは図 5 で示した角度パラメータを用いて, 式 (3) で表
せる. よって, 光の方向を示すベクトルパラメータ ωi , ωr はそ
れぞれ, 角度パラメータで表すことが可能である. 逆もまた可
能である.


 ωx
=
cosϕcosθ
ωy
=
sinϕ
ωz
=
cosϕsinθ


d ) ハーフミラー内の屈折透過
先の仮定により, スネルの法則に基づき透過する光の割合を
CT H (0 <
= CT H <
= 1) で表し, その他の透過光については考慮を
しない.
以上 a )∼d )が光学系で起こる反射・透過の現象である.
また, これらの現象による減衰率を得るには, 各光学系への入射
(3)
a ) 一次ミラー上での反射
一次ミラーには一般的な全反射ミラーを用いる. 従って, そ
の反射分布はほぼ等方性を示し, その反射光については入射角
と等しい反射角を持つとみなせる. すなわち, 一次ミラー上で
角パラメータを必要とするが, これらはいずれも, 光源からの投
影角パラメータ θp , ϕp を用いて導出可能である. 従って, 光学
系の反射・透過による減衰率 T RAll は,
T RAll (θp , ϕp ) = CT H CRR CRH CRM
(7)
と表せる.
—4—
y
y
一次ミラー
ハーフミラー
L ph
φp
z
θp
L pm
光源
φp
θp
z
x
図 8 プロジェクタとハーフミラー間の光路
Fig. 8 Lightpath between the projector and the half mirror.
光源
y
ハーフミラー
再帰性反射スクリーン
x
入射光
Hi
図 7 光源と一次ミラー間の光路
z
Lhw
Fig. 7 Lightpath the between projector and the first mirror.
x
次に, 各光学部品間の光路長を導く. HHMPD 全体の光路図
を 図 6 に示す. ただし, 点光源を仮定する. 光源はハーフミ
ラーの外部焦点と, 一次ミラーを介して光学的に共役な位置関
図9
係にあり, 観察眼は内部焦点に位置する.
ハーフミラーと再帰反射スクリーン間の光路
Fig. 9 Lightpath between the half mirror and the retroreflective
減衰が起こる箇所については, 光の通過する以下の 2 箇所が
screen.
ある.
•
空気中 (Air)
•
ハーフミラー (Half Mirror)
ab
Lph (θp , ϕp ) = √
√
2
aA − a + b2 − b2 B 2 − sin2 ϕp
(11)
光が距離を隔てた地点に到達したときの, その光束密度は一般
に, 光路長の 2 乗に反比例する. 光束密度が E1 の光が 光路長
r を移動することによって, E2 にまで減衰するとき, 密度の変
E2
E1
往復する. ここで, 再帰スクリーンの形状を関数 FR (x, y, z) と
(8)
空気中, ハーフミラーでの光束密度変化の関数をそれぞれ,
DA , DH で表す.
光路変数 r を得るため, 以下でそれぞれの光学部品間の光路
長について考察する.
置くことで, これを用いてその光路長 Lhw を表せると考えら
れる.
h ) ハーフミラー内部
ハーフミラーはスクリーンの方向にある表側, 目の方向にあ
る裏側ともにその形状は合同な双曲面であり, その位置関係は,
表側の双曲面を式 (1) で表したとき, z 軸正方向に sH 平行移動
e ) 光源∼一次ミラー間
光源と一次ミラーの間の光軸中心上の距離を dpm とする. こ
のとき, 光源と一次ミラーの間の光路長 Lpm は以下の式で表
される.
dpm (1 + sinθp )
Lpm (θp , ϕp ) =
cosθp cosϕp
g ) ハーフミラー∼再帰反射スクリーン間の往路
ハーフミラー表面で反射した光は, 再帰反射スクリーン間を
化の割合を次のような関数 D にて表す.
D(r) =
(ただし, A = cosθp cosϕp , B = sinθp cosϕp と置いた.)
することで裏側に重なるものであるとする. ハーフミラーに入
射した光はスネルの法則に基づき, 屈折して内部を進む. その
光路長を Lh , また光の入射点を Hi , 空気中への出射点を Ho と
置いた. ここで, 入射点における接面及び, その面と平行かつ点
(9)
Ho を通る平面に囲まれた直方体を考える. この直方体及び光
路の概略図を, 図 10 に示す. このとき, この直方体の高さを dh
f ) 一次ミラー∼ハーフミラーの表面間
で表すものとする. また, この直方体への入射方向をパラメー
光源からハーフミラーまでの光路について, 図 8 に示した. そ
タ θh , ϕh で表し, ハーフミラーの屈折率を n とすると, 求める
の光路長 Lph とすると, 一次ミラーからハーフミラーまでの光
光路長 Lh は式 (12) で表される.
路長, Lmh は
Lmh = Lph − Lpm
√
(10)
Lh (dh , θh , ϕh ) = dh n
1
1
+
n2 − cos2 ϕh
1 − sin2 θh
(12)
となる. ここで, ハーフミラーは双曲面をしておりその形状は
i ) ハーフミラー裏面と目の間
式 (1) で表されることより, Lph は式 (11) にて与えられる.
ハーフミラーを通過した光が目に至るまでの距離を, Lhe とす
—5—
d
ϕp (xp , yp ) = atan( √
)
2
xp + yp2
Hi
dh
(17)
Ho
θp (xp , yp ) = atan(
y
φ
(18)
5. む す び
z
Hi
xp
)
yp
θ
双曲面ハーフミラーを用いた広視野頭部搭載型ディスプレイ
dh
x
Lh
で映像を提示する際において, 発生する幾何歪みと輝度の不均
一を補正するレンダリングアルゴリズムについて述べた. また,
Ho
幾何歪みについては実際に補正アルゴリズムを実装し, その品
質を評価した. この評価より, 本稿で説明した幾何歪み補正の
図 10
ハーフミラー内の光路
アルゴリズムは十分な精度を得られると考える. 今後の課題と
Fig. 10 Lightpath inside the half mirror.
してまず,本稿での「観察眼が大きさを持たない点である」と
の仮定を除き, 異方性反射による反射光の特性を考慮したモデ
y
ルを作成し, さらに投影画像の輝度補正を行う処理を実装し評
価を行う. 評価方法としては, 輝度の均一な画像を投影し, 実装
ハーフミラー
したアルゴリズムの有無により投影輝度がどのように変化する
H o ( H ox , H oy , H oz )
Lhe
かを測定し比較することで行う予定である. その他にも, 色に
z
F (0,0, a + b )
2
じみや焦点ボケへの対策もまた今後の課題として挙げられる.
2
また, HHMPD の頭部搭載化を実現し, 探索タスク等における
周辺視の影響に関する影響の調査や, 複数人での協調作業環境
の実現を行う予定である.
x
図 11
謝辞 本研究の一部は,文科省科学研究費補助金 特定領域研
ハーフミラーから目までの光路
Fig. 11 Lightpath between the half mirror and user’s eye
究「情報爆発」課題番号 19024054,SCAT 研究助成,および立
る. 出力する光線のハーフミラー上の点 Ho を (Hox , Hoy , Hoz )
スルーシステムの一部は, 大阪大学サイバーメディアセンター
とし, 次式にて表す.
助教 安福 健祐氏による.
石科学技術振興財団研究助成の支援による.また, VR ウォーク
√
Lhe =
2
Hox
+
2
Hoy
+ (Hoz −
√
文
a2
+
b 2 )2
(13)
以上が光学系の伝達光路である. 各光路長を得るために必要
な種々のパラメータは, ハーフミラーやスクリーンの形状, スク
リーンと観察者の相対位置などの値及び光源からの投影角パラ
メータを用いて算出が可能である. 従って, HHMPD 全体での
伝達による減衰率 DAll は
DAll (θp , ϕp ) = DA (Lph + 2Lhw + Lhe )DH (Lh )
(14)
で表せる.
j ) 光の投影角パラメータと被照明面における到達ピクセル
座標との関係
光軸中心に対する方位角 θp , 仰角 ϕp で光源から発せられ
た光線が光学系等の影響を受けることなく進んだ際に, 最終的
に投影されるピクセル座標 (xp , yp ) は以下の式 (15), (16) で表
せる.
xp (θp , ϕp ) =
dp sinθp
tanϕp
(15)
yp (θp , ϕp ) =
dp cosθp
tanϕp
(16)
献
[1] Arthur, K. W.,“ Effects of Field of View on Performance
with Head-mounted Displays, ” ISBN:0-599-73372-1, University of North Carolina at Chapel Hill Doctoral Thesis,
2000
[2] 清川清,
“ 双曲面ハーフミラーを用いた超広視野頭部搭載型プロ
ジェクタ ”,情報処理学会 研究報告,CVIM161-53,2008.
[3] 竹田夏木, 清川清,竹村治雄, “ 超広視野頭部搭載型プロジェク
タによる VR ウォークスルー ”,日本バーチャルリアリティ学会
大会論文集,T9,Sep,2008.
[4] Nagahara, H., Yagi, Y. and Yachida, M.,“ Super Wide Field
of View Head Mounted Display Using Catadioptrical Optics, ” MIT Press Presence, Vol.15, No.5, pp.588-598, 2006.
[5] Lafortune, E.P.F., Foo, S.-C., Torrance, K.E., and Greenberg, D.P. ”Non-linear approximation of reflectance functions,” Proceedings of the ACM SIGGRAPH 97 (August
1997), pp.117 - 126.
[6] S.Winburn, A. Baker, and J. G. Leishman.,“ Angular response properties of retroreflective screen materials used in
wide-field shadowgraphy,” Exp. Fluids Vol. 20(3), pp. 227229, 1996.
ただし, dp は光源の光軸上の投影距離を表す. これより投影座
標より光の投影角を得る式 (17), (18) を得る.
—6—